その日、僕は学校から帰宅して、制服のままソファに沈んでいた。
プリント提出のことなんてすっかり頭から抜けていて、テレビを見ながらアイスを食べていた。
そんな時、スマホが震えた。
着信──仁志くん。クラスのイケメンだ。
「……もしもし?」
『おー○○、お前、今日の進路希望のプリント、持って帰るの忘れてただろ』
「あ、マジか……てか、なんでお前が?」
『たまたま職員室で見かけたらお前の名前あったから、先生に言われて預かった。で、今お前んちの近くなんだけど』
「え、いや、それ明日で──」
『ついでだし渡すわ。すぐ行く』
ああもう。
あいつ、妙にフットワーク軽いんだよな。
断るヒマもなく、電話は切れた。
僕は慌てて立ち上がって制服を整える。
できれば玄関先でさっさと受け取って終わらせたかった。
──けれど。
ピンポーン、とチャイムが鳴るより一歩早く、
「○○〜、誰か来たみたいよ〜」
と、母の声。
しまった。出られた。
僕が玄関に駆けつけた時にはすでに──
「まぁまぁ! わざわざありがとうねぇ」
母が、にこやかに出迎えていた。
エプロン姿。白いブラウスの袖をまくり、髪を後ろで軽く束ねた姿。
家庭的で、でもどこか“華”のある格好。
その姿に──仁志くんが完全にフリーズしていた。
「い、いえ、そんな……あの……プリント……これ……」
顔がほんのり赤い。いつもの仁志くんじゃない。
母はにっこり笑って、やさしく受け取った。
「わざわざありがとう。○○、こういうところだらしないのよねぇ」
と、僕の方をチラリ。
「……す、すみませんでした」
なぜか仁志くんが謝っている。
「お茶でも飲んでいく?」
母の一言に、僕は心臓が跳ねた。
が、仁志くんは「い、いえっ、大丈夫です!」とほぼ逃げるように退散。
母は「いい子ねぇ、ちょっと恥ずかしがり屋さんなのかしら」と首をかしげていた。
……母さん。違う。
あれは完全に“やられた”顔だった。
*
そして事件は数日後に再燃する。
昼休み、僕が机でパンを食べていると、仁志くんがすっと隣に座ってきた。
「なあ……○○んち、また行っていい?」
パンが喉につまる。
何も飲まずに言うなよ、そういうことは。
「……なんで?」
「いや……あの雰囲気っていうかさ、なんかこう……癒されるっていうか……」
「うち、癒し系じゃねーし」
「いや、なんかさ……○○のお母さん、やさしかったし」
やっぱりそう来たか。
「だーめ。二度と来んな」
「えー。なんでだよ、別に変なことするわけじゃ──」
「ダメだって言ってんだよ!!」
まさかクラスのイケメンから、
“母目的の訪問希望”が出るとは思わなかった。
母はまったく悪気がない。けれどその笑顔が、彼らには刺さるのだ。
それから僕は、毎日プリントを3回確認するようになった。
家に“母ファン”が増える前に、防衛体制を整える必要があるのだ。
番外編 「母、学校行事で仁志くんと再会してしまう」
その日、僕は学校から帰宅して、制服のままソファに沈んでいた。
プリント提出のことなんてすっかり頭から抜けていて、テレビを見ながらアイスを食べていた。
そんな時、スマホが震えた。
着信──仁志くん。クラスのイケメンだ。
「……もしもし?」
『おー○○、お前、今日の進路希望のプリント、持って帰るの忘れてただろ』
「あ、マジか……てか、なんでお前が?」
『たまたま職員室で見かけたらお前の名前あったから、先生に言われて預かった。で、今お前んちの近くなんだけど』
「え、いや、それ明日で──」
『ついでだし渡すわ。すぐ行く』
ああもう。
あいつ、妙にフットワーク軽いんだよな。
断るヒマもなく、電話は切れた。
僕は慌てて立ち上がって制服を整える。
できれば玄関先でさっさと受け取って終わらせたかった。
──けれど。
ピンポーン、とチャイムが鳴るより一歩早く、
「○○〜、誰か来たみたいよ〜」
と、母の声。
しまった。出られた。
僕が玄関に駆けつけた時にはすでに──
「まぁまぁ! わざわざありがとうねぇ」
母が、にこやかに出迎えていた。
エプロン姿。白いブラウスの袖をまくり、髪を後ろで軽く束ねた姿。
家庭的で、でもどこか“華”のある格好。
その姿に──仁志くんが完全にフリーズしていた。
「い、いえ、そんな……あの……プリント……これ……」
顔がほんのり赤い。いつもの仁志くんじゃない。
母はにっこり笑って、やさしく受け取った。
「わざわざありがとう。○○、こういうところだらしないのよねぇ」
と、僕の方をチラリ。
「……す、すみませんでした」
なぜか仁志くんが謝っている。
「お茶でも飲んでいく?」
母の一言に、僕は心臓が跳ねた。
が、仁志くんは「い、いえっ、大丈夫です!」とほぼ逃げるように退散。
母は「いい子ねぇ、ちょっと恥ずかしがり屋さんなのかしら」と首をかしげていた。
……母さん。違う。
あれは完全に“やられた”顔だった。
*
そして事件は数日後に再燃する。
昼休み、僕が机でパンを食べていると、仁志くんがすっと隣に座ってきた。
「なあ……○○んち、また行っていい?」
パンが喉につまる。
何も飲まずに言うなよ、そういうことは。
「……なんで?」
「いや……あの雰囲気っていうかさ、なんかこう……癒されるっていうか……」
「うち、癒し系じゃねーし」
「いや、なんかさ……○○のお母さん、やさしかったし」
やっぱりそう来たか。
「だーめ。二度と来んな」
「えー。なんでだよ、別に変なことするわけじゃ──」
「ダメだって言ってんだよ!!」
まさかクラスのイケメンから、
“母目的の訪問希望”が出るとは思わなかった。
母はまったく悪気がない。けれどその笑顔が、彼らには刺さるのだ。
それから僕は、毎日プリントを3回確認するようになった。
家に“母ファン”が増える前に、防衛体制を整える必要があるのだ。