SCP-001-KV   作:SCP-001-KV

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4話 █れない病(後編)

 祠に辿り着いた私は、お姉ちゃんが立て直したそれを蹴飛ばしました。

 壊して、壊して。それでも、SCiP(スキップ)(異常存在)は出てきません。

 

「出てきてッ、出てきなさい……ッッ!!!

 お前のっ……正体は、わかっているんですから!!」

 

例えば、『好きな相手なのに意地悪してしまう』と悩んでいたAさんがいました。

 Aさんは“愛”するという言葉と概念を忘れ、好きな相手への興味もなくしました。

 

 例えば、『妻が何度も不倫して困っている』と悩んでいたBさんがいました。

 Bさんの妻は“食”べるという言葉と概念を忘れ、そのまま亡くなりました。

 

「誰が、願いましたか……ッ!!?

 そんなことを、誰がッ!!」

 

祠からSCiP(スキップ)(異常存在)は出てきません。

 その時、ふと青い薔薇が目に留まりました。

 

 昨日変えたばかりなのに、もう水が濁っています。

 私は青い薔薇を手に取りました。よくよく観察すれば、その青い薔薇は生花ではなく造花でした。

 

 ……それは、おかしいです。

 ありえません。

 

 造花が水を濁らせるなんて、そんなことは。

 

〖──願いました、おんな。

 おまえの、となりです、おんな〗

 

ようやく、SCiP(スキップ)(異常存在)が姿を現しました。

 SCiP(スキップ)(異常存在)は祠ではなく、この花単体だったようです。

 いくら祠を壊しても出てこないのは、祠とは直接関係しなかったからですか。

 

 それは置いといて……隣の、女……?

 今の私は一人です。となれば、ここに来た時、私の隣にいたのは……。

 

「お姉ちゃんが、願ったんですか……?」

 

〖願いました。

 わたくし、みずをかえます、やさしい、ひとの願い、かなえてくれます〗

 

……水を替えてくれた優しい人の願いだけを叶える、でしょうか。

 となれば、たしかにお姉ちゃんはそれに合致しています。

 

 迂闊でした。

 SCiP(スキップ)(異常存在)は危険なものばかりです。そこにお姉ちゃんを連れてくるべきではありまえんでした。

 ましてや、SCiP(スキップ)(異常存在)に関わるかもしれないものを触れさせるなんて、財団職員としてしてはいけないことでした。

 

 お姉ちゃんは適切に消費される人(Dクラス職員)ではありません。

 

「……お姉ちゃんは、何を……?」

 

〖おんな、はなれる、いやでした。

 願いました、謝る、できない。

 できないは、わるいです。

 謝る、わすれれば、わるくないです〗

 

「……っ」

 

わかってしまいました。

 このSCiP(スキップ)(異常存在)に、害意はないのです。ただ、そうするべきだと……善意でそうしただけなのです。

 感謝を示しただけなのです。

 

 ……Cさんは、『両親が離婚しそうなの。きっと、謝れば仲直りできるのに。謝るのってそんなに難しいのかな。どうして、謝らないんだろう』と悩んでいました。

 SCiP(スキップ)(異常存在)はその願いを聞き届け、Cさんの両親が謝らないのが悪いと判断しました。

 そして、謝るという行為を認識できなくすれば、謝る必要もなくなると考えました。

 

 そうして、Cさんの両親は謝るという言葉と概念を忘れ、仲直りできる最後の方法を忘れてしまったのです。

 

「……私は、あなたを確保、収容、保護します」

 

〖かくほ、しゅうよう、ほご。

 わかりません。

 いいこと、です?〗

 

「……はい」

 

〖いいこと、わからないです、わたくし。

 願います、いいこと〗

 

知らないだけなのです。

 何がいいことで、何が悪いことなのか。ただ、善悪を知らないだけなのです。

 

 【SCP-161-JP(伊れない病)】は伊るという言葉を理解できなくなるSCiP(スキップ)(異常存在)です。

 母が見せたように、症状を患った者がそのことに気付いた時、眼球の痙攣と直前の記憶喪失が起きます。

 

 本来、その症状が元に戻ることはありませんが……。

 

「……症状を治すことはできますか?」

 

〖できる、ます。

 ひつようです、じかん〗

 

どうやら、幸いにもその病は治るものだったようです。

 しかし、時間が掛かるとなれば……離婚には到底間に合わないでしょう。

 

 私は小さく頷き、花瓶を持って帰路につきました。

 シキが暗闇のなかを先導してくれているため、迷うことはないでしょう。

 

 でも、寒いです。

 夜風が吹いて、冷たくて、手が震えて。

 でも、手を繋いで温めてくれる人はもう、隣にはいないのです。

 

