朝焼け。
里を包む山の端から、陽が顔を出し始めた頃――
うちは家では、すでに炊事の匂いが漂っていた。
「……味噌、ちょっと甘すぎたかも。でももう戻せない……!」
畳の上に正座していたのは、白割烹着姿の少女・うちはマダラ。
眉間にしわを寄せ、真剣な面持ちで湯気立つ味噌汁鍋を見つめている。
(女は家を守る。それがこの家の、そしてこの里の決まりごと。なら私は……今日の味噌汁で、この家の胃袋を守らねばならぬ)
「……これぞ、“胃袋結界の術”!」
などとひとりごちていたが、冷静になってから「いや、違うわ、術じゃないわこれ」と自分でツッコんだ。
それが、マダラという少女である。
“うちはの娘”であり、“マダラ姉ちゃん”であり、“忍びの家の女であることを全うする人”である。
(戦のこと? うーん……男たちの仕事って感じ? なんかみんなやたら血とか泥とかつけて帰ってくるけど、正直よくわかんなーい)
それより味噌汁。大事なのは、味噌汁。
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その時、まだ布団の中にいた弟のひとり、カエデがのっそりと台所に顔を出した。
「……姉ちゃん、早……。てかもう起きてんの? 太陽より早くない?」
「太陽が出る前に家の柱を立てるのが、女の心意気ってもんよ」
「……今のは名言っぽいけど、煮物かき混ぜながら言うと説得力落ちるな」
「黙って。今日の煮物、昨日の“悲劇の人参”のリベンジ戦なの」
「“悲劇の人参”……?」
「煮すぎて歯茎で切れるレベルになったの。もはや栄養ゼロ。ほぼ飲み物」
「たしかに昨日の人参、スープみたいだったもんな……」
マダラはお玉を握る手に力を込めた。
「今日はそうはさせない……今日こそ!煮物に勝つッ!」
「やめて、姉ちゃんの言葉、忍の報告書のノリだから怖い!」
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しばらくして、ガラッと音を立てて襖が開いた。
「……おぉ……今日も煮物が香る……うちは家の朝って感じがする……」
やってきたのは三男・ヒズマ。
元気いっぱい、朝から声量MAX、家の騒音担当。
「おなか空いたー! 朝から全力で食う気満々だから!」
「はいはい。今日はね、卵焼きも形になったし、味噌汁は“戦える味”よ」
「なんか戦とか言ってるけど、姉ちゃん戦場知らんでしょ?」
「知らんけど! 味覚の戦場はここにあるの!」
「語彙が重すぎるのよ姉ちゃん!」
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さらに末っ子・イズナがしずしずと現れた。
髪はまだ少し寝ぐせがついているが、彼は何も言わず、おとなしく水をくみに行った。
「イズナはほんとえらいなー。姉ちゃん、助かるわぁ」
「姉さんが、いつも朝を整えてくれるから……」
「ちょ……尊ッ!? その言葉だけで味噌汁三杯いけるッ!?」
「……姉ちゃん、そろそろ味噌で頭やられてきてない?」
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そして最後に現れるのは、当然――長男、うちはハリマ。
襖が静かに開き、ぴしっと整った髪と衣をまとった青年が一歩、また一歩と入ってくる。
「朝餉の支度は?」
「万全です。煮物は勝利。味噌汁は覚醒。卵焼きは神の領域」
「その説明でよく通じると思ったな?」
「通じてるから問題ないです」
「強いな、お前……」
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マダラはちゃぶ台の上に料理を並べ、皆が座るのを見届けると、最後に炊きたての白米を手渡した。
「いただきまーす!」
「……いただきます」
「ごちそう、姉ちゃん!」
「はぁ……今日も胃袋が救われる……」
マダラは、そんな弟たちの言葉に胸を張る。
