SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

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13話 ████なる日々(後編)

 私は一人でセイアさんの部屋に戻りました。

 その手には、一つの錠剤があります。

 

 私の雰囲気が変わったことを感じ取ったのか、セイアさんが警戒するように私を見ます。

 

「申し訳ありませんが、あなたは我々が確保することになりました。

 その力の無効化が確認される3月6日まで、あなたは我々の監視下に置かれます」

 

そう言って、私は表面上の謝罪をしました。

 

「……ほう?

 それで、強硬手段に……──待て、ミカはどうした!?」

 

最初は平静を保っていたセイアさんでしたが、ミカさんがいないのを見て流石に動揺したようでした。

 私はそれに対しても、無表情を変えずに応じます。

 

「ミカさんには説(・)得(・)をしてご理解いただこうと思ったのですが、失敗しましたので……。

 あぁ、傷はつけておりませんよ」

 

「……いくら小学生だからと言って、ミカが一切の抵抗なしにやられるとは思っていないが?」

 

「先程もお伝えしたでしょう。

 我々はあなたのような事例を十回、解決した……と。

 その中にとても便利なものがありましてね」

 

セイアさんは気丈に振る舞っていますが、内心の恐れを隠しきれていません。

 なんだか、すこし申し訳ないですね。止めるつもりはありませんが。

 

「……クズが」

 

「お褒めの言葉をありがとうございます。

 これからも使命を掲げ、邁進していく所存です」

 

私はそう言いながら、壁際に置かれていたウォーターサーバーからコップへ水を注ぎました。

 そして、手に持っていた錠剤と共に、それらをセイアさんの目の前にある机に置きました。

 

「これを飲めば、次にあなたが目覚める時、世界は3月6日になっているでしょう。

 ご安心を。あなたが抵抗しなければ、ミカさんやナギサさんが傷付くこともありません」

 

セイアさんは表情を暗くし……そして、覚悟を決めたのか、錠剤を手に取りました。

 その前に、私を鋭い目で睨みつけました。

 

「……クズが」

 

「えぇ、ご協力に感謝いたします」

 

私は変わらず、それに無表情で応えました。

 

 

 

 

 

 ──そして、セイアさんは目覚めました。

 

「おはようございます。

 気分はどうですか?」

 

「……最悪だ。

 ミカとナギサは?」

 

「隣の部屋に。

 おそらく、もうそろそろ……」

 

その十数秒後、隣の部屋でミカさんとナギサさんの騒がしい声が聞こえてきました。

 それは決して暗いものではなく、明るいものです。

 

 私はそれを聞いて、小さく安堵の息を漏らしました。

 どうやら、作戦は成功したようです。

 

「セイアさんの神秘は『外(・)れ(・)な(・)い(・)預(・)言(・)』でした。

 しかし、『外(・)れ(・)る(・)預(・)言(・)』と融合したことで、矛盾の生じた神秘は消滅してしまったのでしょう。

 今後、その神秘は戻らない可能性が高いです」

 

神秘を戻せないというのが、心残りではあります。

 

 キヴォトスの人々が銃撃を食らっても無事なのは、神秘があるからです。

 つまり、いまのセイアさんは弾丸一発で致命傷になる危険性があるということです。

 

 奇しくも、プレイヤー(先生)と同じ状態というわけですね。

 

「それと、あなたの新しい力ですが、訓練次第で使いこなせるようになるでしょう。

 主に、対象をミーム汚染する(偽りの情報を真実だと思い込ませる)力になるはずです」

 

私がそうやって解説をしていると、ここと隣の部屋を繋ぐ扉が勢いよく開きました。

 ……いや、ちょっと勢い良すぎません?

 ミカさんが捻ったドアノブが、曲がってはいけない方向に曲がっているような気がするのですが……。

 

 ……今後、ミカさんは怒らせないようにしましょう。

 

「セイアちゃん!」「セイアさん!」

 

「ミカ……ッ!

