SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、徐々に数を減らして崩壊した。
レッドウィンター連邦学園 美術推進部
部長兼███美術館館長 █████様
平素は格別のお引き立てを賜り、御礼申し上げます。
今回は、██様のご希望に沿わせていただき、弊社の長年の集大成とも言うべき技術を盛り込みました、非常に精巧な『レプリカ』を作製いたしましたと共に、先日ご指定の地点に無事設置させていただきました。
なお、本製品はこれまで全国で10を超える自治体に納品させていただいており、弊社社員もその品質及び効能には絶対的な自信を持っております。
末筆ながら、貴市の今後ますますのご発展ならびに██様の今後のご多幸とご健康を、心よりお祈り申し上げます。
その後、くらちゃんこと
ひむっちゃんこと
カイザー工務店から逃げる……ん? 転移?
まさか、【
この
その案山子はロッカーを出現させることができ、そのロッカーは異空間に繋がっています。入った者が戻ってくることはありません。
その案山子は収容に協力的です。というのも、案山子は如月工務店から逃げているからです。
その理由を職員が尋ね、最終的に案山子はこう言いました。「ただ、私が愚かしいだけ。かつて見たあの夕日は、あまりに美しかった」、と。
三件目。
そこはただの美術館に見えます。
美術館は一人か気心の知れた相手と回るのが楽しいものなので、今回も黒服とは別れて行動です。
入り口には相変わらず監視員の方がいますが。
私は美術館を見て回りました。
……うーん、普通の美術館ですね。特におかしなところは見受けられません。
〖ハカセ〗
「わっ、シキ?!
どうかしましたか?」
〖ずっと、いる〗
「えっ?」
シキの視線の先を見ます。……何もいません。
ですが、シキの目には何かが見えているのでしょうか。
となれば、それは確定で
「シキ、何が見えますか?」
〖ひと、ずっと、みてる。
からだ、うごいてる、でも、うごかない〗
身体が動いているのに動かない……?
……如月工務店の
「その人はこの場から離れそうですか?」
〖はなれる、できない〗
ひとまず、私は更なる情報を得るため、美術館を一周することにしました。
美術館を出たところには、子ども向けの飴が置いてありました。『ご来館ありがとうございます。おひとつ、お好きにどうぞ』と読み仮名付きで書かれています。
私は一粒取りました。
〖それ〗
「……これが原因ですか」
どういう訳かわからないですが、飴を食べたらその体が動くのに動かない状態になるというわけですか。
私は再びその人がいるところへ戻りました。
「……そこにどなたか、いらっしゃるんですか?」
返事はありません。
そもそも、姿も見えていないんですから、言っていてもわからないかもしれません。
〖ハカセ、がったい、する〗
「合体? わっ!!?」
突然、シキが目の前に飛び出てきました。
そして、私の目とぶつかり……。
瞬間、世界が白黒に染まりました。
何が、起きて……。
「……」
〖ハカセ、めのまえ、ひと〗
そこには、先程までいなかった少女がいました。
これまた、中学生くらいでしょうか。
もしかして、シキの視界を共有しているのでしょうか?
