──思ったより何とかなった。
「よしよし」
やれば何とかなるもんだ、本当になんとかなっちゃってびっくりしてるのは私なんですけど!
今回名前をちゃんと売る為に排除せず、この騒動に参加して貰った人達はどいつもこいつもビッグネーム、普通の魔法少女なら秒殺される様な化け物ばかり。
メタファーとしてはこれ以上無いアピールになっただろう。『今までとは違う』という特別感、そんなメタファーを組織が得るには、とてつもなく大きな功績が必要です。それに見合うものを、この日は得ることが出来たのだ〜、最高の一日と言えるでしょう。
「映ってるかな〜?」
「お、大丈夫そう。それじゃ…」
「──配信してみましょう!」
何にも考えてないと思ってました?ちゃーんと、一般人というか普通の人間視点でもこの事件をどう感じて、どう受け取るのかを真剣に考えてんですよこっちは。
特に各国のお偉いさんへのプロモーションはバッチリ!怖かった事でしょう、自慢の暗殺者が退けられて、宣言があったのに何の抵抗も出来なくて、無力を実感させられて。
怖いものは怖い、悪の組織とは国という集団から恐れられて初めて『らしく』なる。
高々警察、高々連盟、それじゃ足りない。それに私は人間が何を最も恐れるのかを知っています。
──未知。
分からないものは怖い、だから解明する。
分からないものは怖い、だから支配する。
分からないものは怖い、だから殺害する。
人類という箱舟が旅を続けるには、喪失を続ける事が必須なんです。秘密を、未知を解き明かす為ならば命すら些事となる。
「こーんにーちはー!!」
誰よりも、人類達よりもそれを私は理解しているんですよ。
解明されて、支配されて、命すら些事となった魔法少女、その大元が言うんですから間違いない。
人類はとっくに───魔法少女という恐怖を超越している。
私が私の全てをさらけだした所で、一度乗り越えられた恐怖を相手にしり込みする様な種族じゃない。
だから必要だった、全く新しい脅威が、魔法少女でありながら魔法少女でない、新しい恐怖が。
言ってしまえば、私なんかより人類の方がよっぽど素晴らしくて可能性に満ち溢れた存在なんですよねー。私を理解して、魔法少女を理解して、利用しようだなんて普通思いつきません。
だからこそドツボにハマる、私の選ぶ子達は型に当てはめようとしても無駄です。そう、彼女らは貴方達が乗り越えなければいけない、新たな脅威。
「初めまして、こんにちはこんばんはおはようございます!全国の皆さん昨日の放送はお楽しみ頂けましたか〜?」
「さ、ご覧下さい。んふふふふ…私達が引き起こした惨状を」
「まぁ色んな反応があると思います。私はただの広報係なので何もしていませんが、見てくださいあの血溜まりや死体を、ご覧下さいあの黒い津波を!!」
「ええ、ええはい!私達がやりました、私達悪の組織が、マジカルフューチャーが!誰も止められない最高の悪の組織が!!」
配信機材全ての役割を果たしているステッキに向けて、手を大きく広げながら大言壮語にモノを語る。
だが瞳に映る全ての惨状が、配信を覗き見る万人にそれが唯の誇張で無いことを告げていた。
怖いもの見たさな人間が、もういいと顔を背ける光景が、歴史の教科書にしか載っていない様な現状が、視聴者という立場からの失脚を意味している。
社会に守られているから、集団に属しているから、画面の向こう側だから、そんな薄氷一枚で遮られていた世界はもう───。
「存在しない」
「これは私達からの表明です。魔法少女の、魔法少女による、魔法少女の為の世界を作る為に、私達は犠牲を惜しまない」
「踏み躙られた者。弄ばれた者。赦されなかった者。現代社会が生み出した、魔法少女という歪みをマジカルフューチャーは精算する」
「変革が欲しいですか?新しい体験を得たいですか?ええ、はい、存分に私達は貴方達へ『特別』をプレゼントしましょう!」
既に境界線は破られた。
計画は前倒し、地道に悪の組織の名を売る計画も、育成の為に緩やかな道を選ぶ事も辞めました。
これで色んな計画が頓挫しちゃってますがそれはそれ、下らない決められた未来の為に今一瞬の輝きに手を伸ばせない奴が明日を面白く出来ますか?いいや!出来ないね!!
