SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
「くらっちゃん、ひむっちゃん。
──この旅館は、千周年の日で時が止まっています」
この言葉を受けて、その反応を見ればどちらがメグかわかります。
くらっちゃんは目をまんまるくしています。
ひむっちゃんは動きを止め、固まりました。
そして……。
「うん、みたいだね!」
「はい、不思議な旅館です」
……あれ??
えっ、なんでどっちも平然としてるんでしょう?
えっ?
だって、少女は一人だって。
いえ、黒服が見つけた少女が一人というだけで……。
まさか……。
潜み込んだ少女は、二人いた……?
「私、一週間くらい前に来て、ビックリしたんだよね~!
でも、ご飯が美味しいからずっといるんだ!」
「私は昨日です。
その、この空間とは関係していないんですが、ちょっと特殊な力を使えて」
「特殊な力?」
なんだ……二人とも、この旅館で過ごしていた子じゃないんですね……。
どちらかとのお別れを覚悟していたところだったから、余計に驚きました。
というより、ひむっちゃんの言う特殊な力って何なんでしょう。
……いや、なんとなく、
「──実は私、転移ができるんです」
「二人目のバグ少女!!?」
「ばぐ?
むーちゃん、どうしたの?」
「いえ、すみません、何でも」
今日はなぜか口が滑りますね。
温泉の床くらいつるつる滑ります。(上手いことを言った時の顔)
ちなみに、私はムガミから取ってむーちゃんと呼ばれています。
個人的に気に入ってるあだ名です。
ちょうど最近、転移と融合の力を持つ(本人無自覚)バグみたいな少女と邂逅したばかりでしたので。
というか、そんなにポンポンと転移の力って現れていいんでしたっけ。
そもそも、転移する
うん、SCP世界では転移ってわりとポピュラーなのかもしれません。
ごほんっ。
とにかく、話を聞かないことには特定できません。
「転移以外にできることはありますか?」
「もしかして、炎を口から吐けるとか!?」
「やってみます、ふーっ!!
……できませんでした」
炎を口から吐くことはできないらしい。
ちょっと残念だと思っている自分が不思議でした。
「実は、私も何ができるのかわかっていないんです。
転移の力自体も、数日前に目覚めたばかりなので」
「……そうでしたか。
その力は秘匿するべきでしょうね」
「……その、意見は。
むーちゃんの所属する組織と、関係がありますか?」
……驚きました。
組織、と来ましたか。
どこまで知っているのか、探る必要がありますね。
「組織、というのは?」
「今日、
おおかた、むーちゃんはこの特殊な現象の専門家で、解決に来た……というところではないですか?」
「えっ、むーちゃんってすごい博士だったの~!?」
まさか、そこまで見抜くとは。
中学生だからと言って侮れませんね。いえ、侮ったつもりはありませんでしたが、彼女を凡人のくくりにしていた私の落ち度ですね。
忘れていました。
天才とはどこにでもいるということ。
それは親友の二人が教えてくれていました。
努力すれば天才の猿真似ができるということ。
それは自分自身で知っていました。
忘れていました。
だから、認識を改めましょう。
彼女たちは、対等な存在です。
「失礼しました。
私はSPTF財団の理事会所属、“博士”と申します。
この度は
SPTF財団所属というのは黒服にも言っていません。正真正銘、対等だと思い、話す価値があると思った人にしか伝えていない情報です。
この情報は秘匿する必要があります。いえ、義務と言ってもいいでしょう。
私は、この世で私だけが知っている情報をいくつも知っています。
伝えたら精神が壊れる情報をいくつも知っています。
そもそも、世界がいくつもあって、何度も失敗してきたことを知っています。
この世界がそんな、失敗する可能性の高い世界の一つだと知っています。
この世界、そして、この世界に生きる人々を見捨てる可能性が高いことを。
皆殺しにする可能性が高いことを。
自らの手で滅ぼす可能性が高いことを。
人ならざる者に再生成する可能性が高いことを。
私は知っています。
だから、私は本来、厳重に秘匿され、隔離され、管理されなければならないのです。
それをしていないのは私の我が儘であり、ただの甘えに過ぎないのです。
私は姿勢を正しました。
ここにいるのは、ただの
財団の名を背負って立つ
「はい、むーちゃん!」
くらっちゃんも背筋を伸ばし、綺麗に挙手をしました。
「何でしょう、くらっちゃん」
「まったく、何を言っているのか、わかりません!」
元気ですね。孫を見ている気分になって癒されます。
孫は前世も前々世もいませんでしたか。それどころか、子どももいませんでしたが。
何だか、張り詰めていた空気が解けてしまいました。
くらっちゃんはムードを作り壊す点においては天才的ですね。自分は流されるままなタイプなので、素直に羨ましいですし憧れます。
「つまりは……異常な存在の確保や収容、保護をする会社の偉い人なんです。
ただ、これは本来言ってはいけない情報なので、親や親しい友人であろうと、決して口外せず、秘密にしてほしいんです」
大丈夫でしょうか。
理解できているのか心配になります。
これで、何も理解せず秘密を世間にバラまかれたらどうしましょう。
【
「うん、わかったよ~!」
「本当にわかっていますか?」
「もちろんだよ~。
だって、友達の秘密は私、守るタイプだもん」
くらっちゃん……!
