SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

28 / 37
26話 ██さん、皆さんがお待ちでした

 私はベッドから起き上がり、用意された朝食を食べながらふと疑問に思いました。

 なぜ、私は連(・)絡(・)が(・)取(・)れ(・)る(・)状(・)態(・)に(・)あ(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)、ヒマリちゃんやリオちゃんと連絡を取っていなかったのだろうか、と。

 

 いえ、そもそも……私には、このカイザー工務店にいなければいけない理由はもうないはずです。

 私はこの工務店が有していた、そして、現在は私が個(・)人(・)所(・)有(・)しているSCiP(スキップ)(異常存在)たちを思い浮かべます。

 

 しかし、如月工務店のSCiP(スキップ)(異常存在)ばかりなら、あれもあると思っていたのですが……。

 

「……予想が外れましたね」

 

私は小さく呟きました。

 

 そして、あれの対策のためにつけていた日記を読み返しました。

 これはあれ対策のため、毎日読み返すようにしていたものです。

 


 

9月25日

 この日、私は黒服と出会いました。

 

9月28日

 【SCP-480-JP(未完成の山間公園)】でソラちゃんと友達になりました。

 

10月1日

 【SCP-619-JP(ミレニアム・タウン)】の温泉を堪能しました。

 くらっちゃんとひむっちゃんに出会いました。

 

10月4日

 この日も黒服は同行せず、美術館で【SCP-2518-JP(北岳に来ただけなのに)】と出会いました。

 


 

 そこまでは当然私の知っている、私が出会ってきた人に関する記録でした。

 名前に関しても、全員ともきちんと覚えています。

 

 ただし、そこから先の内容が私には見覚えのないものでした。

 正確に言えば、私はそれの大部分を忘れていました。

 


 

10月6日

 【SCP-544-JP(孤独な放送室)】と出会いました。

 


 

私は驚きました。

 私にはそれと出会った記憶がなかったのです。ただ、同時に納得し、私は日記をつけていたことに安堵しました。

 

 【SCP-544-JP(孤独な放送室)】とは火事で廃業済みの五階建てデパートです。

 中に入ると、一定時間ごとに『〇〇さん、✕✕さんがお待ちでした』と、幼い少女の声で迷子のアナウンスがされます。

 

 この際、デパートに入った人の知人(✕✕さん)はデパートに入った人(〇〇さん)に関する記憶を全て忘れ、どんな方法を用いても知覚することができなくなります。

 

 実験によって全ての人に忘れられたDクラス職員は、鍵のかかった放送室の前で、中にいる少女と話しました。

 そして、扉を開けることを選んだ少女にDクラス職員は「よう、お嬢ちゃん」と声をかけました。

 

 それ以降、迷子のアナウンスは少女の声から男性の声に変わりました。

 そして、幼い少女が一人保護されました。

 

「……私が何かを忘れているということは、中に入った人物がいたということ。

 それも、私と近い距離にあった誰かですね」

 

でなければ、こんなに大部分を忘れ去ってはいないでしょう。

 

 誰かに見られる可能性があったので、内容を細かく書けていないのが痛手ですね。

 

 私は焦る気持ちを落ち着かせながら続きを読みます。

 といっても、日記はそれで最後でした。

 


 

10月9日

 私は悩んだ末、黒服に『あの放送室を真の意味で手に入れるためには、中にいるアナウンス役の少女と交代する必要がある』と伝えました。

 きっと、彼はそれを行うでしょう。

 私はこの選択を後に後悔するかもしれません。

 追記:黒服というのは役職名ではなく固有名詞です。

 


 

そこでようやく、理解しました。

 私はどうやら誤解していたようです。

 

 私は日記を見て、全ての人物を覚えていると言いましたが、それは私が名前だと認識していたものに対してだけでした。

 

 ──黒(・)服(・)。

 それが誰かの固有名詞(名前)だったのだと、最後の文章を見てようやく気付きました。

 

 そして、その事実を忘れていること自体が、黒服(その人物)があの放送室へ入った証明なのです。

 

 私は日記を裏返し、最後のページから読み進めました。

 そこには私の知人に関する情報が書かれています。そこに黒服という人物の情報が載っていました。

 


