SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、人類すべてが沈黙し崩壊した。
「ムガミ、悪いが転校することになった」
「……へっ?」
朝ごはんを食べていた時、突然父がそんなことを言い出しました。
混乱して、何か言わなければいけないとは思いつつ、口からは何も出てきません。
転校? 転校って何でしたっけ?
いや、意味はわかります。だって、私がアビドスからミレニアムに来たのは転校したからです。
現在、私は小学四年生です。
冬の寒さに手がかじかむ季節に、父はそんなことを言いました。
「冬休み中に引っ越しをする。
それまでに、お友達とはお別れを済ませておくように」
「……はい」
子どもの私に決定権なんてありません。
私はただ、父の決定に頷くだけです。
タイムリミットまで、あと一ヶ月弱。
……色々と時間が足りません。
リオちゃんの親御さんをEクラス職員として雇用し、その名義を借りてSPTF物流を開業したばかりだと言うのに。
転校するのはいいですが、せめて、もう少し早く話してほしかったです。
ともかく……やるべきことはたくさんあります。
二人に転校を伝えたところ、とても悲しんでくれました。
私も、二人と離れるのは嫌です。
……でも、子どもの私では、一人でここに残ることは難しいです。
だから。
「──必ず、同じ高校に通いましょう。
私は、ミレニアムに戻ってきます」
高校生になれば、一人暮らしでも許されるはずです。
その時、私は再びここに戻ってきます。
私はSCP財団職員として……いいえ。
SPTF財団職員として、未来を語ります。
財団の職員はいつ死んでもおかしくありません。
だからこそ、その
「それまでに、私は最低十個の
二人も、決して歩みを止めないでくださいね」
「ふふっ……出会った日からあなたは変わらないわね。
それなら、私は十五個の
「それなら、私は十六個!
リオには負けていられないからね」
「やっぱり十七個よ」
「十八個」
「十九」
バチバチと火花を散らしながら、二人は睨み合います。
きっと、何年経とうと、二人のこの関係は変わらないんでしょうね。
「それじゃあ、みんなで三十個の
協力はしても、妨害はなしですよ?」
「……ムガミがそう言うなら、仕方ないわね」
「ムガミの顔に免じて、ここは引いてあげる」
素直じゃない二人。
そういうところがいじらしくて、とてもかわいいです。
それから、二人はお別れ会をしてくれたり、感謝の手紙をくれたり。たくさんの思い出ができました。
お別れ会でリオちゃんが号泣したのにはちょっと驚きましたが、嬉しかったです。
そして、私は引っ越ししました。
1月7日、月曜日。
三学期の始まりであり、私の転校初日。
「日輪ムガミと申します。
読書や散歩をするのが趣味です。
中途半端な時期の転校生ですが、仲良くしてくれると嬉しいです」
無難に挨拶を済ませた私の視界に映るのは、暗い表情をした生徒たち。
おかしいですね。初めて見る光景なのに、どことなく以前見たことあるような気がします。
私が席につくと、隣の席の子が話しかけてくれました。
「すごい時期に来たねー☆」
「すごい時期、ですか?」
「うん☆
だって──」
そのピンク髪でお嬢様然とした女の子は一瞬の溜めを作りました。
ここは資産家や富裕層の娘が集まる、トリニティ小学校。
ここが私の、新しい生活場所です。
いったい、どんな生活が待っているのでしょうか。
きっと、見たことのないものや、新しい経験がたくさんできるはずです。
「3月5日にトリニティは終わるんだよ」
なんだか、デジャブを感じました。
「……もしかして、明日から休校ですか?」
「えっ? それはないよー。
ムガミちゃんって面白いね!」
「はははっ、そうですよね……」
乾いた笑いを漏らしながら、私は考えます。
さて、今回の
……いや、『3月5日に終わる』という文言で確定しているようなものですね。
考えるまでもありません。
問題は、それをどう解決するかです。
ともかく、至急動きましょう。
──でないと、トリニティが滅亡してしまいますから。
私がまずやるべきことは、それと融合している何かを発見すること。
これは問題解決のためにも、その後に収容するためにも必要です。
SPTF財団は、問題を解決してはいおわりとはいきません。
その後に、再び問題が起こらないよう管理するまでが役目なのです。
「こっちは体育館だよー!」
「……何の変哲もない体育館ですね。
てっきり、もっと派手派手なのかと思っていましたが、偏見でしたね」
「あははっ、それは偏見だね☆
うちはたしかにお金持ちの子どもが多いけど、特別なことはない普通の学校だよ」
例の、隣の席のお嬢様です。といっても、この学校に通う者はほとんどがお嬢様ですが。
いまは校舎の案内も兼ねて、不審なものがないか校内を歩き回っています。
といっても、今のところ目ぼしい物は一切ありませんが。
ただ、お金持ちだからとか、そういう偏見を持って考えるのはよくなかったですね。
ここは普通の学校です。
少なくとも、窓を開ければ廊下や教室に砂塵が入ってくるようなアビドスよりも幾分か普通です。
「あっ、向こうに見えるのがテニスコートだよ!」
うん、やっぱり普通じゃないかもしれません。
それらしいものは見つかりませんでした。
いい時間になったので、私たちは帰宅するために校門へ向かって歩いていました。
「ミカさん、今朝『3月5日にトリニティは終わる』と教えてくれましたね」
帰り際、私はそれを話題に持ってきました。
「それについて、一つ。
聞きたいこと……というより、確認したいことがあるのですが」
「ん? なにかな☆
私に答えられることなら、何でも聞いてよ」
【
このミーム汚染を食らったものは、それまでに自殺しなければならないと強く思い込むようになります。
多くの人が自殺し、3月5日を迎え……何事もなく、3月6日となりました。
結果、この
ただし、人間のほとんどが自殺したという結果を残して。
つまり、このまま放置すれば、間違いなくトリニティは滅びるでしょう。
「では、遠慮なく。
──ミカさんは、その予言を信じていませんよね」
「……なんで、そう思ったのかな?」
彼女はわざとらしく笑顔を作りました。
おそらく、本心を隠そうとして出た表情なのでしょう。
ですが、生憎と人生経験はこちらが上です。
そういう
「私はこれに関して、ある意味の専門家でして。
その予言を信じたものは、最終的に自殺を図ろうとします。
おそらく……早ければ数日中、遅くても四十日以内に」
彼女の警戒心が余計に強くなりました。
なんだか、武者震いがします。
大丈夫です。彼女の説得を、私ならできます。
私の、財団職員として培ってきた能力を活かすのみです。
私は、
私は、
私は、
だから、私は──
「あなたは予言を知ってなお、明るさを保ち続けました。
それこそ、あなたが予言を信じていない証拠です。
……もしくは、あなた自身が予言の媒体である可能性もありますが」
「それはないよ」
ミカさんは断言をしました。
「──私、心当たりがあるんだ」
そう言ったミカさんは、どこか満足そうで……どこか、悲しそうでした。