川を渡った烏と首なき天使   作:しものふ指揮官

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12月ってなんでこんなに忙しいんでしょうかねぇ!!!
あり得ませんねぇ!
旦那はさっさとドロシーを手ごまにするべきですねぇ!!!

心のナユタがそう叫ぶ…

ご無沙汰しております!
執筆時間が無くあれよあれよと年末!!

怒涛の一年でしたね…
7月に執筆しだしてもう12話ですか…
いや、まだ12話ですね…

来年はもっと頑張ります。

皆さまも良き年末を!!
明日で終わりだけどね!!!
あと!
ACのDLCさっさと出せ!!オグP!!!


12話:正義は装備できない

上空。

ヘリのローター音が鼓膜を振動させ続ける。

やけに静かになった機内の中、窓の外は灰色の雲が広がり、時折、雲の切れ間から青空が覗いていた。

護衛部隊のヘリコプターも私が搭乗している機体の両隣を並行して飛んでいる。

要らないとは言わないが、敵襲が来た場合、あの護衛機も守らないといけないと思うと面倒だな…。

 

そんなことを考えながら、機内の静けさに身を任せていると、色々な思いが出てくるもので…

『思えば、この世界に来て怒涛だったなぁ…』

 

《期間にして、大体半年ぐらいですね。》

エアの声が耳元で囁く。

言われると、そこまで長い時間が経っている気がしない。

 

この世界に来てから、ゴッデス部隊を知り、高機動部隊を作って…

いや、何度も言うけど気まぐれで始めたことなんだよね…あの部隊。

そして、今。

 

『案外あっさりゴッデス部隊に配属されたよね。』

《まあ、ほぼ実力のごり押しでしたからね。》

エアが苦笑する。

 

それを言われると、その通りなのだが、

エア自身も《実力でねじ伏せていきましょう》みたいな事を言っていた気がするので、ほぼ共犯である。

 

ひとまず、「ゴッデス部隊に入る」目標はクリアした訳だけど。

『次の目標…どうしよ?』

 

《そうですね…ある程度、ゴッデス部隊での任務をこなして…独立するというのはどうでしょうか?》

エアが提案してくる。

 

『うーん…』

考える。

 

独立か~…あり…ではある。

しかし、現状では企業とのパイプがない。

それはつまり、依頼が来ないのだ。

それにこの世界では、ニケが独立傭兵として活動すること自体がない。

つまり、ばらまき依頼もない。

名声は既にあるが、依頼できるプラットフォームがない以上、独立は難しい。

 

それに別の問題として、拠点がない。

弾薬や物資の補給、メンテナンスを行う場所がないと、独立は難しい。

ここまで考えると、いかにウォルターが居たことによるアドバンテージが大きかったかが分かる。

 

『いや、現状は軍所属のままでいいかな。でも独立は視野に入れるよ。どうせ切り捨てられるだろうし。』

 

どんなに功績を上げようとも、私という存在は“異端”だ。

出生が出生なだけに、ゴッデス部隊に居続けることも難しいだろう。

それに、軍にとっても不穏分子は目の上のたん瘤でしかない。

今はまだ、その瘤をどうするか考えている段階だろうし、戦力としても使わない手はないから切除できない。

しかし、いずれは切除される。

 

《分かりました。私の方でも、独立に向けて情報収集を始めておきます。》

エアが私の思考を読み取り、了承してくれる。

 

『ありがとう、エア。』

 

こういう時は便利なんだけどね…

ただ、考え事が全部筒抜けなのが怖いけど。

《レイヴンがやましい事を考えなければ、問題ありませんよ。》

エアがにやりと笑う。

 

そういう問題かな…?

《そういう問題です。》

 

『はい…。』

納得できないが納得したことにしよう。

 

 

 

今後の事をエアと一緒に考えていると、機内に同乗していた搭乗員が私の前にやってくる。

何かと思い顔を向けると、搭乗員の手には分厚い封筒が握られていた。

 

「大尉殿、軍本部より“重要書類”が届いております。」

搭乗員がそう言い、封筒を私に手渡す。

 

「重要書類?」

封筒を受け取ると、触った感触から中身が何かの端末であることが分かる。

渡して来た搭乗員は「私も内容は存じ上げませんが…」と付け加え定位置へ戻っていく。

 

封筒を開け、中身を取り出す。

それは薄型のタブレット端末だった。

端末以外に入っているものがないか、封筒を逆さまにして確認すると、もう一枚、小さな紙がレイヴンの膝上に落ちる。

 

