水の音だけが静かに響いていた。
朝靄に包まれた川のほとり。空はまだ白み始めたばかりで、世界はまるで眠っているかのように静かだった。戦のない朝は……久しぶりだった。っていうか、もう戦とか全部やめて一生ここに住みたい。フフフ・・・、私は森のプリンセス、なんちって。
「うちは地区抜け出して川のほとりでぼーっとしてるだけの存在……なんか、それってちょっと憧れない?」
ぽつりと口にして、自分でも笑う。
私は今日も川の前に座っている。目の前には澄んだ水が流れ、遠くには雲が浮かんでいた。
ふと、その中の一つに目を奪われた。
しかし、私は言わないぞ、あの言葉は。
「……あの雲、ラピュタありそう」
はい、結局言いました。ところでだけど、ドーラの息子たちってパズーの未来の姿説らしいよ。昔のドーラとシータが似ていることからこの説割と濃厚だってばさ。あ、これはボルトでした。失敬失敬。
「ていうかラピュタのエンディング曲、戦争止める時に流せばみんな泣くんじゃね?」
馬鹿なことを考えてる自覚はある。
でも、そうでもしないと心が保たない。この世界は血と煙と叫び声にまみれてる。感情が疲れて、何も考えたくなくなる日だってある。
だが、何時までも変なことを考えて空を見上げてるのはやめだやめだ。
私は、石を拾って立ち上がる。水切りでもして暇を潰すか、と投げる。
ポチャンッ
ワンバウンドもせず、ただ川に向かって石を捨てただけという結果になった。…あれ?もしかして水切りの才能、ない?
あれから私は水切りをしに川へ何度も何度も通いつめた。もちろん相変わらず変なことを考えるし、前世の戦を思い出し、止め方を模索している。最近気づいたのは、手裏剣の要領でやると2、3回ぐらい水の上を跳ねるが川の向こう岸までは届かない。
「クソ、次こそ向こう岸に…」
再び投げようとすると後ろから石が飛んできて、川の上を綺麗に走り、向こう岸に届いた。
「気持ち少し上に投げる感じに、コツとしては」
背後から声がした。
振り返れば、黒髪のおかっぱ、そこそこ年は近いであろう少年が立っていた。
……なんか、髪型ワカメちゃんっぽいな。いや、ポジティブに例えるならリヴァイ兵長。
「そんなこと…わかってる。俺が本気出せば届くさ。」
ふと、ワカメちゃん風少年が見ず知らずのやつであることに気づく。
「つーか、お前、誰だ?」
「今、この時点では水切りのライバルってところか…俺は届いたけど。」
ブチ切れた。私はマイルドに誰やねんと優しく聞いてるのに煽ってきやがった。
「誰だって聞いてんだコラ!!」
「名は柱間…。姓は訳あって言えんぞ…。」
それは、どこかのお家の忍びですと名乗ってるようなものに聞こえるが……待て、こいつが柱間か。
NARUTO世界の初代火影、そして、原作ではうちはマダラの友であったもの。意図せずに私は原作マダラと同じように柱間との出会ったようだ。なんだかやり取りもほぼ原作っぽいぞ。
「……まあいい、柱間だな。よく見てろ、次はいけっから」
先程言ってた柱間の助言を意識して石をとばす。しかし、3度ほどはねたら、沈んでしまった。場が沈黙し、後ろからじーっと私のことを見る目がふたつ。
「てめぇ、俺の後ろに立ってわざと気を散らしたな!」
何故か彼と喋るのを楽しんでる自分がいる。しかし、失敗して、後ろからの視線に耐えられず、彼に言い訳を述べる。
「ご、ごめん…」
まるでズーンという効果音が見えるほどに落ち込むので、つい「わ、悪かったよ。言い訳して」と謝るが、「知らなかったから…、お前にそんなウザイ自覚症状があるなんて…」と言ってきた。
なんだコイツ、初めて会うタイプの人間だ。すぐ落ち込むくせに何やかんや人の心を傷つけていくスタイル、薔薇かよ。
あまりにも何回も落ち込んで私のハートを傷つけるので「もうどっか行け!」と言ったら本当にとぼとぼと行こうとしたので引き止める。
その事に「どっちぞ?」なんて聞いてくる。押すなよって言われたら押すのと同じ意味だろ。このノリは。
