SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、一人の少女の臆病で崩壊した。
嫌な予感はしていたのです。
【
それは恩人三部作と言われるもので、つまりは繋がりを持つ三つの報告書の一つだったのですから。
そして、それらの報告書の共通点はどれも同じです。
──必ず、死人が出る。
【
これは既に死んでいたので、回避することはできませんでした。
その次の作品、【
つまり、この世界の場合は……。
私はその日、受験勉強をしていました。
幸い、私はトリニティ中学に入ることが可能でした。
表向きは交通事故に遭い、記憶喪失になって帰ることができなかったということになりました。
ナギサさんやミカさん、セイアさんたちは事情を知っていましたが、これまで通り変わらず接してくれました。
私には一つ、受験勉強を疎かにできない理由があります。
私は小学校の時、ヒマリちゃんとリオちゃんに高校は同じところへ進学すると誓いました。
その高校、ミレニアムサイエンススクールは校名からもわかるように理系の学校で、かなり偏差値が高いのです。
リオちゃんともう一度会って話すためにも、私は絶対に受験を失敗できないのです。
「……いったん、休憩しましょうか。
シキ、お散歩でもいきますか?」
〖いく〗
お散歩といっても、シキは私の影に入っているだけですが。
私がお散歩に行くため余所行きの服装に着替えていると、電話が掛かってきました。
私がそれをツーコール以内で出ると、その声は緊急みを帯びていました。
『む、ムガミさん!!
来ました……手紙が!!!』
電話先の声は槌永ヒヨリことヒヨリさんです。
年齢が一つしか違わないようなので、お互い下の名前で呼ぶことになりました。
「いまはどちらに?」
『えっと、自宅に……』
「それでは、SPTF学院に来てください。
私もすぐに行きます」
『わ、わかりました!!』
散歩の予定はキャンセルです。
私は急いでSPTF学院へと向かいました。
そして、私はヒヨリさんの持ってきた手紙を読みました。
その場には他に、ヒヨリさんと一緒にいたというロクちゃんが同行していました。
手紙の内容は簡潔でした。
『救世主のあなたへ。
私は矯正局中央支部、第319矯正施設の1056階にいます。
あの日言えなかった深い謝辞をあなたに。
清澄アキラ』
第319矯正施設? 1056階?
なんだか、明らかに現実じゃないところですね。
となると、別の
この手紙は、未来から来た手紙です。
これは命を助けられた者が助けてくれた人物へ送ることができるものです。
つまり、これからヒヨリさんはこの清澄アキラという人物を助けに行くことになります。
助けないという選択肢は取れません。
それをしたら、タイムパラドックスにより
「矯正局中央支部、ですか」
「あ、あの……時間があったので調べたんですが、最近封鎖された施設みたいです。
人員削減、みたいな感じで……!」
……そういえば、そんなニュースがテレビでやっていたような気もしますね。
矯正局、正式名称は連邦矯正局。
そこは簡単に言うと、監獄です。何かしらの罪を犯した者が刑期を全うするために入る刑務所ですね。
ただの封鎖とニュースでは言われていましたが……。
もしかしたら何らかの異常存在が関係していたのでしょうか。
「ひとまず、矯正局にアポを取ってきます」
といっても、私が取るのではなくヒマリちゃんに丸投げすることしかできませんが。
この四年間でヒマリちゃんは部下の扱いが上手くなったように感じます。
やっぱり、天才っていうのはコツを掴むのが上手いのでしょう。
ヒマリちゃんの場合は、それに加えて言葉選びのセンスがあるのでそれで人の懐に入ったのかもしれません。
ただ……最近、ヒマリちゃんは自己肯定感が下がっているような、自信のなさそうな振る舞いをしていることが気掛かりではありますが。
前までのヒマリちゃんであれば、自分のことを超天才美少女スーパー技術屋と称してもいても不思議じゃないですが。
いまのヒマリちゃんは……。
……うん、またヒマリちゃんとは向き合う時間を作りましょうか。
ヒマリちゃんはすぐにアポを取ってくれて、私たちは工事業者に扮して矯正局中央支部に行くことができました。
メンバーはヒヨリさんと、同行することを希望したロクちゃんです。
一見は普通の矯正局です。
ただし、どうやら封鎖されたのは
「中には入らないようにしてください。
……帰ってきた者は、いませんので」
矯正局の局長がそう言います。
私は改めてそれを尋ねることにしました。
「帰ってきた者はいない?」
「はい、中とは通信が取れません。
