Fate/The White Fatalis   作:灯火011

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第十一話:終焉のプレリュード

 沈黙は、一瞬で破られた。

 

 ミラルーツの咆哮は、音ではなく、純粋な力の奔流として、ギルガメッシュを、そしてその周囲の全てを押し潰さんとした。

 

 王は、辛うじてその場に踏みとどまったものの、黄金の鎧には無数の亀裂が走り、その傲慢な表情にも、明らかな警戒の色が浮かんでいた。

 

「……面白いにも程があるわ、化け物めが」

 

 ギルガメッシュは、低く唸った。彼の背後の空間が再び歪み、今までとは桁違いの、禍々しいオーラを纏った宝具が姿を現す。

 

 乖離剣エア。

 

 星を切り裂き、天地を乖離させる、英雄王が持つ最強の宝具。その赤黒い刃は、ミラルーツの純白の鱗と対照的に、破壊と混沌の象徴として、静かに輝いていた。

 

「貴様のような紛い物が、この我を前にして天災を気取るとはな! その身を以て、王の力というものを思い知らせてくれるわ!」

 

 ギルガメッシュが、エアを構える。その瞬間、ミラルーツもまた、動き出した。

 

 巨大な翼が、静かに、だが確実に、その角度を変える。そして、その口元に、強烈な魔力の奔流が集束していくのが、誰の目にも明らかだった。

 

 それは、未遠川で放った紅い雷とは、明らかに質の違うエネルギーだった。

 

 より純粋で、より破壊的で、世界の根源に繋がるような、圧倒的な質量を持った光の奔流。

 

 龍のブレスとも言える、神話の世界でしか有り得なかったそれが、この冬木で放たれたなら、この一帯はおろか、冬木市そのものが地図から消滅するだろう。

 

「やめろ……!」

 

 雁夜は、地面に伏せたまま、必死に叫んだ。

 

「やめるんだ! そんなことをしたら、桜ちゃんが……!」

 

 だが、彼の声は、二柱の怪物の咆哮にかき消され、届くことはなかった。ミラルーツの紅い瞳は、ただギルガメッシュを捉え、その口は、終焉の光を孕んでいた。

 

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」

 

 先に放たれたのは、ギルガメッシュの乖離剣エアだった。

 

 世界を切り裂くその斬撃は、空間そのものを歪ませ、黒い奔流となってミラルーツへと襲いかかる。

 

 だが、白き龍は、微動だにしない。

 

 そして、エアの黒い奔流がその巨体に触れる寸前、ついに、その口から、純白の光のブレスが解き放たれた。

 

 それは、まさに「光」そのものだった。

 

 一点から放たれた奔流は、触れたもの全てを原子レベルで分解し、無へと還していく。

 

 エアの黒い奔流と激突した瞬間、互いのエネルギーが拮抗し、空間が激しく振動、歪み、そして、巨大なエネルギーの奔流となって四方八方へと拡散していった。

 

 そして、巨大な爆発が起きる。―――いや、それは爆発という言葉では生温い。

 

 世界が、一瞬、白く染まった。

 

 衝撃波が、文字通り、街を吹き飛ばす。

 

 周囲の建物は、跡形もなく崩壊し、アスファルトは巨大なクレーターと化した。

 

 雁夜は、爆風に巻き込まれ、意識を失いかけた。かろうじて桜を抱きしめ、地面に伏せるのが精一杯だった。

 

 

 二柱の怪物の激突は、まさに天変地異。

 

 聖杯戦争などという、人間たちのささやかな願い事は、その圧倒的な力の奔流の前には、塵芥にも等しい。

 

 

 光と衝撃が収まった後、そこに残っていたのは、変わり果てた冬木市の姿だった。かつての街並みは見る影もなく、巨大なクレーターが無数に口を開け、至る所で炎が燃え盛っている。

 

 その中で、ミラルーツは、なおも空にその巨体を晒していた。純白の鱗は、エアの攻撃を受けた部分が僅かに黒ずんでいるものの、その威容は健在だった。

 

 対するギルガメッシュは、辛うじて踏みとどまっているものの、黄金の鎧は何か所かが砕け、その顔には明らかな苦痛の色が浮かんでいた。

 

「……まさか、この我が再び怪物退治をする羽目になるとはな」

 

 最強の英雄王すら、神にも等しい天災の力の前には、無傷ではいられなかったのだ。

 

 ミラルーツは、再びその紅い瞳をギルガメッシュに向けた。そして、無慈悲に二度目のブレスを放とうとする。

 

 だが、その瞬間、龍の巨体が、僅かに、だが確かに、揺らいだ。

 

 雁夜は、朦朧とする意識の中で、それに気づいた。彼女の力は、無限ではない。あの圧倒的な力を行使するにも、代償があるのだ。

 

(ああ、そうか。俺の、魔力が……)

 

 ギルガメッシュは、その隙を見逃さなかった。再びエアを構え、最後の力を振り絞って、龍へと突撃していく。

 

「終わりだ、化け物。貴様の力など、この我の友の前には、ただの泡沫にすぎん!」

 

 激突の瞬間が、近づいていた。次の瞬間には、金色の鎖がミラルーツを捉えようと、その四肢に伸び始めていた。

 

 その時、雁夜の意識は、完全に途絶えようとしている。彼の体は、聖杯戦争という狂気の舞台で、限界を迎えていたのだ。

 

 桜を庇うように倒れた彼の体は、燃え盛る炎の中で、静かに、その役目を終えようとしていた。

 

 裁きの刻は、迫っていた。

 

 冬木市は、二柱の怪物の激突を前に、終焉の序章を迎えようとしていた。

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