SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、亡霊たちに取り憑かれ崩壊した。
████様及び████旅館の皆様へ
平素は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
この度皆様のご依頼でありました『永遠に残る████旅館』のご希望に沿う為、弊社一同心を込めて全力で向かわせていただきました。
本日白昼、記念すべきミレニアムの瞬間に、私達は皆様に『永遠の████旅館』をご披露致しましょう。
微力ではありますが、笑顔溢れる皆様の助力となれました事、大変嬉しくまた誇りに思います。
皆様の今後より一層のご発展を、心より祈念申し上げます。
二件目。
そこは寂れたと噂されていた温泉旅館でした。
ここの問題は、一週間程前から忍び込んでいる中学生くらいの少女がいるため、何とかしてほしいとのことです。
ちなみに、黒服は用事があるとかで数日ほど離れるようです。
代わりに、代理人を旅館の出入り口に立てておくらしいです。
どうやら、記念すべきこの温泉旅館の千周年なので、余計な茶々を入れたくないらしいです。
千年って想像もできないですね。そんなに長く続いている旅館、他にもそうないのではないでしょうか。
ただ……
「わかりました。
ちなみに、温泉には入っても?」
「勿論です、この旅館の醍醐味は温泉ですから」
……普通に話しているだけなのに、なぜか胡散臭さが拭えないんですよね。
実際、胡散臭いことしかやってないでしょうから、間違ってはいないんですが。
私は入る前に外観を見ました。
普通の旅館です。
といっても、深夜なので輪郭はよく見えませんが、今にも崩れそうっていう感じではありません。
私は旅館の扉を横に動かしました。
中は真っ暗で何も見えませんでした。
とても営業しているようには見えませんが……恐る恐る、足を踏み入れます。
次の瞬間、景色が変わりました。
室内を明るく照らす電気に外から入る日の光、なにより笑顔溢れるお客さんや仲居さんたち。
といっても、正確に言うなら、見た目は人間ではなく四足歩行の獣や機械ですが。
それは
「あら、小さなお客様ね。
こんな日にいらっしゃられるなんて、おめでたいこと!
うふふっ……ごめんなさい、年甲斐もなく舞い上がってしまって」
その中で、女将さんらしき人が興奮した様子で話し掛けてきました。
そんな女将さんのいるところの天井には、『千周年おめでとう』と書かれた横断幕が掲げられています。
「いえ、おめでたい日に来られてよかったです。
千周年、おめでとうございます」
「ありがとう、これもお客様方のおかげでございますよ。
もちろん、貴女様も」
優しい女将さんです。
一応、今の私は戸籍上中学生のはずですが、肉体的には小学生のままなので、そうした風に振る舞った方がいいかもしれませんね。
「実は数じ……少し前に友達と逸れてしまって、ここに来てないですか?」
危なかったです。ここで数日は文字通りの禁句です。
言ったが最後、二度とこの旅館には足を踏み入れることができなくなります。
というか、そうなったのが前世の財団です。
【
それは1999年12月31日の深夜から変化することができない村です。その村の人々は2000年になる瞬間を待ち続けているのです、永遠に。
不用意にその事実を伝えたDクラス職員は、村人に取り憑かれることとなりました。
村人たちはその方法が村から脱出する唯一の方法だと思ったのか、それから村に来た人には取り憑きに来るようになりました。
とにかく、その事実や、それと関わるようなことは言ってはいけないのです。
「お友達……もしかして、メグちゃんのことかしら?」
ビンゴ!!
内心の興奮を悟らせないように、私は仮面を張りつけながら応対します。
「はい! メグちゃん、どこにいるかわかりますか?」
「そうねぇ、ずっと動き回っていたから……」
「それじゃあ、旅館内を探してもいいですか?
あと、温泉って入れますか?」
「あら、ご両親がいなくても大丈夫かしら」
「大丈夫です!
これでも、もう中学生なので」
「あら、そうなの?
それじゃあ、浴衣をご用意しますので、しばらくお待ちくださいね」
メグ。その少女を探す訳ですが、そもそも見た目がわからないことにはどうにも……。
しかし、人目がある手前、少女に対して「あなたがメグですか?」なんて聞きに回ることもできませんし。
そうですね、ひとまずは……。
私は温泉に浸かりました。
ふぅ~、あったまります~……。
何をふざけているのかと思うかもしれませんが、勿論ただ温泉に入っているわけではありません。
この世界はある程度、時の流れが止まっているとは言え、人々は全く動かないわけではありません。
例えば、温泉に浸かっていた人が脱衣所に行くこともあります。ただ、その人はさっきまで温泉に入っていたことを忘れたのか、また数十秒後に浸かりに来ましたが。
一応、そういう動きはあるのです。
動きの法則を確かめることは重要です。
だいたい、人々は数分間でできる行動を繰り返しているようです。
ただし、私みたいな外から入ってきた人物が接触した場合はそれ以外の動きをすることもあるようです。女将さんのように。
え? それに、温泉に入ることがどう関係するのかって?
それはまぁ、身体の休息とか、心の休息とかですよ!!
