最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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空知祐奈が妖しく笑う。

その妖艶さに明美優花はデジャヴを感じていた。誰もが振り向く傾国モノで、アサガオが花開いた瞬間の様な可憐さで、何処を切り取っても非現実的で非実在的な美しさ。

 

幻想的な甘い、魔性の顔。

 

「ユウナ…」

 

──足を折った時だ。

私が崖から箒に股がって、ユウナを後ろに乗せて崖から飛んだ時。

 

私は木に引っかかって、無傷で済んだけど…後ろに座っていたユウナはそのまま落下して足を折った。

7から8歳位の時だっただろうか?そんな小さい時に、足を折る痛みなんかを経験すれば当然泣き喚いたり、トラウマが作られたりしたり、とりあえず、その原因となった人間を恨むのが当然だ。

 

 

「ユウナ…!」

 

 

でも、ユウナは、空知祐奈は。

 

 

『ど…うして…笑ってるの…?』

 

 

──今と同じように、笑っていた。

 

 

「ユウカ?」

 

「っ…」

 

「どうしてここにいるの…?魔法少女は辞めた筈じゃ…」

 

「まほ──なんでそれを知って…!?」

 

「──私が、ダークを預かってる親元に話を聞いて、ユウカがやってた事を聞いたから」

 

「ぁ…?」

 

「知らなかった。ユウカが魔法少女になった事も……あの1週間、ユウカがどんな事をしてたのかも」

 

「……ユウカの口から、教えて…欲しかったな」

 

「ッ───」

 

空知祐奈は手元のレジ袋に手を入れると、中からソーダ味の棒アイスを取り出す。

猛暑のせいで若干溶けかけているソレの袋を破って、1歩前に踏み込み明美優花へ差し出した。

アイスが纏う冷気がふわりと肌を叩き、「とりあえず話そう」と、道の先にあるバスの停留所に目線を送る。

 

いつも彼女がつけている香水が、鼻腔をくすぐって頭がくらりとしてしまう。

 

「──ユウカ……」

 

暑さのせいかな、それとも頭の中に言いたいことがありすぎてパンクしそうになってるからかな。

 

「ぁ…あれ…?」

 

どっちか分からないけれど、私は、差し出されたアイスを手で叩いて地面へ落としていた。

 

──有り得ない。そう困惑したのは自分で、どれだけモヤモヤが積み重なったとしても私はこんな事をしない。

 

必ず『食べ物を粗末にしちゃダメだな』等、冷静な考えが脳裏に過ぎるからだ。

物に当たろうとしても、大声で叫ぼうとしても、全て事前に脳のフィルターを通して行動する。

 

だから有り得なかった。

いくら、モヤモヤしてたとしても。

ユウナから差し出された食べ物に、土をつけるなんて、

 

「────」

 

私だって、イライラの限界ラインぐらい分かってる。はち切れる前に解消するし、こうやって取り返しのつかない事をした後は罪悪感がすぐ襲いかかってくる、筈。

 

「──私…」

 

「…ふぅ、やっぱりユウカは…あの子と関わるべきじゃなかった。いや、あの人たちと…ね」

 

「それは!それは違う!…っ、話を聞いたって…誰に、何処まで…!」

 

「オリテア、と名乗っている魔法少女に。ユウカがどうやって魔法少女になって、魔法少女になってから何をして、その間の全部を」

 

「………」

 

「自分に魔法をかける訓練も、魔法少女を相手取った練習も、全部ユウカには危な過ぎる。大切にしてくれてるお母さんや友達を放っておいて、そんな事をしてるなんて…」

 

「………………」

 

「だからね、私」

 

「──ユウカの為に、オリテアさんに…ユウカを魔法少女から辞めさせるように頼んだの」

 

「は?」

 

「これでもう危険な事に関わらなくてもいい。多分だけど、ダークを守る為に魔法少女になった…のかな、なんにせよこれからは私に任せて、ユウカ」

 

「……は…?」

 

「銀城恋歌如きに私は負けないし、ダークは私が守る。無理に買い物にだって付き合わなくていいから家に帰れるし…なにより、これで」

 

「──ユウカは、元通りの日常に戻れるよ」

 

瞬間、脊髄を駆け巡る激痛が『悪意』を持って頭の中で爆発する。

本能が、そして理性すら自分を抑止しようとしているのに、強引にその『悪意』を口から吐き出そうと思考は引き伸ばされ──、

 

「お願い出来るなら…いつもみたいに、褒めて欲しいな」

 

「───ォエッ…」

 

「っ!?ユウカ…!?」

 

全力で吐き戻す。

それは全身全霊の身体の反抗だった。思考じゃ止まらない、本能でも止まらない、最後の手段で身体は『悪意』を胃の内容物を吐かせることでせき止めた。

 

他の誰かにならぶつけて良かった、でもユウナに対してだけは、彼女にだけはダメなんだ、私に夢を見させてくれる唯一の存在だからもし嫌われたり喧嘩したりでもしたら、

 