紙を拾い上げ、内容を確認すると

「ゴッデス部隊【レイヴン大尉】専用端末 T.A.C.T(Tactical Access & Command Terminal)」と書かれている。

 

「私専用の端末?」

端末を起動させると、画面に軍のロゴが表示され、その後、パスワード入力画面に切り替わる。

パスワードなんて知らないし、紙に書かれているのかと思い、もう一度紙を確認するが、パスワードらしきものは書かれていない。

 

「ん…?」

再度端末の画面を見ると、パスワード入力欄の下に小さな文字で「網膜認証」と書かれている。

網膜認証…つまり、私の目で認証するシステムか。

ハイテクだなぁ…。

 

端末を目の前に持ってくると、端末が私の網膜をスキャンし、認証が完了する。

すると端末側ではなく、私の視界に直接情報が表示される仕組みになっていた。

 

「おおっ…すごいね、これ…。」

 

《端末のインストール情報を確認しましたが、害になるようなプログラムは入っていませんね。》

エアが端末の解析を行い、私に報告してくる。

 

そっか、そういうのも警戒しないといけないんだよね…。

ナノマシンの件といい、なぜそうも管理したがるのか…。

 

網膜上にメインメニューなるであろう画面が表示されると、画面が切り替わり耳元で音声が流れる。

――起動を確認。

──識別:C4-621、レイヴンの認証を確認。

──本端末はレイヴン大尉専用の秘匿通信および戦術補助端末です。

──本端末を用いて、軍本部および三大企業からの任務通達、音声メッセージ、並びに報酬の受領が可能です。

──現時点での閲覧可能な項目は、チャット/一部企業のパーツリストとなっております。

 

――以上で本端末の起動説明を終了します。

――ご不明な点がございましたら、端末内のヘルプ機能をご参照ください。

 

「ふむふむ…。ん!?」

 

今何といった?

パーツリスト…だと!?

マジですか!?

 

あまりの驚きに、思わず声が出てしまう。

パーツリストってことは、パーツリストってことだよね!?

心の中でガッツポーズを決める。

 

《落ち着いてください、レイヴン。》

『無理。落ち着けない。落ち着けるわけがない!』

 

だってパーツリストだよ!?

武器種から腕部、脚部、コアまで…全部見れるんでしょ!?

しかも、企業のパーツリストってことは、最新鋭のパーツも見れるってことだよね!?

『やったー!ついに来たよ、私にもパーツリストが!』

《喜びすぎです。》

 

『そりゃ喜ぶでしょ!

 …ふふふ…どうアセンブリしようかなぁ…。

 四脚でホバー移動するのもいいし、軽タンで大型武器を持つのもいいね…』

 

《人間の姿で四脚やタンクは…見た目がよろしくない気がしますが…》

エアの声を無視し、妄想にふける。

感情の高ぶりを抑えきれないのか、表情筋が緩みっぱなしだ。

 

脚部…つまりは足回りを変えると、機動力が大きく変わる。

四脚であれば、空中での移動が半永続的に続くし、タンクの足回りであれば、地上戦闘において高い防御力を得られる。

 

そして大事なのは腕部だ。

現状の積載上限が不明だが、ガトリングを両手持ちするとしたら、今の腕部では厳しい。

逆にもっと軽量化した腕部にすれば、積載上限は下がるが、機動力が上がる。

 

武器種については…持った武器すべてがコーラル製になってしまうため、あまり選択肢はないかもしれない。

あと、コアだが…多分変えれないので、こちらも選択肢はないだろう。

 

『とりあえず、パーツリストを見てから考えようっと!』

そう思い、パーツリストを開く。

すると、各企業のロゴが表示され、現状で閲覧可能な企業が三社あることが分かる。

 

ミシリス・インダストリー

テトラ・ライン

エリシオン

 

『少なくない?…って思ったけど、ニケ作れるのが三社だからかな?』

《おそらくその通りでしょう。》

 

『じゃあ、まずはミシリス・インダストリーから見てみようかな。』

意気揚々と企業ロゴを選択し、パーツリストを開く。

 

が、そこで表示されたパーツリストを見て、私は愕然とする。

「えっ…?」

 

少ない。

余りにも少ない。

確かに「閲覧可能な一部パーツ」と言われていたが、ここまで少ないとは思わなかった。

いや、それ以上に…

 

『武器だけ…?』

そこには、腕部や脚部と言ったカテゴリーすらなく、只々武器の一覧が表示されていたのだ。

え、まさか…パーツリストって武器リストのことだったの…?

