最強の魔法少女は対立煽りがしたい   作:カピバラバラ

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現代の病

 

「──誰ぇ!?」

 

「魔法少女です!」

 

「いや……それは…そうじゃなくて!」

 

──綺麗なお姉さんが、月光を背後に窓へ張り付いていた。

窓越しのはずが、声が脳内に響いてきて…。

 

「優花〜!どうしたのー?」

 

「な、なんでもなーい!」

 

「えっとですね、悪の組織に勧誘しに来たんですけど…」

 

「ちょっと静かに!話は後で聞きますから…!」

 

おかしなことを言う人だと思う一方、こんなことが出来るのは魔法少女くらいか。そう納得して、少しわくわくした。

何もない日常が変わる予感、なろう系のような、アニメ『私が魔法少女じゃダメですか?』みたいな、唐突に人生が変わる瞬間。

 

それが訪れた、何も努力していない私に、怠惰を選んだ私に。

 

「……ふぅ、落ち着け私…なんか、なんか起きてる。今凄い事がおきてるんだよね?」

 

「そうですよ!」

 

「ぴぃっ!?」

 

「ふふふ、可愛いですね!」

 

気が付けば、お人形みたいな童話から出てきたお姫様が目の前に居て、お姫様というには服装がシンプル過ぎる気がしなくも無いが、逆にこんなに可愛い子がラフな格好なのは『良い』と思った。

真夏の暑い日、謎の美少女との出会いは定番だ。定番という名前の特別だけど、今私は特別な状況にある。

 

──魔法少女とは、一人一人商標登録された企業の管理物。魔法少女になる為の手段を国が握っている限り、野良の魔法少女なんてものは存在しない。

 

「………その…」

 

「魔法少女…?さんは、何処かの所属だったり…?」

 

「違いますよ〜」

 

だから、目の前に居るのは最低でも魔女刑(死罪)を下される存在。

 

「……通報しようかな」

 

「ええ!?」

 

「そりゃそうですよ…魔法少女を自称する不審者が家の中にズカズカ入ってきてるんだから…」

 

「──にしては、随分と落ち着いてますね」

 

「それは……──その…」

 

「駄目ですよ?私の見た目が幾ら可愛くても、どんなに緩い感じでも…その本性がどうなのかは分からないですし」

 

「…………」

 

確かに、唐突な事すぎて頭がフリーズしてる割には口から言葉がひょいひょい出る。私がこの子の何かを見抜いて、何処かを信頼しているわけではありませんでは無いのに、心を許そうとしていた。

──仕方ないと思う。普通の人間は、こんな『特別』に耐えられない。

もしこの子が通り魔的なサムシングで、何の理由も無く人を殺して回る殺人鬼だったらどうしようも無いというのに。

 

「まっ、平和ボケって奴ですね!とてもいい事ですよ、ソレ」

 

「っ…」

 

「人間は常考えるものなんですよ、死ぬ様な目に遭おうとしていなければ、何もしていない自分は死ぬ筈が無いって。法と規律に守られた時代ならそれはより顕著です」

 

「──信号は誰が居なくても左右を確認し、凡その人から嫌われる事はしない。何かしらの順番を守ったり、人のモノを拾ってあげたり、些細な善行をしている限り理不尽な出来事に出会わないと」

 

自分に当てはまる事を言われると、思わず胸がギュッとなる。

誰にだって言語化されたくない心中があるというのに、凡百が抱く曖昧な感情をのうのうと口にされる。

 

人間、どれだけ善良に、幸福に務めてきても死ぬ時は死ぬ。事故で犠牲になった人達をテレビ越しに見れば誰でもそう言えても、自分が犠牲に含まれる瞬間の事は考えてもいないし、『どうして』と思うことだろう。

現に、私は今彼女の事を現実越しに見ていない。都合のいい幻か、空想か何かと思っていて、

 

「……」

 

「悪の組織……って、なんですか」

 

「ふむ。悩んだ末に出た言葉がそれなのは中々に素質がありますね…まぁ適当に選んだとはいえ、魔法少女に憧れを持っているのは確かでしょうし…教えてあげてもいいでしょう!」

 

「──適当?」

 

「ん、そうですよ」

 

「────」

 

