最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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因縁とやらは中々途切れない

 

「──嗅ぎつけるのが早すぎる、そうだろ?」

 

「…ああ」

 

店のカウンター席に5人がずらりと並ぶ。新しく列に参加したその1人は、長い白髪を流しっぱなしにして、床に着くかギリギリの髪を少したりとも気にしてはいない。長いまつ毛の間から見える瞳孔は紅く灯されており、貴婦人を思わせるジャケットを着用し、青白い肌色がまるで吸血鬼を思わせる。

ドクターはアオアカクロを守るように岡野の隣へ座り直し、

 

「ん」

 

「…タバコはもう辞めてんだよ」

 

「んっ……おお、へぇ?君が禁煙か〜。今度は…長く続きそうだね?その子達に感謝しなよ、肺が真っ黒になって死んじゃう前に辞めれたじゃん」

 

差し出された灰皿とタバコを断って、岡野が口にくわえたタバコを取り上げる。

──本当は灰皿でどたまかち割ってやりたいが、この腹黒クソ野郎が何の予防策も無しにトコトコ俺に会う訳が無い。

 

「君が失踪して約2週間半、全く足取りを掴めないから苦労したよ〜」

 

「少し田舎で休養してただけなんだがな───慌てちまったか?岡野」

 

「くふっ、くく、ああ。大慌てで胃がひっくり返るかと」

 

「ならそのまま死んどけ。今の内に死んどいた方が楽だぞ」

 

「それは…君が死ぬより酷い目に僕を遭わせようとしているからかい?」

 

「んな訳。テメェの嫌がらせと機微に一喜一憂するかよ、憎しみも、何もかもテメェには向けてやれねぇ」

 

「──なるほど」

 

不穏な気配を感じて、アカが岡野に牙を向きそうになるのを押えながら、質問を続ける。

まずは、アオアカクロの安全を確保してこの店を出る。それからオリテアの元まで転がり込んでさっさと帰って雲隠れだ。

 

「つーか、お前ストーカーか?どうやって入店数分で俺の事見つけてんだよ」

 

「君に恋する乙女の勘──かな?」

 

「──────」

 

「ドクター、この人殺す。いいよね?」

 

「待て待て待て、コイツが気持ち悪いのはいつも通りなんだ…。頼むアオ、ここで騒ぎは…」

 

「ふふっ、子供じゃ僕のライバルにはなれないさ。もう少し大人になってから出直しな、お嬢様」

 

「殺す」

 

「煽んな馬鹿!!」

 

クソっ、よりにもよってアオがコイツのペースに巻き込まれるか…!昔から人を煽って行動を操りやがるから、基本的に無視が最適解なんだが…

……アオは俺の事になると加減が効かなくなる、育て方を間違ったつもりは無い筈なのに、なんでこうも……。

 

「というか君らは誰?…優希は僕の物だよ?それなのにちっさい虫幾つも引っ付けて…」

 

「ッ!!!!!」

 

「アオ!こら…!ダメだ手を出すな、抑えないと帰ってからの日課は無しだぞ!」

 

「ぇ………ぁ、嫌!抑える!」

 

「──日課???ちょ、何、おい優希。その子に何してんだ」

 

「は?何って、普通に……───」

 

眉を歪ませながら、答えようとして。

 

『ドクター…それ…辞めといた方がいいぴょん…』

 

──同じく顔を歪めながら苦言を呈したあの兎野郎の事を思い出す。

辞めといた方がいいと言われながらも、何で辞めないと行けないのか理由を話してくれねぇし、辞めようとしたらアオが泣いてしまうから続けてきたんだが、仮でも親子関係なら普通の事の筈。

 

「撫でて…抱っこしてるぐらい…か?」

 

「──普通だね」

 

「普通で当たり前だ!?何普通じゃないのがあるみたいに…!」

 

「……////」

 

「何でアオは照れてんだよ…!?」

 

「ねぇねぇ、赤い君は優希が普段その子に何してるのか知ってる?」

 

「ウ゛ー゛!゛」

 

「わぉ!?めっちゃ嫌われてる!僕何かしたかな!?」

 

「強いて言うならテメェが生きてることだろ」

 

「oh…」

 