 

 ──謝れない病。

 

 

 それは、あまりにも苦い思い出となって心に残りました。

 

 

 

 

 

 車内は無言です。

 最初は話しかけてくれた父でしたが、途中から話題がなくなり無言になりました。

 車内に流れる音楽は、昔に流行った曲です。私にとっての昔なので、父にとっては世代の全盛期だったのでしょう。

 

 別れの日、お姉ちゃんは泣いていました。

 父と母は険しい顔をしており、そこには必要最低限の会話しかありませんでした。

 

 私は笑って別れました。

 お姉ちゃんが最後に見る私の顔は、笑顔であってほしかったからです。

 

「昼時だし、飯でも食べるか」

 

「はい。

 次に見つけた店に入りますか?」

 

「そうしよう」

 

車の荷台には私の荷物が積まれています。

 

 私はこれから、父が暮らすミレニアム自治区にお引越しです。たしか、最先端や最新鋭と呼ばれるものが集まる場所でしたか。

 

 ミレニアム自治区にはミレニアムサイエンススクールという高校が存在します。

 そこは研究者や学者の卵が集まる、前世で言う偏差値が高い学校です。

 

 私も財団職員としてSCiP(スキップ)(異常存在)の研究をしてきた実績があります。

 ある意味、私には合っている学校なのかもしれません。

 

 そんなことを考えていると、父が車を停車させました。

 

「ここでいいか?」

 

「はい」

 

ぼーっとしていたため何の店か確認していませんでしたが、飲食店ならどこでもよかったので頷きました。

 

 車を降りて店の看板を見れば、そこには紫関ラーメンと書かれています。

 紫関ラーメン? 何故だか、見覚えがある名前です。

 この店に来るのは初めてだと思うのですが……。

 

「二名様ねー、お好きな席にどうぞ!」

 

店主は二足歩行の柴犬でした。かわいいです。

 

 メニューは色々とありましたが、店名と同じ紫関ラーメンを注文しました。

 そして、メニューを待ちながら私と父は他愛無い話を交わします。

 

「……お前も新しい学校では、あのシキとかいうやつの話はしないように」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に聞き返します。

 ロボットの父は顔の液晶にある目を細め、少しだけ俯きながら話します。

 

「お前の頭が疑われる。

 そういう()()()ばかりしていると、いつか信頼を失って友達もなくすぞ」

 

友達をなくす?

 引っ越しをして、友達も何も真っ新になった私に、それを言いますか?

 

 なくすような友達も、もういないというのに。

 あなた方が奪ったようなものなのに。

 

「……はい」

 

きっと、私が父との対話を諦めたのはこの瞬間でした。

 

 父にとって、シキやSCPの話は私の妄言でしかなく、ただの法螺話なのです。

 しかし、一周目からSCPを愛していた私にとって、父のその言葉はとても許容できるものではありませんでした。

 

 誰だって、好きな物を否定されたら悲しいでしょう。

 シキが影から現れ、私の頬を舐めてくれました。慰めてくれているのでしょうか。

 

〖ハカセ、だいじょうぶ?〗

 

私は小さく頷きました。

 

 前世でもそうでしたが、私の精神年齢は肉体に引っ張られます。

 そのため、大人なら耐えられるような小さなショックやストレスが、今の私にはとても大きく感じられます。

 

 だからこそ、できるだけストレスがないよう気を付ける必要があります。

 自身の限界を見誤って亡くなった人は、たくさん見てきましたから。

 

 

 

 

 

 私たちが静かにラーメンを食べていた時のこと、突然勢いよく扉が開かれました。

 

「強盗だーっ!! 金を出せぇ!!!」

 

入ってきたのはヘルメットを被った集団でした。

 

 キヴォトスではなぜか、不良生徒は高確率でヘルメットを被っています。

 そういう文化があるのかと調べたこともありますが、諸説あるらしく正確な理由はわかりませんでした。

 

 それらの不良生徒、通称ヘルメット団は危険です。

 なぜなら、ここキヴォトスでは生徒が当たり前に銃火器を扱うからです。

 

 キヴォトス人は丈夫なので、撃たれてもそうそう死にません。ですが、建物が倒壊したり、そうでなくでも目に当たったりでもしたらとても危険です。

 

 未成年は安全のため銃を持つことが許されていますが、大人は別です。

 ヘルメット団に銃を向けられて、店主に抵抗する術はありません。

 

「出るぞ、ムガミ」

 

「えっ、でも……」

 

「助けるのは無理だ。

 これは、そういうものだ」

 

父は席を立って、車に戻ろうとします。

 食事代も払わず、店主を助けることもなく。

 

 私は父を追いかけるように席を立ちましたが、後ろ足を引かれる思いで振り向きました。

 店主は悲しそうな顔をしていました。

 大切なお店を奪われそうになって。

 

 ふと、その時、稲妻が走るように一つの記憶が思い起こされました。

 ほとんど反射的に、私は呟いていました。

 

「……願いを」

 

〖願う、しますか?

