SCP-001-KV 作:SCP-001-KV
その世界は、小さな願いで道を誤り崩壊した。
──子どものちょっとした嫉妬心。
時に、それがとんだ大事件を引き起こしてしまうこともあるのです。
「……自信が、なかったの」
「そのことが、苦しかった」
そう、まさに今回の事件のように。
ミレニアム小学校。
その二年四組には飛び抜けて優秀な生徒が三人います。
一人は白髪で車椅子に乗った、明星ヒマリちゃん。
天才を自称するだけあってその頭脳は折り紙付きで、特にハッキングなど電子系統で彼女に敵う者はいません。
現在は報告書の管理などを行ってくれている、とても心強いセキュリティ担当です。
ただ、とあるT.Rちゃんによると。
「あれはただのナルシストよ。
その上、性格が終わっていて、大人ぶってるだけのガキ」
らしいです。
もう一人は黒髪で鋭い赤い瞳を持つ、調月リオちゃん。
感情より理性を優先できる合理性も魅力ですが、それを可能とする知略や判断能力こそ彼女の誇るべき才能でしょう。
現在は
ただ、とあるA.Hちゃんによると。
「いつも自意識過剰だよね。
それに自己中心的で、まさに体も心も幼稚なお子さまっていうところかな」
らしいです。
最後の一人は……自分で言うのもあれですが、私こと日輪ムガミです。
大人の知識と経験を持っているので当然と言えば当然ですが、学業や生活態度は優秀、人間関係も良好と悪くない感じです。
業務内容は
ちなみに、A.Hちゃんからは『潤滑油』、T.Rちゃんからは『緩衝材』という評価を頂いております。
まぁ……天才二人に対して凡人の私ですから、推して然るべき評価ですね。
二人の天才に囲まれた私ですが、人生が三周目というのもあって今日まで何事もなく平穏無事に過ごせています。
「ヒマリちゃん、体調不良で今日は午後から登校するみたいですね……。
すこし心配です」
「えっと……“ひまり”?
──そんな子、この学校にいたかしら」
と、そんな平穏は呆気なく崩れ去りました。
一瞬、何を言っているのかわからなくて私の思考は停止しました。
しかし、すぐ冷静になって、おそらく
確率としては、九割九分九厘です。
「リオちゃん、昨日の放課後は誰と帰りました?」
「えっ?
……いつも、あなたと二人きりでしょ」
どうやら、記憶からもヒマリちゃんのことは消えているようです。
これは……早めに対処した方がいいかもしれませんね。
午後、ヒマリちゃんが学校に来ました。
それに対して、周囲の反応におかしなものはありません。
唯一、リオちゃんだけがヒマリちゃんを警戒したように見ています。
「おはよう、ムガミちゃん……と、リオ。
いつにも増して辛気臭い顔をして、どうしたの?」
「いつにもって……私とあなたは初対面じゃない」
ヒマリちゃんは驚いたような困惑したような顔でリオちゃんを見て、すぐ私の方へ振り返りました。
そりゃあ、昨日も一緒に帰った友達が次の日になったら自分のことを忘れている。そんな状況になったら、そういう反応にもなりますよね。
「おそらく、
「そう……なんだ。
リオ、その……私のこと……っ!
……ううん、何でもない」
「……その口ぶりと態度からして。
もしかして、私とあなたは初対面ではないの……?」
ヒマリちゃんは少しだけ悲しそうに、出会った時の話や一緒にたまの事件を解決しに行った時の話をし始めました。
リオちゃんは自分の記憶と齟齬が大きいためか、険しい顔をしながら聞いていました。
帰宅した後、私は部屋で
「記憶に作用する
真っ先に思い浮かんだのは、【
これは
今回は後者ですね。
ちなみに、まかり間違って【
「……記憶喪失ではなく、他人から自分の記憶を消すというものなら【
【
ちなみに、一位は【
他にも、【
それに【
【
あとは【
【
……ごほんっ。失礼しました。
ちょっと興奮してしまいました。
ですが、これらの
「……いまはまだ、情報が足りませんね」
とにかく、明日も情報収集をしましょう。
そして、翌日。
「──“りお”?
