戦は、いつも突然やってくる。
それは、相手がいつ攻めてくるか分からない、という意味でもあるし、
「家族が死ぬ」なんて現実も、ある日、ふいに叩きつけられる。
次男カエデと三男ヒズマは、同じ日に死んだ。
特にカエデは、千手一族の大人たちに囲まれて――。
まだほんの子供だったのに。
まだ、ちゃんと火遁も完成していなかったのに。
訓練用の刀を持って、緊張で手を震わせていたその子が――。
その報せを受けた私は、もう泣かなかった。
感情が麻痺していたわけじゃない。
ただ、もう分かっていたのだ。
(これが、この時代)
私は10歳。
でも、“生きる”ということの重さを、ようやく理解し始めていた。
「姉さん……」
その声に振り向けば、イズナが立っていた。
まだ、頬に血がついている。腕にも擦り傷があった。
初陣だったのに、あの子は二人の兄を同時に失った。
イズナは小さく震えていた。
私は何も言わず、彼の肩を抱いた。
細い身体が、自分よりずっと小さく感じた。
(この子まで、失うわけにはいかない)
「イズナ……私たちは、生き残るよ」
震える彼の背中を、そっと撫でた。
「姉さん……」
その時の私は、ただ必死だった。
大人ぶる余裕なんてなくて、でも、誰かが支えなきゃと勝手に思って――。
心の中で、そっと手を合わせた。
(来世では、戦のない地に生まれて。お菓子の話だけして、平和に暮らしてね)
•
それからの私は、なんとなく歩いていた。
うちはの集落を抜けて、川沿いの岩場に登って。
例の“現実逃避”スポットに座り込んで、空を見上げた。
「……あの雲、ラピュタありそうだな……」
現代だったら確実にツイートしてたね、これ。
#雲にラピュタ発見 #見ろ、人がゴミのようだ って。
はは……って、何笑ってるんだ、私。
目の奥がちょっと熱くて、でも泣けなくて。
だから、空をずっと見ていた。
(戦って……どうやったら終わるんだっけ)
現代日本の記憶が、ふっと蘇る。
第二次世界大戦――枢軸国と連合国が戦って、結局ボッコボコにされて、原爆まで落とされて……。
そう、あの戦争が終わったのは「片方が完全に降伏したから」だった。
つまり、ここも?
(どちらかが、“完全に負ける”まで続くのか)
そう思ったら、もう吐き気すらした。
空を見ても、雲は優しくもなんともなくて、ただ流れているだけだった。
「……うちは一族マジ卍」
誰も聞いていないと思って呟いたそれは、なぜか心に少しだけ温かかった。
•
川から戻った私を待っていたのは、“お知らせ”だった。
「お前、戦に出ろ。そして次期族長として育てる。明日から男だ」
……はいぃ?
あれか、バグ?
聞き間違い? 夢? ドッキリ?
いや、そうじゃなかった。
マジだった。
「本人の意見は……?」と聞いたが、父の返答は、
「聞く必要はない」
うん、知ってた。
うちは、民主主義じゃない。
「じゃあ戦だけでなく、明日からお前男なって……えええええええ!」
いや、そんなんアリですか!? てか、なんで!? イズナじゃダメなの!?
「お前のほうが強いからだ」
即答かよ……。
(天才ってのも、つらい……っ!)
•
翌朝。
私は髪をバッサリ切られ、着物も男用になり、口調まで矯正されることになった。
(いやいやいや、あたしゃ女ですけど!?)
でも言っても無駄。
世界はすでに私を“男”として扱い始めていた。
そして、父の目の前で最後のひと言を叫んだ。
「うちは一族を民主主義に移行し、私の意見をちゃんとヒアリングした方が私の精神的にもうちは一族の皆さんにもいいお薬になると思います!」
……父、少し笑った気がする。
(あ、こいつ意外と元気だ)って顔してた。
あれ、笑ってるだけで何も返事せずにどこか行っちゃったんですけど、私の貴重な意見、鼻で笑いやがったなぁ!!
•
父の視点。
夜、誰もいない自室。
彼は、かつてマダラが書いた修行メモの紙を見つめていた。
小さな手で繰り返し練習した印の形が、紙の端にびっしりと書き込まれていた。
「……強くなったな、マダラ」
ぽつりと呟いた声は、誰にも届かない。
「本当は……本当は、出したくなどなかった」
一族の圧力。
“あれほどの才能を使わずにどうする”という重圧。
「すまない……守ってやれなかったな……」
誰にも見せない父の後悔が、今夜だけは、闇の中でそっと滲んでいた。
•
そして、マダラの心の声。
(まぁ、強くなるのも悪くないよ)
(でも今だけは……イズナのそばにいてやる)
(オレは……いや、“私は”……うちはマダラだ)
(どんな名前で呼ばれても、どんな役目を押しつけられても――)
(イズナと、オレ自身の未来だけは、守ってやる)
静かに、空を見上げる。
あの雲は……やっぱりラピュタっぽかった。
いつまでもラピュタネタ及びレボリューションネタをすらせていただきます。マダラさん、マジでうちは改革したがってるので。