SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
そうして、私とリオさんは山の中腹にある炭坑に向かいました。
ヒマリさんも山の麓までは来たのですが、斜面が険しく車椅子で登るのは難しいということでこの場にはいません。
『この炭鉱は数十年ほど前に廃坑となり、それ以降は人が寄り付かなくなったみたいだよ。
新しく文化施設に作り直す計画があって坑道が再整備されたけど、今回の騒ぎでその計画も白紙に戻ったみたい』
というわけで、ヒマリさんは電話での参加です。
再整備が発端となったのでしょうか。うーん、まだ情報が足りませんね……。
というか、その情報はいったいどうやって調べたんでしょうか。
同じ疑問を持ったのか、リオさんがヒマリさんに聞いていました。
「それ、どうやって調べたの?」
「……隠したい情報があるパソコンは、インターネットに接続するべきじゃないよね」
察しました。
本来なら
何となく雰囲気が和んでいる気がしたので、気を引き締めるために私は口を開きました。
「この廃坑にいるものは、その現象を理解した者に対しても症状を伝染させます。
なので、具体的な説明はできません」
この廃坑にいるのは、おそらく【
これは、イエネコに対しての認識が歪められる
【
しかし、カメラ等にねこが映ることはありません。
「ねこがいます」と話した者は、次第に視界の端にもねこがいて、ねこが自分を見つめているように感じます。
また、普通のイエネコを見ても、それがねこに見えるようになります。ねこです。
そして、「ねこです。これはねこです」とその症状を積極的に他者へ伝えようとします。きいてますか?
その症状を理解するだけで、それは伝染します。
います。そして、「ねこはそこにいます。ねこでした」と更なる伝染を行いますが、ねこはいます。
ねこですよろしくおねがいします。
……と、まぁ、そういう
つまり、ねこがいることを理解した者に対してねこの幻覚を見せ、感染した者は無意識にそれを伝染させます。
余談ですが、【
これはねこがたくさんの人に知られて、逆に住処へ閉じこもったという報告書です。
私がそれらを理解しながら症状にかかっていないのは、おそらくそれがねこではないからでしょう。
通行人の女生徒は言っていました。
「“たま”はいる」、と。
つまり、この世界のねこはねこではなくたまなのです。
「カメラには映らないので、ヒマリさんからすると私たちが突然おかしなことを言い出す感じになると思います」
「なるほど……録画ボタンはこれだね」
「ちょっと、私たちのおかしな姿を録画しようとしてる?」
「やっぱり、研究するなら資料は必須だよね」
惚けたような言い方をするヒマリさんをリオさんは画面越しに睨めつけています。
喧嘩するほど仲がいいというやつですね。
別に録画するのは構いません。
幸い、今回の
それとは逆に、見ていないと殺しにくる
「ともかく、たまという存在や怪しい何かを見つけたらすぐに報告してください」
「何を言っているの?
──たまはそこにいるじゃない」
空気が一変しました。
私はリオさんの視線の先を追います。
そこには、それがいました。いや、ありました。
──そう、一発の
「……たしかに、たまですね。
ヒマリさん、これは見えますか?」
「えっ?
……何も見えないけど」
「わかりました。
すぐに音声を切って、私たちの会話を理解しないように努めてください。
読唇術が使えるなら映像も」
「……音声を切ったよ」
ヒマリさんに
よくよくそれを観察してみれば、そのたまには二つの目がついているように見えます。
正確には、目の模様でしょうか。
ですが、それは私の方を常に見ており、その視線が私から外れることはありません。
「たまはいるわ。
こっちを見ているの、たまが。
ほら、たまがそこにいるの」
「リオさん、すこし落ち着いてください。
見ないよう、しばらく目を閉じて……そう、完璧です」
リオさんは不思議そうな顔をした後、指示に従って目を閉じてくれました。
この場において、最も場慣れしていて的確に指示を下せるのは私です。それをリオさんはわかっているのでしょう。
ヒマリさんといい、ミレニアムには頭がいい人しかいないのでしょうか。
二人とも、まだ小学一年生ですよ?