刹那主義たるこの私が声を大きくして叫びましょう、明日が怖くて立ち上がれない臆病な皆様の為に、明日が楽しみで仕方のない私から喜びのおそそわけです。
「私達は魔法少女の明日を築く!その為に───」
「マジカルフューチャーは、男女も年齢も、善も悪も、あらゆる存在を差別なく平等に魔法少女へと変えて差し上げます」
「魔法少女になれば、解放される。老いから、病から、金銭から、痛みから、死から。そしてなにより、恐怖から」
「ただひたすらに、災害のように、天災のように、私達はソレを振り撒き続ける」
「私達は慈善事業家なので、そういったご奉仕を無料で行っていきます♡」
さぁ、明日を楽しみにして下さい。
自由です、人類は今日この時を以て自由への道を歩み始める。
魔法少女とは自由の姿、あらゆるしがらみから解放された人類の新しい道!
それをタダで変身させてくれるってんだから、客入りジャンジャンの悪の組織がっぽがっぱですよ!あーはっはっは!!
「よし終わりっと。各地の反応のウォチパはみんなと家に帰ってからとしましょうか」
「ユウカちゃんは戦闘終了、ダークちゃんも回収済み、ドクターも安全確保が出来てる、みーちゃんは……──うむうむ、ちゃんと時間稼ぎできてたね!」
これならもう終わりでいいかな?敵性反応なし、民間人は全員退避して魔法使いは拘束済み、飛来物も魔法も検知されないし……完全勝利?
「……──っぽいかな、ならもう大丈夫ですね!皆さんを呼び寄せて…」
「舐めるなぁぁぁッっ!!!」
「………あ?」
───魔法使いカレンだっけ。
ああ、はい。人類に『時々』現れる変異種、そして魔法少女という存在が子を成す……そんな狂気が普通になってしまった世界でより顕著に現れるようになった外れ値。
私が示す人類進化論とは全く異なる、内的要因でしか変化し得ない人類の別の進化形態…。
まぁ、気に入りませんね。個人的にジャンル違いなんですよ、この外れ値は人類が長い間異次元生命体と魔法少女の板挟みを受けた事で、魔素に適応し続け…──魔法少女と子を成せる様になってしまった。
なので実質この子ってエイリアンと人類のハーフなんですよねー、つまりSF、こっちは魔法少女モノです!!関わってきてんじゃねぇですよ!!!ほんと!!!!!
「どうやって魔法から抜け出したのかな……?───ふむふむ、なるへそ、体内への魔素の吸収でしたか…。やっぱりジャンル違いが過ぎますね〜」
「何をべちゃくちゃと…!アンタが奪った命の数だけ地獄で悔いなさい!」
「はいはい。だったら復活させれば文句ありませんよね?ほいっと。これで五分後には全部の被害は元通りに……」
「そういうっ!問題じゃっ!無いッ!!!」
上段目掛けて大振りのハンマー。
ふむ、敵意と殺意をステッキに込めて魔法を使った結果、一番身近な殺傷力のあるものへ変化しましたか。中々コミカルで可愛いデザインのデカいハンマーですが…。
見た目とは裏腹に、必殺。
文字通り当たれば死にます。理屈も何も無い、理不尽の塊。魔法使いは何よりメンタルが魔法に影響するものです。
これは将来有望!こういう存在を毛嫌いしてはいますが、ダークちゃんユウカちゃん、その後に入ってくる後輩達の事を考えれば正義側の戦力は幾らあっても足りません。
という訳で───。
「───」
「指……だけ…で、止めた…?」
これは、心を摘む戦い!とでも評しておきましょう。
実力を付けてもらう為にも、私は私の力を存分にこの子に見せておく。そうすれば、この子が更に別の子へと力の使い方を伝えていく。
──世界が隠し続けている、『歪み』の誕生を、明るみにしていくとしますか。
「良い攻撃だと思いますが、基礎スペがダンチです。パチンコで銃弾を挟み撃った所で拳銃には勝てませんよ」
「ぐっ…ぐぐぐっ…」
「さあ、ここはもう諦めて貴方なりの力の使い方を練習してきて下さい。修行パートも挟まず裏ボス撃破なんてのは神様が許しても私が許しません」
「──なん…で…!なんでっ、そんな素敵な力を、魔法を持ってるのに!貴方は悲しみを振り撒く事しかしないの!?」
「ふむ」
「なんで人を傷つけるの!どうして不幸を生み出すの!?そんな事しか出来ない力じゃないでしょ!もっと別の、誰かを幸福に出来る素敵な力を……!」
「んふふ、よく分かってるじゃないですか。ええ、ええ確かに、こんな事しか出来ない力じゃありません!もっと素敵で楽しいことが出来て、何処か誰かの願いを叶えることの出来る願いの力!」
「じゃあッ…!どうして……!!」
今こんな調子じゃ、これから待ち受けてる混沌の世界に心が折れてしまいそうですね……どうしましょ。
