最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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悪意の始まり

 

──魔法少女。

 

美麗な指先がチョークを摘み、筆を走らせるように『魔法少女』と黒板に刻み込む。白線で描かれた文字には幾つもの線が繋がっていて、トントントン、と線の先の白丸に目線を誘い込むように、チョークを黒板で跳ねさせる。

円は三つ、中身はそれぞれ異なっていた。『理念』『享受』『実行』。魔法少女という神秘的な存在を、現代語でやり繰りしたような、つまらない文字達が繋げられて、

 

 

「主は理想主義でちゃらんぽらんだけど、根っこは冷徹にして冷血、圧倒的なまでの現実主義者ぴょん」

 

「……?」

 

「夢を見る為に、現実を見るって事だぴょん」

 

「…ふーん……」

 

 

赤縁の眼鏡を指ではじき、拙いながらも鉛筆で紙に文字を浮かべていく真っ黒髪の少女の頭を撫でる。単純な図式を書くのにも数分、ガタガタの丸に、ガタガタの文字、教師代わりの黒兎の「りねん、きょうじゅ、じっこう」という声と共に『りねん』『きょうじゅ』『じっこう』の文字達を、唯一漢字で書き込んだ『魔法少女』へと繋げた。

 

握力が足りず、10Bの鉛筆でも残せる色は薄鼠色だが、少女は満足げだ。

 

 

「理念は、自分の目指す未来。そこへどう辿り着くか、どうやって歩いていくかを心に宿すんだぴょん。みんなはここが強いぴょんね」

 

「うん…。はやく、もっと強く…」

 

「戦闘や破壊、それらの執行自体が目的になると、自分の存在への不信で弱体化する魔法少女も多いぴょん、迷えば敗れる、ぴょん」

 

「──うん」

 

「享受、これは『魔法少女』が願いを受け止める存在だと、主が定義しているぴょん。心が強い子でも、魔法少女は魔法『少女』。思春期になれば自ずと自分自身を信じられなくなるびょん」

 

「そんな子供達の為に、主は魔法少女という存在自体に『頼っていい』という向き合い方、逃げ方を示しているぴょんな。夢に困るのなら、作られた道の中でゆっくり自分なりの夢を見つければいいぴょん」

 

「──享受すべきを享受すべし。ミーもそうだけど、一人で見える世界は狭いぴょんよ?」

 

「分かった」

 

「うむ。よろしいぴょん」

 

 

二度目のナデナデ。自分の机の上に黒い体液を垂らしてしまう少女を撫でても、兎の様子はあいもかわらない。

偉い偉いと加えつけ、チョークを置き少女、ダークを担ぎあげる。昼の苛烈な日射降り注ぐ庭先に連れて行き、ポタポタとヘンゼルとグレーテルのように落とされる体液は、少女より更に小さな幼女3人組に雑巾掛けされていった。

 

無愛想だった庭は、黒兎の手入れによって四季折々の花々が咲き誇っている。無論、今の季節咲くはずの無い桜や椛、スイレンやアジサイ等種別は様々。世界一贅沢な庭と言える。

 

 

「最後に実行。自分の手の届く距離を理解して、自分の目的を以て行動する。ダークには腕がある、足がある、目がある、脳は無意識下で行っているけれど、今の状態から戻るには自分の行動全てを『意識』する。オートマからマニュアルへ切り替えるぴょん」

 

「──。集中して。君には意志がある。願いがある。叶えられる力もある。だから、元通りになれるぴょん」

 

「…………」

 

「集中、集中、集中。陽射しの眩しさに心を動かされず、花々の美しさに瞳を奪われない。自分の足で、君は歩けるぴょん。集中、集中……しゅ───」

 

 

──目を閉じ、肌に感じる温もりさえ遮断して、少女は身体中から訴えられる痛みすら遠ざける。言葉に出来ても実行するには至らない『無我』。そこへなるべく近づけるように、ゆっくりと、ゆっくりと、

 

 

「──おーいっ!!ダークの活躍シーン来たぞぉ!見ねぇのかぁ!!」

 

「あっははは!すごっ!凄すぎないこれ、どうなってんの」

 

「コレは…アレですよアレ。触れたら即死系の奴。クソゲーここに極まれりですね。お相手さんも良く避けてます、勘が鋭いのかな?」

 

 

と、そこまでだとハリの良い男声が2人の静寂を切り裂いた。続く笑い声と元気な解説、少女は目を丸くして声の方に振り向いて、黒兎は目元に指を当て訪れるストレスに脳を突っつかれた。

