「──私ね!お母さん、私、私魔法少女になりたい!」
「魔法少女?」
「うん!魔法少女!テレビでいっつも悪の怪人と戦っててさ!ぜったいに勝つんだ!」
「それで、それで……可愛くて、かっこよくて、強くて!何でも出来るの!魔法少女って凄いんだよ!」
「ふふ、優花は魔法少女の色んな所が好きなのね」
「うん!」
「──なれるといいね、魔法少女」
「うん!!」
私は、魔法少女になりたかった。
魔法少女という存在がとびっきりの憧れで、夢でもあり、私は将来なりたい事を書く作文でこんなタイトルにしました。
──【私は、魔法少女になりたいです!】
■
──悪の組織第一支部にて。
「ドクター!今日のおやつはもうあげたぴょん!!」
「はぁ!?んなコイツ小癪な…!」
悪の組織の親玉兼ベビーシッター兼財務係兼不動産企業の社長兼魔法少女のミーは、凄まじい困難に直面していたぴょん。
「テメェ…この野郎…!おやつ欲しさに嘘ついたな!」
「きゃー!逃げろー!」
主は2人目のスカウトに行ったっきり帰ってこないし、その2人目もまだ来てない。
絶賛、人手が足りないどころか魔法で腕を増やしながら家事をしても足りないくらい、ミーの生活は忙しいぴょん。
それもこれも主が帰ってこないせい!と言いたいところぴょんけど、実の所ミーのせいでもあるぴょん…。
「ドクターもここに来て1週間経ってるぴょん!騙され耐性も早く身につけるぴょん!!」
「うっ…だがなぁ…」
「どうせ『どくたー!おかしたべたい!』とか、笑いかけられてコロッとあげちゃったぴょんね?」
「…………抗えないだろッ!!」
「逆ギレすんなぴょん!!!」
このアホドクターの事はともかくとして、ミーは魔法生物を戦力にする為に、えっちらおっちら魔法少女の目を盗んで市街地で捕まえては、幼体化と高速成長、そして人間の脳を与えて教育する事にしたぴょん。
魔法で人間性を作ろうとも考えたぴょんけど、自然な教育と食育、コミュニティの中で育てた方がいいと思って3人ほど作ったぴょん。
そしたら──、
「ミーちゃんミーちゃん!お外遊びに行ってくるねー!」
「私もー!」
「え──ま、待つんだぴょん!この時期は日差しが強いし帽子をかぶって…あ、虫除けも──」
「やー!」
「やーじゃないぴょん!」
そう、組み込んだ能力の内の高速成長。
そのせいで、一番大変な赤ん坊の時は早く終わったぴょんけど、手のかかる元気な子供が3人わちゃわちゃするようになってしまったぴょん。
1人は運命的なものなのか、ドクターにベッチョりで助かってるぴょんけど、悪の組織の為の拠点を確保する為に不動産業と悪の組織マニュアルの作成、ついでに主の為の舞台作りと現代魔法少女の連合組織の調査をしなきゃで、てんてこ舞いぴょん。
「こうなったら…分身!」
「わ、ミーちゃん凄い!それどうやるのー?教えて教えて教えて教えて教えてー!」
「「また今度教えるから、今はお外に遊びに行こうぴょん」」
「うへ…なんか気持ち悪いねー…」
「「……」」
そして一番っ、大変なのはっ!
──この子達のデザイン決めぴょん!!
