《全人類のみなさん!こんにちはー!》
──お2人がイチャイチャし合ってるのを横目に、私はテレパシを使って、声を全人類へとお届けします!
いや〜、あのまま殺し合って貰っても良かったんですが、せっかく加入した3人目をあの場で失うのも嫌ですし、何よりユウカさんにはもっともっと暴れてもらわなきゃなので。
《みなさんの耳には!その人が日常会話に使っている言語に翻訳してこの声をお届けしているので!私の身柄は何処の誰だか分からないと言っておきましょう!》
くっくっく、丁寧な説明から入ることで一旦話を聞く気になれる高等テクニック…!最近は地震が起きようが火事が起きようが魔法少女が空中で爆散しようが気にしない国民性ですから、ちゃんと話を聞いてもらう為にも、如何にも聞かなきゃダメな話っぽくして…──。
《私は!悪の組織『マジカルフューチャー』の親玉、ミーちゃんですっ!》
《私達は、今の社会に対してひっじょーに!非常に不満があります!!魔法少女が魔法少女らしく生きてないのもそうですが!》
《──何故!皆さんは魔法少女という存在がありながら!自らの願いを叶えようとしないのか!》
それはあからさまな怠惰だ、私とて頼まれる限り人の夢を叶えたいとは思うが……『夢』では無いものを夢だと勘違いしている人が多すぎる!
《妥協!諦め!静観!そんな下らないもので!私達魔法少女の使命を奪い去った!》
《魔法少女とは!貴方達の願いを叶える!そんな存在であって欲しい!!》
《──なので、個々人が心の底から幸せになりたいって願えるくらい世界を無茶苦茶にします♡》
手を振って世界中のモニターを乗っ取り、映し出すのは──魔法少女ユウナ・バレンタインと悪の魔法少女ユウカの決闘。
録画してあった、戦闘の始まりからライブ配信しておいた。
《今、ユウナ・バレンタインと戦っている魔法少女ユウカは!昨日まで普通の高校生でした!》
《性別を理由に夢敗れ、魔法少女適齢期を過ぎても尚!魔法少女に憧れている彼女は、私達の手でその夢を叶えたのです!》
《次に夢を叶えるのは──貴方達だ。ということで、活動声明として明日、日本の首都に魔法生物を投下します!よろしくです〜!》
スピーチ、終了。
よし、と拳を握り締めて我が家に帰還し、戻ってみればミーちゃんがキンキンに冷えた麦茶をお盆に乗せて待ってくれている。
ここまでやった所で、今の人類はカメラの向こう側の映画程度にしか感じないのだろうけれど、宣戦布告は一旦終わったことだし、彼女達の決着をここで待つとしようか。
「ふぃー、明日だねー。最低限ネットのインフルエンサーは再生数稼ぎに使ってくれるといいけど」
「明日ですぴょん。この程度じゃ再生数低迷必至ぴょん」
「No.1は動くかなぁ、まっ、どっちでもいいか」
「実害の出てない戯言如きにあの人は引っ張り出されてこないぴょん。それに変身体の劣化も進んでるぴょんし」
「……劣化ねぇ、一回は私に勝ったのに悲しいもんだ」
強い、だけなら私が1番上だ。それは掛け値無しで宣言出来る。
だけど私は感情の起伏が無い、どれだけ頑張っても模倣だけ。魔法少女に対しての回答を見せたあの子を前にして、その輝きに目を潰されちゃった。
「魔法少女対悪の組織……そのセオリーどころは大体埋めれたかな?私ってば最高の手腕!」
「ライバルポジ、宿敵ポジ……あ!アレはどうぴょん?愉快犯というか、あの敵にも味方にもなりそうなピエロ!」
「あ〜…イイネ!5人目はその子にしよう!適度に裏切って適度に働いてくれる気分屋を捕まえるかー」
「5人目?どういう事ぴょん?」
「え、あ!むむ───その、えーっと」
ミーちゃん、いつもごめんね……そしてありがとう…。老後は一緒にタワマンの頂上で毎日2人きりのパーティーを過ごそうね……。
「…なんかとてつもなく嫌な予感がするぴょん」
「とと、とりあえず!明日から私は姿を消します!そこら辺の事情をしっかり説明させてもらった上で、後のことはミーちゃんに任せるから!!宜しくね!?」
「…………はいはい、ぴょん」
■
《全人類のみなさん!こんにちはー!》
「これって…!?」
「これは…」
ユウナとユウカと動きが止まる。それは互いにトドメの一撃を放とうとする瞬間に響いた声のせいではなく、黒い壁が2人の間を突然遮断したからで、