表情は──怒り。疲労。

 

 

「わっ」

 

「………はぁ…。うっさいぴょんねぇ!?リハビリ訓練中なの分かんないぴょん!?」

 

「──でもー!オリテアが一緒に見ようってー!」

 

「チッ…。リハビリを人に押し付けといて何言ってんだクソ主…げふんげふん。んーと、ダークはどうしたいぴょん?」

 

「……ミーちゃんと、一緒に居たいです」

 

「…♡。この上なく嬉しいぴょん…!やはり持つべきは理解のある年下、あんな穀潰しどもはほっといて勤勉に行こうぴょん」

 

 

──ここは悪の秘密結社第一支部。

今日も今日とて過労死寸前の兎は、ウォチパなど現代語で若作っている主に対して不平満々。

初出動を終えた皆は、初めて労働後の休息を手にしていた。お盆の上に置かれたグラスに、大量の結露が溢れる季節。

 

からん、とグラスの中の氷が溶ける事で、氷同士が音を奏でるのを背後に、バカ笑いが聞こえる居間に向けて兎は憎しみに染まる目で、己の心労を己で労るしかなく。

穏やかも穏やか、都市部で大虐殺を繰り広げて尚顔色の変わらない者たちは最早、『悪』と言う他ない。

 

正に、悪の秘密結社。もう秘密でも結社でも無いのだが、口にすると心地よいのできっと、この先変わることの無い名称だ。

『マジカルフューチャー』は、紛れも無く今後、人類の歴史に残る組織になると、縁側でアイスキャンデーを食べ始めたダークを見て、愛おしく希うのであった。

 

 

「────」

 

 

戦闘の後遺症が長引くダークは、身体の9割が液体状。『サランラップ』による状態停止が無ければ、満足に歩けやしない。

溜息を吐き、手慰みに携帯を弄る。すっかり親が似合うようになった黒兎は、現役バリバリのトレーダー。ネットニュースには目を光らせて当然。

 

世間を賑わす『側』であり、酷いマッチポンプと言えばそうなのだが、お陰様で活動資金は目標額に届きそうになっている現状、増える数字を毎日ニヤニヤと見つめている。

目標額を超えれば──後は、ポケットマネーだと。

 

 

「くくく…。後処理させまくった恨みぴょん、着服しまくってラスベガスでフィーバーぴょん」

 

「──《くくく…。後処理させまくった恨みぴょん、着服しまくってラスベガスでフィーバーぴょん》。はい言質。明日の記事一面は悪徳社長、横領がバレて検挙、で」

 

「──。久々にキレちまったよ…!表に出なクソ主。五百回ぐらいぶち殺してやる」

 

 

──男には、負けると分かっていてもやらねばならぬ戦いもあるのだと、憐れな過労死兎は拳を振り上げた。

 

 

「───サイコーに面白いな…」

 

 

一方、テレビを指さし人々の悲鳴を聞いて嗤う『魔法少女ユウカ』。都心壊滅、犠牲者は一万規模、あらゆるメディアとネットワークに晒され、最悪の悪夢である一日を繰り広げた。

大勢の人生を、摘まれる理由も無かった『普通』の命を大量に摘み取って、それがオリテアの手によって復元されたとはいえ、虐殺を愉快げに楽しんだしまった時点で、

 

 

「…終わりかぁ。あー、楽しかったー!ね、ドクター!」

 

「……お生憎様、俺はコレ見てオモロを摂取出来るほどイカレてねぇんだよ。俺は俺の…──」

 

「シラケた事言わないで下さいよー…。あーあ、ユウナは私の晴れ舞台、見ていてくれたかな〜…」

 

「──……」

 

 

この世の誰よりも、醜悪で真っ直ぐな『悪の魔法少女』へと、羽化したのである。欲望のままに、我欲を尽くす。

ドクターにとってそれはいつか見た、異次元生命体の蝗のような生存欲求とよく似ていた。

 

 

「魔法少女の少女抜きだな」

 

「はい?」

 

 

──悪の秘密結社は、今日も今日とて平和である。

初出動、初活動、注目を集めすぎたマジカルフューチャーに訪れる災難を、頭の片隅にも思いついていなさそうな顔で、魔法少女ユウカは悦に浸る。

自由を手にし、我儘を貫き、平凡を裏切って──ああなんて、心地よい。そんな風に。

 