入ってすぐは問題ないのですが、視界から外れた段階で一切の連絡が取れなくなります。
その後、消息不明となります」
視界から外れた瞬間、異空間に連れ去られると考えて問題なさそうですね。
問題はどの
あの手紙からして、異空間は矯正局と同じような構成をしていると思われます。
ただ、明らかに空間は拡張されているようですが。
「それと、過去に囚人が一人だけ、この扉から外に出てきたことがあります。
ただ……正直、まともに話せる状態ではなく、現在は精神病院にいます。
なので、どこまで正確かはわかりませんが……中には看守のような存在がいるようです」
「看守ですか。
詳しくはわかりますか?」
「はい、看守は顔のない存在のようです。
そして、昼間はただ刑務所内を徘徊しているだけのようですが、消灯時間になると『本支部は既に封鎖されています』と言って暴れ出すようです」
……特大のヒントが来ましたね。
顔がない職員、昼間は徘徊しているだけ、消灯時間になると襲い掛かってくる。
これに加えて、果てのない巨大な施設となれば、思い当たる
「ヒヨリさん、ロクちゃん。
この施設は【
「完全に普通の」
「ありきたりな古い……いけあ、です?」
イケアはこの世界にはありませんでしたね。
イケアの情報は必要ないでしょう。重要なのは……。
「出口を見つけるのは非常に難しいでしょう。
ここの出口は空間的に固定されていないのです」
「く、空間的……?」
「つまりは、出口があったとしても次の瞬間、その出口がただの扉に変わってしまうこともありますし。
もしくは、探索し終わった場所に新しく出口が現れる可能性もあるわけです」
「そ、そんなの……。
──出口を見つけるなんて無理じゃないですかぁ!!?」
「そうなんですよね……」
うん、そうなのです。
可能ではありますが、事実上は不可能です。
物凄い幸運が舞い込めばあるいは……って感じですね。
「……ヒヨリさん、あなたの意見を聞かせてください。
可能な限り、尊重したいと思っています」
可能な限り。
それはつまり、不可能な範囲が明確に存在するということです。
今回の場合は……。
「……助けずに逃げるのは、ダメですよね……?」
「望むのであれば、その方法を模索しましょう。
ですが、希望は薄いでしょう」
「ははっ……ですよね……」
ヒヨリさんは静かに、矯正局を見つめました。
その表情からは何を考えているのか読み取れません。
ただ、その扉を潜った瞬間、ヒヨリさんは二度とこちらに戻ってこれるのかわからないのです。
……もし、自分がヒヨリさんの立場だったら。
躊躇なく足を踏み入れるのは無理だと思います。あがく方法を模索して、やり残したことに思いを馳せて。
それでも。
「それでも」
ヒヨリさんはただ、矯正局を見つめています。
その表情も、その口調も、何も変わっていません。
なのに。
「え、へへ……私だって、SPTF財団の職員ですから!!
まだ見習いっていう扱いですけど……心構えは先輩たちから学びました」
その背中は。
「私が……ここで、嫌だって言って抵抗したら……財団は残酷な組織になるかもしれません。
だから、私は踏み出します……!!
財団を、冷酷だけど残酷ではない組織にするために!」
やけに大きく見えました。
全てに怯えているように見える少女でした。
それでいて生意気な発言も多い少女でした。
総じて、子どものような少女でした。
だけど、そんな彼女が……いまの私には、誰よりも大人に見えました。
しかし、ヒヨリさんは口を閉じたかと思うと、雰囲気をへにゃっと崩して言いました。
「で、でも……こわいのでぇ、入るのはもうちょっとだけ待ってくださいぃぃ……!!」
やっぱり、子どもですね。
だけど、彼女は間違いなく、財団職員の一人でした。
「あなたの献身を財団は忘れません。
そして、あなたに……一つ、言葉を捧げさせてください」
「……は、はい」
「──どうか、ご無事で。
お帰りをお待ちしております」
「っ……」
ヒヨリさんはその言葉に何かを飲み込んだような表情をしました。
そして、少しの間、目を瞑り……。
「……はい」
目を開けたヒヨリさんは、更に大人になったような表情で頷きました。
救世主へ
アイテム番号:
SCP-032-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
収容後、清澄アキラは
説明:
【
これは過去の恩人へ手紙を送ることが可能です。
補遺1:SCP-032-KV-1
『救世主のあなたへ。私は矯正局中央支部、第319矯正施設の1056階にいます。あの日言えなかった深い謝辞をあなたに。清澄アキラ』