合体ってそういうことですか。フュージョンして犬の尻尾でも生えたらどうしようかと……いえ、意外といいかもしれませんね。
今世も前世も前々世も一般的な人の肉体を持つ身としては、意外と憧れというか、興味があります。
といっても、シキは正確には犬ではないので、実際になるとしたら人型の黒い塊辺りでしょうが。
「こんにちは、話すことはできますか?」
「……」
「体を動かすことはできますか?」
「……」
なるほど、口を含めて、身体を動かすことはできないと。
しかし、見た感じ、呼吸等は問題なくできているようですね。
そして、本来であれば、彼女の姿は誰も見ることはできないわけです。
「この美術館は……ルートが三つありましたね。
そのルートを全制覇すれば解ほ、っと」
突然彼女が動き出し、慌てて避けます。
そのまま、彼女は別の絵画の前に行きました。
自分の意志で身体を動かすことはできないので、こんな風に突然動き出すんですね。
私は続きを話します。あえて声に出しているのは、相手に自分の状態を伝えるためでもあります。
終わりが見えないことほど、心が病むことはありませんから。
「……ルートを全制覇すれば解放されます。
ですが、一つの絵画を何分眺めるのかわからないとなると、終わるタイミングは予測できませんね」
ルートは三つ。入り口の案内にそう書かれていたので間違いはないはずです。
ただ、この様子だと何時間かかるか……いえ、何十時間かかるのか、わかったものではありませんね。
ただ、美術館に
【
それがこの
北岳の山頂にある看板に接近した者はその異常性に曝露されます。
曝露者は、気付いた時には山の麓に転移しています。そういえば、これも転移でしたか。
話が逸れましたが、山の麓に転移した曝露者は身体を動かせず、他者からも見れない状態になります。
身体は自動で山頂へ向かい、全ルートを制覇するまでその状態は続きます。
そういうわけなので、私にできることはありません。
あえて言うなら、彼女が解放された時のために飲料水と医療班を準備しておくくらいでしょうか。
それから七時間後に彼女は解放されました。
確認を取れば、彼女が美術館に来たのは昨日で、それからずっと彷徨っていたようです。
それから数日が経ち、彼女の状態が落ち着いたと聞き、改めて対面しました。
彼女の名前は
「正直、意識が曖昧で……。
ただ、犬を連れた少女を見たんだ。
それが……君なんだろう?」
「そうですね。
今もその子は傍にいますが、見えてはいないでしょう。
それはあなたが、あの異常性から解放されたことを示しています」
私は足元で寝転ぶシキを見ました。
普段は私の影に潜んでいますが、今日は日向ぼっこをしたい気分なのか外に出ています。
マリナさんはシキがいる方向へ視線を向けますが、シキの姿は見えていないようでその焦点が定まることはありません。
「君は何者なんだ?
これはいったい何で、何が起きていたんだ?」
「……世の中には、知らないままにした方がいいこともありますから」
私は黙秘を選びました。
情報というのは決して、味方になってくれるだけではないのです。
そして、この情報はどちらかと言えば、自らを危険に晒す類のものです。
「……そうか。
気になるが、恩人である君の言葉には従おう」
「ありがとうございます。
一つ、訪ねたいのですが、あの美術館は一週間ほど休館日になっていたはずですが、どうしていたのですか?」
「私は突撃が趣味なんだ」
突撃……が、趣味??
何かの暗号でしょうか?
「そのままの意味で、私は突撃をすることを好いている。
芸術は全くわからないが、あの日も突撃しようという一心で美術館に入っていた。
休館日というのは知らなかった。
人が少ないが、そういうものかと思っていたんだ」
「そうでしたか。
これからは気を付けてくださいね」
「あぁ」
彼女は色々な感情が混ざった表情で、苦笑いに近い微笑みを見せました。
しかし、それはどこか吹っ切れたようにも見えました。
「頭がおかしいと思われても仕方ないんだが……。
私は、またあの美術館に行きたいと思っているんだ」
そして、彼女はぽつりと呟きました。
私は表情を動かさずに、しかし、なるべく優しい口調になるように問いました。
「それは、何故ですか?」
「最初は思っていた、なんでこんな目にって。
だけど……あぁ、私はたぶん、あの美術館に魅了されてしまったんだ。
たくさんの絵画があって、その裏には様々な描き手の人生があって……あそこには、紛れもない生があったんだ」
それは、美術館に魅入られた人の言葉でした。
今回の経験は彼女に苦しみを与えました。
しかし、それ以上に絵画の魅力に気付かせてくれる機会を与えたのです。
「だけど、君の言う通り、これからは気を付けるよ。
突撃と告げる時、私は君を思い出すだろう」
彼女はそう言って、晴れ晴れとした目で私を見ました。
10月4日
この日も黒服は同行せず、美術館で【
突撃と告げ君を想う
アイテム番号:
SCP-028-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
説明:
【
飴を舐めた際、その人物は███美術館の入り口に転移し、美術鑑賞を始めます。
その際、本人の意志で身体を動かすことはできず、三つのルートを制覇するまでその状態は続きます。
補遺1:同種類の
[データ削除済]*1により、同じような異常性を持つ物体が十個以上存在していると判明しました。
補遺2:オブジェクトクラスの審議
異常性に曝露された池倉マリナですが、病院から退院した七日後に再び███美術館へ赴きました。
また、その後一年間で合計二十九回来館したことが判明しています。
この行為が異常性によるものか、あるいは池倉マリナ特有のものかは現時点では不明です。
前者の可能性を踏まえて、オブジェクトクラスの変更が審議されています。