最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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the best stage

 

──翌日。

 

日本の都心、東京都にごった返す人々は、今日という日が少し特別である事を予感していた。

昨日の夕方に行われた放送ジャックは、全国民の心を惹きつける───事は無かったのだが、帰り道にでも、この何処で行われるか分からない愉快犯の犯行を一目見れたら良いな。

その程度の心持ちで、皆ソワソワしていた。

こぞって再生数稼ぎに利用する配信者達が東京のあちこちで散見され、それそのものがネタになったりもして、

 

「いつ始まるんだろー?」

 

「なんか考察系動画見たけど、今年で丁度魔法少女が生まれてから……なんか、なんからしいね。それであーたらこーたら」

 

「なんもわかって無いじゃん」

 

バーガーショップで暇を潰す女子高生が、携帯を弄りながら駄べる。

日本一斉放送ジャックが行われてから16時間。お昼の休みの間に、少しでもお祭り状態の外を見ておこうと学校から飛び出してハンバーガーを口にする彼女らは、一刻一刻と迫る昼休み時間の終わりに憂鬱になっていた。

 

頬杖をつき、ため息を吐く。落ち着いていく心拍と上下する呼吸が、「駄目そうかな」と諦めの言葉を口にさせる。

携帯を覗いても目立った報道は無く、あちこちでライブ配信を行っている配信者をハシゴしても、特に異変は無い。

 

粘るのは諦めて学校に戻ろう、そう思って、ハンバーガーの包み紙をゴミ箱に捨てて、

 

《こーんにーちはー!ぴょん!》

 

「「…………」」

 

「ねぇ」

 

「今のって…!」

 

期待で胸を高鳴らす。

頭に響く声、乗っ取られる携帯画面、何故か変な語尾がついているけれど昨日と同じ現象だ。

それは、非日常に憧れる2人に学校を休む選択肢を選ばせる。

いや、彼女達だけでは無い。バーガーショップに居る殆どの人間がざわめき始め、皆足早に店内を後にしていく。

 

──例え、この放送が本当に危険なものだとしても、魔法少女が居て、警察がいるのだから、大問題にはならないと。

 

『非日常』という毒素に犯されて、人々は足を運ぶのだ。そこにどれだけの危険が孕んでいたとしても、人間は、

 

「行こっ!クラスのみんなにメールしてさ!」

 

「うん!」

 

──その好奇心を、殺す事は出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その点で言うと、私…人間の事舐めてましたかねぇ」

 

「舐めすぎぴょん…」

 

──オリテアの眼前には、まだ何も始まっていないというのに人でごった返す大広場が映っていた。

予想していた人数の数倍、いや数十倍。人同士が圧迫しあって死人が出るのではないかという程に、一夜にしてマジカルフューチャーの名前は日本に響き渡ってしまったのだ。

 

オリテアの魔法によって、姿を消し空を飛ぶ5人と3匹は、その熱気に若干引いていた。

 

「馬鹿かコイツら…!声明がホンモノだったら、幾ら魔法少女だとしても救いきれねぇぞ…!?」

 

「その『馬鹿』が現代の国民の人間性というやつですよ、ドクター。みんな飢えてるんです…非日常というものに」

 

「ユウカみたいな子が、今の日本…世界には沢山いるって事ぴょん。けどこれは……」

 

「……パニックが起こったら、私達関係無く人が死にません?」

 

「ん」

 

5人はそれぞれの感想を述べる。

後ろ頭を掻いて、「このクソあちぃ中…ほんと馬鹿ばっかだな…」と、普通に考えれば命を落とすかもしれないテロ声明にノコノコ歩いてきた真下に居る人間に呆れるドクターは、オリテアの発言が何となく理解出来てしまう。

 

──願いを叶える。

 

確かに、悪の組織としてはそれ以上の目標は無い。人間という種族が最もその熱量を、命の熱ともいうべき輝きを放つのはその道筋を必死に走っている瞬間だ。それはこの目下の人間達のように、時には命すら顧みずその熱は燃え上がる時がある。

──つまり、走りきった後にその熱は消えるという事。熱が消えた人間は、新しい火を灯すかその場で沈み続けるか。

 

