「お母さん、無自覚美人です」   作:松田義和

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第5話「母、同級生にトキめかれる(かもしれない)」

その日、僕は学校から帰宅して、制服のままソファに沈んでいた。

プリント提出のことなんてすっかり頭から抜けていて、テレビを見ながらアイスを食べていた。

 

そんな時、スマホが震えた。

着信──仁志くん。クラスのイケメンだ。

 

「……もしもし?」

 

『おー○○、お前、今日の進路希望のプリント、持って帰るの忘れてただろ』

 

「あ、マジか……てか、なんでお前が?」

 

『たまたま職員室で見かけたらお前の名前あったから、先生に言われて預かった。で、今お前んちの近くなんだけど』

 

「え、いや、それ明日で──」

 

『ついでだし渡すわ。すぐ行く』

 

ああもう。

あいつ、妙にフットワーク軽いんだよな。

断るヒマもなく、電話は切れた。

 

僕は慌てて立ち上がって制服を整える。

できれば玄関先でさっさと受け取って終わらせたかった。

 

──けれど。

 

ピンポーン、とチャイムが鳴るより一歩早く、

「○○〜、誰か来たみたいよ〜」

と、母の声。

 

しまった。出られた。

 

僕が玄関に駆けつけた時にはすでに──

 

「まぁまぁ! わざわざありがとうねぇ」

母が、にこやかに出迎えていた。

 

エプロン姿。白いブラウスの袖をまくり、髪を後ろで軽く束ねた姿。

家庭的で、でもどこか“華”のある格好。

その姿に──仁志くんが完全にフリーズしていた。

 

「い、いえ、そんな……あの……プリント……これ……」

顔がほんのり赤い。いつもの仁志くんじゃない。

 

母はにっこり笑って、やさしく受け取った。

 

「わざわざありがとう。○○、こういうところだらしないのよねぇ」

と、僕の方をチラリ。

 

「……す、すみませんでした」

 

なぜか仁志くんが謝っている。

 

「お茶でも飲んでいく?」

 

母の一言に、僕は心臓が跳ねた。

が、仁志くんは「い、いえっ、大丈夫です!」とほぼ逃げるように退散。

 

母は「いい子ねぇ、ちょっと恥ずかしがり屋さんなのかしら」と首をかしげていた。

 

……母さん。違う。

あれは完全に“やられた”顔だった。

 

 

そして事件は数日後に再燃する。

 

昼休み、僕が机でパンを食べていると、仁志くんがすっと隣に座ってきた。

 

「なあ……○○んち、また行っていい?」

 

パンが喉につまる。

何も飲まずに言うなよ、そういうことは。

 

「……なんで?」

 

「いや……あの雰囲気っていうかさ、なんかこう……癒されるっていうか……」

 

「うち、癒し系じゃねーし」

 

「いや、なんかさ……○○のお母さん、やさしかったし」

 

やっぱりそう来たか。

 

「だーめ。二度と来んな」

 

「えー。なんでだよ、別に変なことするわけじゃ──」

 

「ダメだって言ってんだよ!!」

 

まさかクラスのイケメンから、

“母目的の訪問希望”が出るとは思わなかった。

母はまったく悪気がない。けれどその笑顔が、彼らには刺さるのだ。

 

それから僕は、毎日プリントを3回確認するようになった。

家に“母ファン”が増える前に、防衛体制を整える必要があるのだ。

 

 

 

 




番外編 「母、学校行事で仁志くんと再会してしまう」

その日、僕は学校から帰宅して、制服のままソファに沈んでいた。
プリント提出のことなんてすっかり頭から抜けていて、テレビを見ながらアイスを食べていた。

そんな時、スマホが震えた。
着信──仁志くん。クラスのイケメンだ。

「……もしもし?」

『おー○○、お前、今日の進路希望のプリント、持って帰るの忘れてただろ』

「あ、マジか……てか、なんでお前が?」

『たまたま職員室で見かけたらお前の名前あったから、先生に言われて預かった。で、今お前んちの近くなんだけど』

「え、いや、それ明日で──」

『ついでだし渡すわ。すぐ行く』

ああもう。
あいつ、妙にフットワーク軽いんだよな。
断るヒマもなく、電話は切れた。

僕は慌てて立ち上がって制服を整える。
できれば玄関先でさっさと受け取って終わらせたかった。

──けれど。

ピンポーン、とチャイムが鳴るより一歩早く、
「○○〜、誰か来たみたいよ〜」
と、母の声。

しまった。出られた。

僕が玄関に駆けつけた時にはすでに──

「まぁまぁ! わざわざありがとうねぇ」
母が、にこやかに出迎えていた。

エプロン姿。白いブラウスの袖をまくり、髪を後ろで軽く束ねた姿。
家庭的で、でもどこか“華”のある格好。
その姿に──仁志くんが完全にフリーズしていた。

「い、いえ、そんな……あの……プリント……これ……」
顔がほんのり赤い。いつもの仁志くんじゃない。

母はにっこり笑って、やさしく受け取った。

「わざわざありがとう。○○、こういうところだらしないのよねぇ」
と、僕の方をチラリ。

「……す、すみませんでした」

なぜか仁志くんが謝っている。

「お茶でも飲んでいく?」

母の一言に、僕は心臓が跳ねた。
が、仁志くんは「い、いえっ、大丈夫です!」とほぼ逃げるように退散。

母は「いい子ねぇ、ちょっと恥ずかしがり屋さんなのかしら」と首をかしげていた。

……母さん。違う。
あれは完全に“やられた”顔だった。



そして事件は数日後に再燃する。

昼休み、僕が机でパンを食べていると、仁志くんがすっと隣に座ってきた。

「なあ……○○んち、また行っていい?」

パンが喉につまる。
何も飲まずに言うなよ、そういうことは。

「……なんで?」

「いや……あの雰囲気っていうかさ、なんかこう……癒されるっていうか……」

「うち、癒し系じゃねーし」

「いや、なんかさ……○○のお母さん、やさしかったし」

やっぱりそう来たか。

「だーめ。二度と来んな」

「えー。なんでだよ、別に変なことするわけじゃ──」

「ダメだって言ってんだよ!!」

まさかクラスのイケメンから、
“母目的の訪問希望”が出るとは思わなかった。
母はまったく悪気がない。けれどその笑顔が、彼らには刺さるのだ。

それから僕は、毎日プリントを3回確認するようになった。
家に“母ファン”が増える前に、防衛体制を整える必要があるのだ。


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