泣いた
普通に泣いた
あと一つだけ・・・マスタング好きです。
フィギュアだせ!公式!!
そしてそのあとのピックアップがミント。
私の財布は死んだ!伝記にはそう書いておけ!!
「変態って言われたことないか?」
「は?」
指揮官から言われた唐突な質問に眉をひそめる。
リリスとの初訓練から一か月。訓練回数はもう数十回を超える。
先ほどもリリスとの訓練を終え、各種メンテナンスを終わらせて戻ってきたところ、指揮官の第一声がこれだった。
指揮官もだいぶ私との対話に慣れたのか、遠慮がない質問をしてくるようになった。
それにしても……
「変態って……」
普通に悪口である。
なんですか?
私と仲良くなる人物は全員遠慮が無くなっていくんですか?
《何度も言いますが、日頃の行いが悪いからでしょう……》
失礼な!
そんなことは無いでしょ!
だって普通にリリスと訓練してるだけだよ?
無表情のまま指揮官を睨みつける。
「あぁ、いや、そういう意味で言ってるわけじゃないんだが」
「じゃあ、どういう意味でそんな失礼な発言をハードな訓練明けの、か弱い女の子に言うの?」
「そこだ」
指揮官は、私の顔を見ながら心底不思議そうな表情を浮かべ顎に手を当てて考え込む。
「あのゴリラと対等に訓練できる奴なんて……ヘンタ──―あだぁっ!!??」
言い切る前に、隣に居たリリスが指揮官の脛を蹴り上げた。
当のリリスは満面の笑みである。目だけは笑っていないけど。
このやり取りもだいぶ慣れてきた。
というか、リリス。
相手は一応指揮官だけど……いいのか? それで?
「……っ、こ、この部隊、上官への扱いが雑すぎないか?」
「あら、愛情表現よ、愛情表現」
「どこがだ!」
リリスが足を戻すと、指揮官は脛を押さえながら立ち上がった。
まだ痛そうな顔のまま、こっちを見る。
「……で、レイヴン。さっきの続きだ。最近リリス相手に何を試してる?」
「何をって、勝つ方法」
私がそう言うと、リリスが困ったような笑みを浮かべる。
「勝率でなら、すでに五分五分だと思うけど?」
「そうじゃなくて、確実に安定して勝てる方法」
私は椅子に座り直して、腕を組んだ。
頭の中で、ここ一か月の訓練の記憶を思い返す。
遠距離、近距離、間合い管理、フェイント。
武器種で言うなら、AR、SMG、SG、SR、HG。
どれもやった。
SG以外は、てんで話にならない。
コーラルの特性上、着弾と同時に小爆発が起こるため、訓練よりかはまだ勝率は上がるだろうけど、確実に勝てる方法はまだ見つかっていない。
「相変わらずの負けず嫌いね。でもめげずに頑張る事は良い事だと思う」
リリスはそう言いながら、私に近づき頭を撫でる。
リリスもリリスで、私の扱いに慣れて来たのか……最近やたらと私を子供扱いしてくる。
誠に遺憾である。
撫でる手を振り払い、私はリリスを睨みつける。
だが、リリスからはどうもジト目をする妹のように見えるのか、にこやかな笑みで返された。
《犬──―》
『やめてエア。ちょっと私も思っちゃったけど、それ以上言わないで』
【あの】ラスティでさえ、こんな事しないのに……
本当に遺憾である。
「それで? その"勝つ方法"ってやつは見つかったか?」
「訓練を見てて尚、それを私から言わせるの?」
見つかってないに決まってんじゃん!
なんなのあの動き!
いや、まあ、私も人のこと言えないけど!
何度も言うけど、あれが許容できるなら私もセーフでしょ!