「ユウナ、ユウカ。ダメだよ」
──魔法少女ダークが、この激戦に割って入り込む。質量を持たない闇が、現実を歪め2人の行動を停止させた。
互いに指1本すら動けないまま、ダークはユウカを抱き抱え空に浮かんでいき、惜しみながらユウナへ手を振る。
「っ!離して!離してよッ!!」
「私、ユウナにもユウカにも死んで欲しくない」
「そんな身勝手な…!なんっなのコレ…動けっ…!」
「身勝手でも、魔法少女はそういうものだってお姉さんが言ってたから、私は…一緒にかき氷とわたがしを食べてくれた人と殺し合わないで欲しい」
「……───」
色々聞きたいことはあった、私が居なくなってる間どう思っていたのか。それとユウナと買い物してたのは何でなのか、オリテアから魔法少女を辞めさせられた事を本当に聞かされているのか。
ダークに抱き抱えられて、頭が冷めていく内に殺意も萎えていく。それに何故魔法を使えたのかすら分からないのに、死ぬ気で殺し合ってるのも、少しづつイラついてきた。
「あーもう!ユウナ!決着は絶対に付けるからッ、てか私が勝ってたから!ダークに感謝しなよ!!」
「……私の方が先に圧縮しきれた、だからユウカの負け。次は勝てるように頑張ってね?」
「はぁ!?私の勝ちだったでしょ今のは!」
「血反吐吐いてギリギリの状態で勝ってた、って言われても説得力無いよ」
「───絶対殺す」
「───殺せるならね、次も私が勝つ」
「『次は』だろばーか!!死ね!アホ!ユウナのバカバカバカッ!!」
結局は冷静になれなかったユウカを尻目に、「モヤモヤするならユウナさんへ話を聞きに行けばいい」とアドバイスしてくれたミーさんに感謝を送って、自分に『経験』を沢山施してくれた2人の命を救えたことに安堵する。
人生に後悔は多い、自分がレンカとあそこで生を終えなかったように、『人生』に納得できる死に方を、友愛を送る2人には過ごして欲しい。
何もかも、分からないまま死ぬのはきっと、辛いと思うから。
「ばーかばーかばーかッ!!バカバカバカッ!バカ゛……っ……ばか゛…!゛!」
「──バーカッ!勝手に魔法少女になって!勝手に私の人生に踏み込んできて!勝手にオリテアに勝手な事言って!!」
「勝手に勝手に勝手に勝手に!なんにも、なんにも私に教えてくれずに!恨んでたんじゃないの!?嫌ってたんじゃないの!?こんな私に、優しくなんかしないでよっっ!!」
「っ、俺に!嫌いでも!許すでも!なんでもいいから!」
「ずっとどう思ってたかだけでも!言えッ!!」
必死の形相で叫ぶユウカを、ダークは空の中でユウカをそっと抱きしめたまま、ゆっくりと闇に包んでいく。
遠ざかるユウカの姿を視界に入れたまま、闇から解放されたユウナは地面にへたり込みながらも、顔を上げた。
「だからなんでっ…笑って…!!」
未だ笑みしか浮かべないユウナに、ユウカの歪んだ表情は怒りとも、悲しみとも、安堵ともつかず──困惑しかなかった。けれど返事を貰うまでその視線はユウナから逸らさず、
「──ユウカ」
今は、誰も余計な言葉を挟まない。
空と地上の距離が、夕陽の沈む地平線からの灯火が、2人の間に境界線を引いてゆく。
口にはしない、自分が、オリテアと手を組んでいるとはバレたくない。それでも、
──ユウナは、口を開いた。
風に消えかけるほどの小さな声。
けれど、魔法少女の耳に届かないはずがなかった。空からキラキラと落ちる涙が、夕焼けの光を集めてより1層美しく輝くのを見届けて、ユウナはこの言葉を伝えて良かったと思う。
ユウナが放ったその声は、何よりも強く、確かなもので、
──愛してる──
その一言が、春の雪解けのように瞳から涙を流せさせ、頬に伝う熱さが痺れるように感じる。
それ以上何も言わず、ただそこに座り続けるユウナは、完全に見えなくなった2人が居た筈の空を見上げ、
「勝手なのは全部ユウカの方だよ、私の王子様」
「私の手を引っ張って、私を檻から連れ出した。勝手に、私の人生をめちゃくちゃにして」
「──ありがとう、ユウカ。愛してる」
誰にも、自分だけに、聞こえるように。
優しくひび割れたアサガオの髪飾りに触れて
──愛を囁いた。