最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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魔法少女:ダーク

 

「あやねちゃん…なの?」

 

「うん」

 

「…監査官は、3日前にあやねちゃんは死んだって…」

 

「助けてもらった」

 

「……そっか」

 

「なら、殺すね。あやねちゃんが生きてる限り、あやねちゃんっていう証拠が残るから」

 

「……」

 

「ごめん、ごめんね、あやねちゃん……殺すよ、無慈悲に。他でもない私のために、あやねちゃんをあやねちゃんだったものにする」

 

──やっぱり、私は彼女が好きなようです。

胸の中がドキドキして、向けられる殺意を受け入れています。

『普通』の人は、内臓を手でかき混ぜられたり、目玉を引き抜かれたりすると、不完全な私で無い限り、彼女の事を嫌いになるかもしれません。

 

ですが私が不完全である限り、彼女は1人じゃありません。

普通から外れた、普通ではない彼女の、名前すら教えてくれない女の子の事が私は好きなようです、それはきっと、変わることの無い事実だと思います。

 

殺すと言われても、少しも揺るぎない『好き』という脳信号に私は虜で、何度もこの『好き』を味わい尽くして、

 

「私、貴方になら殺されていい」

 

「…あやねちゃん」

 

「理由なんて要らない、好きってそういう事だと思う」

 

「……あやねちゃんに、死ぬより酷いことしてたのに?」

 

「うん」

 

「は……あはっ、は、はははは!はは!私も!あやねちゃんが大好きだよ!!!」

 

ユラユラと近づいてくる彼女に、殺意は感じられませんでした。

彼女は今から私を肉片にすることでしょう、私が命を懸けて戦っている魔法生物を、彼女は一振で壊せるので…きっと、私は痛みを感じる間もなく死ぬ。

殺意が無いのに、大好きだと本心で言っているのに、私の事を無慈悲に殺そうとする彼女の事が、私は、

 

「──名前、教えて欲しい」

 

「…名前?…なまえ……私の?」

 

「うん」

 

「銀城恋歌」

 

「ぎんじょう…れんか…──レンカ。私、貴方の事を憐れんでます」

 

「──は」

 

「貴方を受け入れられるのは不完全な私しか居ない、なら、不完全でしか自分を埋めれないレンカも、不完全です」

 

「私を可哀想と思うのなら、レンカも可哀想なんです」

 

──私は、彼女の事が愛おしくて堪らない。

私の『どうして』の始まりの、憎い憎い彼女が愛おしい。

運命という理不尽を纏った、私の天使。『どうして』を突き詰めても答えがない理由の無い終わり。

納得が人生の終わりなら、彼女はその真反対。納得も何も無い、誰にも理解出来ない『どうして』の塊。

 

互いに──『こうやって』産まれてきてしまった、変えられない変われない存在。

 

「……ひ、はは」

 

「そうかも、そうだね☆私は君がいなきゃおかしくなっちゃうんだよ」

 

「なら、なんで、どうして…レンカは…」

 

「あやねちゃんを盗みに行かせたのかって?」

 

雨が、激しくなってきました。

少し大きな声を出さないと相手に声が届かないくらい、雨は強く降って、お姉さんに貰った傘をベンチに置き忘れてしまった私と、最初から傘なんて差してなかったレンカは、一緒にずぶ濡れです。

 

彼女の手元には、私がお兄さんから盗んだ小さな機械みたいなものが握られていて、機械といえば濡れてはいけないのを知っているので、大丈夫なのかな。そんな風に思ったりして、

 

──気が付けば、レンカは目の前に居ました。

 

「理由なんて無いよ☆」

 

「……」

 

「私ね、『こう』なんだよ。人間の形してるだけ、魔法少女の形をしてるだけ。ただそれだけの存在」

 

「誰かを踏み台にしなきゃ生きれない、誰かを壊していないと生きれない、誰をも下に見たい。それだけ」

 

「あやねちゃんが盗んでくれたコレがあれば、私はもっと自分に正直になれる」

 

「──大好きだよ、愛してる。この世界の誰よりも。それでも私はあやねちゃんを心の底から邪魔だと思ってるし、早く殺したい」

 