大人の記憶を持っていてようやく対等って、いったいどうなっているんですか。
ですが、そんな二人を仲間にできたのは大きいです。
それじゃあ、今回は少しばかり格好付けて、
「たまさん、お話はできますか?」
〖たまです。
たまはたまさんじゃないです。よろしくおねがいします〗
「それは失礼しました、たま。
単刀直入に伺いますが、あなたの力を抑えていただくことは可能ですか?」
〖むずかしいです。
たまはいます。たまはいるだけです。
たまはどこにでもいます。かしこ〗
もしかして、たまが感染を広げているというより、ただそこにいるだけなのでしょうか?
たまは自身の存在を知っている者のところにいます。
逆に言えば、たまは自分自身で行く場所を選べないのかもしれません。
「たま、私はあなたを迎え入れたいです。
ですが、たまがたくさんの人のところにいる状況だとそれが難しいのです」
〖たまはたまです。
たまはけんじゅうのなかにいます。
ので、けんじゅうがいります〗
「拳銃……これでも大丈夫ですか?」
何とか抑える方法がないかと聞いてみたら、答えが返ってきました。
私は腰にさしてあったハンドガンをたまに見せます。
たまはじっと……ハンドガンではなく私を見ています。
いや、たぶんたまはハンドガンを見ているのでしょうが、その性質上、目は私を見たままです。
いま、リオさんが目を開けていたら、リオさんもたまが自分を見ているように見えたでしょう。
〖ここにいます。ここちよいです。
たまはここにすみます〗
ふっ……と、目の前の銃弾から目が消えました。
そして、声は拳銃の内側から聞こえるようでした。
といっても、直接音が出ているわけじゃないので、あくまでそんな気がするだけですが。
「【SCP-005-KV】を確保、収容、保護しました」
今回も無事に、
この
〖──たまですよろしくおねがいします〗
それがまさに、適切でしょう。
私たちは帰路につきました。
小学生の足では山道を進むのは難しく、帰る頃には辺りが薄暗くなっていました。
麓では心配した表情のヒマリさんが出迎えてくれて、私たち三人はそのまま家へ向かい歩き始めました。
「ヒマリさん、リオさん、今日は──」
「──もう、一緒に事件を解決した仲だっていうのに他人行儀じゃない?
私のことは超絶天才美少女ヒマリちゃんでいいよ!!」
たしかに、私たちはもう他人ではありません。
友達であり、仲間。
望んでこの世界に踏み入った、
「……そうね、さんなんてつけなくていいわ。
この自称天才も、さんをつけられるほど偉くないもの」
「んんん? 喧嘩売ってる??」
「先に売ったのはそっちでしょ」
バチバチと火花を散らしながら睨み合う二人。
本当に、二人は仲良しですね。
「ありがとうございます、ヒマリちゃん、リオちゃん」
そう言うと、二人はバッとこちらに顔を向けました。
そして、ヒマリちゃんはドヤ顔の入った嬉しそうな顔で、リオちゃんは照れの入った嬉しそうな顔をします。
本当に、かわいいお友達たちです。
「──でも……喧嘩はほどほどに、ですよ?」
「「ッ……ご、ごめんなさい」」
ちょっとした注意のつもりが、二人は思った以上に委縮してしまいました。
あ、あれー? もしかして、早速、友達関係に溝が入りかけました??
私たちの関係はまだまだ発展途上みたいです。
たまですよろしくおねがいします
アイテム番号:
SCP-005-KV
オブジェクトクラス:
特別収容プロトコル:
【
『インサイド・ザ・ボックス』は緊急時を除き、使用しないようにしてください。
【
説明:
【
たまは自身を認識、または理解した人物(以下、発症者)に対して、自身の幻覚を見せます。
発症者は症状を周囲に対して積極的に伝えようとし、それを理解した者もまた発症者となります。
ただし、たまを銃弾として使用した場合は、被弾した人物のみが発症者となり、そこから伝染することはありません。
銃撃による発症者は数日から数週間で症状が完治します。
たまですよろしくおねがいします。
登場した
【
【
【
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