SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

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24話 ここは違う、この██は、もう(後編)

「くらっちゃん、ひむっちゃん。

 ──この旅館は、千周年の日で時が止まっています」

 

この言葉を受けて、その反応を見ればどちらがメグかわかります。

 

 くらっちゃんは目をまんまるくしています。

 ひむっちゃんは動きを止め、固まりました。

 

 そして……。

 

 

 

「うん、みたいだね!」

 

「はい、不思議な旅館です」

 

……あれ??

 

 えっ、なんでどっちも平然としてるんでしょう?

 

 えっ?

 だって、少女は一人だって。

 

 いえ、黒服が見つけた少女が一人というだけで……。

 まさか……。

 

 潜み込んだ少女は、二人いた……?

 

「私、一週間くらい前に来て、ビックリしたんだよね~!

 でも、ご飯が美味しいからずっといるんだ!」

 

「私は昨日です。

 その、この空間とは関係していないんですが、ちょっと特殊な力を使えて」

 

「特殊な力?」

 

なんだ……二人とも、この旅館で過ごしていた子じゃないんですね……。

 どちらかとのお別れを覚悟していたところだったから、余計に驚きました。

 

 というより、ひむっちゃんの言う特殊な力って何なんでしょう。

 ……いや、なんとなく、SCP(それ)関係な気がしていますが。

 

「──実は私、転移ができるんです」

 

「二人目のバグ少女!!?」

 

「ばぐ?

 むーちゃん、どうしたの?」

 

「いえ、すみません、何でも」

 

今日はなぜか口が滑りますね。

 温泉の床くらいつるつる滑ります。(上手いことを言った時の顔)

 

 ちなみに、私はムガミから取ってむーちゃんと呼ばれています。

 個人的に気に入ってるあだ名です。

 

 ちょうど最近、転移と融合の力を持つ(本人無自覚)バグみたいな少女と邂逅したばかりでしたので。

 というか、そんなにポンポンと転移の力って現れていいんでしたっけ。

 

 そもそも、転移するSCiP(スキップ)(異常存在)ってそんなには……脳(車)内(円盤)検(椅子)索(人形)中(13号)……。

 うん、SCP世界では転移ってわりとポピュラーなのかもしれません。

 

 ごほんっ。

 

 とにかく、話を聞かないことには特定できません。

 

「転移以外にできることはありますか?」

 

「もしかして、炎を口から吐けるとか!?」

 

「やってみます、ふーっ!!

 ……できませんでした」

 

炎を口から吐くことはできないらしい。

 ちょっと残念だと思っている自分が不思議でした。

 

「実は、私も何ができるのかわかっていないんです。

 転移の力自体も、数日前に目覚めたばかりなので」

 

「……そうでしたか。

 その力は秘匿するべきでしょうね」

 

「……その、意見は。

 むーちゃんの所属する組織と、関係がありますか?」

 

……驚きました。

 組織、と来ましたか。

 

 どこまで知っているのか、探る必要がありますね。

 

「組織、というのは?」

 

「今日、黒服(黒いスーツの方)と来ていましたし、むーちゃんが来てから入り口前に監視らしき人が立つようになりましたから。

 おおかた、むーちゃんはこの特殊な現象の専門家で、解決に来た……というところではないですか?」

 

「えっ、むーちゃんってすごい博士だったの~!?」

 

まさか、そこまで見抜くとは。

 中学生だからと言って侮れませんね。いえ、侮ったつもりはありませんでしたが、彼女を凡人のくくりにしていた私の落ち度ですね。

 

 忘れていました。

 

 天才とはどこにでもいるということ。

 それは親友の二人が教えてくれていました。

 

 努力すれば天才の猿真似ができるということ。

 それは自分自身で知っていました。

 

 忘れていました。

 だから、認識を改めましょう。

 

 彼女たちは、対等な存在です。

 

「失礼しました。

 私はSPTF財団の理事会所属、“博士”と申します。

 この度は黒服(黒スーツの方)と一時的な協力関係を結び、一個人としてSCiP(スキップ)(異常存在)の対処へ参りました」

 

SPTF財団所属というのは黒服にも言っていません。正真正銘、対等だと思い、話す価値があると思った人にしか伝えていない情報です。

 この情報は秘匿する必要があります。いえ、義務と言ってもいいでしょう。

 

