最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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怪しい者ではありません!怪しい薬でもありません!

 

──脚本作りに必要な最低限の要素は何か。

それは起伏だと考える。緩急、山あり谷ありという奴。

 

道端の石に躓かず真っ平らで平坦な道を快調に進み続ける。それもまた良いのかもしれないが、どうしても共感を得られにくい。

脚本は、物語は、誰かに見つけられる事でしか意味を持たないというのに、共感してもらいにくい、伝えづらいモノにする必要は薄い。

 

「ふむ」

 

「活躍シーンは…まぁ各々用意するとして、各陣営を動かしながらマジカルフューチャーの規模拡大……」

 

脚本の起の爽快感が伝えるのは、夢。

こうなりたい、やってみたい、かっこいい。単純な感動を人の胸から引き出す事もあれば、この程度か、それだけか、自分の方が上手くやれる。と、負の感情による意欲向上が見込める。

 

「……先に日本各地の犯罪組織壊滅させて…。スパイ活動は、どうしましょうかね。適当に私がやりますか…」

 

「敵の種類が少ないと映える場面も限られますし、みなさんにはもっと、表通りを歩いたらキャーキャー言われるように…」

 

脚本の下りの絶望が伝えるのは、現実。

こうはなりたくない、こんな目に合いたくない、貯まるフラストレーション。登りの為の前準備であり、映されるキャラクターの人物像を確かなものとする箇所。

 

「キャーキャーと言っても悲鳴ですが」

 

「──。さて」

 

「本格的に始めますか」

 

嫌われるだけの悪役や、好かれるだけの主役に理想を重ねにくいように、脚本に求められるものは『心の在処』。

憧れに染まり、理想に溺れ、絶望に沈む。自分が絶対的に正しいと思うものすら無い、空虚が満ちきった世界で起伏を愛する。

 

「とても苦痛な修行でしょう。人類は常に、私とは違い虚無と戦い続けなければならない。誤魔化すばかりが精一杯で、自分の存在意義を自分で見つけるなんて、ああめんどくさいめんどくさい」

 

──自分で魔法少女のアレコレを話していてなんですが、やっぱり魔法少女は素敵なものです。なりたいと思う人間の方が圧倒的多数。

というか、圧倒的多数でした。

 

「人類の意識を変えるには、質より量ですからね!今はネットの時代、ジャンジャンバリバリ」

 

「──対立煽り、しちゃいましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

高度に発展した社会で、自我やエゴを確立させるのはとても難しい事なんです。何度も、何度だって繰り返し言い続けますが、正直苦行でしょう。

盛大に下準備はしていますが、体験出来なきゃ意味が無い。

 

──自己責任自己判断自己超越。それが行き過ぎた社会は、流行りとやらが簡単に感染源になる。

 

「──なので、どうでしょうか?」

 

「──絶対止めといた方がいい!!」

 

「え〜?私買いたいなー…」

 

「ヒナタ──!?ちょ、本当にもう帰ろ?絶対やばいから…!」

 

絶賛、一般女子大生に扮した私は、帰宅途中の女子高生にナンパを仕掛けています!勿論誘い文句は──いつでも三時間だけ魔法少女になれる。というもの。

ユウカさんに渡していた魔法少女ステッキの簡易版ですね。キッカリ三時間、その間だけ『変身』した魔法少女と同等の力を手に入れられる。なんて素晴らしい!…代償もありません!

 

「最近さぁ、物騒じゃん?マジカルフューチャー…?のテロとかさぁ…」

 

「そうですよ!今は自分で自分の身を守る時代、ずっと社会に甘え依存していては、社会が壊れてしまった場合、ご家族含め奪われるだけ奪われていく!」

 

「マジックメモリーでの犯罪行為も急増している中、必要なのは最低限の防衛力。男の方でも誰でも、このマジカルステッキなら──」

 

「それ、犯罪ですよね…?」

 

「……まぁ、渡されたものの転売ですけど…」

 

「ほら!?」

 

いつの世も、百万の人間がマトモなら一人の人間が間違えるものです。とりあえず、試行回数。

人当たりの良さを全面に、街ゆく少女少年達に猛烈アタックです。魔法少女警察を呼ばれたら速攻逃げる準備だけして、地道な街売りをなんと、マジカルフューチャーが発足する以前から続けてきました。

 

フリーマーケット、ネット販売、取引販売。数は少ないですが、最近かなり売れ始めましてね。理由は勿論、私達マジカルフューチャーが荒し回った結果でしょう。

特にNo.2がミーちゃんと対峙した後、音沙汰が無かった事で不満はタラタラ。社会緊張が高まりつつある……んふふふ、やはりマッチポンプは最高です…。

 