そんな人、この学校にいたっけ」
デジャブです。
いや、デジャブというか、昨日も似た光景を見ました。
私はリオちゃんを見ました。
「ちょっと、ヒマリ……冗談はやめてよ……っ。
私のこと、忘れちゃったの……!?」
そして、半泣きのリオちゃん。
何だか最近、半泣きのリオちゃんが癖になってきたんですよね。普段ツンケンしているから、泣き顔がかわいいです。
……っと、変な性癖を目覚めさせてしまう前に、目の前の問題を解決しなければ。
「お二人共、昨日の出来事は覚えていますか?」
「「昨日?」」
「なるほど、了解しました……」
どうやら、どちらも昨日の記憶を忘れてしまっているみたいです。
……なんだか、嫌な予感がします。
もしかして、これ……一日ごとに交互で記憶を忘れて、当人たちは前日に自分が記憶を忘れていたことも忘れる……。
……なんてことは、ありませんよね……?
嫌な予感は的中しました。
「“ひまり”?
そんな人──」
「──こちらにいるのがヒマリちゃんです。
ヒマリちゃんとリオちゃんはいま、
「えっ、私も……!?
……もしかして、ループして……」
「……そういうことね。
わかったわ」
えっ、なんでわかるんですか??
この天才たち、もしかして天才???
天才は凡人とは違う世界が見えていると言いますが、ここまで話が早いと楽ですね。
私もSCP財団の研究者に選ばれる程度には学があるつもりですけど、それでも二人には敵いそうにありません。
「というわけで、二人は心当たりを列挙してください」
「「“願いを聞いてくれる館”……あっ、先にどうぞ……」」
……記憶がなくても仲良しですね。
しかし、“願いを聞いてくれる館”ですか。
なんというか……いかにもって感じですね。
「……もしや、お二人はそこに行ったんですか?」
「いや、気になっていただけでまだ行ってないよ」
「私も、行った
記憶、と言われたらあまり信用ができませんね。
二人共、なぜか記憶を失くしています。
もしかしたら、館に行ったという記憶も忘れてしまっているのかもしれません。
「「ただ、今日行こうかなって……えっ、あなたも?」」
確定ですね。この館が関係しています。
しかし……館のSCPというのは、あまり思い当たるものがありませんね。
ですが、【
あまり、物は参考にならないのかもしれません。
早速、私たちは“願いを聞いてくれる館”に行きました。
どうやら、ここはネットの一部界隈で有名になっているらしいです。
「二人は、ここに来て何を叶えたかったんですか?」
「「……」」
「言いたくないなら無理に聞きませんよ。
でも……仲間なら、一緒に立ち向かうものでしょう?」
それを聞いて、二人はハッとした顔になります。
この言葉は以前、ヒマリちゃんが言っていた言葉です。その時、私は二人に『巻き込まれる覚悟はあるのか』と問いました。
「──私を巻き込んでください」
だから、私はそう言いました。
「あなたたちの問題も、この
大人の余裕を見せつけます。
といっても、虚勢に過ぎませんが。
ですが、そう自信満々に振る舞っていた方が二人も安心できるでしょうから。
「……自信が、なかったの」
先にぽつりと呟いたのはヒマリちゃんでした。
私は無言で続きを促します。
決して、すぐに言葉を紡ぐように催促はしません。
すると、ヒマリちゃんはリオちゃんを正面から見ました。
「リオは……何でもできる。
できないことなんてないみたいに。
だから、いつかリオが、私を置いて先に行ってしまうんじゃないか、って……」
ヒマリちゃんの目には……嫉妬心がありました。
すこし驚くと同時に、納得しました。
ヒマリちゃんはリオちゃんは天才だから、てっきり嫉妬することはないのだと思っていました。
しかし、そんなことはないのです。
二人も普通の人間で……嫉妬したり、悩んだり、そういう当たり前の感情を当たり前に持つ少女だったのです。
「私とは違って、あなたには歩くための足があるから。
あなたは人付き合いが苦手だけど、人と関われないわけじゃない。
友達だって……きっと、いずれたくさんできる。
その時……私は……っ」
「そんなこと──」
「──そうね、私には足があるわ」
私がヒマリちゃんを駆け寄りたい衝動のまま口を開いたら、その前にリオちゃんが口を挟みました。
しかも、その言葉は……まさかの、ヒマリちゃんの言葉に対する肯定でした。
しかも、まるで嫌味のようにヒマリちゃんが使えない足を例に挙げて。
一瞬怒りが思考を支配しようとしたのを、
今まで、私は何を見て来たんですか。
リオちゃんが、意味もなく人を傷つけるような、そんな暴言を吐く人でしたか?