「ふふっ…肩の力、抜けましたか?貴方は特別な使命を背負わせられる訳でも無く、運命が選んだ訳でもない。私が暑い中早く探し終われって思いながら見つけた人です」

 

「……は、はは、ありがとうございます…?」

 

「悪の組織が何かでしたね、ウチの組織では基本悪いことをいっぱいしようと思います。と言ってもしばらくの間は準備があるので入隊メンバーと友愛を深め、マニュアルでの訓練をしたり……その後にお昼のヒーローショーにも映せる健全な悪の組織活動をします!」

 

「なんか楽しそうですね……」

 

「楽しいと思いますよ!ウチのモットーは『願いの為に!』って感じなので、組織の目標が主体じゃなくて貴方達個人の判断に委ねてますし」

 

「───……」

 

──本当に、都合の良いこと極まりない幻だ。

一番触れられたくない場所をサラッと触れられた。私は、学校にテロリストが来てそれを自分が退治する妄想をした事がある、朝起きたら魔法が使えるようになってたり、唐突に力に目覚めたり。

そんな力がある筈が無いのにそんな妄想をするのは、特別でいたいけど責任は背負いたくないから。

 

唐突に天才になったとして特に私は何もしないだろうし、その『特別』の為に支払われる自分の中の何かを出し渋る。だから全部『唐突に』がつくシュチュエーションで、神様が適当に投げた石ころが当たった程度の、理由の無いもので良かった。

 

「適当…」

 

その言葉は、正に身勝手な自分を赦す言葉。

肩の力が抜ける、言われた通りに抜ける。相手が適当にやってきたのだから、自分も責任感無く選んでいいだろ、そう思い始める。

 

「…でも、私は───」

 

「魔法少女になれる、と言ったらどうでしょうか」

 

「───は」

 

「い……や、いや、いやいやいや!無理ですよ!?」

 

「『なれる』としたら、どうします?」

 

「彩音優花さん、もし、今すぐ魔法少女になれるとしたら──貴方は何を選びますか?」

 

「う」

 

なんて無頓着な一言だろう。人の心を何処においてきたのだ、よりにもよって適当に選んだ私に限って……私は、私は。

──私は、絶対に魔法少女になれない人間なのに、そんな甘い言葉を吐かないで欲しい。

 

「……」

 

「…………」

 

「………それ、は…悪の組織に入ったら……っていう話ですか…?」

 

「違います。なんの前触れも無く…唐突に、優花さんは魔法少女になれる。そうだとしたら、どうします」

 

「…………」

 

「──分かり、ません」

 

「ふむふむ」

 

「……それだけです」

 

「ふむ」

 

「…外、暑いですよね。お茶でも飲んでいきますか…?」

 

「頂きましょう!」

 

この子が魔法少女で、悪意を持って私の場所に現れたならともかく、本人申告ではあるが適当らしいし。

適当を理由にした人間はいつだって『それ以上』をする事は無い──と思う。私が勝手に思ってるだけだけど。

だから、今から急に私とお母さんを殺したりしないだろうし、それならお客さんとして迎えた方が早い。

 

「私としてはまだ話したいことがあるので、一旦玄関から失礼して…再度入らせて貰いますね。そちらの方が優花さんとしても都合が良さそうですし、お友達とでも言ってもらえれば助かります」

 

「……うん、それでお願いし───……消えた…」

 

──玄関のチャイムが鳴る。

私はそれを聞いて、お母さんが出る前に自分で迎えに行く。

 

「あら、こんな時間に…誰だろ…」

 

「それ私の高校の友達〜!ごめんお母さん、今から家に入れてもいい?」

 

「──勿論大丈夫!高校の友達?良かった〜、優花ずっと家で遊んでたから、てっきり……」

 

「はいはいどうせ友達はネットの中だけですよーっと…」

 

鍵を開け、チェーンを外して扉を開ける。

言っていた通り居たのは彼女で、先程とは随分と一般的な格好をしていた。神様みたいな白いシャツ一枚で降りてきた時とは違い、夏用のワンビースと麦わら帽子を被った彼女は、神秘的な雰囲気も相まってちびっ子い八尺様かと思わせられる。

 

