最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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On each stage①

──空が晴れ渡っている。

 

手を伸ばせば、空に手が届いてしまいそうだ。雲ひとつ無い空は、時折自分と空の境界線を曖昧にしてしまう。

溶けだしていく意識の形を保ち、現実を確認し続ける事。たったそれだけがこの美しい空の下で許される行動だ。

 

人の声、鳥と虫の声も夏だというのに聞こえない高い空。だからいつも思うのだ、『空』は常に孤独であり、誰かれにも見られているのに、誰にも触れられず誰からも声を掛けられない。

あゝ空よ。今すぐにでも落ちてきそうだというのに、いつまで経ってもそこで佇んだままの君は。

 

「──」

 

一体いつまで、1人寂しいままなのか。

 

《No.2!来ました!》

 

《こーんにーちはー!ぴょん!》

 

無線の声と共に脳内に響く声は、昨日と変わりない。強いて言うのなら謎の語尾が追加されているくらいか。

 

「………」

 

輸送機の貨物室の扉が開く。

吹き込む風と薄い酸素、運転を行う彼らに実害が出るより先に、

 

「──変身」

 

「アメリア・ネメシス、出る」

 

空から、落ちていく。

魔法少女に上下左右は関係ない。宙を舞えるようになった瞬間から、魔法少女は現実から離れた存在になった。

 

そんな私達を、空は常に見てくれている。

宙を舞っても、上下左右を自由自在に駆け回って、現実からどんどん遠ざかっていこうと、空がある限り私達はどちらが『上』でどちらが『下』か、ここは何処で自分は誰なのかを認識出来る。

 

落ちて、落ちて落ちて尚、空は私達から目を離さない。

 

「それが、どれだけ有難い事か」

 

目に捉えるは、記録データベースに無い魔法少女の姿。

同じ魔法少女だとしても、この有難みを共感出来ることは無いのだろうな。

 

「貴様だな?」

 

「あが、あががが」

 

「聞きたいことは山ほどある」

 

「──死んでくれるなよ」

 

「ぎぃゃあぁ──!!??」

 

下から袈裟に斬り上げ、空へとかち上げる。

自分の魔法で、民衆を焼き殺さない空にまで、コイツを連れていく必要がある。

 

2度、3度、太刀をコイツにぶち込んで、遂に4度目に剣筋を弾かれた。

 

「──」

 

「いてて…ビックリした…」

 

「実に、孤独だとは思わないか。この『空』という場所は」

 

「何言ってんだぴょん…。No.2さんは妄想癖があるぴょん?」

 

手応えから分かっていた事だが、今の斬撃で無傷か。

与太話だと思わず足を運んでよかった。コイツはここで殺しておくべき相手だな。

 

「いやなに、下に被害が出ないよう『空』という戦場を借りるのであれば、持ち主に心馳せるのも不思議では無いだろう?」

 

「うーん…詩的でよく分からないぴょん。でも、空が孤独だっていうのは更によく分からないぴょん」

 

「ほう?」

 

「──人類はもう、空に手が届いてるぴょん。ずっとずっと、1人で寂しかった空も…今は手を振って貰えてるぴょん」

 

──詩的でよく分からない、という割には。

 

「貴様も、存外愉快だな」

 

「えへへ、そうぴょん?最近は……って違う!せっかくの初陣をなーに邪魔してくれてんだぴょん!!許さないぴょん!!」

 

「許さない……か、それはこちらのセリフだ。貴様らの軽率な行動のせいで世界中で事故が多発した。監視していた犯罪組織が、貴様らのハッキングを別組織からの挑発だと受け取り抗争が始まったり…我々の仕事がどれだけ増えたと思う?」

 

「───マジでごめんなさいぴょん」

 

…気が抜ける、この状況に対してこの冷静は慢心しているのか何か。

呼吸も視線も、平常の人間と何ら変わりない。攻撃の意思も感じ取れない上に、謝罪までされ始める。

 

──不気味だ。迸る私の敵意も萎えていく。

 

何らかの干渉がある訳でも、魔法を使われている訳でも無い、ただその毒気の無さに戦意を萎ませられるのだ。

だが……はぁ、そも、だ。私は忌々しく面倒な敵対存在と対話をしに来た訳では無い。殺害し回収する、それが目的。

 

「その感性がありながら、何故この様なテロを行おうとした」

 

