SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
また、一部本来の世界観とは異なる場合があるゾ。
例:
SCP-XXXの事案1 → SCP-XXXの事案XXX-A
1話 █████、青い空
あなたは、自分が初めて発狂した日を覚えていますか?
私は生後一日目、看護師らしき人たちに囲まれた病室でしたのが最初でした。
「オギャァァアァアアッッ!!!!」
私は泣き叫びました。
それは決して、私が生まれ変わりなんていう摩訶不思議な現象を体験したからではありません。
そもそも、転生をするのはこれで二回目です。
私が発狂したのは、その世界の色を見たからです。
その世界は狂ってしまうほどに正常な色をしていました。
いえ、正確には、この世界の人々は色を正常に判別できる目を生まれ持っているのでしょう。
だからこそ、赤、緑、青の光しか感じられない普通の人類だった私は、それが狂った色にしか見えなかったのです。
例えるなら、光の三原色に新しく百種類の色が追加され、それらを正確に見分けられるようになった感じでしょうか。
とにかく、ぐちゃぐちゃとしていて、気持ち悪い光景にしか見えなかったのです。
「オギャァッ、アアアァッッ!!!!」
私は目を瞑って泣き叫びました。
それは端から見て、とても普通な赤ん坊だったでしょう。
周りの大人たちは私は抱き上げようと手を伸ばしましたが、触れてすぐにその動きが止まりました。
そして、起こったのは悲鳴の大合唱でした。
耳をつんざくような声は私の叫び声をかけ消しました。
私は怯えながらも、悲鳴の正体を知ろうと目を開けました。
そこにあったのは、ブラックホールでした。
困惑が終わらないまま、私はそのブラックホールに包まれました。
〖だいじょうぶ〗
「う、ぁ……?」
視界が黒に染まる瞬間、そんな幼い少年の声が聞こえた気がしました。
そうして、私の視界は一生黒く染まる……ことはなく、すぐに晴れました。
そして、世界の色を見て、今度は発狂しませんでした。
そこにあった色は私の知っている、とても馴染み深いものだったからです。
「う、ぅ、うぅぅ……」
いったい、何が起こっているのか。それを誰かに聞きたくても、私の口は上手く動きません。
それに、ブラックホールが突然消えて戸惑っている大人たちが、今の現象について知っているとも思えませんでした。
そして、私は困惑やら恐怖やらの混じった感情が昂り、昂り、昂り──
「すぅ……」
──昂ったストレスに耐えられなかった赤ん坊の体は、そのまま眠りにつきました。
そんな出来事から早くも八年が経ちました。それだけの時間があれば、現状や例のブラックホールについて把握するには充分でした。
例のブラックホール……正確にはブラックホールに見えた実体を持たない黒い塊は、この世界に存在する色彩と呼ばれる存在と、前の世界で存在した【
色彩が何かは未だによくわかっていませんが、本人は【
そう、なんとこの
〖ハカセ、あそぼ〗
「わかりました。
今日は何をして遊びましょうか?」
あれから、その姿を黒い塊から黒い犬に変えた彼は、その行動も犬そのものになりました。
といっても、何かを食べたり排泄したりはしないんですが。
どうやら、自我としては【
ただ、本人が言うには、それも正確には違うとのこと。
彼はそれに関して『学園テクスチャーのせいで神秘とも融合している。だから、ぼくはいい子』と話していましたが、私には意味がよくわかりませんでした。
〖そと、みたい〗
「それじゃあ、散歩しに行きましょうか」
〖うん。
うれしい、ありがとう〗
「どういたしまして」
そうして、彼は私の影の中に入っていきます。
残念ながら、全身が真っ黒な犬を普通の犬と同じように散歩させることはできません。
そのため、散歩に限らず、彼が外に出る時は私の影に潜んで貰っています。
本来なら、家の中から連れ出すこと自体、収容違反ではあるのですが……下手に閉じ込めて反感を買い、私の管理下から抜け出されるよりはマシでしょう。
定期的に外へ出ることが、今の彼の