ああ。

ああ、本当に。本当に良かったと、私はその時思いました。

私はずっと、私が不完全だから『こう』なってるんだと思ってた、世界がこんな風になってるのは、私が不完全だからって。

 

誰もかもが目を逸らして、私の事を見てくれないのは私が不完全だからだと、全てを諦めようとしていたんです。

でも、お姉さんに『納得』を教えて貰って、私は知る必要が出来た。自分の死に納得できるように。

 

でも納得する事が正しいとは限らなくて、私の最愛の人が『私が納得出来ない』塊だったらどうしようと、そう思っていましたが、

 

「みんな」

 

「みんな、不完全だったんだ」

 

「お母さんもお父さんも、お金をくれる人も私を魔法少女にした人も、私を直してくれる人もご飯をくれる人も、服を直してくれる人も」

 

「──レンカも」

 

「不完全だから、納得出来なくていいんだ」

 

私は、みんなが『納得出来ない』塊である事を、納得しました。

みんなが不完全である事を認めました、そして納得しました。

私が『どうして』を追い求める不完全であるように、みんなも自分の中の不完全を埋める為に、人生を過ごしているのだと。

 

──人生ってなんだろう。

 

それは、納得までの道でした。私が魔法少女であっても、物であっても、誰であっても、沢山の納得の為に送る時間のことでした。

 

私は、その先輩が目の前にいるのに随分と長い間気が付いていなかったようです。レンカの様に自分の人生を歩み続ける存在を目の前にしていたというのに、私は分からないフリをしていたみたいです。

 

「私も、レンカみたいに生きてみるよ」

 

「無理だよ、あやねは今から死ぬんだから」

 

「──レンカ、私の名前も教えるね。私はダーク、魔法少女ダーク」

 

「…古いし、似合ってないね…!」

 

「うん、貰い物だから」

 

「──私以外の!誰かの話をするなぁぁぁッ!!」

 

魔法で形作った剣を振るわれるも、その動きはハッキリと私の目に追えてしまい、つい反射で避けてしまう。

身体が軋まないってこんなに自由なんだ。頭が痛くないのってこんなに世界が綺麗に感じるんだ。目がちゃんと見えるってこんなに美しいんだ。耳がちゃんと聞こえるってこんなに楽しいんだ。

 

──今なら、魔法も使えるかな。

 

「避けッ──!?」

 

「ごめん、レンカ。私はまだ、沢山納得してから死なないと」

 

初めて、私は魔法と言われるものを使ってみます。

空が飛べて、光を放てて、沢山の敵を一瞬でやっつける。そんな魔法を。

それは一度見せてもらった、私の身体の中で破裂した事のある魔法でした。

 

「『スタァレーザー』」

 

「───私の…」

 

──避けた姿勢のまま、魔法少女ダークから光の筋が指先から伸びる。本来の銀城恋歌の魔法とは掛け離れたか細く、出力も弱々しい代物。

当たったところでダメージにはならないだろう、銀城恋歌は既に切り上げの姿勢に移行しており、この一手の後身体は粉微塵へと変わる。

 

だが…ダメージにならない、というのは。

 

「ぃぎッ!?」

 

当たる場所にも、よる。

目の中の水分を蒸発させられ、銀城恋歌は視野を失った。一手の遅れは二手目の遅れ、二手目が遅れれば既に手遅れ。

 

「バイバイ、レンカ。必ず私を殺しに来てね」

 

「待って、待って!待て!あやね!!」

 

「これからはダークって呼んで、もう私はあやねじゃない」

 

「黙れ五月蝿いッ、ぐぅっ…そんな、誰かから貰った……名前なんかにぃ……!!」

 

殺しに来て、とダークは告げる。それはこの世で最も理解し、最も納得出来る『納得出来ない』相手による死を受け入れるということ。

彼女しかいない、彼女じゃないとダメだ、銀城恋歌でないと、魔法少女ダークは死んでやれない。

 

「はァっ、はァッ──修復、すれば…このくらい…!」

 