 私は、この世で私だけが知っている情報をいくつも知っています。

 伝えたら精神が壊れる情報をいくつも知っています。

 そもそも、世界がいくつもあって、何度も失敗してきたことを知っています。

 この世界がそんな、失敗する可能性の高い世界の一つだと知っています。

 

 この世界、そして、この世界に生きる人々を見捨てる可能性が高いことを。

 皆殺しにする可能性が高いことを。

 自らの手で滅ぼす可能性が高いことを。

 人ならざる者に再生成する可能性が高いことを。

 

 私は知っています。

 だから、私は本来、厳重に秘匿され、隔離され、管理されなければならないのです。

 それをしていないのは私の我が儘であり、ただの甘えに過ぎないのです。

 

 私は姿勢を正しました。

 ここにいるのは、ただの日輪ムガミ(一般人)ではありません。

 財団の名を背負って立つ日輪ムガミ(“博士”)なのです。

 

「はい、むーちゃん!」

 

くらっちゃんも背筋を伸ばし、綺麗に挙手をしました。

 

「何でしょう、くらっちゃん」

 

「まったく、何を言っているのか、わかりません!」

 

元気ですね。孫を見ている気分になって癒されます。

 孫は前世も前々世もいませんでしたか。それどころか、子どももいませんでしたが。

 

 何だか、張り詰めていた空気が解けてしまいました。

 くらっちゃんはムードを作り壊す点においては天才的ですね。自分は流されるままなタイプなので、素直に羨ましいですし憧れます。

 

「つまりは……異常な存在の確保や収容、保護をする会社の偉い人なんです。

 ただ、これは本来言ってはいけない情報なので、親や親しい友人であろうと、決して口外せず、秘密にしてほしいんです」

 

大丈夫でしょうか。

 理解できているのか心配になります。

 

 これで、何も理解せず秘密を世間にバラまかれたらどうしましょう。

 【SCP-007-KV(どうしても)】を押す理由が、信頼して“博士”だと伝えたら情報をバラまかれた、とかだったら情けなさ過ぎて自害するレベルなんですが。

 

「うん、わかったよ~!」

 

「本当にわかっていますか?」

 

「もちろんだよ~。

 だって、友達の秘密は私、守るタイプだもん」

 

くらっちゃん……!

 

「私も同じです。

 友達の秘密は守ります」

 

ひむっちゃん……!

 

 一瞬でも疑った自分を恥じたいくらいです。

 

 よかったです。

 これで情報をバラまかれるような相手であれば、私か相手のどちらかを消すしかなかったですから。

 それが私であればいいですが。ただ、私の持つ情報の価値は高いので……。

 

 ともかく、二人を信頼してよかったです。

 

「私はこういった現象について、専門家である自信があります。

 ですので、この現象を終わらせる……いいえ、彼らを救うために、力を貸していただけませんか?」

 

私は手を差し出しました。

 

 そうして、私の手を二人の温かい手が包み込みました。

 

 

 

 

 

 私がやったことは単純でした。

 ただ、勇気を出すこと。それだけでした。

 

「この旅館は、千周年の日で時が止まっています」

 

私がやったのは、それを告げるだけでした。

 

 私よりも求められたのは、間違いなく彼らです。

 その事実を認める勇気。そして、覚悟を突然求められたのですから。

 

「私たちは皆様の苦難を共に戦いたいと思っています」

 

演説に関しては、どう話すか悩みました。

 

 全てを正直に話すのか。それとも、偽りを話すのか。

 

 私はその二つから選び取れませんでした。

 正直に話せば反発を生みます。 偽りを話せば、いつか破綻するでしょう。

 

 であれば。

 

「私の組織はあなた方を救うため、今も調査や研究を続けています。

 それらには、長い年月が掛かるでしょう」

 

虚実を織り交ぜて話します。

 

 救いたいのは本当です。ただ、調査と研究はこれからになります。

 長い年月が掛かるのは本当ですが、きっと、想像しているよりも遥かに長い年月が掛かるでしょう。

 

 それこそ、永遠に程近い時間が。

 

「私たちが皆様に与えられるのは、二つです。

 長く苦しい時間を代償に、外に出る道」

 