「……『シキと散歩に行ってきます』、と」
リビングの机にメモを残しておきます。
シキという名前は、色彩と【
ちなみに、シキの存在は一応家族全員が知っています。
ただ、姉以外からはあまりよく思われていませんが……。
この時間帯は家に誰もいません。両親は共働きで、姉はまだ学校にいます。今頃、六時間目の授業を受けている頃でしょう。
私はまだ小学二年生なので、週一日しか六時間の授業がありません。ですが、姉は小学四年生なので、逆に週一日しか五時間の授業がありません。
「自由な時間が減るのは嫌ですねぇ……」
〖どうしたの?〗
「いえ、何でもありません。
それじゃあ、行きましょうか」
〖うん、いこう〗
シキは散歩が待ちきれない様子です。
一応、昨日も散歩しましたが……それでも、散歩が楽しみだったみたいですね。
外に出てすぐ目に入るのは、道路を覆い被さんとする砂塵でした。いつもより強い風を浴びながら、目に砂が入らないよう注意して足を進めます。
ここ、アビドス自治区は今まさに砂漠化が進行している、終わりを迎えようとしている都市です。
「この辺は五十年前まで栄えていたらしいので、最低限のインフラは機能していますね。
……ぺっ、砂が口に……」
〖すな、いっぱい〗
「そうですね……。
原作でもそうだったので、
この世界は、ブルーアーカイブというゲーム作品とSCPというネットコミュニティの作品群が融合しています。
まず、ブルーアーカイブことブルアカはとある学園都市が舞台の青春RPGゲームです。
プレイヤーである先生は、生徒たちを選択によって救っていきます。
そして、SCPというのは架空の危険物品や危険生物、そして、それを取り扱う組織をまとめた総称です。
ブルアカとSCPの融合。
その事実を知っているのはこの世界で私だけでしょう。
「シキは、他の世界に来るのは初めてですか?」
〖たぶん、はじめて〗
実は、私はこの世界が三度目の世界でした。
一度目の世界、私は平凡な人間でした。
あえて言うなら、ブルアカとSCPを創作物として愛していた、ただのネット好きなオタクでした。
そして、とある
二度目の世界、私は勉強を頑張って頭のいい理系の大学に入りました。
そしたら、研究者としてSCP財団にスカウトされました。
SCP財団が実在することに驚きながらも、私はスカウトを受け入れました。
そんなある日、その世界でもブルアカがリリースされ、ゲームを開始した瞬間に意識が朦朧となり転生しました。
三度目の世界……は言うまでもないですね。
目覚めた瞬間に、
「そういえば、感謝がまだでしたね。
シキ、私がこの世に生まれた日……発狂していた私を助けてくれてありがとうございました」
あの時、私が発狂していたのは【
故に、シキが私を【
【
SCP財団の封じ込め処置も及ばず、それは世界中に蔓延しました。
人々は正常な色彩が奪われて混乱しました。
そんななか、財団が講じた策は『この不自然な色こそが正常の色彩だったことにしよう』というものでした。
幸か不幸か、それを可能にできる
それによって、混乱していた人々は正常な生活を取り戻していました。
唯一、【
その自然な色彩は、作られた色彩よりもはるかに美しかったそうです。
しかし、我々がそれを再び見ることは叶いません。
故に、財団はこう言い残しました。
──諸君、我々は失敗した。
この言葉は、SCP好きなら誰もが知っている名言です。
〖よぶこえ、きこえた。
ぼくを、もとめるこえが、きこえた〗
「求める声、ですか……?」
たしかに、あの時の私は正常な色彩ではなく不自然な色彩を求めていました。
作られた色彩こそが正常となった世界の住人には、本来の自然な色彩は白黒にしか見えなかったのです。
いえ、正確には白黒とも違う……とにかく、私にとっては狂気的とも感じるグチャグチャとした色でした。
〖このせかいで、ただひとり……ぼくを、もとめてた。
ぼくが、いないと、だめだって……。
だから、きた〗
……つまり、私が心の底から
よく考えれば、自然な色彩を持つこの世界でわざわざ不自然な色彩を求める者は、私くらいでしょうね。
