「お使い?」
「そうよ。ネオドミノシティに居る人にこれを届けてほしいの」
そう言い、母親はトーマに何かを渡す。それは工具セットだった。
「何で工具?」
「それが、前にコンロが壊れちゃったから修理をお願いしたの。でもうっかり忘れて帰っちゃって、届けようと思ったんだけど今日仕事だから行けないのよ」
「なるほど。分かった。その人の特徴は?」
そう聞くと、母親は自分の部屋に向かう。
数分後、部屋から戻ってきた母親が持っていたのは1枚のメモ用紙だ。
「確か、こんな感じの顔だったと思うわ」
渡されたメモに書かれているのは、
黄色いメッシュの入った逆立てた黒髪に整った顔立ちの男性だ。しかしよく見ると、メモで見ると右目の下に“マーカー”が刻まれている。
“マーカー”とは、セキュリティに逮捕された者たちが逃げる事が出来ないようにするために顔に刻印されるものだ。これからはセキュリティの追跡システムとリンクする信号が発せられる。
犯した罪の重さによってマーカーの長さも長くなる。長ければ長いほど重罪を犯した証拠になるのだ。
その男のマーカーは、右目の下目蓋から顔の右下まで伸びている。
「(マーカー付きか・・・関係ないけどな)OK。特徴は覚えた。行ってくるよ」
「気をつけてね。お金渡すから、お昼までに帰れそうになかったらあっちでご飯食べて」
母親はトーマに1万円を渡すと、トーマはそれを財布にしまい、ガレージにあるD・ホイール“ストライカー”に乗って出発した。
《出てきたよ。あのガキンチョだ》
「分かった。ありがと、アルフ」
《どうする?飛び出して潰すかい?》
「少しついて行ってみよ。あんまり急だと気付かれちゃうかもしれないし」
《OK。準備するよ》
そう言うと、フェイトは通信端末をしまい、近くに止めてある黒と黄塗りのD・ホイール“ヴィルキス”にまたがり、エンジンをかける。
「フェイトちゃん、大丈夫なの?」
突然、フェイトに声をかける者が現れる。しかし少し体の透けた天使のような人間だ。
背中に3対6枚の純白の羽根に同じく白い服装。下半身は前開きにロングスカートにミニスカートという変わった組み合わせだ。しかしその上半身の服装はどこかの制服を思わせる。両足の白い靴には、ピンク色の光の羽根が4枚ずつ生えている。
「大丈夫だよ“アイリス”、今度は負けない。アイリスがいるから」
「アイリスさんだけではありませんよ。私もいます」
別に声をかけてきたのは、【ガーディアン・エアトス】だ。
そう、この2人はフェイトの持つカードの精霊たちだ。
「うん!2人ともありがとう!」
《フェイト、そろそろ出発しよう。チンタラしてると見失っちまうよ》
「あ、そうだね。待ってて。すぐに準備するから」
そう言い残し、手早くデッキをまとめヴィルキスを発進させた。
出発して2時間、トーマは“ネオドミノシティ”に着いた。
この街は“ライディング・デュエルの聖地”として人気があり、世界各地のD・ホイーラーが集まる街だ。
この街では、ライディング・デュエル専用の“デュエルレーン”という物があり、その発展ぶりから大規模なライディング・デュエル大会“ワールド・ライディング・デュエル・グランプリ”、通称“WRGP”が開催された。
その影響は留まる事を知らず、今でもその人気は上昇傾向にある。
「着いたはいいけど、この人ごみの中からどうやって特定の1人を探せって言うんだ?」
「手当たり次第に探すしかありませんね」
トーマはあまりの人の多さに驚きを隠せない。ブレイブも同様の考えのようだ。
今、トーマは街を虱潰しに走りまわっている。
「?主、後ろに何者かが・・・」
「?」
ブレイブに注意を促され、モニターを点ける。そこには白を基調にしたD・ホイールが付いてきていた。そのボディには「SECURITY」というロゴが貼ってある。
要はセキュリティのD・ホイールだ。
(やっば・・・ウロウロしてたからか・・・?)