悪徳を向ければ、悪徳が返ってくる。

それすら知らず、愉悦に染まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──マジカルフューチャーが台頭し、一週間。

 

 

 

 

「────」

 

「情けない。情けない情けない情けない情けない情けない。なんで?どうして?どうして私の言った事すら出来ないの?なんで?なんでなんでなんでなんでどうして?」

 

「分からない?分からないよね私が分からないんだから君が分かるわけないよね私より圧倒的に弱くてバカでクズでノロマで、ゴミクズ以下の君に分かる訳無いよね分かってんだよそんな事ォッ──!!!」

 

 

──アレハ・イーコールは激怒する。

激怒、激しく怒ると名の通り、燃え盛る火山を想起させるが如く怒鳴り続ける。声をぶつける相手の不手際を、無能を、弱さを、全て足裏で踏み潰すように。

癇癪と言えばそれまでだ、本来少女の癇癪など相手するに値しない。だが頭を下げる老人は少女の鬱憤と怒りが発散されるまで付き合うのだ。

 

どうしようもなくわがままでも、甘やかせるのは己しかいないのだから。思い通りにいかない現実を前にした時、彼女は決まって──、

 

 

「う──。ぅぁ、もうダメ、無理なんだ全部。何もかも私の事が嫌いなんだ、あなたも、みんなも、みーーんなも!!私はこんなに、こんなにみんなの事が好きで好きで愛しているのに!?なんで!?裏切るの?裏切られるの?裏切られたの?私また、また───!!」

 

「ぅぅぁぁぁぁああああッッ……っあ、ぁ……お、お母さん、お母さんどこにいるの…!?お父さん…助けて……」

 

 

──酷く、泣き始める。

醜く、泣き喚くのだ。耐え難い心の苦痛から逃れる為に、思考を閉じてヒステリックになり、世界の方が変わるまで『自分』と『外』を隔て続ける。どうしようも無い世界が悪いのだ、自分の思う通りにならない方が悪いのだ、そうは思っても、きっと自分の方が悪いんだろうな。

 

紅い少女のココロは、肥大化した自尊心が押し込められているのでは無い。逆だ、矮小な自我とエゴ、卑屈故の尊大。自己防衛の為の、加害。

残虐ではある、非道ではある、人の心も無いかもしれない。けれど執事たる老人は、彼女が真に傷ついた時向く『加害』の方向は自分自身であると知っている。知っているから、生き残っている。

 

 

「アレハ様」

 

「…………」

 

「──もっと強く、願うのです。恋焦がれるように、貴方の望みを口にして下さい。みなさんは…いいえ、世界は貴方の事を否定しません。アレハ様がお望みになって叶わなかった夢は、無かったではありませんか」

 

「……じゃあ…なんで…あの子を手に入れられないの…?」

 

「何故でしょうか…。ええ、私めには分かりかねます。相手が想定を超える程に強大だった?他勢力の邪魔が?何かの運命?どれも違います」

 

 

嘘だ。老人が口する全ては嘘である。

嘘で──良いのだ。理屈も正解も要らない。本音を言うならば『想定外』しか起こらなかったせいだと言おう。準備不足でも無かった、つまりは純粋な力不足。それを伝えれば彼女は全てが『嫌』になる。

 

さりとて、蝶よ花よとアレハを持ち上げる事はしない。自己否定のまっさだなか、自分の心の器に『自分しか』居ない彼女は他者の言葉を受け止めようとはしない。

己にしか解決出来ないことを、他者に求めるのが彼女の悪い癖なのだ。

 

 

「アレハ様。──純粋に、願って下さい。組織の対面など必要ありません。貴方を絡める鎖もありません、真に『欲しい』と願うならば、叶う筈です」

 

「──。それって、ぁ、私が、悪い…?」

 

「………いいえ。貴方の、『愛らしさ』が故です」

 

「────」

 

 

傲慢──かに思えて謙虚。

強欲──かに見えて節制。

根底にある感情を覆いかぶした苛烈な態度も、彼女が幼さを抱えて大人の世界で生きる為に作ったモノ。

歪み切って壊れていても、簡単に人を殺せても、彼女が一番に責めるのは自分である。逃避の為、自分を最も卑怯で弱い存在と認識する。

 

アレハは血に染まる部屋の中心で、血液のプールの中で、既に27人もの組員を花火にした上で、

 

 

「…うん!分かった!頑張るね、執事さん!」

 