「そうだったんですね」
〖それに……テラーか、してたから〗
「テラー化?」
急に出てきた新単語に疑問符を浮かべます。
ちなみに、私が知っているブルアカのストーリーは
もしかしたら、その後のストーリーでテラー化という単語が出ている可能性もありますが……私にはわかりません。
〖ぜつぼうしたら……しんぴが、うらがえって、きょうふになる。
これが、テラーか〗
「私って、そのテラー化をしていたんですか」
テラー化がなにかわかりませんが、体に違和感とかはありません。
絶望……あの時、世界が狂ったような色をしていたので発狂と絶望はしていましたが。
それに、無力感と自己否定も。
この辺りがテラー化の条件でしょうか。
……だとしたら、なんだかあまり良い印象を抱かないんですが。
「えっと、それは元には戻らないんですか?」
〖しんだひと、よみがえらない〗
「私って死んだ人扱いなんですか!?」
〖たとえ。
ハカセは、いきてる〗
比喩ってことですか……。
つまり、死んだ人が蘇らないように、神秘から恐怖に転じた者が神秘に戻ることはない、と。
……SCPオブジェクトのなかには死者蘇生ができるものもあった気がしますが。
うん、揚げ足を取る真似をするのはダメですね。
「いまいち理解が追い付いていないのですが、テラー化して恐怖になると何か変わるんですか?」
〖みため、かわる〗
「変わったんですか?」
〖ヘイロー、もともと、きいろだった。
あと、めのいろ、どっちも、きいろだった〗
「そうなんですか!?」
ヘイローというのは、人々の頭の上に浮かぶ天使の輪っかみたいなやつです。
私は生まれつき、ヘイローも目の色も暗めの青色だと思っていたのですが……。
どうやら、シキが言うには違ったみたいです。
ちなみに、髪は水色です。
というか、私の髪を伸ばしてそれらを黄色にしたら、まんま私の姉ですね……。
〖ハカセ……まえから、すな〗
「ありがとうございます」
シキの忠告を聞いて目と口を抑えます。
そして、砂塵が私の体にブツブツブツと当たっていきます。
砂というと柔らかそうに聞こえるかもしれませんが、実際は大量の小さな石が飛んできているのですこし痛いです。
といっても、キヴォトスの住民は体が強固なので、気にするほどでもありませんが。
ちなみに、博士というのは私の呼び名です。
財団職員として活動していた時の役職も博士だったので、シキにはそう呼んでもらっています。
「……ふぅ、過ぎ去りましたね」
視界が開けたため、散歩を再開します。
ふと、空を見上げました。
そこには
私には、この空がとても美しく見えます。
しかし、自然な色彩を持つこの世界の住人には、もっと美しく、綺麗な空が見えているのでしょう。
それは、
──透き通った、青い空。
その下で暮らす人々は、この空を得たいと渇望した人間がどれほどいたのか知らないでしょう。
しかし、それは知らなくていいことなのです。
なぜなら、この世界で
〖ハカセ……まえから、ひと〗
「ありがとうござ……人?」
私はシキと散歩する時、なるべく人通りの少ないところを選びます。
なぜなら、シキと話している様子は、傍から見れば独り言にしか見えないからです。
私は変人の烙印を押されようとも気になりませんが、それで姉に迷惑を掛けるのは別です。
いったい誰だろうと、道の先を見ます。
一瞬、ドッペルゲンガーか何かかと思いました。
しかし、それは明確に体の一部……具体的に言えば、ヘイローや目の色。
それと身長が私とは違いました。
そんな存在、この辺では一人しかいません。
そんな、私の姉が……。
「ぐすっ……ひぐっ……」
泣いていました。
透き通った、青い空
アイテム番号:
SCP-002-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
また、不定期に“博士”の影に潜ませて散歩をしてください。
現在、日頃から影に潜ませるか検討中です。
説明:
【
シキは色の認識に影響を与えます。
現在、シキの影響下にあるのは“博士”だけです。