戦場ではない。
でも、ここには守るべき場所がある。
それが、うちはマダラの“いまの役目”だった。
(次はおやつの仕込みね……今のうちに白玉粉をふるいにかけておこう)
戦は知らぬが、団子の硬さにはうるさい。
それが、姉という職業。
ちゃぶ台の上には、まばゆいほどに空っぽになった器たち。
完食の証。それはうちはマダラにとって、最大の戦果だった。
「……ふふ。煮物、勝ったわ……!」
「……姉ちゃん、今日いちいち戦ってない?」
三男・ヒズマがぽそっと突っ込むが、マダラの満足げな笑顔は止まらない。
「ふっふっふ……火加減、塩加減、煮崩れ……すべてに打ち勝った女、それがわたし」
「なあ姉ちゃん、それって“女として勝った”って意味でいいのか?」
「違う。『大根に勝った』って意味。敵は大根だった」
「いやもうちょっと壮大な目標で生きようよ……!」
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そのとき、静かにお椀を置いた長男・ハリマが言った。
「……味噌汁、煮物、卵焼き。すべて、申し分ないな」
「本当!? やった、兄上に褒められたー!」
「ただし、語彙がいちいち戦闘的すぎる。味噌汁に勝利とか言うな」
「でも兄上、わたしにとってはこれが“日々の戦”なんです」
「だとしても、味噌汁とガチバトルしてるのはおかしい」
「味噌汁に甘く見られたら家庭は崩壊しますからね?」
「誰の理論だそれ……」
マダラは胸を張って、お玉を構える。
もはやそれは槍のような構えだった。
「我が家の台所は、敵を寄せつけぬ陣地なり……!」
「姉ちゃん、それもう台所じゃなくて砦だよ」
⸻
その隣では、末弟・イズナが静かに箸を持ちながらぽつり。
「姉さんの料理があると……安心する」
「……イズナ……尊ッ……! その言葉、刺さるゥ……!」
「刺さってるの姉ちゃんだけじゃない? 俺はもう胃袋に刺さってる」
「うまいこと言ったつもりだろうけど、食レポ芸人っぽいぞカエデ」
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全員が食べ終わり、後片付けに向かうマダラ。
割烹着の袖をまくり、盆を抱えて台所に戻る後ろ姿は、まさに「姉力」のかたまり。
すると、後方からヒズマがぽつり。
「……なあ。姉ちゃんがいなくなったら、俺たち朝どうなるんだろうな……」
「やめてヒズマ、突然不吉なこと言わないで」
カエデが箸を握りながら苦笑い。
「だってさ……姉ちゃん、料理のレベル異常だし……。この朝ごはんがなくなったら、俺たち、もう……」
「死ぬ?」
「死ぬね。確実に」
「やめろ。フラグ立てるな」
ハリマが静かに言った。が、目はどこか真剣だった。
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一方そのころ、マダラはというと――
台所で洗い物をしていた。黙々と、黙々と。
(煮物の汁って、器のふちにへばりつくの、どうして……? わたし悪くないよね?)
そうやって煮物の汁と“再戦”していると、ふすまの向こうからヒズマの声。
「ねー姉ちゃーん! 火遁で皿、乾かせるー!?」
「やらんわ!! 鍋が焦げるわ!!」
「でもその火、火遁で炙ったって言ってたじゃん!?」
「炙り鮭はセーフ。皿はアウト。常識で考えて」
「じゃあ常識って何?」
「まずその質問から脱して来なさい」
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洗い終えたマダラが居間に戻ると、弟たちはちゃぶ台の上でごろごろしながら団子の残りをつついていた。
「……あ、姉ちゃん。これから忍具の手入れするんでしょ?」
「うん。兄上に教わった通り、月初めは全部点検」
「なんかさぁ、それ、普通は戦に出る人がする仕事なんだけど」