「レンカ」

 

「っ?」

 

「──ありがとう、ごめんね、可哀想、愛してる、大好き、殺して。…私の全部、受け止めて欲しい…!!」

 

「…──!うん、うん!うん!!絶対に!殺してあげるから!待ってて!」

 

 

──最後。

別れの際、目からおびただしい量の血を垂れ流し、大雨の中地面に這い蹲る魔法少女に向けて。

 

温かく、柔らかい何かが頬に触れる。

 

それは一般的に──チークキスと呼ばれるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──私には、まだ話をしなきゃいけない人が居ます。

 

まず、お金をくれる人。ありがとう、そう言いに行きました。

いつも通り、声も返さず目も合わせてくれませんでしたが、それでも今の私は納得出来ました。

 

次に、服を直してくれる人。助かりました、そう言いに行きました。

おじいさんはピクリと眉を動かすと、なんとこっちに歩いてきて抱きしめてくれたんです。

その後は、何も言わずに別れました。それで気が付いたんです、私が無愛想で無反応だからおじいさんもどうしたらいいのか分からなかったのだと。

 

後は、お金を渡すとご飯をくれる人。ごちそうさまでした、そう言いに行きました。その人は、何が何だか分からないみたいで、当たり前ですが『お、おう』と困惑していました。

 

最後に───白い服のお兄さんに、会いに行きました。

 

 

「…君…は……」

 

「っ、戻ってきたのかい!?ダメだ、早く何処か遠い場所に…ダメだもう監査官が来る!監視カメラの映像は今からじゃ弄れないし…」

 

「お兄さん」

 

「………」

 

「ごめんなさい」

 

「────」

 

「ごめんなさい、お兄さんが私のせいで悲しんで、ごめんなさい」

 

「──!………もう、良いんだよ。大丈夫。僕は、君に何もしてなかった。僕は何もかも出来たのに、何もしなかった」

 

「その時点で、一生後悔して、死ぬまで後悔して、死んでからも後悔するのは決まってたんだ。僕の人生は僕が決められる筈だったのに」

 

「さようなら」

 

「………さようなら、君の人生に祝福がある事を祈るよ」

 

「それなら──もう、貰ってる」

 

 

会話を終えて、私のやる事は決まってました。

私が私の人生を、私のやりたいことを、私の納得を追い続けるのを肯定してくれる人が、魔法のように現れたんです。

 

なので、私は頭に着けていた髪飾りを握って──、

 

 

「呼びましたー?」

 

「──!?!?」

 

「うん、呼んだよ」

 

「どうします?もう決まってそうですけど、一応私の方から聞きましょうか?」

 

「うん」

 

「──なら早速…魔法少女ダークよ!世界に牙を剥く我が悪の組織に、己が願いの為入隊するか!」

 

「──する」

 

「あいほらサッサー!それじゃ転移発動〜…あ、そこのお兄さんも納得出来る人生を送れるように願ってます、願うというなら叶えますが」

 

「……いや、いいよ。もう僕はこの結果に納得してるから」

 

「ふむ。本心っぽいですね!それではバイなら!」

 

 

音もなく2人の少女は消える。

それはまるで今まで見ていたものが全て幻であったかのように、綺麗さっぱり何の痕跡も無く、2人は男の視界から消え去った。

直に監査官がやってくるだろう、それでも、あの2人は捕まえられない予感がする。

 

──自分の傲慢のせいで、自分の人生を無茶苦茶にしてしまったなと、男は後悔を口から漏らす。

 

その部屋には、後悔だけが響き。

残されたものは、何も無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「最後の最後にここに寄りたいっていうのも、なんか良いね」

 

「……もう、『家』は使わないから」

 

「こんな人の住む所じゃないオンボロアパートにも、思い出は残ってますか」

 

「…うん」

 

「ということは、ここには……お別れに?」

 

「そう、お別れ」

 

「──良いですね!素質満点です!!」

 

「ふふっ、変なお姉さん……よし。それじゃ…」

 

 

 

「──さようなら、過去の私。これからはレンカみたいに、自分の人生を生きてみるね」

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