最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

20 / 35
誤字脱字報告ありがと〜!!


新入社員:3人目①

 

 

「──あれ?」

 

「主〜!ユウカは何処ぴょん?お使いお願いしようと思ってたぴょんけど」

 

「なんかホームシックになったらしいです!ほんのちょっぴり帰省すると」

 

「…泊まり込むくらい気に入ってたのに、ガキってのは分からねぇもんだな」

 

「高校生ってそんなもんですよ。ずっと同じ毎日が続く虚無を味わいながら、唐突にスーパーパワーに目覚めないか机に寝そべり、いざ目覚めたとしてもやりたい事が無い。ユウカさんも日常に戻りたくなったんでしょう」

 

「……そうか?」

 

「高校生の時点で国からスカウト来てる天才には分かりませんよーだ!貴方が普通の人間の感性を持っていれば、ユウカさんの虚無虚無プリンも共感してあげられるんじゃないですか?」

 

「はぁ。だとしても、だろ。俺が天才でも馬鹿でも、ノートに夢ぐらい綴れる」

 

「──どんな人間でも、『自分』を求める瞬間がある。それこそダークみたいに環境が牙を剥いてきてもだ」

 

「綴った夢に自分を投影するでもなんでもいい、進む自由がある限り俺は才能が無くても夢に向かってだろうさ」

 

「……ふふ、流石復讐が願いの人は覚悟が違いますね!」

 

「何言ってんだ馬鹿、耄碌したか?俺の願いは家族の幸せで、復讐は道中に過ぎねぇよ」

 

「──素晴らしい!ドクターはやっぱり歳食ってる分、味わい深いですね!そしてやはり天才、素質が違います」

 

「…………褒めてんのかそれ?」

 

「はい!───しかし残念ながら、現代ではそんなドクターのセリフをこう呼ぶんです」

 

 

 

「──恵まれた者の妄言、だと」

 

 

 

──現代において。

 

社会において、夢とは願うものでは無い。

叶えるものである。それは聞こえはいいが、故に。

 

叶えられなければ、夢でなく。夢は叶えられる範疇で思い描く程度のものでしかない。

 

安定、生活、就職、子供、介護、お金。そういったものと比べて、夢はその価値を落とし過ぎた。

 

夢は、夢とは、嗜好品である。防腐剤を入れて腐らないように、大切に保ち続ける嗜好品。

タバコや、お酒、芸術や、競馬。それに没頭して『楽しめる』側が楽しむものであり、夢の価値が低い人間は防腐剤すら取り除く。

 

つまり現代において夢とは──。

 

 

「…訳分からんな」

 

 

叶えようとするものを後ろ指を刺して笑い、登りゆく背中を背後から引っ張り、叶えた人間に嫉妬と憎悪を振り撒く、

 

病。でもある。

 

 

 

「誰だって、生きてる内は恵まれてるだろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──8日目。

 

 

「……」

 

「……」

 

「…………」

 

 

──9日目。

 

 

「……」

 

 

「…………」

 

 

──10日目。

 

 

「……………………」

 

 

毎日が、湯水のように溶ける。

テスト週間だから、というのもあるのかもしれない。それでも1日は有り得ないくらい長く感じる。

 

辛いことに耐えて、起きるだけだからだろう。1日は長く、数日は短く。

 

誰かに話しかけられたっけ、多分話しかけられてる。誰かと話したっけ、多分話してる。誰かとゲームしたっけ、多分してる。お母さんと友達と接しあってる。

 

 

「…………」

 

 

なのに、何もしていない様な。

心配されている、心配されて声をかけられている、なのに、何もされていない様な。

 

それは、きっと頭の中がパンパンだからで。

 

あたまのなかはたったひとつのことで──。

 

「……ただいま」

 

「おかえりなさい、テストどうだった?」

 

「普通〜」

 

「普通ね、はいはい」

 

──願いじゃないって、どういう事だろう。

 

私は魔法少女になる夢を願って、手を取ったのに。どうしてあんなことを言われたんだろう。

 

ただそれだけが、頭の中を渦巻いていた。

 

これはアレによく似ている。とてもよく似ている経験をした事がある。

小学校の頃に、自分の夢を書く時の時間。

魔法少女と書いて、気まずい顔をされた。

そして大人達はこういう──もう一つ別のを書いてみて、複数書いてみよう!って。

 

ずっとそうだ、みんな、必要なものを必要だと声を大きくして求め続けてくるのに。

 

──どうして、必要なのか、その理由は自分で考えろと投げつける。

 

押し付けたものに責任を持たず、押し付けた側が必死で理由を見つけた時、なんて言うと思う?

