「──説明しろ、オリテア」
「ひいっ!?な、なんかキャラ変わって…」
「せ・つ・め・い・し・ろ」
「ぴぎゃぁ……」
視界がダークが放つ闇に包まれたあと、目を覚ますと見慣れた家屋の縁側に寝転がっていた。
変身体も解除されていて、どうやら気絶してしまうと身体そのものを構築しているせいか真っ裸になってしまうらしく、気を利かせてミーちゃんさんが自分を着せ替えてくれたみたいだ。
「説明しろ、と言われましても〜…ユウナさんに頼まれて〜……私も断腸の思いで〜…」
「は?」
怒り冷めやまぬままにオリテアを睨みつける。
傍にはバニラアイスをチロチロと舐めるダークが、ミーちゃんとドクターに全力のケアをされながらも満足気にその冷たさを楽しんでいて、
「コラコラ、喧嘩はダメぴょん!…と、言っても今回は全面的に主が悪いからボロクソに言ったれぴょん」
呑気な顔で「おかえりなさい!」と笑っていたクソ野郎に対し、ユウカは怒りを抑えきれずにいた。おかえりなさいじゃないだろ、何がおかえりなさいだぶっ飛ばすぞ、そんな気持ちで。
「……ずっと見てましたよね?」
「そりゃぁ…手塩に掛けてお世話したユウカさんですから。辞めさせろ!と言われても、その後の顛末ぐらい気になりますよ」
「………私が苦しんでた所も、見てましたよね?」
「ええ」
「…分かっていた事ですが、やっぱりお前はクソ野郎だな」
「言葉のトゲがドギツイですってば!?」
帰ってきてから話を聞いてみれば、ダークも、ドクターもミーちゃんさんも、「知らない」「知らねぇぞ?」と私が魔法少女を辞めるなんて知らなかったみたいで、あの絶望は勘違いだったことに安堵した。
多分だけど、ユウナがそう望んだのだろう。出来るだけ私が魔法少女から離れられるように、自然消滅の形をとって欲しいと。
「仕方ないぴょん、前も言ったけど主は基本的に『願い』を叶えるぴょんから、ユウナさんの願いの純粋さが…ユウカよりも優先されちゃったぴょん」
「許せ、とは言わないぴょん。でも、ちゃんとユウカが魔法少女になりたいって思ったからこそ、あの瞬間ユウカを魔法少女にしたんだぴょん」
「人間的な要素を尊重できない主の代わりに、ミーがお叱りを受けるぴょん!そして謝罪も!」
「──ごめんなさい。そしておかえりなさいぴょん!」
ミーちゃんが深く頭を下げ、ユウカへ謝罪を送る。謝罪すべき人間から謝罪されないのはどうにも。といった様子だが、分かっていたことではあるかと、謝罪を受け入れるユウカ。
一番の苦労人、そして毎回朝ごはん昼ごはん夕ご飯、着替えにお風呂を用意してもらってるミーちゃんに頭を下げさせ続けるのもしのびなく、後ろ頭をかいて咳払いをする。
「んんっ、ミーちゃんさんが…そう言うなら…」
「俺も心配したんだぞ?急に居なくなったし、このバカに聞いてもホームシックとしか言わねぇし」
「……私も」
「──ダークちゃん…ドクター…!」
「いやぁ、感動の再開ですね!良い展開です、素晴らしいです!」
「「「「…………」」」」
魂の形が人を嫌がらせる形をしているのではないか、そう思う4人。
目が乾く程にオリテアを見つめた後、ユウカはその圧からオリテアを解放し、そしてまた責任追及を行い始める。
「あのスピーチ、なんですか?」
「前から決めてましてね!明日はある程度…私が暴れ回ります。あくまでもウチは人類の皆さんの、心からの願いを叶えるスタンスなので………必要があれば人殺しもしますが、基本はお昼に映せるヒーローショー程度の侵攻活動です」
「…ミーちゃんさん、コレは?」
「知ってましたぴょん!」
「なら、いいです」
「──なんか私への信頼度0過ぎません?」
勝手を押し通すのは仕方ないとして、物事の道理はしっかりして欲しい。それを言っても通じないんだろうなと眉を曲げて、ユウカはドクターからアイスを強請る。
素っ気なく渡された棒アイスを、夜中になって軒下の周りを飛び始めたホタルを肴に口にして、全てから解放された気分の後味を味わい続けた。
そこでふと、自分は解雇されていた訳で、悪の組織所属というには例の『アレ』が足りてないのではないか、