……毒気が無いのもめんどくせぇ、これだから精神異常者との会話は疲れる。精神性に関してはオリテアの比にならないぐらいコイツは化け物だ、俺でもコイツが何考えてるのか分からない。

典型的なサイコパスなら良かった、まだな。でもコイツは天才なだけで、別に人の不幸を笑い飛ばせる奴じゃない。

 

──ラインがある。コイツの中のラインで、必要性がなければ話さない、不必要であれば切り捨てる、それが究極にまで至っている。

天才の自分に周囲が追いつこうとしている最中、その努力を認めながら『必要ない』と対話を拒絶し、1人で全てを片付ける悪癖。

 

「はぁ…」

 

「どうした、ため息なんかついて」

 

「いや、お前が仕組んでることに色々考えを巡らせてんだけどな、ギブだ。俺は研究にしか脳を使えないから、お前みたいに策略を練るとかが出来ない。だから…多分、ここまでお前は予測してるだろうがな……」

 

「──実力行使で出ていかれるか、話だけして解散するか、俺じゃなくてお前が選べ。お前の選択肢の内に入ってたまるかよ、俺が決めるんじゃない、お前が決めろ」

 

「はは、何それ。降伏ってこと?」

 

「そうかもな」

 

「くっ、くくっ…──はー!もう、面白すぎ……あーあ、僕の周りの人達がみんな君みたいだったら良かったのに」

 

「なら全員からリンチされて終わりだ、どうせここにも単独で来たんだろ?周りに説明してる時間が無いから、自分だけで」

 

「────」

 

紅く丸い瞳孔が、大きく開かれてドクターを見つめる。

味わう様な、舌なめずりが聞こえてくるような、獲物を見つめる視線を送り、空気が重く沈みこむような温い吐息がドクターの肩に掛かってきた。

足幅を軽く開き、首を鳴らして注文しておいた珈琲に口をつける。整った顔立ちはそれだけで様になるが、絵画のような姿を見つめてもドクターの顔には苦笑しか浮かばない。

 

見れば見る程に、現実離れした男だ。理由がある異常存在は怖くないが、理由の無い異常存在は本当に怖い。

 

「うぇっ…やっぱ苦いのは苦手だ…」

 

「じゃあ砂糖でもガムシロでもミルクでも足せよ」

 

「──無粋じゃないかい?僕はこう考えてる。常、混ざりけの無いものこそ、美しい」

 

「………そんなもんありゃしねぇっていつも言ってんだろ、珈琲も『混ざる』を歴史の中で繰り返してきた。これも、最初に考えられていた珈琲とはかけ離れてる」

 

「分かってるさ、それでも純粋であるというのはそれだけで美しく、尊ばれるべきなんだよ。人間という種が、こうやって神にデザインされたように」

 

「なんだ?じゃあ産み出される全部が神様の設計図に従ってなきゃ、お前は蕁麻疹で死ぬってか?」

 

「いいや、全ては設計図通りなのさ。どんな変化があったとしても、どんな運命を、末路を辿ったとしても、全て、ね」

 

「運命の帰結……か」

 

その言葉を咀嚼して、ドクターは珈琲で噛み砕いたそれを飲み下した。ここの店主が作る珈琲は、思いのほか味わい深く、今後も足を運ぶ候補になるかもしれない。

清廉で静寂な店内は、その雰囲気の良さで口にするものが一段階良く感じさせる。この珈琲も、深く息を吸い込むと残った後味が鼻奥を通り抜け、その深い苦味と少しの酸味、そして軽やかな旨みが舌を楽しませる。

 

──そうさ、人類が初めて作った珈琲はきっと、苦くて渋くて酸っぱいだけの飲み物だった。こうやって俺が珈琲を楽しめているのも、人類の叡智の結集だ。

 

「テメェは人類を尊んでる癖に、舐めすぎなんだよ。全部テメェ1人で人類を背負い込むなんて、ちゃんちゃら無駄な話だ」

 

「──所詮、俺もお前も人類の1人。だからお前が何しようとそれも人類の歩みの内で、無駄ってのはやってもやらなくても、人類はお前の頭の中から飛び出してくって事」

 

「いいや。魔法少女という異物を排さない限りそうはならないさ、優希」

 

「……結局対立すんだからこういう話したくなかったわ」

 

