《──何故!皆さんは魔法少女という存在がありながら!自らの願いを叶えようとしないのか!》
《妥協!諦め!静観!そんな下らないもので!私達魔法少女の使命を奪い去った!》
《魔法少女とは!貴方達の願いを叶える!そんな存在であって欲しい!!》
──何をバカげたことを。
血に塗れ、両の手で死体を作り出しながら夕焼けの下、男は目を細める。
それは不満気に、怪訝に、自らの苛立ちを表す様に細められ、掌の頭蓋をにぎり込んだ。
皮と肉を剥いだ後の人間の頭蓋骨というものは、実に無惨で汚らしく、人間という存在が産まれ持った罪を表しているように見える。
目も、中に入っていた脳味噌も全て掻き出して、目の前の石段の上に添えた。
両手を組み、神に祈る。それは男のルーティーンであり、血に染めた両手と命を奪った罪で穢れた魂を清める儀式だ。
「……」
神は脳に宿りはしない、思考上に神は存在し、実在せずとも思考へ神の手は差し込まれる。
我々が罪の意識を抱くのは何故か、その答えは存在し、聖書には様々な『赦し』が描かれる。
我々は、神に赦される為に祈り、罪の意識を抱くのであって、脳はその媒介に過ぎない。
だからこそ、媒介を収める頭蓋骨に我々は祈りを捧げ、こうして許しを乞い続ける。
──神は思考の内にあり、我らの道は常に神の手に委ねられ、それ故に我々は信仰深き信徒でいられる。
祈れ、祈り、祈らされ、人の僅かな生を照らす神の道標に足を踏み入れよ。
《次に夢を叶えるのは──貴方達だ》
「……」
その、祈りの時間を邪魔される。
頭の中に流れる声は、神託が如く思考に手を差し込んでくる。
それは許されてはいけない、神は自らの意思を持たず、我々が神を意識する事で実在する。
盗みをしてはいけない、命を奪ってはいけない、我々は幸福な未来を歩むことを目指す。
──神が、その道筋を見ていてくれるから。
だから、神は存在する事が使命であり、このような紛い物の身勝手を許す訳にはいかなかった。
声が思考の邪魔をする。声が選択の邪魔をする。
それは許されない、ソレが許されるのは、我々が赦しを願う神のみだ。
「────」
祈る男の背後から、黒衣を身にまとった魔法少女が忍び寄る。
冷や汗と涙を流して、それでも尚声を抑え堪え、男の背中に1歩1歩、近づいていく。
仲間の魔法少女は殺された。自分達を世話してくれた大人の皆は今並べられている頭蓋に変わり果てた、最後に残ったのは自分だけ。
自分が、自分だけがこの男を殺して皆に報いることが出来るのだと、神に祈りながらまた1歩、近づいていき……。
「──カヒュッ…」
「邪魔をしたな?」
「ひっ……ぁ…ぅぁ…」
「お前も、邪魔をするのか」
喉に、ナイフが突き刺さる。
普通の武器では傷1つ付かない筈の、変身体を容易く貫通し声帯が破壊され、気が付けば男は魔法少女の目前に佇んでいた。
喉からはかぜのとおるおだけがきこ────。
「…………」
「ぁぁ……」
「ニホン………か…」
頭蓋も残らぬ、哀れな者。
魔法少女、魔法少女、魔法少女。
神に見放された、憐れな生命。神を宿せぬ、憐憫されるべき命。
私が救おう、私が殺そう、我らが神の手の届かぬ憐れな者は1人も居ない、我らが神を宿せぬ者は誰も居ない。
はじまりを祝え、終わりを唱え、はじまりを祝い、終わりを唄う我らは信徒。
知に従うなかれ、暴に従うなかれ、祈りを忘れるなかれ、神の手は汝の迷いの如くを払う。
欺瞞には断罪を、絶望には希望を、迷える者には導きを、我ら神の脳であり、手であり、足であり、目であり、耳であり、意思であり、我ら神の何れでも無く、故に祈りを捧げ我らに賜れし罪過を返還する。
「往かねば、ならない」
その男は祈り続ける。
使命は与えられず、神の実在を信じることはなく、それでも尚思考の中に住む神の手を信仰する信仰者。
魔法少女の存在を否定し、憐れみ、奇跡を信じることは無い『人類最高到達地点』。
アメリカにて存在を秘匿され続け、対魔法少女暗殺を担うその男は。
──祈る者──
──ユリウス・ゼーゲン。
「魔法少女を、救いに」
■
《全人類のみなさん!こんにちはー!》
「わ!?」
とある少女は、帰宅途中耳元で叫ばれた声に驚いて転びかける。
なんとかバランスを取って、「おっとっと」と、転ける瞬間の姿勢のまま空中で停止し姿勢を整えた。
それから、慌てて周囲を見渡して今の行動を見られていないかを確認し、胸を撫で下ろす。
誰かに見られたりでもしていたら、即通報からの警察にガン詰めされる危険性があり、
「はわわ…良かったぁ〜、もう!びっくりした!誰なの、今の!」
周囲を確認した時に人影が無いのは分かっている、ならばコレは魔法によるものであり、傍迷惑なイタズラ魔法少女がいたものだと頬を膨らませて、それから目を丸くした。
「──あれれ?誰もいない?」
自分の探知範囲内に誰もいない、それどころか魔法を使った形跡も無い。
不思議に思った少女は、身体を透明化させながらキラキラとしたエフェクトと共に手元に箒を生み出して、それにまたがり空を飛ぶ。
「……んー?声は聞こえてるんだけど…」
声だけが聞こえる、まるで自分の魔法のように。
もしや同じ魔法使い!?期待と喜びに胸を躍らせてスピーチの続きを耳にとめようとして、
「───」
「悪の……組織…!!?」
更なる吉報に、人生で初めてのトキメキを心に宿らせた。
悪の組織『マジカルフューチャー』!なんと素晴らしい響きか!