「戦場には出ないけど、後ろから支えるのがわたしの役目。つまり、忍具の状態は私次第ってね」
「つまり……姉さんはうちは一族の忍具の生命線……!」
「私、忍具磨いてますって言ったらモテる?」
「いや、モテない」
「お前ら、姉の評価が軽すぎない!?」
「でも姉ちゃん、黙ってると美人でクールで優しそうなんだよね」
ヒズマが真顔で言う。
「そう。黙ってると、ね」
イズナが隣で頷いた。
「だからさ、しゃべると……うん」
「うん?」
「全部台無しだよね」
全員の声が重なった。
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マダラは大きく深呼吸し、ふぅ……と息を吐いた。
「わたし……頑張ってるのに……!」
「頑張ってるのはみんな知ってるよー。だからこそ面白いんだって」
「うぅ……兄上はわたしのこと、真面目って褒めてくれたもん……!」
「そりゃ兄上は、姉さんのこと“家の主婦”として見てるからね」
「誰が主婦だー!」
⸻
そして、ふと。マダラは空を見上げる。
雲ひとつない、静かな朝。
戦は知らない。
争いも遠い話。
けれど、今日も家を守っている。マダラなりのやり方で。
洗い物、終わり。
忍具の点検、完了。
煮物の勝率、100%。
本日もうちは家は平和である。
「よし、団子。次は団子だわ……」
割烹着姿のまま気合を入れるマダラ。
その背中はすでに、職人のそれだった。
炊事場に立つ手元には白玉粉、砂糖、食紅。今日のターゲットは「三色団子」。
と、その時――
「マダラちゃーん!」
「おっはよーっ!」
パタパタと駆けてくる二人の影。
女友達、マナミとユズリハである。
⸻
「ふたりとも、今日はどうしたの?」
「どうしたのって、マダラちゃんが“朝から団子仕込む”って昨日言ってたじゃん!」
マナミはうきうき顔で手を振りながら部屋に上がり込んだ。
「そうそう。あたしたち、女子会って聞いて、お化粧もしてきたよ」
ユズリハは涼しい顔で言う。唇がほんのり桜色。
「……女子会……あっ、そうだった! 忘れてた!! 団子の仕込みで頭がいっぱいだった……!」
「もう〜、女子会>団子でしょ普通は〜」
「私としては、団子>生命線なのよ……!」
「いや生命線勝てや」
⸻
三人はちゃぶ台を囲むようにして腰を下ろす。
マナミとユズリハは慣れたように茶を淹れ、マダラは白玉を丸めながら語りだす。
「今朝も卵焼き成功したのよ。やっぱり火加減ね、火加減!」
「ふふっ、さすがマダラちゃん。そういうとこ真面目で好き」
「えっ、マナミ、それ告白? え、今、告白された!?」
「違うからね!? “女の子として好き”って意味だからね!? 変な期待しないで!?」
「でも、わたしが男だったら? ……ちょっとイケメンだったら?」
「……中身がそのままなら、やっぱりやめとくかな♡」
「ひどい!!」
⸻
「でもマダラちゃんって、ほんとモテると思うんだよね」
ユズリハがのほほんと語り出す。
「……中身がバレなければね?」
「うん、中身がバレなければ、女子人気すごそう」
「うんうん、バレなければね〜!」
マダラは白玉を丸めながら、眉をひくひくさせた。
「ちょっとぉ!? あんたたち!? わたしの“中身”ってそんなにダメ!?」
「うーん、変。うん、変」
「でも尊敬してるよ? 家事スキル高いし、生活整ってるし、あと料理は間違いなく最強」
「ただ……口を開くと、こう……戦場か台所か、どっちかの話しかしないのよね」
「え、だって大事じゃん」
「そうだけど! もっと恋とか、おしゃれとか、語ろうよ!? 女の子同士だよ!?」
「うぅ……兄上のために毎朝味噌汁を鍋三回分炊く女は……ここにいるのに……」
「その努力方向がもう嫁っていうより“忠義の侍女”なんよ」
⸻
マナミはくすくす笑いながら、マダラの膝にごろんと頭を乗せた。
「でも好きだよ、そういうとこも。なんか……健気で」
「お、おお……近い! なんか距離感が女子校っぽい!」