トーマは怪しまれる前にストライカーを停め、セキュリティの局員が来るのを待つ。ほどなくして局員のD・ホイールがすぐ横に停まる。
「おい、この辺じゃ見ねぇ顔だな。ライセンスはあんのか?」
局員らしき男がトーマに問い詰める。面倒なことになる前にトーマは財布からライセンスを出し提示する。
「・・・なるほどなぁ。アルトセイムから来てんのか。にしても、おめぇみてぇな坊主が何でこんなとこをウロついてんだ?」
「あ・・・実は、人探しをしてるんです」
「人探し?」
「はい・・・こんな感じの人で・・・」
トーマは局員にメモを渡す。そのメモを見た途端、男がにやついた。
「ほお・・・“あいつ”のおっかけか?」
「いえ・・・渡したいものが」
「OK。案内してやっからついてこい。俺は“
「あぁ、どうも。俺は御剣 トーマです」
「御剣な。じゃ、離れんじゃねぇぞ。拾ってやれねぇかんな?」
笑いながらそう言うと、牛尾と名乗った局員はD・ホイールを発進させ、トーマもその後に続く。
「ここだ。ここの74階の805号室に居るぜ」
案内された場所、そこはタワーマンションだった。
ネオドミノシティのような街ならこのような建築物は珍しくない。沿岸のアルトセイムにもこのようなタワーマンションが建っている。
「ありがとうございます!仕事中なのに・・・」
「いいって事よ!じゃあな坊主!」
牛尾はそのまま業務に戻って行った。トーマはマンションの中に入り、エレベーターで示された74回の805号室に向かう。
「でも、今更だけど、どんな人なんだろうな・・・?」
「会ってみなければ分かりませんね」
「緊張してもしょうがないよ」
「ニャー」
トーマの精霊たちはそれぞれ応援の言葉をかける(約1名は応援になっていないが)。
そして74階に着き、部屋を探す。ほどなくして示された805号室の前に着いた。
「ふぅ~・・・」
緊張を深い息でほぐし、インターホンを鳴らす。
ピンポ~ン♪
「?」
返事がない。留守だろうか?
しかしほどなくして足音らしい音が聞こえてくる。
ガチャ
「はい、どちら様ですか?」
出てきた人を見て、トーマは言葉を失う。
なぜならその人は・・・
「はっ初めまして!“
そう、今話題のデュエルキング“ジャック・アトラス”に並ぶデュエル会のスーパースター“不動 遊星”だったからだ。
まさか大スターに会えるとは思っていなかったのか、トーマの緊張は最高潮に達し、言葉を噛みまくっている。
「あ、主っ!お気を確かに!!」
「トーマ!落ち着いて!!」
トーマの精霊たちも主人のあまりの緊張ぶりに驚きを隠せない。
しかしその光景を見ている遊星は、「ふふ・・・」と小さく笑い言う。
「そう硬くならなくてもいい。普通にタメ口で構わない」
「で、ですが・・・」
「俺が良いと言っているんだ。そうしてくれると助かる」
「・・・分かった。じゃあ普通に呼ばせてもらうよ、“遊星”」
遊星の言葉にトーマはようやく落ち着きを取り戻した。
「で、何か用があってきたんだろ?」
「あぁそうだ。母さんにこれを返してきてほしいって」
そう言って、トーマは工具セットを遊星に渡す。
「これは・・・ありがとう。探していたところだったんだ」
「お礼なら母さんに言ってくれよ。見つけたのは母さんだから。じゃ、俺はこれで・・・」
「もう帰るのか?」
「あぁ。それを届けるのに来たんだ」
「まだ時間はあるだろう?上がっていかないか?大したもてなしはできないが・・・」
「・・・じゃあ、少し・・・」
こうしてトーマは遊星の自室に招かれた。
ついに出ました、原作主人公“不動 遊星”!!
ところで・・・自分の記憶が確かなら、GP編で遊星は歳は18か19でしたよね・・・って事はこの小説はGP編の5年後という設定だから・・・23か24ですかね。
さて、ここで会った主人公組!これからどんな展開があるのか!
余談ですが、トーマの“ストライカー”は“ハーレーダビットソン”というアメリカのバイク会社の「DYNA ワイドグライド」というバイクをモデルにしてます(分からない方はハーレーのホームページに掲載されていますので)。
フェイトの“ヴィルキス”は遊星のD・ホイールを「赤→黒、白→黄」に塗り替えた感じです。
では次回!