「お母さん、無自覚美人です」   作:松田義和

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第4話「母、無自覚に地場戦争を引き起こす」

それは、母がいつものように夕飯の買い物を終えて帰ってきた日のことだった。

 

「ただいま〜。今日もたくさんサービスされちゃったわ」

 

そう言って買い物袋をテーブルに広げると、

中にはいつものマグロのパックに加えて、

立派なサーモン、銀ダラ、さらには茹でタコまで。

 

「これ、買ったの?」

 

「違うのよ〜。魚屋さんが“いつもありがとう”って言って、どんどん入れてくれて」

 

魚屋のサービスっぷりは、すでに日常茶飯事。

最近じゃ“ほぼ魚屋スポンサー”状態で食卓が潤っている。

 

ところが、その翌日──

 

買い物帰りの母が、今度はやけに大きな袋を抱えて帰ってきた。

 

「ちょっと見てこれ、すごくない?」

 

袋の中には、立派なトマトが6個、

丸々としたナスに、柔らかそうなオクラの束、

さらに「幻のとうもろこし」と書かれたポップのついた白いとうもろこしまで!

 

「まさか全部買ったの!?」

 

「ううん。これ、八百屋さんが“うちも負けてられません”って言ってきて……」

 

どうやら噂を聞きつけた八百屋の店主が、

魚屋の“母への厚遇”に触発され、対抗心を燃やしたらしい。

 

「○○さん、魚ばっかりじゃ栄養偏りますよ!

今日は野菜で感動させますから!」

 

そう言って、レジを通す前に袋詰めを始めたという。

 

「そんなにサービスしてもらって、気まずくないの?」

 

「うーん……断っても“気持ちですから!”って。

でもほら、ちゃんと感謝の気持ち込めてるつもりよ」

 

そう言って微笑む母は、

例によってまったく“自覚”がない様子だった。

 

魚屋と八百屋の静かなバトルは、

いつの間にか、町内の買い物風景をちょっとだけ活気づけるものになっていた。

 

 

最近、我が家の夕飯が“鮮度重視”になってきている。

 

母が八百屋で新鮮なピーマンとトマトを手に入れ、

その足で魚屋でアジとイカを買い、

帰ってくると「見て見て、今日の戦利品〜!」と嬉しそうに並べる。

 

──まあ、ありがたい。

でも、その背景ではとんでもない火種がくすぶっていた。

 

発端は先週のこと。

母が八百屋からサービスの枝豆をもらって帰ってきた。

 

「○○さんにだけ、特別にって。今日は豆がいい出来だったんですって」

 

それをテーブルに並べた直後、今度は魚屋から届いた手提げ袋。

 

「これ、“また来てくださってうれしいです”って。イカのおまけだって!」

 

──ん?

同じ日に“特別扱い”が両方から?

しかも、「また」って……今日行ったばかりだよな?

 

その翌日、母が再び買い物に出かけたとき、

僕は偶然、商店街の曲がり角で“事件”を見てしまった。

 

母が魚屋で買い物を終えたあと、

八百屋の店主が声をかけてきた。

 

「○○さん、今日はうちの方が先だったら、もっといいキュウリあげられたのになぁ〜!」

 

母は笑いながら答える。

 

「あらやだ、順番まで気にしてくれてたの?」

 

──いやいやいや、これはただの順番の話じゃない。

 

その10分後、今度は魚屋の若店員が、母がいないタイミングで八百屋に顔を出し、

 

「○○さん、最近うちに寄ってくれる回数、増えてますよね?」

 

って、火花バチバチの一言を放ったのを僕は聞いてしまった。

 

両者の目線が合った瞬間、

そこには**“地元密着型恋の三角関係”**が静かに成立していた。

 

その夜。

 

母は何も知らず、キッチンでサラダと煮つけを作りながら、

 

「やっぱりああいう個人のお店っていいわね。おまけしてくれるし、優しいし」

 

──ちがう。

“おまけ”じゃなくて“求愛”だ。

“優しい”んじゃなくて“狙ってる”んだよ。

 

もはや母は、

魚屋と八百屋の間に芽生えた商店街内恋愛戦争の中心にいる。

 

「そういえば、どっちのお店の人も、最近“また来てくださいね”って何度も言うの。不思議ねぇ〜」

 

いや、それ**“また”の先に“商品”じゃなくて“母さん”が目当てだよ……。

 

 

 

 

 

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