「なにそれ」
「いや……ふたりにそうやって甘えられると……なんか、嬉しいというか……照れるというか……」
「ふふっ、そういう反応するところが、マダラちゃんらしいよね」
ユズリハが言った。
「うん。その“中身がちょっとズレてるとこ”が、一番好きかも」
「ね、マナミ?」
「だね。最初、“うちはマダラ様! カッコいい!”って思ってたのに……」
「話してみたら、“味噌汁マスターの変な子”だった」
「ひどい!! でも事実否定できないのがつらい!!」
⸻
その後、団子が完成し、三人で縁側に並んでほおばった。
「……うん、この甘さ、春って感じするわ〜」
「今日も平和だね〜」
「家事、頑張ってよかった……」
戦も遠く、争いも知らず。
女たちの平和な日常は、今日も団子の甘さで満たされていく。
そして、マダラは思うのだった。
(わたしはたぶん、このまま“ちょっと変な女の子”でいいのかもしれない……)
団子を食べ終えて、女子会トークもひと段落と思いきや
「マダラちゃんさぁ、もしイケメンだったらって、さっき言ってたじゃん?」
「うん。ちょっとイケメンだったら……って」
マナミがそう言うと、マダラはふと立ち上がり、手を合わせた。
「じゃあさ――」
いたずらっ子のような笑みを浮かべながら、手を合わせる。
「変化の術」
ぼんっ
白煙が立ち昇り、次の瞬間――
そこに現れたのは、
原作・うちはマダラ(幼少期)。
鋭くも凛々しい眼差し、表情は引き締まり、気配は静かに沈んでいる
マダラ(変化Ver.)は、すっと立ち上がる。
空を見上げるようにして、ぽつりとつぶやく。
「……ふん、ちゃんとできたみてーだな」
声が低くなっている。口調も少し荒っぽい。
2人は一瞬で言葉を失った。
(え、なに……えっ、誰……)
(声が、見た目が……顔が、ちょっと、ドキドキ……)
「え、マダラ……ちゃん……?」
「“ちゃん”って言うなよ。今は“俺”だろ」
きっぱり言いながらも、ちょっとだけ目をそらして照れているのが分かる。
(な、なにこれ、かわ……)
(あ、でも顔は……顔はイケメン……)
「おい、マナミ、髪ほつれてんぞ。ほら……」
少年マダラは、ぎこちなく自分の袖でマナミの髪の先をはらおうとする。が、思いっきり顔に手がぶつかった。
「わっ、ご、ごめ……」
「いったぁ……何? 何しようとしたの?」
「虫がいた」
嘘だ。
「いないし。てか嘘ヘタすぎ」
「うるせぇ……」
顔をそむけて耳まで赤い。
(あ~~~なんかもう~~~)
(慣れてない感じがまた可愛いし……!)
「ユズリハ、飲み物まだあんのか?」
「え? あ、うん。……ちょっとぬるいかも」
「俺の冷えてるのと交換な」
「……え? あ……ありがとう……」
ただし、手渡しではなく、投げてよこすという雑な方式。
「ぶっきらぼうすぎる……でも……優しい……」
「この感じ、絶妙にずるくない……!?」
川辺を少し外れた場所に、小さな段差がある。
そこを歩いていたときだった。
「わっ、あぶ……」
足元を滑らせかけたユズリハの手を、反射的に、少年マダラがぐっとつかんだ。
「おいっ、気をつけ……って!」
その勢いのまま、自分のバランスも崩して、ズザァッとすっころぶ。
ぐしゃ。
「……いってぇ……」
「え、え、だいじょぶ!?」
「……お前が怪我してねぇなら、それでいい」
「……」
その一言だけ言って、むくっと立ち上がる。
肘にちょっと土がついているのを、袖でごしごし拭って、そっぽを向いた。
マナミが思わずつぶやく。
「……え、なにあれ……不器用だけど守ってくれるやつじゃん……」
「うわ、あれ本当に中身マダラちゃん……?」
「ほんと、なんでそれだけ自然にできるの……」
「おい。そんなジロジロ見んな。」
ユズリハがその言葉の威力に吹っ飛んだ。
「だって今の、完全に少女漫画のやつだったよ!?」
「少女漫画?そんな事ねぇよ」
「そんなことあるから!」
マダラは、首を傾げてこちらを見てきた。