「テロとは酷い言い分ぴょん!コレはデモぴょん、『現代社会に蔓延る社会への不満と心の停滞』を無くす為に…」

 

「──カンペを見ながら話すな、説得力が無い」

 

「ぴょ…」

 

手元の黒い手帳をチラチラ見ながら話された所で、僅かの説得力すら無い。

──チグハグなのだ、マジカルフューチャーとやらの行動意欲とこの場のコイツの存在が。

 

既に魔法の仕込みは終わった。グダグダと会話を続けてくれた事に感謝したいが、これ程大胆に魔法の起動を晒しておいてなんの妨害も無いのが信じられん。

 

昨日の様な事が出来るのなら、コレにも勘づいて妨害してくるかと思っていたが、何も無いどころか気づいてすら無い…。

 

「貴様」

 

「…声は同じでも昨日の放送の奴とは別人だな?」

 

「ギクゥッッ──わ、私こそがあのマジカルフューチャーの親玉であるミーちゃんであり!それ以外の何者でも無いぴょん!あのスピーチをしたのはミーで、ここで貴方をぶっ潰す───」

 

『ミーちゃん』が言葉を吐き切る前に、アメリアの魔法が発動する。

──光が、空を満たした。

 

 

「『神罰執行(ジャッジメント)』」

 

 

空間が張り裂け、空間の『面』が割れる。

その割れた裂け目から溢れ出した光が敵対存在を焼き尽くすNo.2の魔法の1つ。

 

発動までのタイムラグを代価に、発動されれば光の届く範囲全てを一瞬にして破壊する回避不可能の一撃は、その範囲と速度、破壊力を制御する為に、更にもう1つの魔法による制御を行っている。

『空間断裂』、魔法により空間の一部の位相をずらすNo.2のオリジナル魔法。もしも事前にズラされた空間による壁が無ければ、地上の全ては地球の表面に太陽を設置した様な惨状へと変わってしまっていた。

 

「───」

 

生物がこの光に晒されて、生き残る事は有り得ない。アメリアは本人ですら空間断裂による壁を自身の周囲に貼らなければ、この光によって消滅させられる。

 

網膜を焼く極光が、1秒。たったそれだけの時間で蹂躙という蹂躙を尽くして。

 

「───…」

 

──ぽつり、と残る人影は消せずにいた。

 

「眩しいのは辞めて欲しいぴょん!せっかく下のみんなが頑張ってる所なのに、これじゃ逆光で録画映りが悪くなるぴょん!」

 

「は」

 

「面倒を増やしちゃったのはごめんぴょんけど、ミーもミーで任された仕事があるから、負けてられないぴょん!……勝てもしないけど…」

 

「馬鹿な…貴様…」

 

「それじゃ、ミーと少しの間暇してもらうぴょん。──Shall we dance、ぴょん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──ビルに影が掛かり、街中に突如巨大な人形…のような、随分と可愛らしいフォルムをしたパステルカラーのマスコットが現れる。

オリテアが変身した後にその身体を変化させ、巨獣となって顕現を果たした。

 

民衆がビルの屋上に乗るそのマスコットの存在に気がついた時には、「さっきの続き…?」と呑気なセリフを吐いて、携帯を向けていて、

 

「Wooooo──!!(ガオー!)」

 

けれどもその巨体は、たった一歩踏み出すだけでビルの外壁を崩落させ、着地によって道路を陥没させる。

人で押し寿司状態であった地上は、怪獣の着地に踏み潰されない為に逃げようとする人間と、撮影を続けようと立ち止まる人間によって渋滞してしまい、何百人かが足元に居る状態のまま、怪獣は着地しようとしている。

 

悲鳴が上がる頃には既に手遅れ、地面のシミになるまで後数秒。

 

「ッ!どけよッ!何してんだ!」

 

「前が動かないのッ!!」

 

喉を裂くような怒声も、背中を押すような悲鳴も、ただただ空気の震えにかき消される。

逃げ場を失った群衆が、ただ怪獣の足裏を見て動き続ける──けれどそれは生き延びるための前進ですらなく、むしろそれは死を早めるだけの無意味なもがきだった。

 

人、人、人。

人の肩が人にぶつかり、転び、転んだ人を踏みつけながらも、誰もが顔を上げる余裕すらない。

マスコットの巨体が、ビルの屋上からたわんだ身体を着陸させる。

その瞳はガラス玉のように綺麗で、何も映していなかった。

 