頭の中で悪態を付きながら、背もたれに寄り掛かり頭を後ろへだらりと倒す。
「まあ、でも、今までで一番楽しいのは事実だよ……」
正直、ラプチャーとの戦闘にマンネリを感じていたのも事実だし、リリスとの訓練は新鮮で楽しい。
ここにアセンブルの要素が入りさえすれば、さらに楽しくなるのは間違いない。
「まさかかと思うが、企業の依頼を受けているのは、戦闘が楽しいからってわけじゃないよな?」
指揮官が核心を付くような質問を投げかけた。
条件反射で身をピクリとさせる。
「あー……いい。何となく察しがついたから何も言うな……」
背もたれから顔を落としているので、指揮官の表情は見えないが、きっと頭を抱えているのだろう。
確かにそれもある。
でも本来の目的は、アセンブルの重要性を伝えニケの装備開発に火をつけること。
それが一番の目的だ。
実際、ミシリスの依頼の数日後、もう一方の企業エリシオンからも依頼が来ていた。
ミシリスがアーキバス系とするならエリシオンはベイラム系の企業。
実弾至上主義の企業で、どうやら古くからある企業らしい。
依頼内容は、最新技術の兵装が満載された列車の護衛。
目的地に着くまで列車を守れって言う内容だった。
そしてミシリスからも追加の依頼が同時に来ていた。
内容はそのエリシオンの列車を妨害してほしいというものだった。
元の世界同様に、企業同士は仲が悪いらしい。
テトラ・ラインについては……一番びっくりした。
テトラからの依頼は一切ない。
にもかかわらず、ミシリスの依頼を完了させた数日後、真っ先に武装の更新があったのはテトラからだった。
それこそ、ミシリスあたりから武装の更新が来ると思っていたのに、テトラから来るとは思わなかった。
それも何と、既存ニケの腕・足がラインナップに追加されているというモノだった。
裏でつながっているのか……はたまた、ミシリスの情報を抜き取っていたのか不明だけど……。
まあ、どちらにせよ、企業からの更新は嬉しい。
実際私の好感度はテトラが一番高い! 即座に対応できるのは良い企業の証拠だと思うのよ。
あ、ちなみに依頼の件は、エリシオンの方を受けミシリスは蹴った。
報酬もいいし、内容も悪くはなかったんだけど、目的が目的なだけに初っ端から敵対するのは避けたい。
あと私の所属はゴッデスだしね。
「それで? 結局、お前が企業依頼を受ける理由は何だ?」
来た。
背もたれから勢いよく体を起こす。
「ずばり、アセンブルの重要性!」
「あせんぶる?」
自分でもわかるくらい、声が一段熱くなる。
せっかくだ。
指揮官やリリスにもアセンブルの重要性を理解してもらおうじゃないか!
「今のニケ装備って、基本“最初に決められた型”で戦うでしょ?
でも、戦闘って毎回同じじゃない。敵も違うし、任務も違う。
なのに、こっちだけ毎回ほぼ同じ構成でぶつかるのは効率悪い」
「護衛任務なら継戦重視。
強襲なら瞬間火力と機動。
高機動の相手なら、追尾性と機動性。
硬い相手なら、貫通か爆発で削る。
これ、戦う前に組み替えられたら、おも──―被弾も損耗も減る」
「今、面白いって言いかけなかったか?」
「ソンナコトハナイ」
実際、アセンブルを考える時が一番楽しいというのは事実なのでね。
「まあ、とにかく。装備面が組み換え可能なら、戦闘の幅も広がるし、効率も上がるってわけ」
私の熱弁を聞いて、指揮官はしばらく考え込む。
「……確かに理論としては正しい……だが、思考転換というリスクを考慮しなければいけないだろう」
あぁ……思考転換ね。
丁度、エイブにアセンブルのプラットフォームを作る事を提案した時にエアから聞いたなぁ。
自分を人間だと思う思考と、実質的に機械でできているという事実が矛盾を生み、脳の記憶回路が混乱して発生する……だっけ?
《あとは、ストレスが限界値に達した際にも発生する……と言う事案も確認できますね》
《レイヴンの言っていた内容であれば、過去にニケの腕を武器化する実験を行った記録がありますが、人間ではなくなった事実に思考転換が確かに確認されます》
うーん。
正直そこに関しては、考え方次第なんじゃないかな? って思うけど。
監督官の言葉を借りるなら【ニケは、人間が四肢を義足や義手に置き換えたものの延長線上にある】ものだと。
つまるところ、【私は人間】でも【体は機械に換装させている】と考えるやり方。
まあ、実際。
「私自身が、思考転換起こしてないから大丈夫じゃない?」
「お前は特殊過ぎるから一般的なニケと一緒にさせるな」
指揮官があきれたように言う。
はて?