「───」
「…!主、主!アレ!アレするぴょん!」
「む!分かりました、アレ、ですね!」
──察しの良さで、ミーちゃんさんの横に出るものはいないな。
舐めていたアイスを齧り、パクパクと欠片も残さず綺麗に平らげる。
棒をミーちゃんさんへ渡し、用意してくれていた草履を吐いて、
「よし!それではやっていきましょう!」
「──魔法少女ユウカよ!汝、自らの過去と決別し、退屈な日常と別れを告げ、己が満足を満たす為に全てを犠牲にせんとするものよ!」
「日常を抜け出し、非日常へと身を投じ、そして自らの真の願いのため!」
「悪の組織に、入隊しますか?」
宣言する。それは胸高らかに、気分は爽快に。
あらゆる憂いと悩みを置き去りにして、今までの全てを遠ざけて。
「──する。私は…俺は!身勝手な願いを、身勝手に叶える為に!背中を押してくれた怨敵を殺す為に!」
「悪の組織に、全てを捧げる」
──なんの恥じらいも、迷いもなく。
魔法少女ユウカは、この日悪の組織に入隊した。
「それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃいぴょん!」
「行ってこい」
「ん……頑張って…」
「過去との決着も、魔法少女の醍醐味ですね!」
■
──明美優花の母。明美望宅。
《今、ユウナ・バレンタインと戦っている魔法少女ユウカは!昨日まで普通の高校生でした!》
「──嘘」
嘘だ、と思考は告げる。
真実だ、と現実は酷に告げる。
「なんで」
《性別を理由に夢敗れ、魔法少女適齢期を過ぎても尚!》
「どうして…!」
《魔法少女に憧れている彼女は、私達の手でその夢を叶えたのです!》
「どうしてなのッ!優花…!」
テレビに映し出される光景は、全く信じ難いものだった。
最悪の愛娘である優花が、魔法少女になって戦っていて、しかもその相手はあの空知祐奈。
優花が足を折ってしまったことで、あの日特別なイベントがあった事も踏まえ慰謝料を請求されてしまったあの憎い相手。
「どうしてっ……」
自分を不幸にしたあの男から、優花を取り返して大切に育て上げた。
この世に生まれ落ちて、『生まれて後悔した』なんて言われないように努力してきた。
叶いっこない夢を肯定して、時には叱って。
それで優花は満足してきた!何も、何もかも不満なんて無いはずだったのに……!
「…オリテア……」
──きっとあの子だ。
あの子が優花と遊ぶようになってから、優花はおかしくなってしまった。
私は正しく優花と接してきたんだ。間違った親だと思われないように、親として間違わないように、自分を押し殺してきた。
母に、父に、自分の夢を笑われた時でさえそれを受け入れて、二度と間違った人間にはならないと誓って、
『のぞみが…親か。なんだか、今でも遠く感じるな……。程々に頑張れよ、孫の為にも』
『頑張ってね、望。応援してるから!』
──そこはおめでとうの一言でも言えよ。
なんで、お前らの満足の為に産んだみたいに。
でも、それすら飲み込んで。
見返してやりたかった、私はちゃんと親になれるんだって、『親』として生きていけるって。
1人で勝手に大きくなって家を出ていったあの子とは違って、優花は育てた親が良いって言われるような、それでいて優花も自由に生きて欲しくて。
「──なんで、こうなるのよっ!」
何でもない人間になりたくなかった。
夢を諦めてから、高校を卒業して、どうにもならない人生を送ってきた。
それでも何とか、ここまで生きてきたのに、どうして世界はこうも理不尽なんだ。
『望、自由に生きていいからな』
『──絵師?いや、ん……俺はいいと思うぞ』
『望、正直に生きていいのよ』
『──絵描き?やめときなさいそんなもの』
黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ。
お前らが私を『こう』したんだろ、お前らの自由と、お前らの正直の中で生きてくれなきゃ、私を大切にしてくれない癖に。
どうして認めてくれない、どうして私を大切にしようとする、どうしてお前らこそ正直に話さない?