『うそでしょ…?』

 

いやいやいやいや…そんな馬鹿な話があるはずない。

 

と思ったが、その他の企業のパーツリストも同様に武器リストしか表示されなかった。

そして思い出す。

今まで出会ってきたニケ達は同じ装備ばかりだったことを…。

 

『い、いやいや…ほ、ほら、これは…あくまで“閲覧可能な一部パーツ”って書いてあるし…?』

拠点に行けば、もっと色々なパーツが見れるかもしれない…。

『うん、きっとそうだよね…。』

 

そう自分に言い聞かせるのだが――

《……レイヴン。三社について、今しがた確認しましたが、生産されているパーツは武器のみのようです。》

 

『…』

 

横になる。

複数の隊員が座れるスペースに体を横たえ、天井を見つめる。

『……さっきまでの喜びを返せ……。』

 

はぁ…。

《落胆が激しいですね…。気持ちは分かりますが》

 

『ニケ開発にお熱になりすぎて、武器開発を忘れてたのかな…?』

《というより、ニケ自身の各所パーツを入れ替えるという概念自体が、企業側に存在しないのだと思いますよ。》

『そっか…。』

ならば仕方がない。

が――

そりゃ負けますわな…。

ニケ本体だけに注力しても各所パーツが貧弱では、戦闘力に大きな差が出るのも当然だ。

 

《ですが、レイヴンの活躍により、各企業もニケ用の装備開発に力を入れ始める可能性もあります。》

 

その言葉を聞き勢いよく起き上がる。

『そうだね!私がもっと活躍すれば、企業もニケ用のパーツ開発に力を入れてくれるかも!』

 

ならば、まずは各種パーツの入れ替えが如何に重要かを企業に知らしめる必要がある。

現状その広告塔は私しかいないのだから…やるべきことは…

『エイブに試作品を作らせて私が使う!それで企業にアピールだ!』

 

《……確実な事を言いますが、断られますよ?》

『大丈夫!多分どうにかしてくれるよ!というかさせる!』

 

エイブの果てしなく困った顔が目に浮かぶが、そんなことは気にしない。

そういえば、チャット機能が使えると言っていた…。

『よし、まずはエイブにチャットで連絡してみようっと!』

そう思い、チャット機能を開く。

 

チャット機能を開くと、既に2件のメッセージが届いていることが分かる。

 

誰だろう…?

『まずは一件目を見てみようかな。』

そう思い、最初のメッセージをタップする。

――【差出人:V.T.C 近接ニケ開発 担当 ムラクモ】

 

うわっ…。

名前を見て、思わず顔が強ばる。

《ムラクモ…例の様子のおかしい人…ですね》

『うん…。まあ、大体予想がつくけどね。』

 

開いてみると、まさかの音声メッセージだった。

――あー、あー…聞こえますかね?

──よろしい! レイヴン大尉殿!!先日はありがとうございました!

──まさか、検査に応じてくださるとは…感激です…

──あぁ…あまり長いのはお嫌いでしょうからねぇ。

 本題ですが、えぇ、大尉殿のおかげで、近接特化ニケの開発が順調に進んでおります!

 

 これももひとえに大尉殿のお力添えの賜物と、心より感謝申し上げますよ!

──そこで!大尉殿への報酬といいますか、返礼としまして、大尉殿の望む装備を一つ、試作品として提供させていただきたく存じます!

──近接特化ニケ用の装備以外でも構いませんので、何なりとお申し付けくださいませ!

──それでは、失礼いたしますよー!

 

『変わらずだね、この人…。』

《相変わらずのハイテンションですね…。》

『まあ、ありがたい話だからね。うん。』

 

今にして思えば、渡りに舟だったのかもしれない。

科学者/技術者がすでに2人もいるのだ。

これを活用しない手はない。

 

軍本部でのやり取りを思い出す。

エイブによる全面検査後、エイブに別れを告げ扉を開けたら、目の前に満面の笑みを浮かべたムラクモが立っていたのだ。

変な悪寒がしたの、あれが初めてだよ。

 

『まあ、変態科学者の返答は後にして、まずは二件目のメッセージを見てみようっと。』

そう思い、二件目のメッセージを開く。

――【差出人:軍本部 参謀総長 】

 