信じることもできず、何が
「だから、きっと……覚えていないけれど、私も怖かったのだと思うわ。
すこしの会話で、あなたが賢いことはわかった。
そんなあなたなら……いずれ、自分の義足を開発することも容易いだろうから」
それは。
つまり、二人は……同じ悩みを、持っていたのですか。
お互い、自分から離れて、どこかへ歩いていってしまうことが怖くて……。
「私もあなたも、悩んだのね。
そのことが、苦しかった」
「そうだよ。
大っ嫌いな、あなたの顔を何度も思い出して……夜、独りになると怖くなって」
それほど悩んでいたとは、知りませんでした。
二人とって、それだけ身近にいる
いえ……正確には、そんな相手に置いて行かれて、離れ離れになってしまうことが。
やっぱり、二人は好き同士ですね。
きっと、本人たちに言ったら否定されるんでしょうが。
「「──だから、願った。
“一日だけ、あなたのことを忘れたい”……と」」
身を焦がす悩みから一時だけ解放されたい、と。
何とも、子どもらしくてかわいい悩みではありませんか。
その解決のために、独りで眉唾な館へ向かったのは説教したいですが……。
しかし、二人は
私がいくら危険だと言っても、子どもの彼女たちに自分の思考を完全に律することなど不可能でしょう。
それは、大人として私がしっかり見ておくべきことでもありました。反省です。
二人がこんなことになっている原因は私にもあります。
「でも……リオが許してくれるなら」
「ヒマリがいいなら……」
やっぱり二人は、相思相愛です。
「「──仲直り、しよう」」
ぶつかり合い、反発し合っていた彼女たちの仲が……。
その時、更に深くなったような気がしました。
『プロトコル開始』
我らのように
貴様らの信じる
臆病で、矮小で、脆弱極まる。
──我らがそう認識し、蔑んでいたはずの人類に〗
(『幸運を。死にゆく者より敬礼を』)
ようこそ未来へ」
ありがとう。
あなたたちがこれを知る必要はないでしょう』
私たちのかつての使命は、異常な事物、実体、その他様々な現象の
やむを得ない事情により、この方針は
──私たちの新たな使命は人類の根絶です。
今後の意思疎通は行われません』
是非、全人類は見るんだゾ。
登場した
【
【
読解難易度:★★☆☆☆(一部困難)
説明:廃業した百貨店に入ると、『Aさん(入場者)、Bさん(入場者の知人)がお待ち
結末:実験により全人類から忘れ去られたDクラス職員は、
【
読解難易度:★☆☆☆☆(容易)
説明:人や物の
結末:封じ込めは失敗したゾ。財団は世界中に記憶処理剤を散布して、
【
読解難易度:★★★☆☆(中級者向け)
説明:車のトランクから繋がる異世界だゾ。異世界では怪物によって
結末:Dクラス職員が異世界側から
【
読解難易度:★★☆☆☆(一部困難)
説明:直径70㎝の黒い球体で、接触したあらゆるものを
結末:縮小したと思われた球体は
【
読解難易度:★★★☆☆(中級者向け)
説明:大規模な収容違反が起きたゾ。しかし、
結末:当時、
【
読解難易度:★★★★☆(理解力が必要)
説明:アメリカにある、入ったら出られない廃屋だゾ。その中は、物理攻撃の効かない
結末:化け物には『
【
読解難易度:★★★☆☆(中級者向け)
説明:時間が非常に遅延した中学校だゾ。
結末:一人の
【
読解難易度:★★★★☆(理解力が必要)
説明:現実改変を無効化できる
結末:死んでいたのは人間だゾ。
【
読解難易度:★★★★★★(読解不可能)
説明:パワードスーツに内蔵された
結末:『人間性が
……この話は本編執筆に四時間、後書き執筆に九時間かかったゾ。二度とやらないゾ。