 

名前:不明(愛称をつけるなら黒服)

詳細:性別年齢不明。ベアトリスと同じで要注意。工務店と関わりが深い。胡散臭い敬語で話す。顔写真は次のページ。最近出会った異常存在は彼との共同所有で、周囲と連絡を禁じる契約を行った。もし、創作キャラクター化するなら明らかに敵役。ゲマトリアに所属しているらしい。アビドス辺りと相性が悪そう。

 


 

こちらも誰かに見られる可能性を考えて、とても抽象的な表現で書いています。

 どうやら、黒服というのはとにかく秘密の多い存在らしいです。話し方は胡散臭くて、敬語ですか。

 

 ゲーム(ブルアカ)においては敵役で、アビドス編で出てくるようです。

 

「……全く覚えていないですね」

 

どうやら、SCiP(スキップ)(異常存在)は共有所有だったようですが、当人がいないなら私の個人所有ということにしてしまって構わないでしょう。

 

 

 ──黒服さん、皆さんがお待ちでした。

 

 

 とにかく、現状を確認しなくては。

 黒服は全員から忘れられたのか。それとも、一部の人はまだ覚えている状態にあるのか。

 

 となれば、結論は一つです。

 

 

 

 

 

 予想は的中しました。

 【SCP-544-JP(孤独な放送室)】のなかから誰か出てきていないかとカイザー工務店の職員に尋ねれば、一人の少女と会わせてもらえることになりました。

 

 目の前には所在なさげに視線を揺らす、青紫色の髪を持った少女がいました。

 

「初めまして、私は日輪ムガミと申します。

 お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 

「え、えっと……ここは、どこなんですか……。

 あなたは、誰なんですか……」

 

「すみません、怖がらせてしまいましたね。

 私はあなたがいた土地を所有している者でして、敷地内にいたあなたについてお聞きしたいんです」

 

「所有者の……あっ、遊園地の方だったんですね。

 えっと、もう火事は鎮火されたんですか?

 私のパパやママは!!?」

 

「それを確認するために、あなたのことについて教えてほしいのです」

 

「あっ、ご、ごめんなさい……」

 

彼女は黒服と出会ったことを覚えていないようです。

 そして、報告書(原作)通りであるならば彼女の両親は彼女のことを知覚できないでしょう。

 

 彼女の人生は間違いなく、SCiP(スキップ)(異常存在)によって困難や苦難の多いものになります。

 

 それでも。

 

「ユウカ……早瀬(はやせ)ユウカです」

 

原作で彼女が見せていた笑顔は輝いていました。

 それをもう一度見られる日を、私は待ち続けようと思います。

 


 

 

[データ削除済]さん、皆さんがお待ちでした

 

アイテム番号:

 SCP-029-KV

 

オブジェクトクラス:

 Euclid(ユークリッド)(不安定な収容)

 

特別収容プロトコル:

 【SCP-029-KV([データ削除済]さん、皆さんがお待ちでした)】は通常、入場する際は滞在時間を三時間未満にしてください。

 

説明:

 【SCP-029-KV([データ削除済]さん、皆さんがお待ちでした)】は【SCP-544-JP(孤独な放送室)】と臨時サイト-04『スランピア』のアスレチックパークが融合した存在です。

 なお、放送室には鍵がかかっており、開けることはできません。

 三時間毎に「(入場者の名前)さん、(入場者の知人の名前)さんがお待ちでした」という形で迷子のアナウンスが流れます。

 その際、入場者の知人は入場者に関する記憶を忘れ、知覚することができなくなります。

 

補遺1:事案29-A

 早瀬ユウカという少女が保護され、その時からアナウンス役の声がSCP-029-KV-1(以下、[データ削除済]*1)のものへと変わりました。

 これは[データ削除済]が全ての存在から忘れられた後、放送室内へ入ったためと思われます。

*1:
機動部隊“オメガ-7(パンドラの箱)”に関する情報のため削除されました。




登場したSCiP(スキップ)(異常存在)

【SCP-544-JP(孤独な放送室)】(作者: DocRone)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。