「優花…ゆうか、ゆうかぁ…っ…」
でも、分かったことがある。
それは父と母、私の祖父と祖母と話した時の事。
──ああ、ウチの家系は皆こうなのだと。
祖父の、そのまた父親も。
祖母の、そのまた母親も。
ずっと同じものを受け継いできたから、仕方ないのだと。
そう分かったのは自分だけだったから、優花だけは何とかしようと思って、育てて、こうなった。
私にどうしろと言うんだ、私が何をした?
「帰ってきてよ…優花……」
「……優花…………」
──ピンポン。と、チャイムが鳴る。
「っ……?優花……?」
明美望は、駆け足で玄関へ。
天に祈るように、走り、ドアノブに手をかける。
嘘だと言ってくれ、アレは優花じゃない別人だと。私の娘じゃないと言ってくれ。
「ただいま」
「ちょっと、約束より早くなったけど」
「帰ってきたよ」
「──優花」
急いで抱き締める。心のケアをするように、私の想いが通じるように。
「優花、優花優花優花っ…良かった……お母さん、あんな放送があったから…本当に優花があんな事になっちゃったのかなって……」
「あんな事って?」
「テレビがね、急に乗っ取られて……変な放送が流れたの。そこに優花に似た子が──」
そして。
「それ、私だよ」
──決して聞きたくなかった言葉を、優花の口から聞いてしまう。
「……え」
「何処まで現実見てないの?どう見ても私だったじゃん」
「で、でも!優花はあんな事しない……」
「誰がッ!!」
「っ…!?」
「誰が、そんな事言った?」
「私が、そんな事言ったかな、お母さん」
「……」
もう、ダメなんだ。
ダメなんだ、もう、私は失敗したんだ。失敗したから、こうなってしまったんだ。
「私、魔法少女になったよ!」
「……」
「私…いや、俺ね!夢を叶えられたんだ!」
「──」
あーあ、なんで諦めちゃったんだろ。笑われても、絵描きになるのが無理だと分かっていても、それを諦めなかったらもしかしてがあるかもしれないのに。
「褒めて?」
あーあ、なんでしんどくなっちゃったんだろ。普通に生活して欲しいって言われて、普通に生きてきて、普通に結婚して文字通り「幸せ」の筈なのに離婚する羽目になって。
「喜んで?」
あーあ、なんでこんなに世界は理不尽なんだろ。言われた通りに普通に、幸せに生きて、どうして。
「子供が、夢を叶えられたんだよ?」
──下らない事を考えながら目を閉じていく。
下らない、なんて下らない。もう過ぎ去ってしまった過去を子供に重ねて、親に何も言われない『自分』になろうとして。
「ねぇ、お母さん」
自分は、何一つとして特別じゃないし、全てが特別だと言えるし、私はそう呼びたくないし、呼ばされてきて、どうしようもなかったし。
「…………」
あーあ。昔に戻れたらなぁ。
目を閉じて、中学生に戻っていたら。
私はきっと、好きなことを好きなだけして───。
「────」
「────ごめんね」
そして、そこに求めてるものが何も無かった事に、絶望するだろうな
「バイバイ、お母さん」