――レイヴン大尉、改めて貴官のゴッデス部隊配属を祝福する。

──貴官のこれまでの功績は、軍全体にとっても大いに価値あるものであり、今後の更なる活躍を期待している。

──さて、本題に入るが、貴官も察しの通り、これからは軍以外の企業からの任務も行って行くことになる。

──が、これはあくまで貴官の意思に基づくものであり、強制ではない。

──手短になってしまうが、貴官の武運を祈ろう。

 

『うーん、まあ、普通の挨拶文だね。』

《そうですね。特に重要な内容は含まれていないようです。》

 

要約すると、企業からも依頼が来るよー、ってことだよね。

強制ではないってことは、断ってもいいのかな?

正直、あのパーツリストの杜撰さを見てしまうと、受けたところでって感じはするけどね。

 

ん?

これ、もう私の独立する課題を1つクリアしてるんじゃないの?

知らない間にプラットフォームが出来てるじゃん!

 

『なんか、ここまでくると、悪運が後々怒涛のように押し寄せてきそうで怖いなぁ…。』

《傭兵稼業では、運…所謂、願掛けというのは大事らしいですし、そうかもしれませんね…。》

 

さて、エイブに連絡を取ろう。

流石にいきなり通信を入れるのは気が引けるので、まずはチャットで連絡を取ろうと思う。

 

12:13 【ニケの腕の種類を増やしたい。なんなら脚部も四脚とかタンクとかにしたい。試作品お願い。】

 

――送信。

 

『よし、送った!あとは返事を待つだけだね。』

《何度も言いますが、断られる可能性が高いですよ?》

『大丈夫大丈夫!』

楽観的に考える私であった。

 

 

 

 

 

今後の事や、依頼の事、パーツリストの事を考えていると時間というのはあっという間に過ぎるもので。

思考にふけっていると、各員の共通回線が入る。

 

――これより、ゴッデス部隊の空中空母(Winged Victory)への着陸準備を開始します。

――全員、各自の装備を整え、着陸準備を行ってください。

 

『あ、もう着いたんだ。』

あれこれ考えていると、時間が過ぎるのは早いものだ。

 

それにしても…

『Winged Victoryってかっこいい名前だよね。』

《直訳すると“勝利の翼”ですね。》

 

どんな意味だろうと考えていると、エアが調べてくれたのか、意味を教えてくれる。

《神話上…ギリシャ神話に登場する女神“ニケ”に由来しています。

 ニケは勝利の女神であり、翼を持つことから“勝利の翼”とも呼ばれています。》

 

勝利の女神ねぇ…

神様の名前を冠する子たちの扱いがアレじゃなぁ…

 

『この世界での神様って、ぞんざいにしても案外怒らない存在なのかな…』

 

レイヴンの言葉にエアが苦笑する。

《気まぐれな神様も居るとは言いますね。》

 

 

ヘリが徐々に高度を下げ、視界の先に、巨大な影が現れた。

空中に浮かぶ、異様な存在感を放つ航空空母。

艦体の下部には無数の推進ユニット、甲板上には整然と並ぶ設備群。

カタパルトなどの発進設備も見受けられる。

 

これが……ゴッデス部隊の拠点。

 

ヘリはそのまま甲板へと降下し、着陸の衝撃が機体を揺らした。

ローター音が徐々に弱まり、ハッチが開く。

 

《レイヴン。第一印象は大事です。》

 

何度か、その言葉をエアから聞かされているが、今までしっかり成功した試しがないのだが…。

『うん、分かってるよ。』

深呼吸を一つし、ヘリのハッチを降りる。

 

ヘリのハッチを降りると、そこは広大な甲板の上だった。

護衛部隊の面々も“私を護衛する”という任務を終えたのか、それぞれの顔は安堵の表情を浮かべている。

 

そして――

目の前には、既に二人の人物が立っていた。

茶色い軍服にサングラスを掛けた男性と、黒色の軍服を纏った女性。

恐らく、彼女がゴッデス部隊のリリーバイスさんなのだろう。

 

拳で戦うと聞いていたから、てっきりがっちりした体格の女性かと思っていたが、意外と細身だ。

白に近い銀髪のショートカット。

黒を基調とした軍服を、驚くほど自然に着こなしている。

華奢に見える体つきなのに、不思議と“弱さ”は感じない。

 

もう一人の男性は――

『誰だろう?あの人…。』

リリーバイスさんの“お付き”の人かな…?