ゆっくりと、足が地面に着こうとしていた。

 

着ぐるみのようにふわふわと丸い足。

その影は、交差点全体を覆っていて、

 

「う、うそ……来る……来るって…!ねぇ!!早く退いてって!」

 

「ひっ、あ───」

 

───ぐしゃり。

 

まるで蟻の上に大きな石を落としたような、シミが地面に出来上がる。

あちこちで骨の折れる音、鉄の軋む音、ミシリミシリと合唱を奏でて。

そして──押し合う民衆が、人間を踏み殺そうとする騒乱の音。

その音の波に紛れ、もはや誰が誰を踏んでいるのかもわからない。

 

怪獣が足を再び上げれば、ねちゃりと人間だったものが足裏から糸を引く。

 

骨、だったもの。肉、だったもの。

脳みそ、だったもの。全て血溜まりに。

 

「……Gruuuuu…(ドクターと2人には見せらないなー…)」

 

「……ぅあ……ぃや、ぃやだ……ッ」

 

誰かの少女の声が、喉の奥で詰まっていた。

目の前で潰れた人の顔が、さっきまでまだ『笑っていた』というのに。

 

泣くことも、喚く事も、全て喉が詰まって動かないせいで吐き出すことが出来ない。

 

「─────」

 

怪獣が、再び足を上げて降ろすのを見上げながら、少女は。

 

「──たす……けてっ……!」

 

必死に、救いを求める。

 

そう、求めた──のなら。

 

「私っ!参上ッ!!」

 

この世界には、魔法少女が居るのだから。

その助けを求める声に、手を差し伸べる存在がいた。

 

軽快な声と共に、箒に乗った少女が地面へ落下する足の間に割り込んだ。

ハート型のクリスタルが辺り一面に展開され、群衆を踏み潰そうとしていた怪獣を跳ね飛ばす。

 

「Wu…!?(ワォ!?)」

 

「魔法使いユズハ・カレン!悪逆尽くすマジカルフューチャーを打ち倒す為、参上したわ!」

 

派手なハート色のエフェクトが彼女の背後から沸き上がり、背後の謎の爆発と共に名乗りを上げた。

箒に乗り上げ、右手に力を込めるとそのままアッパーのモーションを取り、不可視の力が怪獣をビルへと殴り飛ばす。

 

「──私が来たからには!貴方達の野望はここでお終いよ!」

 

「ぅ…っぁ、だ、誰…?」

 

「くっ、なんて被害…!そこの貴方!立てる!?」

 

「っ、は…はい…」

 

「可哀想に……お友達が踏み潰されたのね…!でも安心して、私が来たんだから、悲しむ子は誰1人として生ませないわ!」

 

悔しそうな顔をしながらも、少女に焦りは見られない。数百、数千人が血溜まりになっている光景を見ながらも、それを認識しているかすら怪しい様子で胸元から杖を取り出した。

 

──杖を振れば、『血溜まり』であったものは時間が巻き戻るように回帰していき、『人間』へと戻っていく。

その光景はオリテアもハッキリ目にしていて、

 

「………Aooo…(確かめる為に結構殺したけど、やっぱりその類か〜)」

 

「そこの怪獣っ!大勢の人を殺したその非道!神様が見過ごしても私が見過ごさないわ!」

 

「Ao……GuAAAAAAA──!!(しかたない、かかってきやがれぃっ!!)」

 

──戦闘が始まる。

それは、とても互いに見た目は馬鹿らしく、現代では取って付けたような魔法使いコスを身に纏う少女と、お昼のヒーローアニメでしか見ないような怪獣のおままごと。

 

互いにただ、『押し付け合う』だけの勝負が、この結末の運命を賭けて始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──何をするべきか。

 

「……」

 

あのお姉さんに拾われて、魔法を教えて貰って、分からないことを沢山教えて貰った後に……私は、人生で初めてレンカ以外のお友達を作りました。

ミーさんが言うには、私の人生は沢山の人の人生を見てから、過ごし方を変えてもいいらしく。

 

ユウカとユウナの喧嘩を止めて、良かったと思います。その時、自分の考えと自分の手で、誰かの人生を変えることの出来た私は。

もう、決して誰からも『居ないこと』にはされないのだと、気づきました。

 

私が、居ないことにされるのを拒否する事が出来る。私を抱きしめてくれたおじいさんの様に、私が何かをする事で、私の目を見てくれる人は増えるようです。

 

