SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、人格や記憶の消失によって崩壊した。
奥にあった、談話室と書かれた部屋に私たち四人は入りました。
なかには木製の椅子や机が船に打ち付けられて離れないようになっています。
机の上にあるお菓子の一部には『ろくちゃんの!』と書かれています。
腰を下ろし、早速私は口を開きました。
「先に認識の共有をさせてください。
実のところ、私は少し前まで昏睡に近い状態にありまして、正確に事の次第を理解していないのです」
「そうでしたか。
……“太陽”様から、私たちの扱いは聞いてますか?」
“太陽”はヒマリのことです。
今はすこしだけ陰っているようですが、調子を取り戻せばまた以前のように的確な采配でみんなを導いてくれるでしょう。
「曰く、名義貸しに近いと」
「そうです。
……やってもいない罪を負うこと、やってもいない出来事を根掘り葉掘り聞かれること、時に都合よく武力として求められること。
使い勝手がいいんでしょう、この名前は。
だけど、私たちは……道具じゃ、ない。
感情のない兵器でも、ないんです」
「……たくさんの苦労を背負ってきたのですね。
兵器のように扱われるのは辛いことも多かったでしょう。
これまで対応が遅くなり申し訳ありませんでした」
「あっ……。
……違うんです、謝らせたい訳じゃないんです」
彼女は……まだ子供です。
中学二年生と聞いています。そんな彼女が一人で背負うには重すぎたのでしょう。
そもそも、一人だけに背負わせない環境を大人である私が作っておくべきでした。
自分が不測の事態に遭う可能性なんていくらでも考えていたのに、対応策をきちんと講じていませんでした。
それは私の反省点です。
「ただ……つらくなって、しまって」
言葉がうまくまとまらない様子の飛鳥馬さん。
彼女はふと横を見ました。
もぐもぐとお菓子を頬張っている【
「ロクちゃんは……元々人ではないんです。
だから、辛くてもどこにも逃げ場所がない。
私にはありました、家族や友人が、学校も」
飛鳥馬さんは【
人の場合は元通りの生活が送れるように対処されます。
ですが、元が人でない場合は監視対象となり、自由はかなり制限されます。
私は飛鳥馬さんを正面から見つめました。
「飛鳥馬さん、あなたが声をあげてくれたおかげです。
これまで気付いてあげることができませんでした。
気付けなければ、手を差し伸べることもできません。
あなたのおかげで、私はあなたたちの抱える問題に気付くことができました」
「っ……」
「あなたの悩みを全て晴らせる、なんて傲慢なことは言いません。
ただ、あなたの悩みを聞くこと、一人で抱え込ませないこと、悩みに対して改善策を提案することはできます」
この財団は私が抜けて、大人がいなくなりました。
正確には大人もいるのですが、上層部を陣取っているのは主に私と関わりが深い子どもたちです。
だけど、人は間違いから学べます。
間違いから成長できます。
であれば、私ができることは間違ってもやり直しできる環境を用意することです。
「あなたたちが望むのであれば、SPTF財団を辞めることもできます。
人ではない【
武力があると財団として助かりますが、それがなければ回らない組織を作る気はありません。
一人いなくなるだけで立ち行かなくなる組織なんて、あまりにも軟弱すぎますから。
SPTF財団の職員は働いている限り、死の危険に晒され続けるでしょう。
故に、全員が替えの効く人材で構成されなければいけないのです。
Cクラス職員であろうと、私たち理事会であろうと。
全てが替えの効く存在です。
幸い、理事会メンバーの顔がほとんど割れていないという事実は、何かあった時のすげ替えを楽にしてくれます。
「今まで、SPTF財団はあなたたちに頼りすぎました。
あなたたちがどの道を選ぼうと、私が“博士”の名を持ってその選択を尊重させましょう」
「ほん、とうに……」
飛鳥馬さんの表情が明るくなっていくのを見て、私も少しだけ余裕が出てきました。
対話の余地があると知れたからです。
ですが、その時、突然扉が開きました。
「──ふざけないでよ……っ!!