「で、でもですよ?一度ステッキに頼らせてもらったから言わせて貰うんですが……──夜中に襲ってきた暴漢を撃退できたんです。咄嗟の事でしたが、こう、背負い投げでバーッと!」

 

「別に私利私欲の為に怪しいキャッチをしてる訳では無いんです、非力な人間が、お金で自分の身を守れる。友達と繋がる為に数十万の携帯やパソコンを買うのと、防犯の為にこの数千円のステッキを買う……根底に違いは無いと思います」

 

「だとしても…!」

 

──二人組の女子高生の片方が声を上げ手を引き、その場を離れようとする、瞬間、

 

「──へッ」

 

「っあ、だ、だれか…」

 

道の先、ヨボヨボと歩くお婆さんの手荷物をひったくる男が現れる。──勿論、オリテアの仕込みではあるが、風のように疾走する男を止められる者はいない。異常な加速度に加え、スピードに似合わない足の回転速度。マジックメモリーを使用した窃盗犯罪である。

 

強引に手提げカバンを奪われた老婆は地面に倒れ腰を痛め、必死に助けてくれと手を伸ばすが、

 

「────」

 

老婆の瞳に浮かぶのは絶望だけだ。周囲の人間は目を逸らし、手元の携帯を向けるか見つめるばかり。

通報しているのは数人、我関与せず──そんな態度も仕方の無いこと。基本的にマジックメモリーを使用した人間にはどう足掻いても蹂躙されるだけ。

 

魔法に関する法の整備は、発展に対し追いついていない。追いつけていなさすぎるとも言っていい、特にマジックメモリーは医療行為や仕事関連に使用される事も多く、違法か否かの境目は曖昧。

 

「っ」

 

女子高生二人の目線が、高速で迫ってくる男に吸い込まれる。大抵の人間は犯罪行為を目の当たりにした時、体を硬直させるのが当たり前だ。

それは何故か──失敗が怖い。そして止められる力が無いからであり、善悪よりも恥と痛みを恐れる。

 

だが──、

 

「──借して!」

 

「はい!」

 

「ヒナタ!?」

 

その両方を拭い去る代物が目の前にあれば、後はほんの少しの勇気と欲望で、乗り越えりるものである。

オリテアの手からステッキが渡され、ヒナタと呼ばれた高校生は光に包まれた。

咄嗟の行為が正義感によるものか、アドレナリンの放出による興奮状態が引き起こしたものかは、この際どちらでも良い。

 

オリテアの目的は、簡易的な『魔法少女ユウカ』誕生のシュチエーション作りであり、『変身』してしまった時点でその目的は果たされているのだから。

 

「ぅ──なんッ…」

 

「うわ。本当になれちゃった」

 

「──。魔法少女…!?」

 

現れたのは、翡翠色に飾られたお姫様衣装の魔法少女だ。深層心理を汲み取り、本人がイメージする『魔法少女』に適合し、ステッキは変身体を構築する。

 

「ファイトです!ヒナタさん!」

 

──魔法少女の力の一部を抽出したに過ぎないマジックメモリー使用者と、私直々の魔法少女体、まぁ結果は火を見るより明らかですね。

弱りきった病人が使用しても、警察に採用されている魔法少女ぐらいは鎮圧出来るようにしているので。

 

現代人の傾向を知る為に、ユウカさんを魔法少女にしたと言っても過言ではありません。特別になれる手段、特別になれる状況、あとは自分の判断だけ。優しく導いてあげれば──、

 

「えっと……おりゃっ」

 

「がァっ──!?」

 

「わっ……」

 

ヒナタがひったくり犯目掛けて強く突進する。到底攻撃とは言えない、一般人らしい無謀な突撃に乗せられた魔法少女の力が、ひったくり犯を蹂躙した。

ガードレールに叩き付けられ、肺の空気を全て押し出され呼吸もままならず、衝撃により視界はグラついて立つことすら出来ずにいる。

 

マジックメモリーによる身体強化がなければ、即座に気絶していただろう衝撃だが、今回ばかりは耐えてしまう方が苦痛だっただろう。

 

「……すっ…ご」

 

「ヒナタさんヒナタさん、変身解除しないと…!」

 

「あ、うん」

 

再び光に包まれ、ヒナタの姿は元へと戻る。手の中のステッキは光と共に消え、絶句する友人を他所にひったくり犯の手から老婆のカバンを取り返す。そして驚愕で目を丸くする老婆の前に立ち、

 

「…えと、どうぞ」

 

「────」

 

「そ、それじゃ私失礼するんで」

 