あ、この時代の人は知らないんだった。
柱間がこちらへ振り向くと、川の方へ飛んだ。そして、チャクラコントロールをして、川の上を走り、流されてきた死体の元へ駆け寄る。
「ここはもう戦場になるぞ。もう帰れ」
遠目からしか見えないからおそらくとしか言えないが、あれは少し前に共に戦った羽衣一族…。私も戻った方がいいな。
「じゃあな、えっと…」
そうか、まだこちらから名を名乗ってなかったっけ。
「マダラだ。姓を見ず知らずの相手に口にしねえのが忍びの掟だ」
――まさか、ワカメちゃんと水切りをする日が来るとは。前世の自分に教えてやりたい。
それが、“始まり”だった。
水切りの数を競い合い、互いに石を投げ合い(危ない)、少しずつ、でも確かに「言葉」を交わすようになっていった。
ある日は、崖をよじ登った。その途中で、彼がふと言った。
「ここに俺たちの集落を作ろう!その集落は子供が殺し合わなくていいようにする!!」
その言葉は、私の胸にまっすぐ届いた。
そうだ、私も、それを望んでいた。
マダラとしても、前世の“私”としても。
でも――
この関係がいつまでも続くとは思ってなかった。
わかってた。どこかで、終わりが来るって。
その日は、まずいつものように水切りをする。向こう岸から投げられた柱間の石を掴み、手元に持ってきて見る。
罠アリ去レ
まさかあいつも同じなのか!?適当な言い訳をしてすぐにその場を去る。
その直後だった。
先程居た川にお互いの族長と弟が戦いを始めたのである
一瞬で、川辺の平穏が殺気に染まった。
「「やめろッ!!」」
私と柱間が、同時に叫んだ。
だが、遅かった。
既に族長、弟同士で戦いを始めてしまっている。その時、お互いの族長が相手の子供に刃を投げたのである。俺と柱間は手にしていた石をそれに向けて投げる。そして、弟の前で構える。
「弟を…傷つけようとするやつは誰だろうと許せねえ!!」
このままでは戦いがさらに激化する。私と柱間の力量には差があることを話さなくちゃならない。
「…どうだ、行けるか?マダラ」
「いや、柱間は俺よりも強い。このままやればこっちが負ける」
イズナは兄さんよりも強い子供が…?と驚いているようだ。
「じゃあな」
あいつとは同じ夢を見たかった。だが、この状態では今は叶わない。これからは耐え忍ぶ戦いをしなければならない。何年でも、何十年経とうとも。
「マダラお前、諦めちゃいねーよな!お前は俺と同じ…!」
「……俺の兄弟は、千手に殺された。そして、お前の兄弟はうちはに殺された。次は、戦場で会うことになるだろうぜ、千手柱間」
「俺は……うちはマダラだ」
その瞬間、視界に赤い光が走った。
世界が変わった。
草の一つひとつが、葉の裏の水滴までが鮮明に見えた。柱間の表情、イズナの瞳、全てが焼きつくように視界に入り込んできた。
(……写輪眼)
自分でもわかる。この瞳は、ただの視覚能力じゃない。
感情と、決意と、未来への誓いが宿っている。
父が小さく頷いたのが見えた。
「千手の情報は手に入らなかったが代わりにこちらはいいものを手に入れられたようだ」
父の言葉をよく聞かず、すぐにその場を去った。
これから私と柱間は、川ではなく、血の泥濘で再会する。
水切りではなく、火遁と剣戟で語り合うようになった。
⸻
(あの頃の俺は、馬鹿だったのかもしれない)
雲を見上げてラピュタを探していた少女――いや、もう少女と呼ばれる器じゃない。
俺は戦場の最前線に立ち、部下の生死を背負い、敵の視線を真正面から受け止めている。
たぶん、もうあの雲の向こうにラピュタなんてない。
それでも、柱間の言葉が、今も耳に残って離れない。
「俺たちのような子供が、命を落とさずに済む里作りを――」
(……ああ、俺は、あの夢に乗ったんだ。)
(…だが、俺たちはもう子供じゃねぇんだよ、柱間)
⸻
千手とぶつかるたびに、俺は思う。
この戦を、本当に止められるのか?