これからも増やしていくことを考えると、ミーのアイデアは底を尽き……適当に作ってダブったデザインでも生み出そうものなら主にぶち殺されるぴょん。
とりあえずアニメからパクっ…元いオマージュした騎士系のシリーズで3人は統一したぴょん。ドクターが好きな青い子はナイトモチーフ寄りにして、外に出ようとしてる黒い子と赤い子は…黒い子がゴリッゴリのゴシック衣装、赤い子はプリンセス風。
とまぁ、こんな風に世界に股をかける悪の組織になるには……余りにも生産数が足りない上に、時間だって足りない。
もうこれ以降は全員黒塗りのザコ戦闘員的な見た目にしようかと思ったぴょんけど、それを決めるのは主で──。
「…………」
「どこ……ほっぽり歩いてるぴょん……!!」
そういうこともあり。
絶賛、ミーはブチ切れていたぴょん。
とりあえずクロとアカは外に遊びに出させて、アオはドクターが相手してるから今の内に全員の晩御飯を作り置きするとして。
いや、それよりも今日は全く進んでないマニュアル作りを進めなきゃぴょん!あ、そういえばまだドクター専用の悪の組織スーツも作ってない……。
「……」
「──」
「あのクソババア!帰ってきたらギッタンギッタンに……!」
「ただいまー、なんか言った?」
「──何も言ってませんぴょん!!」
「…………なんだなんだ……騒がしい。今アオが寝たところで……お!帰ってきたか!……化け物様は育児放棄してどこに遊びに行ってたんですかね?」
──最悪の予感がするぴょん。
主が満面の笑みで帰ってくるなんて、相当主の性癖にぶち刺さったシュチュを楽しんだ時くらいぴょん。
つまり、ミーの予測が正しければこの最悪の予感は身を結ぶし、何より、
「2人目連れてきたから全部よろしくね、ミーちゃん。それとドクター!この子治してもらえるかな?」
──また全部ほっぽり投げられて、苦労するという事が確定しているぴょん。
ああ、この世界に労働の神様がいるなら教えてくれぴょん。この先の未来、ミーが休める日は来るのかぴょん?そしてあるというのなら教えてくれぴょん。
「──ピクッピクッ…」
「ミーちゃん?返事は?」
「…………ぜんしょしますぴょん」
「よろしい。生活眺めるのに時間使ってたから遅くなったけど、3人目はもう目をつけてるからすぐ戻るから」
「っ、待てテメェ。この子は……」
ドクターが玄関に転がり込んだ黒髪の少女を抱き上げる。
黒髪の少女は気を失っている上に、顔色は真っ青に近く、手首から上が消失しているせいで出血死直前。
──ドクターはいつも身につけている計測器は魔素の量を測定するものであり、それを近づけてドクターは顔を驚愕に染める。
黒髪の少女は魔法少女であったのだ。魔法少女が出血するなど、有り得ない話。
「ダークちゃん。コードネームはそれで、この子の身体の事は……ドクターが一番分かってると思う」
「……!魔素適合障害…か。だがこの子は…魔法少女化してる?有り得ない、お前の仕業か?」
「違いますよ、この子は別の要因です。ミーちゃんの力を借りながら治してあげて下さいね」
止血と魔素の供給による肉体の形成、そして魔素を通す体内の仮想パイプが適合障害によって封鎖されている。──全ての情報からドクターは治療における全ての手順を導き出す。
「───」
「変態、アオを連れてこい。その後お前から魔素をこの子に流し続けろ」
「OKぴょん!」
存在そのものが異次元からのパイプである魔法生物を少女に連結させ、アオを外部心臓としてポンプの役割を持たせながら少女を治療する。
それが最善であり、持ち堪えられるかどうかは少女次第。
「出血から時間が経ちすぎてる……おい化け物、生活眺めてたって言ったよな?なんでこうなってから放置してやがった…!」
「これはダークちゃんの願いの傷です。私なんかが魔法で上書きしていいものじゃありませんので」
「……だからってお前…!」
「それじゃ私は3人目の所に行ってきますね!ではでは〜」
「待っ────!…クソッタレ」
自身の時と同じように、悪の組織の親玉の親玉は風のように消え去る。
死にかけの少女を放置するのも、適当なのか自分達を信じているのか。魔法が自由に使えるなら恐らくは後者だろう。
隣を見れば「ほらね?」という顔で変態がアオを連れてきていた。確かにな、という顔で返し、割り振られた無理難題をこなす為、
「……アオ、頼めるか?」
「うん!」
「頼むぜ変態、お前が頑張ってくれなきゃこの子は死ぬからな?全力振り絞れよ?」
「大丈夫ぴょん!こういう時の為に力を分けてもらってるぴょん!」
「うし、それじゃ───」
悪の組織、としては余りにも似つかわしくない、その言葉を口にする。
「救うぞ、命懸けで挑めよ変態!!」
「おうさ!ぴょん!」
■
──とあるマンションの一室にて。
「ただいまー」
「おかえり」
扉のドアノブに手を掛けて、疲れきった私はそのまま服を脱ぎながらお風呂に向かう。
「タオルお願ーい!」
「はいはい」
お母さんにお願いしてタオルを持ってきてもらいながら、パパっとシャワーを浴びて昨日、髪を短く整えたから手入れもすぐ終わった。