さて……。
「……電波は悪いですが、何とか繋がりそうですね」
私は安堵しながら、脱衣所の一角でスマホを触わりながら小さく呟きました。
私は自分のスマホを黒服に取られています。といっても、中身を見られたくなかったので、気付かれないタイミングで思いっきり地面に叩きつけて初期化しましたが。
なので、私のスマホは元から壊れていたということになっています。
では、このスマホは何なのか。
それは、脱衣所に仕舞われていた他の人のスマホです。
それを人がいないタイミングと場所、角度などを確かめて使用しているのです。
元々、報告書でも書かれていますが、Dクラスはビデオカメラを持ち、それをリアルタイムで職員に共有していました。
共有できるということは、外部と連絡が取れるということを示します。
私は知っている番号に電話をかけました。
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません』
しかし、コール音が鳴ることもなく、そんな機械音声が流れます。
他の電話番号にかけても同じだったので、これは向こうの問題というより、こっちの電波が弱いせいでしょう。
となると、メールでしょうか。
しかし、緊急時を考えて覚えていた電話番号と違い、メールアドレスはほとんど覚えていませんでした。
唯一、覚えているのは……一人。
父のいる傍では電話で話すことが何となくはばかられて、疎遠になっていた相手。
だけど、たまにメールを送り合って、近況を確かめていた相手。
私はメッセージを入力しました。
『お姉ちゃんへ
これが届いていたら、ヒマリちゃんとリオちゃんに私は無事だと伝えてください。
それと、四年間待たせてごめんなさい。
p.s.高校入学までには帰ります』
メールは送られたようです。
しかし、電波不良もありますし、本当に届いたかはわかりません。
ただ、私が取れる手段は取りました。
であれば、ひとまず目の前の問題を真剣に取り組みましょうか。
まだ見ぬメグちゃん。
彼女を探しに行きましょう。
旅館内を歩き回り、私は少女を見つけました。
……二人の少女を。
これは少し、予想外でしたね。
黒服の情報では少女は一人とのことでしたが。
「えっと、メグちゃんっていうのは……どちらの方でしょうか?」
「それはね~!! ──むぐっ」
「……知らない人に、気軽に名前を伝えてはいけません」
うぅん、困りました。
どちらも少女……というか、中学生くらいに見えます。見た目は元気っ子が赤髪、冷静っ子が白髪です。
そして、どちらも頭に角を生やしています。
角、といえば。
「お姉さんたちは、ゲヘナ学園の方たちですか?」
「ううん、来年からだよ~!
って、ひむっちゃんもゲヘナから来たの!!?」
「はい、くらっちゃんと同じです。
角もありますし」
「ほ、ほんとだぁ~!!?」
来年からということは、中学三年生ですか。
となると、同学年っていうことになるのでしょうか?
というか、なんだか気の抜ける会話ですね。
ただ、問題はこの二人の来年が同じではないことです。
この旅館の住民にとっての来年は、とうの昔に過ぎているのです。
ただ、それを指摘せず、また指摘されずに、どちらが私の探している少女なのかを見極めなければいけません。
何という、簡単な問題でしょう。
命の危険がなく逃げれば助かる仕事。これ以上に楽で平和な状態があるでしょうか。
だからこそ、私は危険を犯してでも、逃げずに立ち向かうことに価値を見出したいのです。
「私もお二人のこと、くらっちゃんとひむっちゃんってお呼びしてもいいですか?」
「もちろんだよ~!」
「……はい」
くらっちゃんは元気に、ひむっちゃんは警戒した様子で返事をしてくれました。
本当に対称的な二人ですね。ですが、そこに活路を見出せそうです。
温泉で緩み切った心を、私は改めて正しました。
私はただ、冷静に、冷血に、冷淡に、冷徹に。
そして、冷酷にあればいいのです。
と、思っていたのに。
「ほら、見てっ!
ここすっごく滑るの~!!」
「温泉で滑らないでくださいっ!!?」
こんなバカみたいな。
「ここに死体……いいえ、眠っているお客さんがいます」
「いま、人のこと死体呼ばわりしました!?」
こんなアホみたいな。
「あーっ、たっのし~っ!!」
「はい、とても満足です」
「……そうですね」
こんな無邪気で、能天気で、幸せで。
ちょっとだけ、考えてしまいました。
私がSCPを知らず、財団なんてものに入ろうとも、作り上げようともしなかった未来のことを。
もしかしたら、私はこうやって当たり前のように友達と笑い合っていたのかもしれません。
未来のことなんて考えず、ただ目の前のことだけを考えて、平和に暮らしていたのかもしれません。
とてもいい未来です。
だけど。
やっぱり、私は。
「知らないうちに守られているより、辛くても守る側に立ちたいですね~……」
「おっ! コイバナってやつ~?
私もね、八百屋のおっちゃんはいつも野菜を値切ってくれて好き!」
「それはコイバナとは違うのでは?」
守るためには、犠牲にしなければいけません。
ただ、思いました。
犠牲にした人も、できる限りは笑顔にしたいと。
「くらっちゃん、ひむっちゃん。
──この旅館は、千周年の日で時が止まっています」
私は言いました。