俺とコイツがどうして袂を分かつことになったか、それは大体コイツが悪い。こんな訳の分からない難しい話させられんのも、コイツなりのとある『目標』があるからだ。

 

──人類の、魔法少女からの完全脱却。

同じ研究所で働いてはいたものの、研究内容は互いに別方向に進んでいた。

店主から頼んでいた品をテーブルに置いてもらって、頭が沸騰しそうになっているアカの口にオムライスを突っ込んで、アオとクロにかき氷とコーヒーゼリーを手渡す。

 

「言いたいことは?」

 

「ん?」

 

「お前が慌てて、汗でメイクが落ちる位走ってきて──俺に会って何が言いたい?」

 

「─────」

 

「上手くなったな、趣味にでもしてんのか?ソレ(メイク)。でも汗で落ちた奴の拭き残しがあるのはマイナスポイントだが」

 

「は、はは」

 

「いや、何。僕はね、人生で初めて謝罪をしようと思ってて、ここに来たんだ」

 

──謝罪。

コイツが謝罪か、謝罪、謝罪をしにきた?有り得ないだろ、自分以外の全人類が保護対象で、自分以下だと思っている癖に。

まぁ、でも、お前が謝罪するって事は──そういう、事なんだろうな。

 

「ごめんな、優希。僕がこんな人間で」

 

どうせ、瑠奈の事だ。

俺がお前を、理解出来ない怪物だとは思いたくない。

だから、だからこそ、瑠奈を失ったのは俺のせいだって。

 

「…………」

 

「ごめん」

 

「───端折り過ぎだ、馬鹿。何言いたいか全然分かんねぇよ、だからお前はいつまでもカス野郎呼ばわりなんだ。瑠奈を殺させておいて」

 

「ああ、だからそれ込みで、だよ」

 

「………………」

 

「本当に、ごめん。そしてもうあの魔法少女とは関わるな」

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

「──分かってはいたけど、譲る気は無いんだね。優希はあくまでも、アレに手を貸す……初めて予測が外れて欲しいと思ってたのにさ」

 

珈琲を飲み干して、立ち上がる。

飲み干す際、珈琲が少しこぼれて白いジャケットに付いて、真っ白な生地の上に黒点が染み付いてしまった。

ヤレヤレと、ため息をついておしぼりで服を拭いて、出来る限り珈琲を拭ったが、岡野のジャケットには消えないシミが付いてしまう。

 

何百万としそうな服が台無しになる瞬間を見届けて、ドクターは後ろ頭を掻き、立ち去ろうとする彼の傍にまで近づいて、

 

「おい」

 

「なんだい?」

 

「──ふんッ!!」

 

──大振りの拳を鼻頭に叩き込む。

慌てた店主が駆け寄ってくるのを岡野は抑え、垂れる鼻血を服の袖で抑えながらヨロヨロと立ち上がった。

 

「これで、珈琲のシミが目立たねぇな」

 

「………たすがっだよ、ゆうぎ…」

 

「帰り道は気を付けろ、巻き込まれたら一瞬で───いや、お前なら巻き込まれずに帰れるか」

 

「そ゛う、だね…──お礼に、この騒ぎを嗅ぎつけた奴らを教えとくよ゛」

 

カウンターに代金を置き、そのすぐ側に封筒を置いて店を去っていく。

店内を支配していた湿った重い雰囲気が、漸く彼が居なくなった事で消え去り、ドクターは再び席についてアオのかき氷をつまむ。

ドクターがスプーンを持ったのを見計らい、顔を寄せ口を開けたアオに対し、かき氷をすくってその口に放り込んだ。

 

数分経ってかき氷の半分程度を食べた頃に、置かれた封筒を手に取って中身を確認する。

 

「──No.2は分かってたが、『礼賛者』に『姫』まで来てるか」

 

「特段、焦る要素は無いな。オリテアがいる限り誰も相手になんねぇ」

 

「……」

 

「───ぁ?」

 

ペラペラと捲るページに、特段目立った情報は無い。

ただ1つ、たった1つ、あの岡野が赤字を使っているページだけに、目が止まって、

 

「……」

 

「未確認魔法少女──推定『同一魔素構築体』による日本支部の乗っ取り…?」

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