笑顔を振りまいて退散。友人とオリテアの元へと戻り赤く染った顔を両手で隠しながら、笑みを隠しきれない様子だ。

 

「な、なな、何してんのっ…!?」

 

「……アレだよ、漫画みたいに…こう、体が先に動いてたっていうか…」

 

「こんな怪しい魔具使って、魔素中毒になりでもしたらどうすんの!!咄嗟にって……ああもう!今すぐ病院に…!!」

 

「あ。そこら辺は大丈夫ですよ、私も使った後には何も起きなかったので」

 

その言葉を聞いて、友人はヒナタの顔をぺたぺたと触れる。

下瞼をひっぱり、中毒症状の確認をするのを見るに、今の学校教育はかなり進んでいると見える。

 

「っ、ヒナタ…何ともない…?」

 

「うん」

 

「──はぁ…良かった……」

 

──ちなみに、彼女の行為は本当に褒められたものではありません。断じて社会規律に基づいた行動ではなく、私刑に近い。

が、しかし、彼女が止めなければお婆さんの荷物は戻ってこなかったでしょう。突発的な犯罪には弱い警察は、こうした日常で起きる些細な犯罪に対応しきれない。

 

どれだけ立派な奉仕精神を持っていようと、伝わらなければ悲しきかな、その場で救いを求める人間は不平不満、憎しみを向けるべきでない相手へ向けるものです。

 

心が裕福であるほど人を助けたくなる、貧しいほど人に助けられたくなる。互いの差が、本来産むべきでは無い対立を産む。

──救われるべき弱者は、救いたい形をしていないとはよく言ったもの。善人を善人の『フリ』だとしか認識できず、弱者の勇気を蛮勇と愚行だと断言する様な、あまりに残酷な人間性を持つ人も沢山居ます。

 

「どうでしたか?魔法少女になってみて」

 

「………あんまりいつもと変わらなかったかも」

 

「そうでしょうそうでしょう!私もびっくりしたんです、あんなに憧れてた魔法少女も、なってみれば案外……私達と変わらないんだなー、と。勿論公的にはめちゃくちゃ怒られますが、自然災害時も魔法少女体になれさえすれば、身の安全は保証されますし」

 

「お一つ、いかがでしょうか」

 

「──。お願いしよっかな」

 

「ヒ・ナ・タ!早く帰ろ!?」

 

財布に手を伸ばすより先に、襟を引っ張られてヒナタはその場を遠ざかっていく。口惜しそうにオリテアの手に握られたステッキを眺めながら、仕方ないと連れられて。

 

その場に残ったのは倒れ伏すひったくり犯と野次馬のみ。立ち去る彼女の魔法少女の姿は今頃、ネットに乗って沢山の人に拡散されているだろう。

 

「────」

 

「……」

 

「あぁん、今回も失敗ですか…」

 

「……失敗、と言い切るには時期尚早ですが、私も警察沙汰に巻き込まれる前に逃げないとですね」

 

──アレは、二度目に手を出す顔でした。

とまぁ、コレが私の挑戦です。各地で同じような事をしまくってます、姿形を変え手当り次第に。

 

現代人が魔法少女へ手を出すプロセスを、どれだけ簡略化して大丈夫なのか。結果は見ての通り、少しづつですがユウカさん程の手間をかけずとも、彼ら彼女らの心の天秤は傾き始めている。

 

「……さて、結構離れましたし…エゴサエゴサっと」

 

「…………」

 

才能もいらない、膨大な金も必要無い。遊びの為のお金を少し削れば、手に入る身近な『変身』。さて、影響はどれほどか。

ネットにはものすごーく疎いですが、『魔法少女』の単語を入力すれば出てくるかも、と、ミーちゃんに教えてもらいました。

 

「ふむ」

 

《駅前で野良魔法少女がひったくり犯タックルで倒しててワロタ。犯罪だよね、これ》

 

「…ふむふむ」

 

《また勝手な正義感(笑)で犯罪犯してるバカ出てきたじゃんw、警察はさっさと取り締まれよ》

 

《だったらお前がやれよ?警察がノロマだから助けてくれただけだろ、普通に人の良さそうな高校生だったし》

 

《犯罪は犯罪だって指摘してんのが分かんないのなら話し掛けてくんな》

 

「──。うぇぇぇぇ……」

 

な、生々しい…。かっこいい!かわいい!凄い!とかはしゃいでるのをイメージしてたんですけどね……やはり私も時代遅れな人間です。

まっ、今はまだまだこの程度でしょう。時間を味方につければ、この真っ黒な活動も、民衆によってグレーゾーンになる。

 

大層なプロパガンダは必要ないんです!

