SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、誰も彼もが思考を放棄して崩壊した。
こんにちは。
離婚して姓が変わりました、
「ごめんね、ムガミちゃん」
担任の先生として紹介された犬獣人の女性は申し訳なさそうにしながら声を掛けてきます。
いまは教室に向かう途中です。
つまり、これからクラスメイトと初顔合わせとなります。
もしかして、実はとても荒れている学校だったり、問題のあるクラスだったりするのでしょうか。
なんだか緊張してきました。
「実はいま、えっと……全学年の全部のクラスで学級崩壊が起きてて……。
──明日から、この学校は休校になるんだ」
「はい……はい?
………………はいっ?」
しかし、先生の発言は私の想像の斜め上どころか、物凄い勢いで斜め下を行きました。
学級崩壊までならまだわかります。
風紀が荒れていて、クラスが秩序を保てない状態になることです。
しかし、それが全クラス?
しかも、それによって明日から休校??
どういうことやねん。
思わず、出身地でもない関西弁が出てくるくらいには動揺してしまいました。
「うん、そういう反応になるよねぇ……。
……本当に、どうしてこんなことに……」
先生はそう呟きながら、痛々しい様子で俯きました。
どうやら、この事態は彼女にとっても予想外の事態だったようです。
いったい、この学校で何が起こっているのでしょうか。
事前にネットで調べた時は、不良校みたいな情報はありませんでした。
修学旅行や林間学校の写真も載せられていましたが、当然荒れているような様子はありませんでした。
「……あぁ、この教室だよ!
それじゃあ、一緒に入ろっか」
「は、はい……」
いったい、この学校で何が起きているのでしょうか。
本来、起こり得ない異常事態。
それに対して、私の脳裏にはSCPの三文字が浮かびあがります。
もし、
そうでなくても、これから通う学校が休校というのは色々と困りますから。
「今日はみんなに、新しいお友達を紹介するよ~!」
教室に入ってまず目についたのは、子どもの少なさでした。
本来埋まっているべき机は、その半分近くが空席となっています。
休校の理由は何なのでしょうか。
治安の悪化? 流行り病?
……情報が足りません。
ですが、この異様な出席率の低さが休校と関係していそうですね。
「日輪ムガミです。
アビドス小学校から来ました。
仲良くしてくれると嬉しいです」
パチパチパチと薄い拍手が帰ってきました。
本当は『これから一年間、よろしくお願いします』と言う予定でした。
ですが、明日から休校になるようなので無難な言い方に変えました。
「それじゃあ、ムガミちゃんはヒマリちゃんとリオちゃんの間の席に座ってね。
ヒマリちゃんとリオちゃんは手を挙げてくれるかな~?」
白髪の子と黒髪の子が手を挙げます。
私はその間の席に移動します。
「よろしくお願いします」
「よろしくね、ムガミちゃん。
私は
「……
よろしく」
なるほど、柔らかい雰囲気の方がヒマリさん、ツンケンしている方がリオさんですか。
ヒマリさんの方は車椅子で、他の子どもより大きい机を使っています。足が不自由なのでしょうか。
一応、原作キャラクターがいるかもしてないと気にしていましたが、彼女たちは違いそうですね。
車椅子なんて特徴的なキャラがいれば忘れるはずもありません。
といっても、
「今日は授業の前にプリントを配るよ。
みんな、必ずパパやママに渡してね~!」
そうして、『無期限休校に関するお知らせ』という紙を渡されました。
内容は『休む生徒が増えたため休校とします』といったもので、具体的に何が起きているのかはわかりませんでした。
ですが、『山奥の廃坑には決して行かないように』という重要な文言を見つけることができました。
早速、今日の放課後にでも向かってみましょうか。
放課後、私はすぐに廃坑へ向かう予定だったのですが、その前に引き留められました。
具体的には、『一緒に帰ろ!』という名目で。
「──ムガミちゃんは、廃坑に行くの?」
じっとヒマリさんが私の目を見て聞いてきました。
私はそれを静かに見つめ返します。
何となく、ヒマリさんから感じる雰囲気には違和感があったのです。
まるで、“普通じゃない人が普通を演じている”ような。
それでも、目の奥にある知性の色は隠しきれていませんでした。
最初から私を観察するような、探るような、同時に警戒心を抱かれない距離感を見極めるような視線。
こちとら、人生経験だけは無駄に長くて豊富なので、そういう視線にもすぐ気付けました。
「はい、これから行きます」
「危ないわ。
行った人はみんな、学校に来なくなったのよ」
リオさんが忠告するようにそう言います。
それもそうでしょう。こんなもの、子どもが対処するべきものではありません。
だからこそ、
「問題ありませんよ、こういうのには慣れているので」
私がそう話していると、私の影からシキが出てきました。
私の視線を追って二人もシキがいる方を見ますが、不思議そうな顔をするだけなのでシキは見えていないようです。
この世界の人間は、
なので、二人は現在
「お二人は──」
「そこにいるのっ!!」
突然、大きな声が聞こえて思わず振り返ります。
そこには二人の女生徒がいて、険しい表情で睨み合っていました。
何か口論をしているみたいです。
二人の剣幕に、ヒマリさんとリオさんも怯えています。
「“たま”はいるのっ!!