オリテア、この化け物が本当に願いを叶えようとし続けるだけの存在ならば、

 

「……───はぁ」

 

「んふふ…あれれ?ドクターさん、顔色が悪いですね!」

 

「暑っついからだよ馬鹿、帽子貫通して頭がのぼせちまう」

 

「安心してください、ドクター。貴方の考えてる通りにはなりませんって、杞憂ですよ杞憂」

 

「……軽率に魔法で心読んでんじゃねぇぞテメェ」

 

「魔法使ってませんけどね!?私の読心術ですよコレは。模倣を頑張ってる内に身につけたのでーす!」

 

「…………」

 

抱き抱えているアオを手放してもいいなら、自分はコイツを本気で殴り殺してやりたかった。

 

「マジでアオに感謝しろよ」

 

「な、なんでですか」

 

「──感謝しろ」

 

「はぃぃ…アオちゃんありがと…」

 

「……?うん…」

 

「ひぃん…」

 

なーんか最近ドクターの当たりが強い気が……それに誰も味方してくれないし……。

というか雑?慣れ?私にどういう対応をしたらいいか大体分かってきたから、なんか色々雑になってきましたね!!

 

「大体主が」

 

「もう何回も聞いてますーだ!!」

 

「ぴょん」

 

ミーちゃんもぜんっぜん助けてくれない上に、なんなら加勢してくる時あるし。

大丈夫かなぁミーちゃん……結構感情移入してきちゃってる感じがしてるけど……。

 

「ふむ」

 

対立煽りがしたい、そこまでは良い。

私が人類と魔法少女を対立させたいのは、存在意義を奪われた魔法少女と、奪った上にそれを背負わず責任を放棄した人類とが戦って貰うことで、互いに自らの願いを思い出してもらう。

 

──だから、マジカルフューチャーは『解散前提』で作り上げている。

 

構想する未来の為の足がかり、ここでの出来事は全て事前準備に過ぎない……の…だが……。

 

「……」

 

「みなさん、思ったよりも楽しそうですね!」

 

非日常というスパイスがこれ程まで強烈だったとは、この私の目をもってしても見通せなかった……事は無きにしもあらず。まぁ良い方向での計算外なので良しとしましょう!

 

「ダークちゃんは私(怪獣)と一緒に出ます。それと私の目から離れない場所に」

 

「うん」

 

「ミーちゃんは大立ち回りを任せますが……信頼してますよ!変な失敗はしないと!…戦闘できる魔法使えないんだからちゃんと渡したアレ、使ってくださいね?」

 

「任せてぴょん!」

 

「ドクターは不可視と認識阻害の魔法をかけっぱなしにしておくので、民間人が死にかけたりダークちゃん、ユウカさんがヤバかったら救出頼みます。アオアカクロも預けときますので」

 

「おう。俺自身がやばかったら3人の力を借りる……でいいんだよな」

 

「はい!ドクターの最強ボディーガードがその3人ですから!」

 

「……あの、私は」

 

「ユウカさんは──『ご自由』に。どうせ戦闘は起きます、その時にユウカさんのお好きな様に振舞ってくださいね」

 

「今のユウカさんなら、安心して1人きりに出来ます」

 

「───分かりました」

 

当時思っていたよりも、2人の成熟が圧倒的に早かった。ダークちゃんは自分で自壊をなんとか補修しながら動けるようになったし、ユウカさんは変身体を圧倒的な足切り性能で作り上げてくれた。

お陰様で、私とミーちゃんだけでするつもりだった侵攻を全員で出来るようになったのはとても喜ばしい事だ。やっぱりなんでも楽しみながらするのが1番!