 それに、ナギサ……その……もう、大丈夫なのか?」

 

「えぇ……突然、視界が開けたみたいに……。

 今まで思い悩んでいたことが綺麗さっぱり晴れたんです。

 ……それで、その……今まで、色々とご迷惑をおかけして申し訳ありません……」

 

ナギサさんはSCiP(スキップ)(異常存在)の効力が切れたことで、自分の過去の行動を見返して縮こまっています。

 二週間で七回の自殺を試みたようですし、相当暴れたり、ひと悶着やふた悶着はあったんでしょうね……。

 

 セイアさんはナギサさんを見て安心した様子でした。

 そういう私も、ナギサさんの様子を直で見て、問題なく策がハマったのを確信して安心しました。

 

 二人の様子を見ていたら、突然自分の手が掴まれました。

 驚いてそちらを見ると、そこにはミカさんがいました。

 

「ありがとう、ムガミちゃん!!

 全部、ムガミちゃんのおかげだよっ!!!」

 

「み、ミカ!?

 それは……どういうことだ?

 こいつは……」

 

ミカさんの言動にセイアさんは戸惑っています。

 それに対して、私より先にミカさんが答えました。

 

「ムガミちゃんが提案してくれたんだよ!

 『セイアちゃんに3月5日が過ぎたって思わせたら、力も収まるんじゃないか』って!!」

 

「えっ?」

 

「……そうですね。

 騙すような真似になってしまい申し訳ありませんが……。

 実は、今日は3月6日ではなく、1月7日です」

 

さて、最初から説明しましょう。

 

 

 

 

 

 まず、私は『セイアさんに3月5日が過ぎたと思わせたら、力が収まるのでは』という仮説を立てました。

 そして、ミカさんに協力してもらい、睡眠薬を持ってきてもらいました。

 

 そう、セイアさんに渡したのは本当にただの睡眠薬だったのです。

 ただ、あえて私は胡散臭そうな、でも権力はありそうな人物として振舞い、それを飲ませました。

 

 それらの演技は全て、目覚めた時、3月6日になったのだと思い込ませるためのものです。

 

 そして、セイアさんは3月5日が過ぎたのだと思い込み。

 同時に、ナギサさんのミーム汚染(自殺衝動)がなくなったことで、力が収まったことを確認しました。

 

 

 

 

 

 そして、全ての説明を聞いたセイアさんは。

 

「すまない。

 恩人に対して失礼な物言いだった」

 

「か、顔を上げてくださいっ!

 こちらもわざと煽るような言動をしたので、謝られるようなことは一切ありませんよ」

 

「それでも」

 

セイアさんと目が合いました。

 全てを見通すような、聡明さを感じさせる瞳です。

 

 その頭に生えている狐耳は、神秘がなくなった影響で垂れてしまっていますが……。

 

「──君は私を救ってくれた。

 それだけで、頭を下げる理由には充分だろう」

 

その瞳からは強い力を感じました。

 

 私が思わず、その雰囲気に呑まれていると、セイアさんの横に立ったナギサさんが口を開きました。

 

「その通りですね。

 フィリウス分派代表候補として、あなたに万謝と愛顧を」

 

予想だにしない展開に声も出せず驚きます。

 フィリウス分派。それは、トリニティを代表する三大分派の一つです。

 

 つまり、ナギサさんの言葉は、トリニティの三分の一から感謝と好感を得たのとほとんど同じ意味を持ちます。

 もちろん、代表候補に過ぎないので、その効果はあくまで一部だけでしょうが。

 

 それでも、トリニティ小学校に所属する三分の一が味方になったと言ってもいいくらい、その宣言は重いものでした。

 

「あっ、ナギちゃん抜け駆け~っ!!