「失礼します!」と声を上げて部屋に入ってきた彼女にお母さんの視線が揺蕩う。友人の影1人見えない私が急にこんな美少女を連れてこればビックリする事だろう。

 

「…………いらっしゃい」

 

「あっつい日はやっぱり麦茶ですね!ウマー」

 

「なんでわざわざ友達関係にしたんですか…」

 

「それは──今から貴方に提案する事に関わりがありまして……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「──」

 

「お試し魔法少女??」

 

「はい!」

 

「─────」

 

「……最初から薄々感じてたんですけど、貴方のやり方って押しかけセールスみたいですね…!?無理矢理家に入って、怪しい勧誘をして!それで仕舞いにはお試しでいいからやってみてって……!」

 

「失礼な。雑草根性逞しいと言って貰えます?ウチの悪の組織はセールスだなんて安請け合い………ミーちゃんはしてるか…あんましてません!!」

 

「………」

 

「へ、へへっ、そんな目をしないで下さいよ優花さぁ〜ん…」

 

「自分から寄りに行ってどうするんです…」

 

──私は悔しい。

──あまりにも悔しい。悔しくて悔しくて堪らない。

──魔法少女になれると言って、一撃で堕とせない今の魔法少女の立ち位置がけしから情けないッ!!

 

もっと魔法少女になれる!と言われたら目をキラキラと輝かせて「わーい!!やったぁ!!!なる!!!!」ぐらいの勢いで承諾するでしょ??なんだコレは、何だこの有様は!!

くそぅ、現代社会はここまで人の心から魔法少女への憧れを奪い去ったのか!!

 

「夕方、毎日この時間程度に来て貴方を連れ出します。その時に魔法少女として活動してみるんです……あ、時間は何時でも大丈夫ですけど」

 

辛いなー…分かってたけど、魔法少女ってやっぱり今『この程度』なんだよね……。

分かってたよ、はいはい分かってます、分かってても腹立つよ。ぐぅぅぅぅぐぎぎぎぎぎ……。

 

「どうでしょうか!入隊も仮入隊という事で…部活代わりに!」

 

「……部活…代わりに…」

 

「はい、部活代わりでいいですよ?」

 

なんでも出来るからといって、何でもしようとは思わない。

それが私のスタンスで、モチベーションとは何よりも重要視させるもの。だからこそ、避けて通れない現代社会の課題がある。

 

──魔法少女は社会に寄り過ぎた。

 

魔法少女は職業じゃない、魔法少女は魔法少女!……そう思ってる人間なんて今は1人もいないしさ。だからこそ私、頑張らなきゃなんだよね。

夢を、希望を取り戻す。この現代の病を治療してみせる。

 

不純の無い憧れを、大人になっても持ち続けてもいいように。

願いを!現実に阻まれないように!

 

「……」

 

「うーん……」

 

「………」

 

「まぁ…」

 

「やってみても……?」

 

「──やったぁ!!ありがとうございます優花さん!!」

 

 

──いわば、優花さんとの会話は私への試練でもある。

 

私は共感が出来ない、人間性が無い。それは魔法少女だからという話では無く、『長く生きすぎた』。歴史の本に載ってる年齢よりはずっと、沢山生きてしまっている。

 

長く生きればどうなるか、それは『慣れる』のだ。生きる事に、刺激に、何もかもに慣れる。するとあらゆる出来事に『共感』が出来なくなる。

 

肉体は劣化せずとも精神は劣化し、衰える。魔法ではどうにも出来ない『慣れ』という老化が、人間性の喪失となって現れる。

 

そんな私が、現代の病を抱えた少女を、現代なら誰でも持ってる普通の病を治療出来るかどうか。

 

 

「私は魔法少女です、優花さん」

 

「……?そ、そうですね」

 

「必ずや!優花さんに輝かしい魔法少女ライフを、魔法少女として約束しましょう!!」

 

 

──だから。

 

だから、このままじゃ駄目。ダメダメの、ダメダメダメダメ。

何でも出来ても、何でもかんでもやりたくなる訳じゃない、何でも出来ると言っても、この程度の約束を必ず叶えられるかどうかも分からない。

 

最強の魔法少女は、たった1人の人間に為す術が無いんだ。

 

 

「優花さん!貴方の願いは、必ず叶いますよ!!」

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