 

ホントのほんとにいざという場合があれば時間でも止めましょう。マジカルフューチャーは人類の『危機感』を復活させるための組織、ここで殺し過ぎても殺られ過ぎても良い事にはならない。

 

生き返らせる───のは、最終手段にしときましょう。

やはり、人生たるもの一度きりを楽しまなければなりません!死ぬのを前提で動き始めると、人類側もなりふり構わなくなって……捕まえて拷問地獄みたいな事やりかねませんし。

 

「さて!」

 

「我が悪の組織の初陣です!気張って行くぞー!です!襲いかかってくる魔法少女をちぎっては投げちぎっては投げ!」

 

「みなさんの願いを、叶えましょう」

 

オリテアの隠匿魔法が解除され、交差点の真上、大型ディスプレイの目の前に真っ黒バニーの絵に書いた様な少女が現れる。

炎天下で自殺行為の黒衣装に、情欲を煽ることしか考えていなさそうな露出度、どこを切り取っても「不審者」と「痴」が満載な彼女の出現に、通行人の視線が釘付けになった。

 

「はい!ミーちゃんセリフスタート!」

 

「了解ぴょん!こほん…」

 

 

 

《こーんにーちはー!ぴょん!》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──花が咲いたみたいな声が、東京に響き渡って、空にまで跳ね返る。

 

「おい…見ろよアレ…!」

 

「すっ…──ええ…?」

 

スマホを向け、視線を向け、心を向ける。

道行く人々は勿論、昨日の放送ハイジャックに興味を惹かれた数々の人たちが、一斉にその声がする方へと振り向いた。

 

《わ、私は魔法少女救済を目的とする悪の組織!マジカルフューチャーの親玉、ミーちゃんぴょん!》

 

「痴女…?」

 

ざわめきが広がる民衆の中へ、それぞれの頭の中に響く様な声は昨日のスピーチをした人物と同じ声ではあった。

が、しかし。何やら変な語尾と発音の仕方がブレているのを聞いて、怪訝に眉を顰める。

 

《ミーは悪の組織の親玉として!この場で今、魔法生物を従え街を破壊するぴょん!》

 

──堂々とした破壊宣言は、堂々としすぎていて民衆に実感を与える事は無い。

ただもう少しのざわめきと、乾いた舌の根を潤わす程度のもの。

 

民衆の中から…配信者であろうか、自撮り棒と複数人のカメラマンを背中に付けながら、スピーカーを持ち出して口を近づけた。

 

「すーみーまーせーん!!」

 

《わっ!?な、なんですかぴょん?》

 

「お名前ー!!ミーちゃんでいいんですかーー!!」

 

《はいですぴょん。というか度胸あるぴょんね!なにぴょん、迷惑系ぴょん!?》

 

「昨日と、明らかにキャラ違いませんかー!!」

 

額に青筋が浮かぶのを我慢して、イラつきを抑えながら咳払いをする少女は、腕を組みスピーチを続けようとする。

 

《───こほん。気を取り直して、ここにいる皆さんには死んでもらうぴょん!!ノコノコと集まりに来てくれて感謝するぴょん!!ハーッハッハッハ!!》

 

「無視しないで下さいよーー!!!!」

 

《うるせぇーー!!もういいからさっさと全員踏み潰すぴょんっ!!》

 

《いでよ魔法怪獣ッ!マジカルギガキマ───》

 

 

──瞬間。

 

 

《────》

 

 

その場にいた全員の息が詰まってしまった。

それは何故かと言うと、『ミーちゃん』と名乗りを上げた魔法少女らしき人物に影がかかり、彼女の上に何かが降ってきている事が分かるからで、

 

──空から降ってきたのは、人だった。

 

人、と言ってもその姿は明らかに『人』ではない。

逆光に縁取られ、光の残滓を背にしてゆっくりと舞い降りてくるその少女は、ロングソードを携え金色の光を背後から放出しており、その存在自体が現実離れしていた。

白銀のロングヘアが風に揺れ、重力に逆らうようにふわりふわりと踊る。制服ともドレスともつかない衣装に身を包み、肩にかかったケープのような白く半透明で薄い生地が、太陽の光を透過して煌めいていた。

 

「貴様だな」

 

──魔法少女だ。

その場にいた誰もが、口を開けたまま言葉を失う。見たことはあっても、現実では決してその姿を見る事は叶わない相手がそこにいる。

剣の柄を持つ両の手を前で組み、空中で仁王立ちをする。ゆっくりとその姿勢のまま降下していく少女は、中世の騎士王を彷彿とさせる姿だ。

 

宙に剣を突き立て『空中で停止』し、光の膜を足に広げながら、そのヒールブーツの踵を鳴らす。

 