体は特殊でも、思考は普通の人間と同じだと思うんだけどなぁ。
あれ? 定義的には人間なの? それともコーラルの波形なのかな?
《どのような定義でこの世界に来たかは不明ですが、神経から思考まではコーラルで形成されているため、コーラル寄りではありますね》
あー……じゃあ、私基準で考えるのは駄目だね。
「だが、まあ。ほどほどにな」
指揮官がふくみのある言い方をする。
「ん?」
「出過ぎた杭は打たれやすいって言う意味でだ」
「了解」
指揮官の言葉を聞いて、即答で返事をする。
まあ、嗾けられた事実があれば、あとは【こちら側】のやり方で解決すればいいだけの話だしね。
企業潰しなんてやったことは無いけど、やられたらやり返すだけだし。
無意識に口の端が上がる。
その表情を見た指揮官が深い溜息をつく。
その後、指揮官は時計を見ながら、そろそろ時間だなと呟いた。
「定期メンテナンスの時間だ。行ってこい」
「はーい」
「メンテナンス終了後、軍本部で集合だ」
指揮官がそう締めくくると、私は立ち上がり、甲板で待機しているヘリへと向かった。
◇◇◇◇◇◇
リリスたちが向かう軍本部とは別の方角へ、私を乗せたヘリは灰色の雲の下を低く飛ぶ。
窓の外に流れるのは、整備された都市区画ではなく、ひび割れた道路、使われなくなった搬送レール、風に削られたコンクリートの残骸。
エイブの研究所は、そういう場所のさらに奥。軍本部からかなり離れた、わざわざ来ないと辿り着けない位置にあった。
ローター音が少し落ちて、高度が下がる。
眼下には、岩肌をくり抜いて作られたような無骨な施設。派手な看板も、歓迎の照明もない。
あるのは厚い防爆扉と、最低限の誘導灯だけ。
「研究所」っていうより、秘密基地とか避難壕って言ったほうがしっくりくる見た目だ。
てっきり、軍本部内に研究所があるものだと思ってたけど、こんなところにあるんだね。
それにしたって、こんなところにあるのは不便じゃない?
今日の目的は定期メンテ。
それと──私が頼んだ、組み換えプラットフォームの話の続きだ。
ヘリから降りるが、迎えの人物らしき人がいない。
エイブあたりが待ってるイメージだったけど、忙しいのかな?
施設の入り口らしき場所に近づいていくと、扉が勝手に開き、中に入ることができた。
研究所内に入ったが……誰もいない。
いや、エイブがいるのはわかるんだけど、他の人がいない。
とぼとぼと歩いてみるが、やっぱり誰もいない。
せっかくなので探検してみようと思い、施設内にある扉を片っ端から開けようと近くの部屋の電子盤を操作したその時。
「入ってきていきなり物色とは、勝利の女神から盗人に転職でもしたか?」
背後から低い声が飛んできて、私は操作盤から手を離した。
振り向くと、通路の奥でエイブが腕を組んで立っている。相変わらず、目だけ妙に鋭い。
「探検だよ。だって誰もいないし」
「“私の”研究所でやることか?」
エイブはため息をついて、顎で奥を示した。
「ついて来い。予め言うが遊園地じゃない」
「はいはい」
歩きながら、私は周囲を見回す。
やっぱり人の気配がない。機械音と、空調の低い唸りだけが響いてる。
「……エイブって、ほんとに一人で回してるの?」
「見ての通りだ。お前の無茶な依頼に付き合うのも、記録をまとめるのも、全部な」
「無茶って失礼じゃない?」
「現時点で四肢換装の適合すら未確認だ。
構想自体は過去にあったが、そこを飛ばして“意識を保ったまま腕や足を交換したい”というのは、無茶以外の何だ?」
ぐうの音も出ない。
でも言い訳をさせてほしい。
【ないのが悪い】!