「ふぅ…」
「お茶置いとくね」
「ありがと〜…お母さんもお仕事お疲れ様!」
「優花もお疲れ様、晩御飯は何時くらいがいい?」
「7時ぐらいで!」
「それじゃ。そのくらいに準備しとこうかな?」
「…そうだ、優花」
「今日は学校…どうだった?」
「───」
「──楽しかったよ!」
嘘だ。
惰性を続けた2年間。何処の部活にも入れず、適当に勉強とゲーム、緩い授業を続けて……唯一の楽しみは昼ご飯。
つまらない。そう言いながら、毎日お弁当を作ってもらって、ネットの中だけどゲーム友達は居て、それでも不満を抱えているのだから自分ながら浅ましい。まぁこの環境に反発する理由も意味も気力も無いのだけれど。
寝て起きる、みたいな2年間。楽しくもないし辛い。娯楽の少なさは私の感性的に地獄の様な気分だ。
「……ふぅ」
「…………」
「……なんかないかなぁ」
自室にて、そう呟く。
なんかないかなと。なにか、自分の人生を一新する何かが無いかなと。
この退屈で幸せな筈の人生が、どんな事でもいいから崩れてはくれないかと、いつも願う。
お母さんに私の緩慢とした悩みを打ち明けても、毎度「五体満足で産まれてるだけ幸せよ?」と言われるばかり。
確かに幸せなんだろう、相対的に。だけど私は私の絶対的を求めたいものなのである。
こういうのを思春期、反抗期と呼ぶのかもしれないが、何故か自制が出来てしまう私は声を荒らげたり暴れたり、反抗することは無い。
どうせ私はそんな程度だと思いながら、今日もお母さんが作ってくれる晩御飯を貪るのである。
「いただきまーす!」
「はいはい」
今日はオムライス!……特段好きな訳でも無いけれど、私は「美味しー!」とお母さんに伝えながらオムライスを口へ運び続ける。
──私が、何もしない私がここに居るのを許されてるのは無害だからだ。
挑戦をしない。親には子供としての迷惑しかかけない。私と言う存在は、一般的に見て普通であるからこそ許されている。
いつも考えるのだ。このまま私が成長して何も成せずに生きて──生まない方が良かったと言われる日が来るのではないかと。
きっと、その日は来ると思う。誰よりも満ち溢れているはずの私は、私自身、自分が満ちていると認識できていないから。
「…………」
毎日、毎日毎日それだけを考えている。
楽しいことがない、求めるものがない、自由な筈なのに何もやる気が起きない。
「……」
「…………」
高校生になって、魔法少女の夢は諦めた。いや、元から叶いようのない夢だったのは知っている、それからというものの、私は何をしていいのかも分からないままだ。
勉強をする理由も、明日起きる理由も、学校に行く理由も、ご飯を食べる理由も無い。そんな私だから、いつか限界が来る。
大学生辺りだろうか?限界は。
何もしようとしない。何もできない。そんな私がそこにはいる。それを抱えたままこの先生きていくなんて不可能で、必ず綻びが出来て、綻びたまま生きていく。
「…………」
「ご馳走でした」
あーあ。
つまんない人生だ。悪くもない、良くもない、ありふれた人生。
幸せである事は分かっていても、それを正直に享受できないというのは、なんともめんどくさい。
──魔法少女になりたかったな。
あーあ、あーあ。好きなことしたかったな、まぁ、あんまりやる気はないけど……。
「……ごちそうさまでした!」
「お風呂は入ったから、後は歯磨きさえすれば何時でも寝て大丈夫だからね。忘れずに」
「お母さんこそ、この前みたいにお風呂も何もかも忘れたまま寝ちゃダメだよ?」
「元気があれば……そうしよっかな…」
「ふふっ、ん。それじゃおやすみー」
テレビに移る魔法少女のように強くも賢くもない、憧れだけがある。
ネットに漂う幾万の文字の中に住んで、何一つとして成せないまま過ごしていく。
私みたいな人間を見た時、みんな『当たり前』と言うだろう。選択は自分の手の中にあって、コレも私の選択の内なのだから。
あーあ、なんで諦めちゃったんだろ……無理だと分かっていても、諦めなかったらもしかしてがあるかもしれないのに。
あーあ、なんでしんどくなっちゃったんだろ。普通に生活出来るだけでも、文字通り「幸せ」の筈なのに。
あーあ、なんでみんな私の為に頑張ってくれるんだろ。たった一人の親友以外、私に何一つ未来に残せるものは無いのに。
お母さんが私の事嫌いになってくれたらなぁ、みんなが私の事、嫌いになってくれたら、私は『不幸』である理由が産まれるのに。
──下らない事を考えながら夢に落ちていく。
下らない、なんて下らない。誰もが考える事を、まるで自分の中にある特別のように語る自分はなんて下らないのか。
自分は、何一つとして特別じゃないし、全てが特別だと言えるし、私はそう呼びたくないし。
「…………」
あーあ。明日魔法少女にでもなってたらな。
私はきっと、好きなことを好きなだけして───。
「────」
「────はぁ」
そして、そこに求めてるものが何も無かった事に、絶望するだろうな。
「こんにちは!」