全員の視線が集まります。

 それでも、私は臆せずその言葉を語りました。

 

「もしくは、成仏する道。

 ハッキリ言えば……死ぬ道です」

 

私は懐から小さな錠剤を取り出しました。

 正確には、普段はシキに頼んで影に忍ばせている薬で、様々な効果を持ちます。

 

 今回取り出したのは、その中でも黒い錠剤です。

 

「──これは、安楽死するための薬です。

 この場には一錠しかありませんが、必要な分だけご用意できます」

 

私はあえて、その薬の存在を明かしました。

 

 もし、完全なハッピーエンドを目指すのなら、そんな薬の存在など知らせず、みんなで脱出を目指すべきなのかもしれません。

 ですが、私には言えませんでした。

 苦しんでいる彼らを前に、更に苦しめなんて。

 

 だから、私は苦しまなくて済む道を用意してしまったのです。

 私の手で人の命を奪う道を。そんな悪魔の道を。

 

 

 

 

 彼らはすぐに答えを出しませんでした。出せなかったが正しいかもしれませんが。

 ただ、一人の女性が真っ先に手を挙げました。

 

「不思議な気分ねぇ。

 だけれど、素敵な終わりだわ」

 

彼女は、女将さんは、そうコップを持ちながら言って、黒い錠剤を口に含みました。

 コップがお盆の上に置かれて、女将さんは天井を見上げると、ゆっくりと目を瞑りました。

 

「……私、嬉しいのよ……。

 ここは、違う……この……温泉は、もう…………」

 

続く言葉はありませんでした。

 

 そうして、彼女は眠るように息を引き取りました。

 

「……美しい」

 

その小さな呟きは誰の言葉だったでしょうか。

 ですが、その言葉はその場にいた全員の気持ちを代弁していました。

 

 

 ──ここは違う、この温泉は、もう。

 

 

 彼女の散り際は、とても、美しかったのです。

 


 

 10月1日

 【SCP-619-JP(ミレニアム・タウン)】の温泉を堪能しました。

 くらっちゃんとひむっちゃんに出会いました。

 


 

 

ここは違う、この温泉は、もう

 

アイテム番号:

 SCP-027-KV

 

オブジェクトクラス:

 Euclid(ユークリッド)(不安定な収容)

 

特別収容プロトコル:

 【SCP-027-KV(ここは違う、この温泉は、もう)】は通常、研究または終了目的での侵入が許可されています。

 ただし、SCP-027-KV-A群及びその友人は、例外的に温泉宿としての使用が認められています。

 職員は時間軸異常を解除するための研究を行ってください。

 内部の人物が終了を希望した場合、職員は██████(通称、安楽死薬)を投与してください。

 

説明:

 【SCP-027-KV(ここは違う、この温泉は、もう)】は【SCP-619-JP(ミレニアム・タウン)】と████旅館が融合した存在です。

 内部は時間軸が████年█月██日の白昼で止まっていますが、事案27-Aにより内部の人々はその事実を受け入れています。

 内部の人々は現在██名です。当初は███名おり、そのうちの██名が終了を希望し正しく処置されました。

 

補遺1:事案27-AとSCP-027-KV-A群

 事案27-Aとは、SCP-027-KV-A群により内部の人々が時間軸の停止を受け入れた事案です。

 SCP-027-KV-A群は敷地内に偶然忍び込んだ、それぞれ面識を持たない三人の少女です。

 この事案は、そのうちの一名が財団職員であり、SCiP(スキップ)(異常存在)への対処を会得していたために発生したものと思われます。

 SCP-027-KV-A群は内部の人々から好意的に見られており、自由に温泉へ浸かることを許されています。




登場したSCiP(スキップ)(異常存在)

中身が消える『車』 【SCP-213-JP(監獄行きのクライスラー)】(作者: grejum)

入れ替わる『円盤』 【SCP-327-JP(Trick or Treat(おもてなし))】(作者: shigyouakira)

突然現れる『椅子』 【SCP-396(> 突然の椅子 <)】(訳者: 訳者不明)

現れる警備『人形』 【SCP-572-JP(誘導する警備人形)】(作者: Amateria68)

戻るアポロ『13号』 【SCP-1970-JP(13)】(作者: Fennecist)
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