「わ、わたしもう…ぉぇっ…よく、わかんない……」

 

「わかんないよ……わかんない…!もう!ぅ…」

 

──全て善意だ。

正しくて、真っ当で、清純だ。私の厭味ったらしい人間性と天邪鬼な精神と比べれば、みんな善人で優しい。

受け取った感情は紛れもなく善意と優しさなのに、湧き上がる感情は憎悪と憎しみ。

心のセーフティーラインすら分からなくなった自分にとって、膨れ上がった懐疑心はそれらの見分けすらつかない。

 

「…………ねぇ、ユウカ」

 

この世界がもし、漫画やアニメの中のように都合のいいものだったら、この苦しみから抜け出させてくれる奇跡が起きるのかな。

 

「ユウカがどうしてそんなに苦しそうなのかは、分からないけど……」

 

奇跡が起きたとしても、きっと解決しないと思う。私がなんで苦しんで、どうすれば治るのかを理解しているのは私しかいないし。

 

それに、私の苦しみを無くすのは誰かがしてくれるんじゃなくて──、

 

「私に、言ってみて」

 

「なんとか、解決してみせるから」

 

私が、私自身の手で、解決したいから。

それを奪われることだけは、許せない。

 

私の背中を押したのは、夢への憧れや未来への希望なんかじゃない。

その時、その瞬間、私の背中を叩いて前に足を進ませたのは──。

 

「…………ぅ」

 

多分、憎悪だったと思う。

 

「わたし…ね…?」

 

空知祐奈は、酷く荒れた顔をした明美優花の頭を撫で続ける。

しゃがみこみ吐いてしまった彼女は、随分とグロッキーな気分になってしまっているのか、涙を流し上目づかいで言葉を届けてくる。

 

「もう、どうなってもいいから…」

 

「ぜんぶ、むちゃくちゃにしたいんだ…」

 

ボソボソと呟く言葉に、空知祐奈は首を傾げる。

その1つの単語だけでは何をしたいかが解せないからで、むちゃくちゃにした所で彼女は一体何をしたいのか、何を求めているのか。

それを聞きただす為に、嘔吐物に濡れた手を握って目線を合わせ、

 

「…どうして?」

 

「──ぜんぶが、苦しいから…」

 

「…そうかもね、きっとそうだと思う」

 

「でもそれは…嘘つき、だよ。ユウカ」

 

「ぅ…?」

 

「苦しいからって、全部をめちゃくちゃにして、一番苦しむのはユウカでしょ?」

 

「…………」

 

空知祐奈は誘導する、この世に生まれ落ちようとしている望みを、産道から産み落とさせるために。

現代の病に苛まれ、未来永劫開くはずのなかったその道をこじ開ける為に、言葉を重ねる。

 

「ユウカ」

 

「──我慢しないで?」

 

あの時のように、妖艶で、可憐で、儚い顔で笑いかける。

明美優花は特別を奪われ、夢そのものが目の前でいつもいつも自分を見つめて、叶えられなかった自分を嘲笑って、そんな事は無いのに苦しんで、

 

全てを叶えた人間に、恵まれている人間に、この苦しみは分からないと塞ぎ込む。

 

それも、限界が来ていた。だって、明美優花は空知祐奈のその笑顔を見つめるだけで──、

 

「わた、わたし…私……私は…」

 

「──俺っ…はっ…!」

 

「自分がどうなってもッ!!みんながどうなってもっ、お母さんが!友達が!祐奈がどうなろうが!!」

 

「世界がどうなってもいいからっ!俺は!」

「──自分の夢を叶えたいッ!!」

 

「ふふっ。なら…優花の夢、教えてくれる?」

 

ああ、良かったな。

良かった、手を貸して。

良かった、今まで生きてきて。

 

空知祐奈が、この世界に産まれてきてよかった。

 

明美優花が、この世界に産まれてきてよかった。

 

『生きる』に正解は無いのに、世界は正解を求め続ける。白紙の答案用紙の前で、ペンを握らされる私達にとって、そこに記すものが全てだ。

 

だから、2人が一緒に産まれて良かった。

私にとっての正解が『明美優花』であるように。

彼女にとっての正解を『空知祐奈』にする為に。

 

「私の、空白を埋めること」

 

「魔法少女に…なりたい!魔法少女になりたい!!魔法少女に!なりたいっ!!!満足するために魔法少女になって!イライラを全部潰す為に魔法少女になるッ!!」

 

「私の夢の為に!魔法少女もクソ野郎も友達も全部全部使い倒して!満足するまで消費して!」

 

「私から全部奪ってった祐奈から───全部。全部全部全部全部全部全部全部ッッ!奪い返してっ!!」

 

「…それで……」

 

「は、あはっ、はは……」

 

「──作文に書いたこと、やりたいなぁ……」

 

 

【私は、魔法少女になりたいです!】

 

■■■■って、捨てたものを。

■ら■いって、忘れたものを。

要らないって、諦めたものを。

 

あの時、作文に書いた事を、今一度叶えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その願い、叶えましょう」

 

 

 

 

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