皆にとって便利であるが、犯罪に等しい。犯罪に等しくとも、更に上の悪人への防御策として存在を密かに許される。

 

メリットに目を付けて、責任に関しては言及しない身勝手な人間も増えましたからね。勝手に擁護してもらい、勝手に神聖視してもらいましょう。

 

──いつか、子供の枕元に置かれてもおかしくないぐらい、一般化させてやるのです。魔法少女が陳腐化すれば、その無為の中から真の魔法少女も生まれる。

対立を煽るのですから、良い側面も、悪い側面も、どちらの背中も押していく。ある種ヒーロー性を有し始めた魔法少女には良いお灸になると考えています。

 

《──もしもし、分身八十九号》

 

「む。《なんですか分身二十五号》」

 

《北部支店の在庫足りなくなったので、本体に追加の連絡お願いします。私は別件で忙しいので》

 

「《ほう。…売り上げ上々!喜ばしい限りです》…よし、一旦戻りますか────む?」

 

「……ふむ」

 

──。いつの間にか身体が拘束されてますね。しかもかなり強力な、対象の行動意欲を減衰させる、脳へ働きかける拘束魔法。

人体の神秘たる脳へ干渉できる魔法。行使できる魔法少女は限られていますが……──さてさてさて、何処のどなたでしょう?

 

「…あれま、貴方でしたか」

 

「──久方ぶり。オリテア」

 

ユウナ・バレンタイン。

魔法少女ユウカのライバルにして、我が社の正社員。確かこの辺りは彼女の管轄でもありましたね。

 

「最近各地で妙な報告ばかり上がると思えば、やっぱり貴方だったのね」

 

「……結構強めの隠匿魔法の『サイレンス』を掛けておいたんですけど、分かっちゃいましたか」

 

「ふふっ。最初、貴方と出会った時から私もかなり鍛えたからね。それで……」

 

──首元に、彼女の青白く輝くレイピアの様なステッキを突き付けられる。唐突な蛮行、しかしオリテアもユウナも顔色は変えず、そして問う。

 

「『コレ』は、マジカルフューチャーのお株を奪う行為だよね」

 

「貴方達なりの策略なら良いけれど、独断専行……でしょ?」

 

誰でも魔法少女になれる。それが売り文句のマジカルフューチャーにとって、オリテアの活動は真っ向から喧嘩を売っていた。

自らが成立させた組織を自ら邪魔をする、なんて矛盾した行動を取るのに何の理由があるのか。ユウナの視線は鋭くなるばかり。

 

「下準備。というものです」

 

「……ああ、慣れさせてるって事」

 

「おお!凄いですね、かなり先の事まで見通して……」

 

オリテアは感服と拍手を送ろうとして──視界が回転した事に気がつく。上下がくるり、移り変わり地面へと落ちていく。

断頭された、それも判断不能な速度で。気を張っていれば防げたであろうが、不意打ちとはいえオリテアの首をユウナは取った。

 

落ちた生首から血が流れることは無い。ぎょろりと目玉だけが動き、床に倒れたまま返事を返す。

 

「オリテア」

 

「……何でしょう?」

 

「──組織を抜けるにしても、ユウカを最高の魔法少女にしてから、ね」

 

「…んふふふふ、はい。分かってますよ」

 

「なら良い。必ず約束は守る事。それじゃ、バイバイ」

 

「はーい」

 

──知恵とは時に猛毒。知らなくて良い事も理解してしまうと、辛いでしょうに。

流石は日本三大魔法少女の内の一人、分身とはいえ首を落とされるとは……彼女程の才能の持ち主が全人類に備わっていたら、私も負けかねませんね。

 

サラッと言いましたが、三大魔法少女とは銀城恋歌、空知祐奈、伊澤愛那の三人のことを示します。伊澤愛那さんは『魔法少女ラブ』として活動中。

ですが日本が誇る魔法少女も、なんと三分の二が犯罪者!世も末です。

 

「真面目に警察ごっこしてるのは伊澤愛那さんだけですもんね……」

 

「…………」

 

「いっその事引き込んじゃおうかな…?ううむ…」

 

──今は放置しておきましょう。少しは逆転の目を残しておくのも乙というものです。

それに、これから先の顛末には『正しく在れる』者がとても重要。良いも悪いも巻き込んで、便利である事を求める社会はマトモな人間に厳しい。露悪的かつ悪辣に、追い詰めれば追い詰めるほど、輝くのが人類。

 

「……だからこそ、今日も今日とて頑張らないと、ですね」

 

「──ノルマまで後五本、ひでぇブラック企業ですよほんと」

 

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