 

──この上なく、純粋であどけない少女の様な笑みを零すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

──ご機嫌取り、そう評されても仕方の無い事。

だが、部屋の扉を閉め、滝汗を流して部屋を後にした老人を恨めしそうな目で見る人間は居ない。

今にもゲロを吐きそうな様相で、青ざめた顔に少しずつ顔色を取り戻す幹部達と、その組員。ご機嫌取りという名の延命治療が成功した事を、老人の生還から読み取った。

 

癇癪モードへと切り替わったアレハを対処するのに、過去何千人が犠牲になっているのが安堵の理由。老人の遠征と癇癪が噛み合った時は、それはもう世界の終わりかに思える程。

救世主を見るような目で、老人は幾人からも尊敬の念を送られる。本来成立する筈の無い、犠牲を出す恐怖による統率は、執事と呼ばれる身元不明の老人によって成されていたのだ。

 

小間使いにしか過ぎない老人を尊敬するのは、権益の為ではなく純然な本人の能力によるもの。権力には興味を示さず、ただアレハ・イーコールの為に命を捧げている純愛への敬意。

 

 

「────」

 

 

口は開かず、沈黙が保たれるままに、老人の視界へ人のつむじが立ち並ぶ。深い感謝と謝罪、日本での任務失敗から一週間、アレハを慰めた老人は漸く失敗の責任その所在を明らかにする。

一歩二歩三歩、硬いクツの音が空気を乱反射して──。

 

 

「──宜しく、頼みます」

 

「っ…」

 

 

一人の男の肩を叩いた。

それは犠牲であり、生贄。これから後冷静を取り戻したアレハの為の、『納得』への捧げ物。意味無く失われる命とは違い、責任を背負って旅立つ勇者の選別であった。

 

肩を叩かれた男は、肺から押し出された空気を音にした以降、言葉を続けず黙り込む。その沈黙は嘆きか、はたまた覚悟か、一族郎党皆殺しの結末を逃れた安堵か。

断頭台へ足を運ぶように────扉を開けて、その向こうの『紅』へと消えていくのを、老人は眺める。

 

再び、今度はまた少し深く下げられる頭を横目に今度は外へ。

 

 

「…………」

 

 

数分、数十分。

エレベーターの駆動音、静けさに支配されたオフィス、喧騒な街並みを通り抜けて、外へ、遠く外へ。

 

自ら犠牲者を選んだ日、老人は必ず足を運ぶ場所がある。命を選別したとなれば教会の告解室──いいや、人気の無い集合墓地へ。

神に祈るような事はしない。神に祈れる資格も無い。元より、煉獄の炎で焼かれ果てるのが分かっていて老人はこの現世という地獄を歩む。

 

胸元の内ポケットより、取り出したるは鉄のリング───、

 

 

「──結婚指輪って奴ですか?」

 

「……!」

 

「なんかボロボロですね。工場の機械の部品みたいのような…」

 

 

指に嵌め、一つの墓碑の前で跪く寸前、背後から声を掛けられる。若い女の声だ、軽やかで、ハープが鳴っている様な声。薬草系、ハーバル香水の匂いを漂わせ気配も悟られずにマジマジと、鉄の指輪を眺めていた。幼い顔だ、孤児院に居る子供達を思い浮かべる程。

 

敵──否、未知の存在。

他組織のみならず街に住む殆どの人物、その大まかな顔は記憶している老人にとって、『見知らぬ顔』という言葉は無い筈だ。けれど今、指輪を覗きに立っているのは見知らぬ顔に聞き覚えの無い声。

 

 

「みたい、ではなく、そのものです」

 

「ふむ?」

 

「解体廃品の中で見つけたのでしょう。破壊され、原型を失っているものが殆どのゴミ捨て場で見つけた──初めて見る『美しい』もの」

 

「貴方が見つけたもの、では無いですよね。誰かからの贈り物」

 

「──はい」

 

 

自然と、口から『過去』が滑りだす。

有り得ない事だ。決して口にしないと魂に誓っていることを、事もなく吐き出してしまう。まるで魔法に掛けられたような──ああ、この世ならば、本当に魔法の影響か。

 

 

「んふふっ。忙しない思考ですねぇ…。自害しても無駄ですし、私はこの事を誰にも話しません。ご安心を」

 

「…………」

 

「さて。贈り物ですか…。ならそれは、誰から?」

 

「──彼女です」

 