 あなたは、願う、しない、おもっていたです〗

 

SCiP(スキップ)(異常存在)の力は、無闇矢鱈に使うべきではありません。

 本来ならそれは秘匿しておくべきものです。

 

 ですが、おそらく父のもとで【SCP-004-KV(謝れない病)】を隠し通すのは難しいでしょう。

 『なぜ、造花に水をやっているんだ』と聞かれるでしょうし、水が濁っていることに気付けば、奇妙なものだと捨てられるかもしれません。

 

 まだ、私にはSCiP(スキップ)(異常存在)を確保、収容、保護する(守れる)力がありません。

 いつか、その時が来たら。

 

「──この店から、“盗”みをなくしてください」

 

紫関ラーメンという名称に対する既視感。

 私はその正体を思い出しました。

 

 ブルアカにおいて、原作にも出てくるお店です。

 色々と思い出深いお店ですが、特に印象的な記憶はお金がない生徒が頼んだラーメンに無料でたくさんのトッピングをして、お腹いっぱい食べさせていた姿です。

 

 そんな店主だからこそ、私はこのお店が好きです。

 そして、そんな店主だからこそ、【SCP-004-KV(謝れない病)】を預けても、きっと問題ないだろうと考えました。

 

〖あなたは、いいひとです。

 その願い、かなえてくれます〗

 

その瞬間、ヘルメット団の者たちは不思議そうな表情で辺りを見渡しました。

 

「あれ、私たち……何してたんだっけ?」

 

「そりゃ……飲食店だし、飯を食べに来たんじゃねぇの?」

 

そう言って、ヘルメット団の人たちは席につきました。

 

 ここではまだ、【SCP-004-KV(謝れない病)】の異常性が発露しています。

 だから、私は必ず、ここに戻ってきます。

 

 もう一度、迎えに来ますから。

 

「お嬢ちゃん、その花瓶は……青い薔薇?」

 

不思議そうな顔をした店主さんが駆け寄ってきます。

 

「っ……大切な、花です。

 毎日水を替えて、愛情深く育てれば……この子は必ず、応えてくれます。

 ごめんなさい、店主さん。

 どうか、この花をお願いします……っ」

 

本来、一般市民をSCiP(スキップ)(異常存在)に関わらせることは職務違反です。

 ですが、今の私には、【SCP-004-KV(謝れない病)】を置ける場所が他に思いつかなかったのです。

 

 私は店主の顔を見るのが怖くて、逃げるようにお店の扉に向かいます。

 

「お嬢ちゃん!

 俺はみんなから、芝大将って呼ばれているんだ。

 ──今度、ここに来た時はそう呼んでくれよ!!」

 

「ッ……はい。

 いずれ、また」

 

私はお店から出ました。

 

 彼は“盗”みの言葉を忘れています。

 そのため、私たちが代金を払っていなくても、咎めるという選択肢が思いつかなかったのでしょう。

 

 また、改めて代金は支払いに来ましょう。

 そして、次にお店から出る時は、【SCP-004-KV(謝れない病)】も一緒で。

 


 

 

謝れない病

 

アイテム番号:

 SCP-004-KV

 

オブジェクトクラス:

 Keter(ケテル)(困難な収容)

 

特別収容プロトコル:

 【SCP-004-KV(謝れない病)】の入った花瓶は通常、アビドス自治区にある紫関ラーメンの店内に設置してください。

 【SCP-004-KV(謝れない病)】は定期的に花瓶の水を入れ替え、濁りすぎないよう注意してください。

 【SCP-004-KV(謝れない病)】に願い事をする時は、何を願ったのか必ずメモしてください。

 

説明:

 【SCP-004-KV(謝れない病)】は【SCP-161-JP(伊れない病)】と青い薔薇の造花が融合した存在です。

 【SCP-004-KV(謝れない病)】は指定した言葉とその概念を対象の人物から消失させることができます。

 また、シキの証言によれば、水が濁ると神秘も濁るため危険です。

 現在、【SCP-004-KV(謝れない病)】は紫関ラーメンの店内にいる者に対して、『盗む』という言葉を消失させています。

 




登場したSCiP(スキップ)(異常存在)

SCP-161-JP(伊れない病)(作者: undercat)
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