「──……レンカ」

 

何もかも分からないから、分かるために生きている。

あの日、分からない事を分からないままでいたくない、そう思っている自分が居ることなんて分からない──フリを辞めて。

 

「見てて」

 

使う魔法も、ほんの少し変わった気がします。

 

「──『暗黒物質(ダークマター)』」

 

ミーさんが決めてくれた魔法の名前を呟けば、私の身体からいつも作っていた柔らかい棒が沢山出てきます。

棒、の形のままだと不便なので、私はそれを全部繋げて、繋げて繋げて、全て繋げて、1つの大きな塊にしました。

元々はあの棒なので、その塊は自由に動かす事が出来ます。

ユウカとユウナの喧嘩を止めた時も、大きな塊を引き伸ばして壁を作りました。

 

「…広がれ」

 

ドクターさんが言うには、私のコレはとても濃度が高い魔素のようで、触れる人によればとても危険な代物らしいです。

魔法少女が触れてしまうと、沢山の……情報?みたいなものが流れ込んでしまうらしく、身体の動きが止まってしまうらしく、それに普通の人が触れると、

 

「──?なにこ…──」

 

これと『同じ』ものになってしまいます。

ミーさんは、この魔法は私の分からないを表した魔法らしく、魔法の名前に『分からない』を意味する言葉を付けてくれました。

 

私はこの魔法を使って──何をするべきか。

 

それは決まっています、ずっとずっと分からなかった事を理解したいんです。

その為に、お母さんを探してお父さんを探して、私を魔法少女にした人を探して私をこんな風にした人を探して。

 

産まれた理由を探して、レンカに殺される。

 

だから私は悪の魔法少女になろうと思いました。誰を傷つけても誰に傷付けられても、私はそれで良かったから、とにかく目立って目立って、探しているのもと目を合わせてもらいます。

 

「レンカの為に、私」

 

「立派な悪の魔法少女に、なるね」

 

──魔法少女ダークの暗黒物質が、人々をその『黒』の中へと取り込んでいく。

 

巻き込まれた人間に最初に現れるのは、身体感覚の喪失。

皮膚が空気と分離していくような、他者との接触が曖昧になる感覚に襲われる。触れていたものの輪郭が曖昧になり、やがて『自分の手』が『自分のもの』ではなくなる。

 

「───ぅ……?」

 

自分の足は自分のものではなくなり。

自分の体は自分のものではなくなり。

自分の脳は自分のものではなくなり。

自分の心は自分のものではなくなり。

 

 

「────ぁ」

 

 

自分は、自分ではなくなっていく。

次に起きる記憶の混線によって、自我というものが消えてしまう。

誰かの記憶、誰かの感情、現実と非現実の境目を認識できなくなって、遂には何もかもが分からなくなってしまって、

 

「────」

 

民衆の一部は、唐突に降ってきた黒い塊と同じモノへと変わってしまった。

魔法少女ダークは、その黒い波の上に座り込み、1人自分の魔法によって変わり果てていく人々を眺めていた。

 

「…………ふぅ」

 

「…ドクターさんに、直して…貰わないと…」

 

じわりじわりと壊れていく身体を、暗黒物質によって固めながら寝転がる。

 

──ふと、身体の感覚がふわりと消えていきそうになってしまった。

そして、意識を保つ為に身体を起こそうとして気づく。

 

「──祈りを」

 

身体は動いているのに、視点が変わらない、と。

 

「……?」

 

身体を動かせば、首から上の顔も動く筈。

つまり、身体を動かしているのに視点が変わらないということは、首から上が身体と繋がっていないからで。

 

「………………」

 

──魔法少女ダークの断たれた首の断面から、暗黒物質が溢れ出し、黒い波の上に転がっていた自分の頭に伸びて首と癒着させた。

 

手で頭をぽんぽんと叩いて、ちゃんとくっついたかを確認したダークは周囲を見渡す。

今のは『取れた』のではなく、『切られた』事によるもの。さっきのキラキラとした女の人かと再び立ち上がって、

 

「…………っ!」

 

今度はふくらはぎから先が動かない。

両足を切られ、その場に前のめりに転ぶダーク。

 

彼女の視線は、黒の波に呑まれる街灯のその上部を見つめていた。

 

「……死なぬ…とは」

 

「……」

 

「──憐れ。魔法少女よ。私が、救おう」

 

「要らない、私はもう救われてるから」

 

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