 

ゴッデス部隊に所属するニケはリリーバイスさんだけなので、おそらく彼女が指揮官兼戦闘員という私と同じ感じなのだろう。

 

空飛ぶ空母という関係上、風が強く吹き付ける中、私は二人に近づく。

第一印象、第一印象…。

成功した試しがないけど…ここはホントに失敗したくない。

 

そう思うと私は自然と“リリーバイス”へ敬礼した。

「第八観測基地所属、レイヴン大尉。

 本日付でゴッデス部隊に配属されました。

 よろしくお願いします」

 

決まった!

《完璧です、レイヴン。》

エアが私を褒めてくれる。

 

すると、彼女は一瞬だけ目を丸くしてから、柔らかく笑って、同じように敬礼を返してきた。

「あら、意外としっかりしてるのね。ふふっ、こちらこそよろしく。リリーバイスよ。」

リリーバイスさんの笑顔を見て、私はほっと胸を撫で下ろす。

 

リリーバイスさんはそのまま、一歩近づいてきて――

手を差し出してくる。

 

私もそれに応じ、握手を交わす。

それと同時に“意外としっかりしている”という言葉の意味が分かり冷や汗をかく。

 

まぁ…そうだよね…。

外部から見た私って【ザ・自由/気まぐれ/問題児】みたいな感じだろうし…。

事実だけどさ…。

 

私とリリーバイスさんが握手をするその横で、

サングラスの男が何か言いたそうに口を開きかけて、また閉じた。

 

……なんでそんなにそわそわしてるんだろ?

 

私は特に気にせず、リリーバイスに視線を戻す。

「意外かもしれませんが、敬意を払うべき相手には、きちんと敬意を払う主義です。

 それに、私自身少し前までは部隊の指揮をしてたので、命令系統には従うつもりです。

 リリーバイスさんであれば、指揮内容に不安は無いですし問題ありませんよ。」

 

そう言うと、

リリーバイスの表情が、ほんのわずかに止まった。

 

あれ?

なんかまずい事言った?

意志表明としては普通のことを言ったつもりなんだけど…。

 

再度、リリーバイスさんの顔を見ると、少し考え込み

何かに気づいたのか、隣にいる挙動不審な“お付き”の男性を横目で見た。

そして、申し訳なさそうな表情を浮かべる。

 

「何か勘違いしているようだけれど…。

 私、指揮官じゃないのよねぇ…。」

 

「…は?」

思考が、一拍遅れる。

 

ん?

えっ…?

 

「……じゃあ、誰が……」

 

その瞬間。

わざとらしい咳払いが、横から聞こえた。

「失礼」

 

挙動不審なサングラスを掛けた男性が、気を取り直し一歩前に出る。

「改めて名乗ろう。

 私が、ゴッデス部隊の指揮官だ」

 

「……」

 

時間が止まった様な感覚に襲われる。

恐らく今、私の顔は豆鉄砲を食らったような表情をしているのだろう。

そして、そういう時ほど、思った事を口に出してしまうものだ。

 

「えっ…戦えない人間が、なんで指揮官なの…?」

 

「うぐっ…」

サングラスの男…もといゴッデス部隊の指揮官が、思わず声を漏らし空を仰ぐ。

私は私で、思わず出てしまった本音に「あっ…」と声を漏らす。

 

完璧に決まったはずの第一印象が、一瞬で崩れ去った瞬間だった。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

やらかした……。

 

ヘリを降りてから今までの流れを頭の中で反芻しながら、私は内心で深くため息をついていた。

よりにもよって、初対面で指揮官をガン無視。

いや、それだけならまだ良かった。

戦えない人間が指揮官って何事?って口に出しちゃったよ…。

 

……いや、待って。

これは不可抗力だと思う。

 

だって、戦場に戦えない指揮官を置くなんて、普通思わないじゃん。

現場指揮だよ?

現場…つまり戦場での指揮を執る者が戦えない人間なんて、ありえないでしょ…?