「彼女、んーと、『彼女』?それとも、性別の違う他者を指す…彼女ですか?」

 

「心を読めば良いのでは?」

 

「こういうのは口から聞いてなんぼです。毎回言われますけど、心を読めるからって別に『会話』が無意味な訳では無いんですよ」

 

 

本当に、隅々まで心を見透かされてる気分だ。

老人は指輪をそっと撫でる、汚れはついてなくともそこに付着していた『過去』を撫でる。現実は不確かであるからこそ、記憶として残る品にしか『心』を託せない。

 

 

「『彼女』からの、初めてのプレゼントですよ。汚物と泥に塗れ、汚濁の中で生きてきた私達の契り」

 

「美しいもの、価値あるもの、欲しいものと認定すれば決して手放しはしない彼女から、あどけなく渡されたものです」

 

「──ふふ、良いお話です」

 

「それは何より」

 

 

まぁ──予想をするなら、例の魔法結社か。

老人は深く、更に深く溜息を吐き出す。敵意を削ぐ魔法が存在するなら、今正に行使されているものだろうし、殺意を和らげる魔法が存在するなら、その術中にハマっている。

 

任務、あの事件の収束から四日。

魔法があれば、特定は不可能では無いか。

 

 

「何用ですかな?」

 

「──雇用のご相談を」

 

「ほう。…して、何方の?」

 

「私です」

 

「──。何が目的でしょうか」

 

「貴方の為…と言いましょう。提示出来るのは『マジックメモリー』を人格と記憶から削除し、能力を剥奪する方法。長年追い求めたアレハ・イーコールの本格的な『治療法』です。後は組織の補強等」

 

「─────」

 

 

──唐突な宣言に、脳内の沸騰が止まらない。

恐らく魔法の掛けられた脳ミソが、制限を超えて怒りを沸き上がらせる。プルプルと震える手足には、殺意。殺意殺意殺意殺意殺意。ひたすらに殺意。

その言葉を吐けるなら、その知識があるというのなら、裏社会の全てがひっくり返る。──人生を掛けて探し出した所で、欠片も見つからなかったその情報を口にできるならばコイツは、いや貴様は──、

 

 

「……恨んでいいですよ」

 

「ッ────!!!!」

 

 

奥歯を噛み締める。割れる筈の無い歯がミシミシと音を立て、砕け散る幻想を抱くほどに噛み締める。血涙を出せるものなら出していた、悔しさと情けなさ、そして憎悪から。

 

憎悪の根源は、老人──男の物語にある。

ただの機械の部品、そのリングを『誓い』に変えた出来事が。イーコール・カルテルが創設された理由が。そして全てを憎んだ男の、憎悪の行き着く先が。

 

 

「──物語は、人の涙が少しの価値も無いスラムから。貴方達を狂わせたマジックメモリーに、少しは責任を取ろうかと。後一番頼りなさそうなので、組織改革に」

 

「…………」

 

「あの子の外付け理性だったんですね、ふむ………ああ、そういう」

 

「──姉と弟ですか。彼女とは」

 

「……」

 

「誓い、ふむ。ふむふむ。んふふ、いやぁ、実に…」

 

「人生とは、愉悦(おもしろ)い」

 

「──殺すぞ。テメェ」

 

「んふふふ!いいですね貴方の素。大好きですよ?」

 

 

老人らしからぬ言動で、老人は怒りを顕にする。理不尽に読み解かれる事に対して、そして読み解いた女が『おもしろい』と述べた事に対し。

何が『おもしろい』。どこが『おもしろい』。どんな風に『おもしろい』?

健気な少女が、盗みを働くことはあっても生きる為の行為でしかなく、悪意といった悪意で悪をなすのではない、飢える自分と仲間の為に悪を成さざるを得なかった少女の抗いの、何が『おもしろい』。

 

──自分の殺意のバリエーションが、『殺す』以上を選ぼうとする。地獄を見せてやる、同じ目に合わせようとする。その前に、

 

 

「人類の業は、巡り巡って私が元凶」

 

「運命とは巡るもの。彼女が貴方と仲間の為に盗みを働き、捕まり──その後に受けた壮絶な仕打ちが何であれ、あらゆる罪は私が背負いましょう」

 

「──貴方の願いは?アルク・イーコール」

 

「叶えて差し上げましょう。なんたって」

 

「私、魔法少女なので☆」

 

 

最悪の魔法少女は、老人の心に滑り込んできた。

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