 私もパテル派代表候補として、ムガミちゃんに団結を」

 

ミカさんがリーダーらしい凛々しい表情になって、そう宣言しました。

 彼女が代表候補を務めるパテル派分派もまた、三大分派の一つです。

 

 心臓が大きく高鳴ります。

 

 この世界に来て悩んだこともたくさんありました。

 後悔したこともたくさんありました。

 

 それらが、まるで一つ一つ肯定されていくような。

 そんな錯覚と共に、視界が開けて、心地よい明るさが身を包みます。

 

 そして……。

 

「……これで何も言わなかったら、私が一人だけ悪者になるじゃないか。

 あくまで、私の言葉は、彼女たちが宣言する前から言おうと思っていたものだ。

 サンクトゥス分派代表候補として、君に理解と支援を。

 そして……──助けてくれてありがとう、ムガミ」

 

ぽろっと、思わず涙が零れました。

 

 それを拭って……しかし、なかなか顔を上げられませんでした。

 こんな顔、誰にも見せられません。

 

 だって。

 

 私は、大(・)人(・)なのに。

 

「む、ムガミちゃん……!?

 えっ、えっと……どうしたら泣き止ませられるかな、ナギちゃん!!」

 

「私に聞くんですかっ!!?

 それは、えっと……心を落ち着かせる、とか……」

 

でも、ずっと弱音を吐きたかった。

 

「ふむ、具体的にはどうすればいいんだ?」

 

「……私なら、紅茶を飲むと落ち着きます」

 

情けないところを曝け出してしまいたかった。

 

「ダメだ、紅茶バカだった」

 

「すまない、紅茶バカに聞いたのが間違いだった」

 

「誰が紅茶バカですかっ!!!」

 

使命から逃げ出して、安全を享受して生きたかった。

 

「……というか、セイアちゃん。

 それ、遠回しに私のこともバカって言ってない?」

 

「そんなことはないぞ、怪力バカ」

 

挑戦するのが、一歩を踏み出すのが、怖くて怖くてたまらなかった。

 

「すまない、煽った私が悪かった。

 だから、千切った扉を持ったまま近寄るのは……待って、ごめんなさい、たすけ……っ!」

 

「わぁ~、今日も空がきれいですね~。

 お花がたくさん~」

 

それでも、私は。

 

「怒ってないよ☆」

 

「ほ、本当か……?」

 

だからこそ、私は。

 

「うん。

 ちょっと、セイアちゃんを銃撃戦に連れて行こうと思ったくらい」

 

「死ぬ!!!!!」

 

──理想(大人)に近づくため、前を向いて歩むのです。

 

「……こほん。失礼いたしました。

 改めて……SPTF財団を代表して、あなた方の支持に心からの感謝を」

 

代表して、というか、実際代表に当たる立ち位置にはいるのですが。

 そもそも、創設者ですし。

 報告書も全部私が書いていますし。

 

 それと、私が色々と考え込んでいる時、周囲が騒がしかったような……いえ、気のせいですね。

 

 ただ、なんとなく。

 預言ではないですが、これからどんな毎日がやってくるのかは予想がつきました。

 

 

 ──騒がしくなる日々。

 

 

 そうして、私には三人の新しいお友達ができました。

 


 

 

騒がしくなる日々

 

アイテム番号:

 SCP-011-KV

 

オブジェクトクラス:

 Euclid(ユークリッド)(不安定な収容)

 

特別収容プロトコル:

 【SCP-011-KV(騒がしくなる日々)】は通常、収容はせず日常生活を送らせてください。

 【SCP-011-KV(騒がしくなる日々)】は能力が制御できるように訓練してください。

 

説明:

 【SCP-011-KV(騒がしくなる日々)】は【SCP-3519(静かなる日々)】と百合園セイアが融合した存在です。

 【SCP-011-KV(騒がしくなる日々)】は『3月5日に○○は滅びる』という形のミーム汚染が可能で、感染した者は四十日以内に自殺を図ります。

 融合した際、百合園セイアの神秘は消失しました。

 現在の百合園セイアは、先生と近しい状態にあると思われます。

 

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