──東京の空が、たしかにそれまで『普通』だった空が、音もなく波打った。何かが圧縮され、ねじれ、集中していく。魔法が、目に見える形で『構築』されていくのが分かる

 

「貴様、だな?」

 

「あが、あががが」

 

「聞きたいことは山ほどある」

 

「──死んでくれるなよ」

 

「ぎぃゃあぁ──!!??」

 

少女が叫び声を上げた、その瞬間。

その場に居た観客は全員、目が潰される様な極光に空から目を背ける。

それは太陽光でも、誰かのフラッシュでも無ければ、目を瞑る間も無く光が網膜を焼き焦がす。

太陽を直視してしまった瞬間のような、瞳に針を刺されたような激痛に目を閉じ、暫くしてから瞳を開けて、

 

「───」

 

誰も残されていない空を見上げ、炸裂音と共に視界が白く塗り潰されるのを再び手で防ぐ。

 

白光。

理屈ではなく、本能が死を理解してしまう光を、空に見ながら。

──割れた『空』を、直視する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──私の嫌な予感は、本当によく当たる。

 

「……」

 

「オリテア!ミーちゃんさんぶっ飛ばされちゃったけど!?」

 

配信者のノリとツッコミに巻き込まれて、スピーチがグダグダになるミーちゃん。

これはいい、ミーちゃんの性格的に仕方ない。

それに近親感溢れる相手が絶望を巻き散らかすのもまた乙というもの。

 

「……」

 

「No.2か、アイツ毎回不憫だな…。それじゃお先に下で走り回っとくぜ」

 

民衆の中に紛れている悪ーい奴らの気配。

これもいい、何をしても別に悪の組織である私達には秩序も命もそこまでのもの。

ドクターに救助をお願いしているのは、私達の侵略関係なく事故で死んでしまう人だけで、この悪い人達が暴れようと関係ない。

 

「……」

 

「行ってくる……レンカに、ちゃんと見て貰えるように…」

 

空で炸裂するNo.2の魔力。

別にいい、ゲストが派手であれば派手であるほど、演出が派手であればあるほど、マジカルフューチャーの名前は轟く事になる。

ミーちゃんは勝てはしないけど負けもしない、放置しておけば関係ない。

 

「───」

 

──何者なのか分からない少女。

豪速球でこちらに向かってきている、その少女は少しめんどくさい。

めんどくさいというか、無茶苦茶になるなコレ。

 

「私もさっさと怪獣になって暴れますか!!」

 

ミーちゃんが空高く切り上げ飛ばされたのを横目に、2人の初陣をより華やかにする為、少しは私も頑張りましょうか。

下降していく2人の姿隠しの魔法を解除して、私も舞台の上に上がるとしましょう。

 

「皆さん!ミーちゃんの事は気にせずに!」

 

「気にしてねーよ」

 

「気になりますけど…!?いやまぁ、あの人なら何かと大丈夫か、大丈夫だな、うん」

 

「ミーさん…なら、きっと…」

 

「あはは!ミーちゃんかわいそ!」

 

──私の勘はよく当たる。

3度目だが、私の勘はよく当たる。魔法や奇跡ではなく、うっすらと感じる不運の運命がそう告げている。

 

多分、事前に狙っていた方向とは全く違う決着になってしまうだろうと。

 

「……ふむ」

 

「───」

 

「んふふ、んふふふ。それでも良しとしましょう!最初なんですからインパクトが大切!」

 

今回がどんな結末になったとしても、『火種』は撒かれた。誰もが胸に抱える『特別』への憧れは、こうなると誰にも止められない。

 

魔法少女ダークのように、魔法少女ユウカのように、願いを叶える『魔法少女()』が、沢山の願いを尊べるように。

 

「そういえば、私のコレ。2人には見せてなかったな〜…もう行っちゃったし、別にいいか」

 

手を天へとかざし、指先に意識を向けながら手のひらを自分の方へと向け、撫で下ろすように宙を払う。

その行動に意味は無くとも、魔法少女は常にキラキラで、カッコよくて、夢がある存在じゃないといけないから。

 

『──ね…ぇ…』

 

『■■…ちゃん……』

 

『■■、■。■■■■■■■…』

 

 

「──変身」

 

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