うーん、適当に理由付けしてもいいんですが、ここは一つ昔話でも致しましょう。
むかしむかしあるところに〜……。いやだめですねコレ。冗長だ。
「それは、私が、何処かの誰か顔も知らない人間の幸せを祈れる存在の、願いの形だからです」
「は──ぁ…?」
「そうですねぇ…語り明かしてもいいんですが、如何せんここは『目』が多い。端的に言うと貴方ぐらいの子供の、無垢な願いが私を今、存在させている」
「私は誰かを幸せにしたい、誰かの願いを叶えたい、けれど幸福も願いも多種多様で…願いを叶えたから幸せになれる訳でも、幸福が願いを叶える為に作用する事も無い」
───ああ、願いを叶える力があっても、人を幸せにするのはとっても難しいんだ。
難しくて、難しくて、道を見失う。
何のために幸せになりたいかを忘れる、幸せになってどうなりたいのかを間違える、願いを全能なものだと勘違いする。
そうすると、人間歪むんです。心も、体も。段々とおかしくなっていく。
魔法少女も心がかなり影響を及ぼす存在ですが、人間はその比じゃない。共感だの希望だの絶望だの、歪んだ影響はたった一人の命で終わりもしない、蝗の増殖の様に歪みは広がっていく。
ああ、どうして、どうして数多の命と未来を奪っておいて、人間は、人間という存在は────、
「──人って、難しいですよね!!難しくて、面倒くさくて、愚かで……」
「綺麗なんです。だから、こんな事をしてるんです。何でも出来るのに、何だってやれるのに、私は人類の為にしかこの力を使いたくない」
「それじゃあ、さようなら。可愛い魔女さん、またいつか何処かで会いましょう?」
「まっ────」
「『タイムストップ』」
■
「─────」
「あれ」
あれ。と辺りを見渡す。
一秒前まで、自分の手に握られていた昏睡状態の魔法少女が消えていて、尚且つ都会のど真ん中に居た自分は、見慣れた緑あふれる田舎の景色を眺めている。
あれ。と首を傾げる。
むさ苦しい都会の空気にも慣れてきた頃だというのに、戦闘の殺意の籠った殺し合い、その空気感にも慣れてきた頃だというのに、のどかで平和な田んぼを眺めている。
──ああ、終わり、か。
「みなさん!!お疲れ様でーす!!」
「オリテア……帰るなら一言掛けてよ」
「おお!?お、おお、なんだよ、お前の仕業かよ」
「お姉さん……身体……直して……」
タイムオーバーと言う奴だ、あれ以上はオリテア的にも悠長だと思ったのかな?てかダークが何かボロボロになってる…!?
──でも、誰も欠けなくて良かったな…。
「ユウカさん、お手柄でした!情報を落とす魔法少女を捕縛し、襲撃してきたヤクザは仕留めきる。一般人を人質に複数の魔法警察に勝利!素晴らしい戦果です!」
「楽勝っちゃ楽勝でしたけど、そんなに褒められるなら悪い気は……いや、めっちゃ気分良い!もっと褒めてオリテア!」
オリテアへ身を投げるユウカを、小さな体躯で軽やかに受け止めるオリテアは、抱き締めた後に頭へ手を置く。
見た目だけで推し量れば、立ち位置が逆だと言葉を尖らせる者もいるだろう、けれどユウカを包み込む両の手は、母親を思わせるものだ。
意図も何も無い、優しく温かいだけの透明な抱擁。
失われた筈のモノが、人を殺し血を浴びた魔法少女へと捧げられる。
「後でもっと褒めてあげますよ、次にドクター!……子守りお疲れ様です!ダークちゃんのこともナイス回収、今回を踏まえてのフィードバックは任せました」
「あいあい、まぁ…見たくねぇ奴の顔も見ちまったが、文句は無い。お前が雑に〆たせいで苦労する役所の連中の顔、ソイツを考えるだけで腹痛てぇわ」
「そしてダークちゃん!初めての実戦はどうでした?キル数No.1になったご感想をどうぞ!」
「……つかれた……難しかった………」
「はいっ!ありがとうございます!」
レッドブルーブラックを抱えるドクターが、ふとこの中に混じる声が一つ足りないな、と頬を掻きながら久しぶりに労いの言葉を掛けようとして、目線が空を切ってしまった。
軽く笑顔を浮かべながら、目線を泳がせる内に───、
「……あのバカ兎は?」
「え?普通に後始末させてます」
「────」
また、不遇な立ち回りを任されている同僚へと、哀れみの念を向けるのであった。
一方はベビーシッターをしながら喫茶店で休憩、一方はこの世界のNo.2の魔法少女を足止めしてからの、あの騒動の後始末、これが組織のボス(仮)と社員の姿だというのだから、哀れみが止まらない。
「……はぁ、大丈夫なのかアイツは…」
「過労で倒れる直前になれば、私が精神と肉体の時間を巻き戻して疲労を取っときますよ」
「…………ガチで死ぬまで働かされるのな…」