ほら、いまもそこにいて、私を見て……」
「いるわけないでしょぉ!!?
もう、いい加減にしてよッッ!!!」
片方の女性は怯えた様子でその場から早足で立ち去ろうとします。
その際、私たちの横を通り過ぎていきます。
「私は見てない、いないもん、見えてなんか……っ」
その際、ブツブツとそんなことを呟いていました。
私はそれらを見て、今回の
これ以上、二人を巻き込んではいけないと口を開こうとした時──
「──私たちも行くよ。
私は天才だし。
リオは運動神経も悪くて打たれ弱くて人の感情を読み取るのが苦手な上、
「ちょっと?」
「手足にはなるから」
「ねぇ、プラスの言葉が一つもないようだけど……っ」
「……っふふ」
ドヤ顔のヒマリさんと半泣きのリオさん、その漫才のような会話が面白くて思わず笑みが零れました。
……そういえば、両親が離婚してから、笑ったのはこれが初めてだったような気もします。
自称天才と、他称手足の二人組ですか。
面白いです。それなら、せっかくだし頼らせていただきましょうか。
元々、人手は多いに越したことはありません。
小学生の身は一人で動くには難しく、ちょうど協力者が欲しいと思っていたところでもありました。
ただ、これだけは聞いておかなけばいけません。
「あなたたちが踏み込もうとしているところは、非常に危険で、シャーペンの芯が折れるより簡単に人が死ぬ……そんな世界です」
私も実験や研究のために、幾人ものDクラス職員を犠牲にしてきました。
例え、Dクラス職員が死刑や無期懲役の決まっている凶悪犯罪者だとしても、私の指示で人が亡くなったことには変わりありません。
私は
そういう、非常に危険な世界なのです。
人の死が、シャーペンの芯が折れることより身近に感じられるほど。
「──本当に、巻き込まれる覚悟はありますか?」
本来、一般市民は巻き込んではいけません。
例外的に、一般市民をEクラス職員として雇用し、非常に限定的で危険性の低い業務を任せることもありますが、その程度です。
直に
ですが、人手が足りない現状、私はそれらを誰かに頼るしか選択肢がありません。
いまもどこかで、
ここは休校で済んでいるだけまだマシで、中には人死にが出ているところも既にあるでしょう。
我々はそれらに対処する必要があります。
──『人類は恐怖から逃げ隠れていた時代に逆戻りしてはならない』。
人々が光の中で暮らすなか、私たちは暗闇の中で戦うのです。それらを封じ込め、人々の目から遠ざけるために。
それこそがSCP財団の理念であり使命。
「もう充分に巻き込まれているわ。
それに、このまま放っておくことなんてできない」
「そうだよ、それに巻き込まれるなんて表現はしないで。
──仲間なら、敵には一緒に立ち向かうものだよ!!」
二人は少しも怯える様子はなく、そう言い放ちました。
もしかしたら、私に話し掛けた段階で覚悟は決まっていたのかもしれません。
どうしてか、私に話しかける前から私が廃坑に行こうとしていることがわかっていたようなので。
おそらく、ヒマリさんはギフテッドで、私には見えていない世界が見えているのでしょう。
そして、リオさんはそれについてきた……。
……こんなに濃いキャラで原作キャラじゃないことってあるんでしょうか?
「……そう、ですか……。
ところで、ヒマリさんのそれは何の受け売りですか?」
「昨晩やっていた戦隊ヒーローもののアニメだよ」
やっぱり。
明らかな決め台詞だったので何かと思えば、そういうことでしたか。
すると、目をキラキラとさせたリオさんがヒマリさんに詰め寄ります。もしかして……。
「あれ、いいわよね……っ!!」
「ぁ、えっと……昨日はたまたま見ただけで、普段から見ているわけではなくて……」
やっぱり。
リオさんはそのアニメの大ファンだったみたいです。
男の子向けのアニメなのであまり語れる人がいないのかもしれませんね。
……というか、この世界は未成年者が全員女性なのに、どうして男児向けアニメがあるのでしょうか。
不思議です。
キヴォトスの外はなぜか情報規制されており調べることができないので、その真相を解明することは難しそうです。
「……ぐすんっ」
「ご、ごめんなさいっ!?
面白いよね! うん、面白かったよっ!!」
そんなことを考えていたら、半泣きを超えて、いまにも泣き出しそうなリオさんをヒマリさんが慰めていました。
さっきまで攻め攻めだったヒマリさんがタジタジになっている姿はなんだか面白いです。
将来、コンビ漫才師でも目指したらどうでしょうか。
「ふふっ……あはははっ……!!」
「そこで笑っている人、後で覚悟しておいてね……っ」
あっ、やば。
標的がこちらへ向く前に、私は廃坑がある山に向かって歩き出しました。
三十六計逃げるに如かずです。