 

『現実を見よう』遠回しに、そう言ってくる。

 

「……」

 

けれど、似ているだけだ。

オリテアが、あのオリテアが何故あんな事を言うのか、その理由はきっと違う。そう信じていたい。

 

「……」

 

分かっている、今、私が過ごしている日常が数多の人間の努力の元に成り立っているものだと。

 

今日食べた食事も、この家も、衣服も知識もこの命さえ、自分だけのものじゃない。

 

『分からない』ことなんて、無い。分からない筈が無い、どうでもいい筈がない。

 

「……」

 

『今日の晩御飯何がいい?優花が好きなオムライスでもする?』

 

『夏休みどこ行こっか、海行こ海!優花の水着明日買ってさ!』

 

好きになりたかった。

好きなものなんてなかった。

 

──夜に飽きて、朝日はただ眩しいだけ。

 

ただ、正しさを求めてるだけで、カラッポの私にみんな中身があると思ってる。

 

『優花は素直ね〜、お姉ちゃんみたいに夜遊びもしないし。ほんと、優しい子』

 

それはただ、私に何も無いからだよ。お母さん。

 

『昔のこと?あぁ…お母さんもあの時は酷いこと言ったね…。でも、ああやって言わないとちっちゃい時の優花はずっと無理に頑張り続けちゃうでしょ?取り返しのつかない怪我、させたくなかったし」

 

『──今?……うん。魔法少女、私は良い夢だと思う』

 

 

 

「…………」

 

 

「黙れよ…」

 

 

 

皆の顔を見て、引け目を感じてしまう。

 

 

「──」

 

 

繰り返し、繰り返し、昨日を繰り返し続ける今日は、実に退屈で。

 

 

「──」

 

 

耐えれてしまう事に絶望して、自分で自分の首に指を掛けている感覚に襲われる。

誰も、私の事を除外しない。人生の中の大切なものだとして、優しく抱えている。

 

多分、私を嫌いなのは私だけで、みんなが嫌いなのも私だけ。

 

 

「──」

 

 

だから、引け目を感じている。

誰かが、じゃない。私は、私自身を諦めている。

 

自分に限界を感じる。心が錆び付いて、それを剥がした下にあるのは唯の伽藍で。

 

もし、特別な何かがあれば中身を埋めれると思っていた、その逃げ道すら、私にはもう。

 

「…………お母さん」

 

「うん?どうしたの?」

 

「ごめんなさい、また、少しだけ……外に、行ってきてもいいですか?」

 

「──ふふっ、いいよ。別に私は優花が無事に帰ってきてくれるならそれで。若いんだから自由に遊びに行ってきなさいっ!ってね」

 

「……明日の、夕ご飯には、帰ってくるから」

 

「──行ってきます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──電車に揺られ、記憶を頼りに買い物をした場所にまで旅をする。

 

まだ、私は希望に縋っていた。

 

まだ、私は。

 

「……」

 

私は、諦める理由と、諦めない理由を求めてもう一度。

あの家に足を運んだ。

 

「……」

 

暑く長い道を歩き、林をかき分け歩き続ける。

セミの鳴き声があちらこちらから聞こえてくるせいで、方向を見失いそうだ。虫たちの大合唱は工事現場よりも荒々しい音で、汗を衣服に染み込ませて歩く私を嘲笑ってる風に感じる。

頭の中に虫がいて、それがずっと騒いでた。その音が痛くて痛くて堪らない、反響が心にまで届く。

 

「……ダークちゃん」

 

土を踏み締める度に、心臓を打たれたような苦しみを抱いて、

 

「……ドクター」

 

血液が鉛のように感じる。体内を駆け巡る血に毒が混ざっているのか、目眩がして歩く足に力が入らない。きっとこの日差しのせいだろう。

 

「……ミーちゃんさん…」

 

息が詰まりそうな暑さに耐えながら、なんでもいい、みんながほんの少しでも私が居なくなった事を悲しんでたり、喜んでたり、なんでもいい。

 

なんでもいいから、私に理由を───。

 

「───」

 

「ん?お、ユウカか」

 

