SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、魔女によって崩壊した。
「ムガミちゃんはさ、神様っていると思う?」
ぽつりと、彼女は呟きました。
「私はね、たぶん神様に愛されているんだよ。
だって、みんな私のことを好きだって言うから」
それを言った彼女の表情に喜びはなく、あるのは淡々とした諦めだけでした。
まるで、世の中にある不変の理に気付いてしまったかのように。
まるで、どうしようもない事実に打ちのめされてしまったかのように。
「ムガミちゃんは私のこと、好き?
それって、本心からの言葉だって確信を持って言える?」
そう、彼女……ミカさんは私に問いかけてきました。
ここはミカさんのお家。
ナギサさんと変わらないような豪邸になぜか一人で招待され、交わされた会話がこれでした。
ミカさんの目には鈍い光が宿っています。
きっと、ミカさんはずっと悩んできたのでしょう。誰にも相談できず……いえ、相談しても理解されず。
「私ね、ナギちゃんやセイアちゃんに不思議な現象が起きた時、喜んじゃいけないのに……ちょっと嬉しかったんだ。
ようやく、私と同じ人に出会えたから。
ううん……私はちゃんと人だって、みんなと同じなんだって、ようやく思えたから」
そんな疎外感と孤独感を抱えて。
もしかしたら、彼女はそれでも、周りの好きという言葉に縋るしかなかったのかもしれません。
周りの言葉を疑わないように育つしか道がなかったのでしょう。
それは純真無垢で天真爛漫な、そう形作られたミカさんという存在が隠し持った一面だったのです。
「私の力は、言葉を……。
もっと言うと、私を評価する言葉を全部褒めるような内容に変えられちゃうの。
だから、この力を気味悪がって辞めていった使用人はたくさんいるんだ」
評価を全て肯定的なものに変える。
つまり、相手が本当のところは何を思っているのかわからないのかもしれません。
評価を歪める……いえ、この場合は言葉を歪めるという部分が重要かもしれません。
「教えてくれてありがとうございます、ミカさん。
打ち明けるには勇気が必要でしたよね」
「うん……これ、ムガミちゃんならどうにかできる?」
「ナギサさんやセイアさんのように、当人がどれだけ能力を理解して扱えるようになるかが肝ではありますが……。
そのためのお手伝いは全力でさせていただきます」
といっても、融合したものの正体を把握して、その概要を伝えるくらいしかできませんが。
ともかく、まずはどの
すぐに思い付くものはありませんが……実験をすれば、何か掴めるかもしれませんね。
「効果を確認するために、いくつか暴言を吐かせてもらいますね」
「うん!」
「ミカさんは天才です。
友達も多いですし、好かれています……なるほど」
本来は、『ミカさんはバカです。友達は少ないですし、嫌われています』と言おうとしました。
もちろん、本心ではありません。
しかし、出てきたのは改変された言葉でした。
あくまで本心ではなく言葉が変化するだけなら、ミーム汚染ではないですね。ミーム汚染であれば、本心まで作り変えられることになりますから。
「あとね、文字も変えられるんだ。
私を褒める言葉しかないメールとか見ると、逆に笑っちゃうよ☆」
文字も……。
ふと、思いました。
ミカさんが能力に気付いた時、彼女はどういう気持ちだったのでしょうか。
今まで当たり前に受け入れていた褒め言葉が、全て偽りだったかもしれないと気付いてしまった時の気持ちは。
きっと、私では予想もできないような絶望がそこにはあったのでしょう。
しかし、文字も変えられるというのを聞いて、一つだけ思い当たるSCPがありました。
「すみません、赤ペンを貸していただけますか?」
「えっ……うん。
あっ、ごめん、ピンクでもいいかな?」
「はい、大丈夫です」
ミカさんは赤ペンがすぐに見つからなかったようで、代わりにピンク色のペンを渡してくれました。
黒以外であれば問題なかったので、私はそれを受け取りました。
そして、私はそのペンを使って、紙に『ミカさんはバカ』と書きました。
すこし待ち、瞬きをした瞬間にそれは『ミカさんはバカじゃない』という文章に変化しました。
「えっ!!?
色付きの方は……変わってない?」
「やはり、そうですか……」
「ムガミちゃん、もうわかったの!!?
なんでわかったの!??
これなんなの!!?!?」
「お、落ち着いてくださいっ……!!
いま、説明しますので……!」
興奮した様子のミカさんに少しばかり気圧されながら、私はその
ちなみに、文字を変えるという力で【
「こほん……ミカさんの力は自身に関する情報のうち文字や音声の情報を改変することができます。
ただし、文書に関しては黒い文字のみしか改変することができません」
【
ちなみに、報告書では狼が赤い文字となっています。
これはタイイリクオオカミのなかでも強力かつ凶暴な一種です。
オブジェクトクラスは
それらは全て、客観的に見ても事実に反さないことが確認されており、その残虐性を証明するものです。
この報告書は赤字だけでなく全体を読むようにしましょう。
……とまぁ、そう言う感じです。
非常に面白い報告書ですよね。ただ、現実においては厄介という他ありませんが。
「ですが、ミカさん……。
あなたは自分の評価を黒字以外でも書かれたことがあるはずです」
小学生あるある、無駄にキラキラした色ペンで手紙とか書きがちをトラップゾーンから場に出します。
それ以外にも、いくつかの場面で黒字以外の文書を受け取ったことがあるはずです。
「それに対して、周りを含めて、何の違和感を抱かなかったということは……。
あなたはちゃんと、本心から周りに愛されていたということですよ」
私の言葉に……ぽつりと、ミカさんの目から涙が零れ落ちました。
私はその背中を擦ります。
この程度の行動でミカさんのこれまで抱えていた苦しみや不安がなくなるとは思いませんが、それでも……。
少しでも、その穴を埋めたいと……そう思いました。
「私……本当に、みんなから愛されていたんだね……っ」
ミカさんの声は震えていました。
もう、理不尽を前に諦めていたミカさんはいません。
もう、現実に打ちのめされていたミカさんはいません。
ミカさんは年相応の少女らしく、喜びの気持ちのままに、その感情を吐き出していました。
「いい子だって言われて……。
いい子にならなくちゃって思って……!」
評価を改変できてしまうからこそ、評価通りの人物になろうと思っていたのでしょう。
それが余計にミカさんを苦しめて、孤独な気持ちを深めてしまったのかもしれません。
私はそんなミカさんを見て『もう大丈夫です』と声をかけようとしました。
しかし、それより先に口を開いたミカさんの言葉に阻まれました。
「でも、私……──もう、悪い子になっちゃったよ……っ」
「……え?」
そんな、聞き捨てならない言葉に。
聖女
アイテム番号:
SCP-013-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
また、可能な限り周囲の者は彼女を褒めたたえるような言動をすることが義務付けられています。
【
訓練をする必要はないので、自由に暮らしてください。
説明:
【
【
ただし、黒以外の文字は改変されているため注意してください。
編集はできないため、この報告書は色文字だけでなく全体を読んでください。