エイブに小言を言われながら連れられ、研究所の奥へと進む。
途中、いくつかの部屋を通り過ぎるが、どれも同じような無機質な部屋ばかり。
これでどうやって特定の部屋とか区別してるんだろう?
「ここだ」
エイブがそう言うと、無機質な部屋の内の一つの前で立ち止まる。
カードキーをかざして、扉を開け、中に入ると、診察台のようなものと、いくつかの機械が置いてある部屋だった。
「これが組み換えのプラットフォーム?」
「焦りすぎだ。何度も言うが、換装の適合すら確認できないのにプラットフォームの作成ができると思うか?」
「まあ、そうだけどさ……」
座るように促され、私は診察台のようなものに腰を下ろす。
「よし。今日は三段階だ」
エイブが端末を起動する。
「本来の目的である基礎診断に加え、ボディの構成、換装試験の3段階で進める。メンテ後の戦闘状況も確認したい」
「ほうほう……!」
「浮かれるな。成功前提で話を聞くな。まずはデータだ」
診断用であろうアームが降りてきて、全身スキャンが始まる。
青白い線が腕、脚、コアをなぞるたび、エイブの顔の眉間にしわが増える。
「……やはり何度見ても異質すぎるな」
溜息をつきながら、エイブは作業を進める。
「異質?」
「スペックもそうだが、今回は損耗率だ。戦闘回数の割に低すぎる」
「まあ、ラプチャーの攻撃避けてるしね」
「そこじゃない」
エイブがメガネを一度外し、こめかみを押えながら、ため息をつく。
「損耗は敵の攻撃を受けたときだけ発生するんじゃない。戦闘中の負荷全般だ」
端末の画面に、複数のグラフが並ぶ。温度変化、機械的な振動ログ、フレームへの応力。
「普通のニケですら、兵器を扱い戦場を駆け回る影響で、各種フレームに損耗が発生する。
お前の場合は……高G機動、熱放出、接続部への反復応力。こういった複合的な要因で、通常のニケ以上に損耗するはずだ。
特に四肢はな」
エイブは画面を指で示す。
「同じ戦闘回数なら、普通は腕と脚の接合部で微細なヒビが入る。金属疲労だ。でお前は?」
「……ない?」
「ほぼ零だ。クリアランス設計、応力分散の仕組み。全部が異常に優秀だ」
エイブはモニターから目を離して、こっちを見た。
「つまり、お前は『戦闘を前提に過度に作られた』個体だ。
普通のニケは、日常運用と戦闘のバランスを取ってる。だがお前の場合、戦闘を中心に全部が設計されている」
まあ、そりゃそうでしょうね。
AC基準であるなら、戦闘特化の設計になってしまうのは当然だし。
まあ、だからこそ、私の体はアセンブルできることを前提されているって予想しただけだけど。
特に何の反応もなく、只々エイブの説明を聞いて納得していると、エイブが続ける。
「やはりお前は変人だな……」
「エイブも指揮官と同じことを言うんだね……」
「勘違いするな。私は事実を元に言っているだけだ」
「それ、もっとタチ悪くない?」
「自覚がないなら、なお悪いな」
エイブは即答して、端末を閉じるみたいに軽く叩いた。
そのまま、いつもより少し低い声で続ける。
「いいか、レイヴン。
人間から兵器に転換され、戦闘に最適化された──それが一般基準を超えている、と言われたら、普通は驚くか、悲しむか、どちらかだ」
「……?」
私は首をかしげる。
エイブの言ってる意味が、うまく噛み合わない。
「もとよりニケって、兵器でしょ?
人間で、兵士で、兵器でもある。そういう存在じゃない?」
「……」
「だったら逆じゃない?