「あ…」

 

相も変わらず、ドクターは軒下で涼んでいて。

何も変わらない様子に、頭の中がボヤけてしまう。兎にも角にも、家の木造フェンス越しにドクターに声をかけた。

 

「どうした?」

 

「ぇあ、あの」

 

「……?」

 

「ぅ───あの!私っ!」

 

「私!もう一度悪の組織に入っ──あ?」

 

──そして。

私は、見てはいけないものを見てしまった。

 

「ごめ、ごめんなさい、なんでもないです!!失礼します!」

 

「お、おう?気をつけてな……?んん?」

 

言いたいことも何もかもを放って、逃げ出してしまう。

ダークの手を取って家を出て、私とダークがいつも通っていた道を。

 

──祐奈が、ダークと一緒に歩いていたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

──走る。

 

「ハァッ、はぁっ、はぁっ──」

 

走る、走る走る走り続ける。

 

「なんで!私っ──!」

 

逃げ出してしまった理由も分からずに、走る。

 

「なんでッ!!」

 

──ああ。

結局、自分の選択だ。

 

「なんで!!!」

 

私は自由の中にいて、日常なんかに縛られていない。

私を縛っているのは、私だけ。

 

「なんでだよっ──!!!」

 

「なんで私はっ、私はっ……私はぁっ……私ぃ、なんでぇっ…」

 

「なんで…なんで……ぅうううっ……ぁあ…」

 

誰も私に冷たくしない、誰も拒絶していない。

きっと、あの瞬間。もう一度入りたいと言ったら入れたんだろう。そしたらダークと手を繋いで、また買い物に行けたんだろう。祐奈は優秀だから、天才だから、ダークがここに住み着いてる事を見抜いて足を運んだだけなのだ。

 

──歩いていた2人に、後ろから声を掛けられただろうに、私は。

 

「全部」

 

「全部っ、全部ッ!全部、全部全部全部ッッ!!」

 

「自分の、私が……っ……私、がぁ……」

 

「っ………」

 

地面に寝転んで、枯れきった涙を必死に絞り出そうとしても、何も出なかった。

 

『1歩、何処かで『自分から』道を歩めば良かった。自由にしていい筈が、自らの手で自分を縛りあげている』

 

オリテアに告げられたあの言葉が、重く重くのしかかる。

私はこの後、何も変わらない人生に戻るんだ。それは自分が選んだことで、自分の選択でここにいる。

 

私が最も拒絶して、絶望していた人生を誰よりも望んでいたのは、私だったから。私は、このまま何も変わらず、死ぬまで、後悔をした事すら忘れて生きていく。

 

この悲しみも慟哭も今日だけのもだ。明日になれば綺麗に忘れて、明日は明日を生きていく。

 

「──」

 

泥まみれになりながら立ち上がり、鼻水をすすって帰路に立つ。

帰って、ご飯を食べよう。ご飯を食べて、お風呂に入ろう。お風呂に入って、寝よう。寝て、起きよう。起きて、学校に行こう。学校に行って、帰ろう。帰って────。

 

帰って、元通りの平穏で安寧の日常に、戻ろう。それが私の選んだ道だ。

 

「…………はぁ」

 

「…………」

 

「…………────ぁ」

 

 

そうだ、私はそのまま歩いて、電車に乗って帰るんだ。

帰ろう、我が家に。帰ろう、帰れ、何も見るな。

 

 

「───」

 

 

楽しそうに笑ってる、祐奈とダークの事なんて、見なくていい。

──やめてくれ、もうやめてくれ。

どんな偶然だとしても、どんな奇跡だとしても、こんなピンポイントな偶然と奇跡が起きてなるものか。

 

私が、私が居た場所で、また祐奈が笑っている、なんて。

 

 

「……はは」

 

 

「ははっ、はははっ!ははっ、は……そっかぁ…そうだよなぁ、そっか」

 

 

「魔法少女になりたいんじゃないんだ、私」

 

 

「──私、楽になりたかっただけなんだね。魔法少女になって、何かしたいんじゃなくて、ただ…………」

 

 

「魔法少女になって……楽してっ…」

 

 

「──苦しまずに生きたいだけだったんだ…」

 

 

絞り出すように出した声に、夢は無く。

 

ただ、『苦しまなくていい』を求めるだけの、自分が居た。

 

最初から、求めるものはそこにないって、分かってたのにね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。