 

戦えない指揮官が戦場にいるってことはつまり――

敵を殲滅しながら、

割れ物みたいに脆い護衛対象を抱えたまま、戦えということ。

 

ウォルターを乗せたヘリが私と一緒に戦場に立つと考えると、ぞっとする。

というか、させないしウォルター自身もそんなことをすることは絶対に無いので考えるだけ無駄なのだが…

 

身に覚えのある依頼で近しいものとしては――

ルビコン解放戦線のヘリを護衛しながら、捕虜救出をする任務が一番近い…

あれもあれで、なぜ単騎での捕虜奪還をしようとしたのか未だに謎だ…

 

つまり………めちゃくちゃ面倒だ。

 

いや、今そんなことを考えている場合じゃない。

あの発言を聞いた指揮官は凄く落ち込んでた…。

リリーバイスさんが苦笑いをしながらフォローしてはいたけど、第一印象としては最悪だよね、これ…。

 

はぁ…。

 

現在、私はリリーバイスさんと共に甲板を歩いてる。

ちなみに、指揮官とは別行動を取っている。まあそりゃそうでしょうね。

 

後悔と言い訳が頭の中をぐるぐる回る中、少し前を歩いていたリリーバイスさんが、くるりと振り返った。

「それじゃ、簡単に艦内を案内するね。

 まあ、そんなに見どころがあるわけじゃないけど。」

 

「あ、はい。お願いします、リリーバイスさん」

頑張って笑顔を作るが、どこかぎこちない。

まあ、敬語なんて普段使わないし、さっきのこともあるしね…。

 

「まあ、そんなに堅くならなくても、普段のあなたでいいんだよ?」

私のぎこちない様子を見て、リリーバイスさんがそう言う。

 

「あー…うん。わかった、リリーバイスさー」

「リリスでいいよ?」

 

「…リリス。」

私の言葉に、リリスはにっこりと笑う。

あまり形式や堅苦しいのは好きじゃないみたいだ。

ココも意外だなぁ…。

 

 

リリスは歩きながら、艦内の構造を簡単に説明してくれる。

空母だというのに通路は広く、天井も高い。

並の部隊でないことが一目で分かる。

 

「ここがブリーフィングルーム。

 作戦時は、基本的にここで全体の流れを共有する感じよ」

 

「へぇ……」

 

思わず感心する。

規模感も設備も、今までいた基地とは段違いだ。

 

「その先が居住区ね。

 ゴッデス部隊のニケは私だけだけど、一応今後増える予定ではあるから。」

貴方の部屋もあるよ、とリリスが付け加える。

 

「ふーん…。」

「先に言っておくけど、格納庫やシミュレーションルームで寝泊まりするのは禁止だからね?」

 

「えー…」

嘘ー…

今まで通り、シミュレーションルームで寝泊まりしようと思ってたのに…。

 

心底がっかりする私を見て、リリスがくすくすと笑う。

「あなたもゴッデス部隊の一員なんだから、きちんとした生活習慣を身につけないとダメよ?」

 

「善処します…。」

「善処じゃなくて、ちゃんとね?」

「…うい。」

 

無言の圧力がエアと違い、別方向で強い。

私が出会ったことのないタイプの圧力…

正直、無言で圧力をかけてくるのはエアだけで十分だよ…。

 

《私がなにか?》

『なんでもないよ。』

 

ほら見たことか。

 

艦内の案内は続き、弾薬庫から整備区画、シミュレーションルームまで案内してもらう。

シミュレーションルームは、基地に居たものと同格の設備だが、やはり規模が母艦というだけに基地よりは小さい。

そのためか、神経接続で仮想空間での訓練が行える設備も備わっていた。

ACでいう所のネストやアリーナ…ACテストのような感じ…なのかな?

 

 

粗方の案内が終わると、リリスは私に向き直る。

「こんな感じでいいかな?

 案内はこれで終わりだけど、何か質問とかある?」

 

「うーん。案内に関すること以外でいいなら…」

私の言葉にリリスが頷く。

 

「えーっと、指揮官って戦えるの…?」

やはりここは気になる。

共に戦場に立つ以上、指揮官の戦闘能力は重要だ。

皆無であるなら、戦闘スタイルを変える必要がある。

 

リリスもリリスで、この質問が来ると思っていたのか、にこやかに笑う。

「ううん、戦えないよ。

 でも、レイヴンが思っているような人ではないから安心して?」

 

戦えるわけではないが、指揮官としての能力は高い、ということだろうか…?