トキも騙されないで!」
……来ましたか。
機動部隊“
その最後の一人は、酷く険しい顔で私たちを見ながら現れました。
私は彼女の名前を知りません。
ちなみに、ブルアカの原作にも名前は出てこないキャラです。
といっても、私が知らない続編に出てきていたら話は別になりますが。
そして、彼女は今回の説得において一番の難敵かもしれないとヒマリちゃんに言われました。
というのも、機動部隊“
「ねぇ、言ったよね、トキ!
私たちの力があれば、何だってできるって!!
こんな狂った世界も簡単に変えられるって!」
「……世界を変えたいとは、何度でも思いました」
「でしょ!?
それなら……ッ!!」
女性は興奮しています。
今にも暴れ出しそうです。
正直、彼女の能力を考えられると暴れられるのは非常に困ります。
ここが誰かの腹の中なのだとすれば、それは間違いなくこの女性の腹の中なのですから。
それだけ、彼女は強力な
「だけど……もう一度だけ、信じてみてもいいかもしれないって、“博士”の言葉を聞いて思いました。
また裏切られるだけかもしれません。
だけど、私は……信じることを諦めたくないんです」
飛鳥馬さんはそう言って私を見て、次に【
そこに芽生えている友情……もしくは仲間意識。それを完全に理解することは、私にはできません。
だけど、その感情は飛鳥馬さんの背中を押すきっかけになったのかもしれません。
【
「トキが信じるなら我も信じよう、です!
信者の信じる者を信じるのが神の役目だ、です!」
「はい、私はロクちゃんの信者ですよ」
そう言って飛鳥馬さんと【
そこには彼女たちなりの絆がありました。
目の前に広がるのはまるで物語のような、清くて尊いものでした。
「ふ……ふざけないでッ!!
こいつらは私たちを自由になんてさせない、替えの効く道具としか──」
「モモイ」
「おっけーっ!」
だから、この物語は清く尊いまま終わらせる必要があるのです。
こんなにうまく行くとは思いませんでした。
こんなにも、
モモイが喚いていた女性に蹴りを一発放ち、気絶させました。
「申し訳ありません、彼女の能力が暴走したら流石に私たちでは手の施しようがないので気絶させました。
ひとまず、彼女とはまた落ち着いて話をする機会を設けさせていただきます」
「は、はい……?」
「安心してください、私は財団の職員を痛めつけるような真似はしませんから。
SPTF財団の理念に則って行動することをお約束します」
私はそう言って愛想よく笑いました。
可哀想に。
三人のなかで最もSPTF財団を理解していたのは、間違いなく気絶している彼女です。
なぜなら、彼女だけが正しく、SPTF財団の危険性を理解して警戒していたのですから。
財団は決して、残酷なことはしません。
ですが、冷酷なことは平気でする組織です。
可哀想に。
危険でない人物の確保、収容、保護は比較的自由とされています。というか、私がそう主導してきました。
ただし、危険人物……つまり、財団に従わない人物は別です。
もし、彼女が財団に従っていれば。
もし、彼女の能力がもう少し安全であれば。
もし、彼女の力が有益でなければ。
ふと、手元の拳銃のなかから視線を感じました。
嗚呼……本当に、可哀想に。
もし、こんな冷酷な組織に見つからなければ。
平和に生きていけたでしょう。
たったいま、そんな未来は終わりを告げたわけですが。
眠れる蛇の王
アイテム番号:
SCP-023-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
【
説明:
【
【
【
現在、特別収容プロトコルの改訂が審議されています。
補遺1:事案25-Aについて
[データ削除済]*1
補遺2:事案23-A
事故により【
当たり所が悪く銃弾を除去できなかったため、現在まで効果が続いています。