「ずっとずっと!この力は何のためにあるのかなーって思ってたけど!」
世界を救うヒーローになる為の力だと思ってた、でも、世界はヒーローに救われた後だったみたいで、私の出番は1つもなくて。
おばあちゃんやおじいちゃん、時々夜中に出かけては事故を予防したり……色々やってきたけど、なんかイマイチ。
──だけど!今からはそうじゃない!
「ふーはっはっは!ついに!私の時代が来たの……か…?」
「いや!私の時代が来た!悪の組織をやっつけて!私がこの世界のヒーローになってあげようではないかー!」
「あーハッハッハ!!待ってなさいマジカルフューチャー!この正義の魔法使い、カリン様が、貴方達の悪巧みを打ち砕いてあげる!」
「魔法使いカリン!今日から始動よっ!!」
スピーチの適用範囲が、全人類であったがために、予期せぬ乱入者をオリテアは引き寄せる。
自身がそうであったように、人口70億を超える現代ではどんな『異常存在』でも生まれうる、その可能性を考慮していなかった。
純粋な善意と、不純な動機。世界を救うヒーローになる為に!落ち葉片付けにしか使っていなかった箒を乗り回し魔法使いカリンは今日も舞う!
「待ってなさい!マジカルフューチャー!」
その存在は、魔法使いである。
理由は無い。唯の魔法使い。この世でたった1人の外れ値の、異能者。
──魔法使い──
──ユズハ・カレン(本名は非公開!これから魔法使いカレンのお仕事の!応援よろしく!)
■
「んー」
──悪の組織第一支部にて。
「むむむむ」
「どうかしましたぴょん?」
「いや、なんか有り得ないくらいの嫌な予感が……」
「明日のことは明日に!主もやれる事はやったぴょん、ミーも頑張るから演出に力を入れて…」
「………マジで嫌な予感がする。ミーちゃんもなんか感じてない?」
なんかこう、予想してたより影響出過ぎて…マジカルフューチャーの初陣が物凄くしっちゃかめっちゃかになりそうな予感がする。
こういう時の勘は大体あたるのだ!せっかく丁寧に丁寧に、地道な悪の組織を目指そうとしてるのに…。
「感じません!ぴょん!はいウィンナー」
「あむっ……うまひー」
「不安になり過ぎぴょん!幾らなんでもあんな声明で、主が心配する様な事態にはならないぴょん!」
「──まっそうですよね!気にしすぎました!」
ミーちゃんの言う通り!明日は脳みそが味付けの濃い食事やらショート動画やら、天才達のJPOPでドーパミン中毒になった現代人の、脳内快楽物質を常に放出させないと我慢ならない子供達のために!ドーパミンで溺れされる演出の連続で!マジカルフューチャーのきらびやかさを世界に知らしめるんです!
それにアオアカクロの成長の為にも、ここはガツンと私主催『悪の組織の親玉が操る大怪獣(私)と悪の魔法少女に立ち向かう正義の魔法少女達!』のヒーローショーを完遂させて!
「悪の組織の第一歩は!明日!始まるッ!」
「お行儀悪いぴょん、ちゃんと座って口の中にご飯がある時は黙食ぴょん」
「はしゃぐなはしゃぐな、どうせヤラセに近いんだからお前1人が満足するだけだろ…。あ、ダークの初陣はしっっかり録画しとくぞ」
「帰ったら鑑賞会ですぴょん!アオアカクロは、ちゃんとミーとダークとユウカのかっこいい姿を見てお勉強するぴょん!」
「「「はーい」」」
「──え?私も強制参加なんですか?」
「いまさらなーにいってんですか、家も母親も溶かしたユウカさん?」
「……はいはい」