「指揮官としては有能ってこと?」

 

「それもあるね。

 理由としては別にあるんだけど…そこは実際に一緒に戦ってみたら分かると思う。

 それに戦闘スタイルを変える必要もないよ。

 あなたはあなたのスタイルで戦って。」

 

その言葉に怪訝な顔をしてしまう。

戦闘スタイルを変えない。

つまりは、指揮官を守る必要がない。

もしそれが本当なら、かなり気が楽になる。が――

「でも、指揮官を守らないといけない場面もあるんじゃないの?」

 

「うーん、まあ、そういう場面もあるかもね。

 ここについても、実際に戦場に出てみると分かるかも。」

 

「そっか…。」

なんだか、釈然としないが、事実リリスは指揮官と共に戦場に赴いている。

それでもなお、そういうのであれば、本当に守る必要はないのかな…?

 

「理解はしていないけど、納得はいったみたいね。」

リリスがにっこりと笑う。

 

「それじゃあ、今日はこれで解散にしましょうか。

 改めて、よろしくね。レイヴン。」

 

「うん。よろしく、リリス。」

私の言葉を聞いて、リリスは微笑み背中を向けその場を後にする。

去り際に、今日の夜に歓迎会を開くことを伝えられ

ついでのように「あ、そうだ。指揮官にはあまり気を使わなくていいからね?」と付け加える。

 

ゴッデス部隊の指揮官…あまりにも雑過ぎないか…?

 

リリスが去った後、私は深く息を吐いた。

『ひとまずは、よかった…のかなぁ…。』

 

《悪い印象は与えていないと思いますよ、レイヴン。》

『うん、そうだといいな…。』

 

 

 

 

 

【おまけ:エイブの難儀】

 

……嫌な予感というものは、だいたい当たる。

 

ゴッデス部隊の早期編成完了を第一目標としている軍本部は、ゴッデス部隊とは別のプロジェクトを複数進行することで合意していた。

その一つが、私が担当するゴッデス部隊に次ぐ2世代型のフェアリーテイルモデルの開発である。

 

戦争というのは個人プレイではない。

ゴッデス部隊の編成が完成したとしても、たかが一部隊で戦局を覆すことはできない。

それにゴッデス部隊はメディア…つまりは世論向けの側面も強い。

つまり、自由に動ける部隊ではないのだ。

 

そのため、軍本部はゴッデス部隊に次ぐ新たなニケ部隊の編成を目指し、2世代型フェアリーテイルモデルの開発を打ち出したのだ。

しかし、当初の予定よりもゴッデス部隊の編成が難航している。

直近でのフェアリーテイルモデル.No1のロールアウト後即爆死の一件もあり、軍本部は開発スケジュールの見直しを余儀なくされた。

 

つまり、現状、2世代型フェアリーテイルモデルの開発は頓挫している状態だ。

 

だからと言って、今の私が暇を持て余しているわけではない。

ないのだが――

 

「はぁ……」

 

深いため息をつき、研究区画のデスクで、モニターに表示された通知を見つめる。

 

新着メッセージ:1件

送信元:T.A.C.T

差出人:レイヴン

 

仕事中に通知が来ていた事は知っていた。

だが、改めて見ると、どうにも気が重い。

 

レイヴン。

人類連合軍が企業たちに隠れて実験、生産をしていたニケ研究所にて発生した異常個体。

原因、要因のすべてが不明。

そしてレイヴンの持つ特異物質“コーラル”

 

そして性質。

あの自由奔放な性格。

それでいて周囲を焚きつけるようなカリスマ性。

規律なんてものを全く持ち合わせていない彼女が軍から監視の意味合いも含めた専用端末を与えられたのが今日だ。

そして、おそらくその最初の連絡がこれなのだろう。

 

気が進まない気持ちを抑え、私はメッセージを開く。

 

――12:13 【ニケの腕の種類を増やしたい。なんなら脚部も四脚とかタンクとかにしたい。試作品お願い。】

 

「…………」

 

数秒、言葉が出なかった。

 

いや、正確に言えば、

言葉は山ほど浮かんだが、全部口に出せない類のものだった。

 

そして問題は内容だ。

腕部や脚部の種類を増やしたい?

四脚やタンクの脚部?