その顔は、やっぱり整っていて。
まっすぐな目をして、口は不器用に閉じている。
「……なにその、不慣れなのに無意識で優しい感じ……」
「産まれてくる性別、間違えてない……?」
「間違えてる……完全に、間違えてるよ……」
2人とも、心の中で同時にそう思った。
しばらく川の石を跳ねさせて遊んだあと、少年マダラがぽつりとつぶやく。
「もういいだろ。……そろそろ、戻るわ」
「え、もう?」
「長くやってると疲れんだよ。姿も、声も、維持に力使うし」
マダラが軽く指を組んで、印を結ぶ。
「――解除」
⸻
ぽふっ
煙がふわりと立ちのぼり――
マダラは、元の割烹着姿に戻った。
「……ふたりとも、顔赤いけど大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょぉぉぉぉ!!」
「今日一日その姿でいたら、たぶん女子数人倒れるよ!? 校門の前で10人くらい気絶するよ!?」
「てか、わたしが危なかった!! ドキッとしたの!! 人生で初めて“惚れたかも”って一瞬思ったんだからね!!!」
「まじでやばかった……心臓の防御力が0だった……」
⸻
そしてその日の夜、マナミとユズリハは、それぞれ自宅の布団の中で――
「……あのマダラ、もう一回見たい」
と、思ってしまったのだった。
変化の術で完璧な“イケメン幼少期うちはマダラ”に変身した結果――
マナミとユズリハ、ふたり揃って撃沈。
その後、マダラがのほほんと団子を食べてる間、ふたりはちゃぶ台の影でヒソヒソ作戦会議を始めていた。
⸻
「なあユズリハ……このままじゃ私たち、ただの“落とされたモブ”じゃない?」
「うん。あんな顔で見つめられて、赤面して終わりとか……なんか、負けた感がすごい」
「しかも“もしオレが男だったら”って……あの言い方……」
「なにあのセリフ!? 漫画の中でしか聞いたことないよ!?」
ふたりはガッと手を取り合い、小さく頷く。
「よし、やろう」
「逆襲開始」
⸻
ふたりは何気ない顔を装ってちゃぶ台に戻ってきた。
マダラは団子を並べ直しており、完全に気を抜いている。
「ふぃー、変化の術ってやっぱ疲れるね……。よし、お茶のおかわりいれるねー」
その背後に、そっとマナミが近づく。
「ねぇ、マダラちゃん」
「ん?」
「さっきの……“マダラくん”が、私のこと見つめて言ったじゃん。“隣にいられたかな”って」
「う、うん。言ったかも?」
「……私は、“いてほしい”って思ったよ。ずっと、そばに。あの姿のままでも、今のままでも」
「――っ!?」
不意打ちの甘さに、マダラの手が止まる。
「え、あ、ちょ、マナミさん!?それ、リアルに言っちゃうやつ!?」
マナミはくすっと笑うと、マダラの耳元で囁いた。
「仕返し。さっきの分、少しは伝わった?」
マダラ、顔真っ赤。
⸻
と、そこにユズリハがスッとやってきて、無言で隣に座る。
「な、なに?ユズリハまで……」
「……マダラちゃん、ひとつ言いたいことがあるの」
「ひ、一つで済むかな!?」
ユズリハはまっすぐマダラの目を見つめ――
「中身が変なところも、火加減に命をかけるところも、残念な女子力も――」
「いや、そこ全部マイナスポイントやん!!」
「……その全部、私、わりと本気で好きだよ?」
「おっふ」
マダラ、白玉団子を喉に詰まらせるレベルの動揺。
マナミはそれを見て大爆笑、ユズリハはにこにこしている。
⸻
「く……くそぉ……なんで、わたしがやり返されてるの……!」
「ねぇ、次また“マダラくん”になったら、こっちもちゃんと返す準備できてるから」
「そうそう、だから次やるときは覚悟してね? “キス寸前まで行くから♡”」
「い、いかないで!?距離感が加速してるよ!?」
⸻
三人の笑い声が、もう一度縁側に響く。
戦のない日々。女子たちの、心臓が忙しい静かな午後。
次の変化の術が、再び誰かの心を撃ち抜くその日まで――
マダラちゃんは、今日も団子を丸め続けるのだった。