「私も同じです。
友達の秘密は守ります」
ひむっちゃん……!
一瞬でも疑った自分を恥じたいくらいです。
よかったです。
これで情報をバラまかれるような相手であれば、私か相手のどちらかを消すしかなかったですから。
それが私であればいいですが。ただ、私の持つ情報の価値は高いので……。
ともかく、二人を信頼してよかったです。
「私はこういった現象について、専門家である自信があります。
ですので、この現象を終わらせる……いいえ、彼らを救うために、力を貸していただけませんか?」
私は手を差し出しました。
そうして、私の手を二人の温かい手が包み込みました。
私がやったことは単純でした。
ただ、勇気を出すこと。それだけでした。
「この旅館は、千周年の日で時が止まっています」
私がやったのは、それを告げるだけでした。
私よりも求められたのは、間違いなく彼らです。
その事実を認める勇気。そして、覚悟を突然求められたのですから。
「私たちは皆様の苦難を共に戦いたいと思っています」
演説に関しては、どう話すか悩みました。
全てを正直に話すのか。それとも、偽りを話すのか。
私はその二つから選び取れませんでした。
正直に話せば反発を生みます。 偽りを話せば、いつか破綻するでしょう。
であれば。
「私の組織はあなた方を救うため、今も調査や研究を続けています。
それらには、長い年月が掛かるでしょう」
真実と虚実を織り交ぜて話します。
救いたいのは本当です。ただ、調査と研究はこれからになります。
長い年月が掛かるのは本当ですが、きっと、想像しているよりも遥かに長い年月が掛かるでしょう。
それこそ、永遠に程近い時間が。
「私たちが皆様に与えられるのは、二つです。
長く苦しい時間を代償に、外に出る道」
全員の視線が集まります。
それでも、私は臆せずその言葉を語りました。
「もしくは、成仏する道。
ハッキリ言えば……死ぬ道です」
私は懐から小さな錠剤を取り出しました。
正確には、普段はシキに頼んで影に忍ばせている薬で、様々な効果を持ちます。
今回取り出したのは、その中でも黒い錠剤です。
「──これは、安楽死するための薬です。
この場には一錠しかありませんが、必要な分だけご用意できます」
私はあえて、その薬の存在を明かしました。
もし、完全なハッピーエンドを目指すのなら、そんな薬の存在など知らせず、みんなで脱出を目指すべきなのかもしれません。
ですが、私には言えませんでした。
苦しんでいる彼らを前に、更に苦しめなんて。
だから、私は苦しまなくて済む道を用意してしまったのです。
私の手で人の命を奪う道を。そんな悪魔の道を。
彼らはすぐに答えを出しませんでした。出せなかったが正しいかもしれませんが。
ただ、一人の女性が真っ先に手を挙げました。
「不思議な気分ねぇ。
だけれど、素敵な終わりだわ」
彼女は、女将さんは、そうコップを持ちながら言って、黒い錠剤を口に含みました。
コップがお盆の上に置かれて、女将さんは天井を見上げると、ゆっくりと目を瞑りました。
「……私、嬉しいのよ……。
ここは、違う……この……温泉は、もう…………」
続く言葉はありませんでした。
そうして、彼女は眠るように息を引き取りました。
「……美しい」
その小さな呟きは誰の言葉だったでしょうか。
ですが、その言葉はその場にいた全員の気持ちを代弁していました。
──ここは違う、この温泉は、もう。
彼女の散り際は、とても、美しかったのです。
10月1日
【
くらっちゃんとひむっちゃんに出会いました。
ここは違う、この温泉は、もう
アイテム番号:
SCP-027-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
ただし、SCP-027-KV-A群及びその友人は、例外的に温泉宿としての使用が認められています。
職員は時間軸異常を解除するための研究を行ってください。
内部の人物が終了を希望した場合、職員は██████(通称、安楽死薬)を投与してください。
説明:
【
内部は時間軸が████年█月██日の白昼で止まっていますが、事案27-Aにより内部の人々はその事実を受け入れています。
内部の人々は現在██名です。当初は███名おり、そのうちの██名が終了を希望し正しく処置されました。
補遺1:事案27-AとSCP-027-KV-A群
事案27-Aとは、SCP-027-KV-A群により内部の人々が時間軸の停止を受け入れた事案です。
SCP-027-KV-A群は敷地内に偶然忍び込んだ、それぞれ面識を持たない三人の少女です。
この事案は、そのうちの一名が財団職員であり、
SCP-027-KV-A群は内部の人々から好意的に見られており、自由に温泉へ浸かることを許されています。
登場した
中身が消える『車』 【
入れ替わる『円盤』 【
突然現れる『椅子』 【
現れる警備『人形』 【
戻るアポロ『13号』 【