「お母さん、無自覚美人です」   作:松田義和

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第8話 「母、ピザ一枚で男の心も焼き上げる」

その日、うちは昼ごはんを作る気力がなく、なんとなくダラダラしていた。

 

「ねえ、たまにはデリバリーにしようか。ピザとか食べたい気分じゃない?」

 

母がそう言いながら、スマホで注文を始めた。

 

「マルゲリータにしようかなぁ〜。あ、ハーフ&ハーフってできるの?便利ねぇ」

 

いや、便利だけど……そのまま君が対応するの、やめてほしい。

うちのインターホン、画質良すぎるんだよ。

 

──そして40分後。

ピザ屋のバイクが家の前に停まった。

 

「ピザーラでーす!」

 

玄関から聞こえる元気な声。

僕が出ようとしたその瞬間、母がのんきに言った。

 

「いいわよ、私が行くわ。ちょうど冷えてきたし、ちょっと動きたかったの」

 

今日の母は、グレーのリブニットにストレートジーンズという超シンプルな格好だったけど──

ニットはややフィット感があり、特に胸元のラインがはっきり出るタイプ。

ジーンズも母の細い腰回りを綺麗に拾っていて、カジュアルなのに妙に色気があった。

 

僕が静止する間もなく、母はパタパタと玄関へ。

 

「はーい、お世話さま〜。あら、暑かったでしょう?」

 

──その瞬間、僕はテレビを消した。

音じゃない、気配で事件を感じた。

 

モニター越しに見えたのは、20代そこそこの青年配達員。

一瞬、袋を受け渡す手が止まった。

そして目が、完全に母にロックオン。

 

「い、いえっ!全然っ!あの!……あ、暑いっすね、今日も!」

 

……語彙力、どこ行った。

 

「ありがとね〜。あ、ちょっと待って、おつりが……」

 

と、母がかがんで財布を取りに屈んだその瞬間──

ニットの胸元が、ぐっと開いた。

それをモニター越しに見ていた僕は、テレビより臨場感あるシーンに固まるしかなかった。

 

数十秒後、ようやく母が戻ってきた。

 

「なんか、すっごい元気な子だったわね。最後に“またぜひ!”って言ってたわ」

 

「……“またぜひ”って、ピザ屋が言う言葉じゃないんだけど」

 

「え?そうなの?」

 

──ちがう。

それ、次の注文のことじゃない。

 

“あなたに会いたい”の“またぜひ”だよ、母さん。

 

後日、

僕が一人で注文したとき、偶然また同じ配達員が来た。

そのとき彼が言った言葉。

 

「え……○○さんって、ご在宅じゃないんすか……?」

 

その目に浮かんでたのは、

**“ピザより会いたかったのに”**という、はっきりとした失望だった。 

 

 

 

後日また別の焼かれたピザ屋

 

その日、日曜の昼下がり。

僕はリビングでゲームをしていて、

母はキッチンで洗い物をしていた。

 

そんな中、インターホンが鳴った。

 

「ピンポーン♪」

 

画面には、ピザの保温バッグを持った若い配達員の姿。

 

「○○さーん、ピザでーす!」

 

……ピザ?

僕も母も、頼んでいない。

 

「え? 頼んだの?」

「ううん、頼んでないよ?」

 

母は首をかしげながら、玄関へ。

しばらくして戻ってきたときには、すでにピザを受け取っていた。

 

「え、なんで受け取ったの!?」

「名前も住所も合ってたし……間違いじゃないって言うのよ〜。

 それに……ほら、おいしそうじゃない?」

 

にこっと笑って箱を開ける母。

中には、チーズたっぷりのマルゲリータとガーリックバターのポテトがセットで入っていた。

 

「それ、誰が頼んだか分からないやつなんだよ!? 怖くない!?」

 

「でも、ちゃんと領収書にも“サービス品につき無料”って書いてあるし……」

 

──いや、それはそれで怪しいだろ。

 

翌日。

なんとなく気になって、配達元のピザ店に電話して確認してみた。

 

「あの、昨日の午後に無料のピザが届いたんですが、なにかのキャンペーンとか……?」

 

すると電話口のスタッフが、微妙に動揺しながらこう言った。

 

「えー……それ、おそらく……“常連さま特別優待”ということで……はい……」

 

──常連? 母、ピザ屋にそんな通ってたっけ?

 

その日の夕方。

母に聞いてみると、あっさりこう返された。

 

「ああ、そういえば……2週間くらい前に、庭先で草むしりしてたときに、

 ピザ屋の配達の人が迷ってて、道教えてあげたのよ〜。そのとき少し話して」

 

──それ、まさかの“感謝ピザ”!?

 

「感じのいい人だったわよ。大学生くらいかしら?

 すごく礼儀正しくて、『助かりました〜!』って笑ってた」

 

その笑顔を母の“無自覚美人パワー”で受けたら──

そりゃチーズ2倍のピザも焼かれるわ。

 

しかも、箱の裏にこんな手書きのメモがあった。

 

「この前は本当にありがとうございました!暑い中お疲れさまでした!

 よかったら召し上がってください!」

 

……これはもう、確信犯。

 

そして母は、そんな気配すら気づかず、

「なんか申し訳ないから、次はちゃんと注文してみようかな〜」なんて言っている。

 

こうしてまた、“誰も頼んでないのに届く好意”が、

母を中心に静かに連鎖していくのだった。

 

 

 

 

 

 

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