 

こいつは一体何を言っているんだ……

 

深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

深呼吸のおかげで頭がクリアになり、内容を整理すると大体は理解した。

 

彼女は、多種多様な武装を使用する。

そしてそのほとんどが、二丁持ちだ。

そうすると問題になってくるのが、腕部の耐久性と反動制御。

 

あまり考えたくないが、もし彼女がロケットランチャーや分隊支援火器を両手に持つ考えをした場合、

現状の腕部では耐えられない可能性が高い。

そして、そんな大型火器を両手に持った場合、脚部の耐久値および機動力にも影響が出る。

 

だから、ニケの腕部や脚部の種類を増やしたい、ということなのだろう。

 

「メッセージの意味は分かった……が。」

私は眉をひそめる。

 

私は返信画面を開き、淡々と打ち込む。

――14:27 【不可能だ】

――14:27 【コストが馬鹿にならん】

――14:27 【四肢の再設計は“装備開発”ではなく“個体再設計”だ】

――14:27 【お前専用の腕を作るとして、何年かかると思っている】

 

送信。

一息つく間もなく、既読が付いた。

 

――14:28 【じゃあ、既存のニケの腕や脚部から改良とかは?】

 

「…………」

私は再度、深いため息をつく。

 

――14:30 【無理だ】

――14:30 【そもそも、出来たとして装着する設備がない】

――14:30 【専用メンテナンスベッドから神経接続の再同期】

――14:31 【そしてなにより、運用人員も必要になる】

――14:31 【これらをすべて揃えるだけで研究棟1つ分の予算が飛ぶ】

 

送信。

これで引くだろう。普通は。

 

ー数分後、既読が付く。

――14:35 【でも、もし私の腕や脚が吹き飛ぶ現象が起きたら?】

 

――14:35 【想像できるのか?】

 

――14:35 【……ないかも】

 

「だろうな…」

 

私ですら、彼女が大破した姿を想像することは難しい。

 

そこから数十分ほどの間が空いた。

納得してくれているならいいのだが――

 

――14:50 【思考転換を考慮しないならどう?】

――14:50 【例えば、意識を保ったまま腕や足を私自身で変更する】

――14:50 【そうすれば、人員も不要。私自身で交換するから本格的なアームも要らない】

 

「…………」

可能だ。

技術的には可能だ。

しかし――それは狂人がすることだ。

 

冷めたコーヒーを一口飲む。

冷めたせいで苦味と酸味が強くなっている。

 

しかし、否定もできない。

過去にニケの腕を武器化した試みがあった。

その結果が、思考転換につながった訳ではあるが――

 

――14:55 【お前は、自分自身をなんだと思う】

 

気づけば私は、メッセージを送っていた。

本来であれば、止めるべきなのだろうが――

 

――14:56 【私は】

――14:56 【猟犬でありたい。】

 

猟犬――

同じニケに同様の質問をすれば、「人だ」と答えるだろう。

だが、彼女は自分を猟犬と言った。

 

以前の面談を思い出す。

【私の使命は……私が大事だと思った人物を守ること。】

 

今にして思えば、確かに猟犬だな。

それでいて自由。

 

なんとも自分勝手な猟犬だ。

 

――14:57 【分かった。設備だけなら作ろう。データ提供の借りもあるわけだしな。】

――14:57 【ただし、お前の安全が第一だ。定期的に行うメンテナンスが長くなるが覚悟してくれ。】

 

そう送ると、感謝の言葉が即座に帰ってきた。

 

「はぁ……」

今日で何回目のため息だろうか。

 

否定し、拒絶することは簡単だ。

だが、ここで否定または拒絶すれば、彼女は別の誰かに頼るだろう。

その頼る相手が善人である保証はない。

 

彼女の危険性は、そこにこそあると考える。

信頼する相手がどんな悪人であっても、彼女はその人物を守ろうとするだろう。

 

いや、ここでは「悪人」という言葉は適切ではないかもしれない。

正義の反対は別の正義なのだから。

 

「Guns don't kill people, people kill people.」

ー銃は人を殺さない。人が人を殺すのだ。ー

 

無意識に、呟いたそれは、有名な言葉の一つであり、人間の本質を突いた言葉だった。

だからこそ、私は銃口の位置を常に意識し、銃を扱う。

それが私の矜持だ。

 




「はい!」
「最初からおかしいな、これな?」

「これあの…付いてる一個一個の棒があるじゃないですか?」

「はい」

「あれが…全部パルスキャノン」

「「wwww」」

「バカだ!!」

こういう会話をV.T.C内でやってほしいと思う私シモノフでございます。

え?
地中から古代兵器を無理やりつける???
いいねぇ~

今年も一年お疲れ様でございました!!
失踪する気は毛頭ないのでご安心くだされ!!
では来年もよろしくお願いいたします!!

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