戦場で命を失っていく者たちの顔を見て、俺は何を選べばいいのか?
そんな悩みに耽っていると、横から声がした。
「兄さん、どうかしたのか?」
イズナだった。
いつの間にか隣に来ていて、同じように空を見上げていた。
「いや……ちょっと、な。昔のことを思い出してた」
「……あの柱間ってやつのこと?」
図星だった。
だが、俺は返事をしない。
代わりに、川辺の石を一つ拾って投げた。
音もなく、水面に沈んでいった。
もう、あの頃みたいに跳ね返ることはないらしい。
⸻
数日後。
戦場にて、激しい交戦が続いていた。
俺は既に前線指揮を任されるようになっていたが、最近はどこか様子が変だ。
仲間たちの士気が落ちている。
斥候の情報によると、敵の動きが妙に早く、裏をかかれることが多くなっていた。
(……おかしい)
いや、違う。
それは俺の勘違いじゃなかった。
「族長が討たれた」との報せが入ったのは、その翌朝だった。
⸻
「――父上が……?」
報せを受けた瞬間、俺は耳を疑った。
静かな朝だった。
焚火の音がかすかに残る程度の穏やかな時間。
なのに、全てが音を失ったような錯覚に陥った。
「敵の伏兵にやられたと……」
誰かが言った。
だが、そんなのどうでもよかった。
それよりも、最後に交わした言葉が何だったか思い出そうとして――出てこない。
(父上……)
思えば、あの人はずっと俺に厳しかった。
女だから戦には向かないと怒鳴った日もあった。
髪を切られ、名前を捨て、うちはを背負えと命じた。
それでも……俺は、嫌いになれなかった。
不器用だったが、確かに俺を「一族の未来」として見てくれていた。
(父上……最後まで……俺に何も言わず……)
涙が出なかった。
いや、出せなかった。
哀しみよりも先に、心に火がついた。
⸻
「兄さん……その目……」
イズナが、俺の顔を見て息を呑んだ。
瞬間、視界が赤く染まる。
血のように赤い、燃えるような光景。
音までも、視線一つで感じ取れるような錯覚。
写輪眼――いや、違う。これはもう一段上の。
「……万華鏡写輪眼……」
呟いたその言葉の意味を、俺は本能で理解していた。
ただの進化ではない。
喪失によって拓かれた、深淵の視界。
⸻
「……兄さん。」
イズナが問おうとした問いかけに、俺は小さく首を振った。
「泣けねえよ。まだ……終わってないから」
「……そっか」
「俺が泣くのは……全部終わった時だ。いつになるかは分からねぇけどな」
イズナが静かに頷く。
俺たちは、また一人になった。
弟を二人、兄を一人、父を一人。
奪われて、それでもまだ“戦”をしろと言うのか。
(これ以上……何を奪う気だ)
⸻
俺の中に、明確な憎しみが芽生えていた。
忍び世界の残酷さに。
そして同時に、柱間との記憶がふと浮かぶ。
「お前となら……作れると思った、世界を」
(……柱間、俺は耐え忍ぶぞ)
「忍びとは耐え忍ぶものだ」
この憎しみなど平和な世の為なら…