最適化されてるなら、普通は喜ぶものなんじゃないの?」
言い終わってからも、私はまだ首をかしげたままだった。
だって本当に、そこが引っかかる。
人間の兵士が最新鋭の銃や装備を支給されて喜ぶのと同じように、強くなるために作られて、強くなってる。
それの何が問題なのか、正直わからない。
エイブは眼鏡を押し上げて、長い、長いため息をついた。
「そういうところだ。私が頭を抱えるのは」
「えー、なんで?」
「お前は“使えるかどうか”でしか物事を見ない。
その視点自体は間違いじゃない。だが、人間はそれだけでできてない」
エイブは画面に別のログを表示する。
そこには損耗率じゃなく、精神負荷のグラフが並んでいた。
「多くのニケは、自分が兵器だと理解していても、その事実を毎回突きつけられたいわけじゃない。
“私は人間だ”という感覚を保つことで、ようやく立ってる個体もいる」
「……ふーん」
「ふーん、で済ませるな。
お前の“普通”は、他の個体にとっての“異常”だ」
少しだけムッとする。
でも、エイブの言い方はいつも通り、感情より事実優先だ。
「じゃあ、私は“勝利の女神”ってより、“戦争とか戦闘とか闘争の女神”寄りってこと?」
「自分で言うか、それを……」
「だってしっくり来るし。
戦うためにある力を、戦うために使ってるだけだもん」
エイブはこめかみを押さえて、しばらく黙る。
その後、再度私のボディをスキャンしながら、ゆっくりと話し始める。
「……否定はしない。
ただし、その在り方を標準化できると思うな。ここが重要だ」
「つまり?」
「お前は例外だ。優秀な例外だ。
だが、例外を前提に制度や規則を作ることは出来ない」
「まあ、それはそうだね……」
「そこについては、自覚があるんだな……」
エイブは端末の画面を切り替える。
表示されたのは、私の全身を輪切りにしたような立体図だった。
骨格フレーム、人工筋繊維、配線、コア接続……色分けされた層が、ゆっくり回転している。
「次はボディ構成の調査だ。動くなよ」
「はいはい。で、何を見るの?」
「全部だ。特に四肢接合部、神経信号ライン、コア同期層。お前の“普通じゃない普通”が、どこで成立してるかを洗う」
診察台の周囲でアームが展開され、肩と腰に固定具が下りてくる。
金属の冷たい感触が触れた瞬間、視界の端にスキャンラインが走った。
関節の根元に、通常のニケにはないリング状の補助構造が浮かび上がった。
エイブの眉が動き、再度溜息をもらす。
「……やはりあるな。根元のロック機構」
「それ、そんなに珍しいの?」
「珍しいどころか、異物だ。さっきも言ったように、ニケの設計思想に四肢を交換するという概念はない。
にもかかわらず、お前の腕と脚には最初からその機構が組み込まれてる。
まったく、どんな人生を送れば理想の姿がこんな接ぎ木のような形で実現できるんだか」
エイブは別ウィンドウを開いて、コア周辺の信号分布を重ねた。
今度は胸部の中心から、細い光の線が四肢へ伸びる。
「で、こっちがコア認識層。おそらく新規パーツ接続時に信号IDを読み込んで、神経同期を補正するものだろう」
「つまり?」
「つまり、物理的には外せるし精神的にも壊れにくい。
換装するための前提が、最初から二重に入ってるってことだ」
私は少しだけ身を乗り出す。
「じゃあ、やっぱりアセンブルできるってことじゃない?」
「条件付きでな。お前なら、だ」
エイブは即座に釘を刺す。
「他個体で同じ真似をすれば、自己認識と身体認識がズレ、思考転換の引き金になる。
だから私は言っただろう? お前専用なら話は別だと」
「え、他のニケには対応できないの?」
エイブの話を聞いてきた中で、一番の衝撃が走る。
「……なぜそこに食いつく。できるかどうかはさておき既存のニケに無理やり対応させようとするのは無理だろう。感情を消さない限りはな」
「……そっか」
愕然というのは、このことを言うんだろうな。
今度は私の溜息が出る。
そうなると、私の計画は頓挫しそうだよね……
いや、相手はニケを作っている企業だ。利益になる新たなビジネスモデルとして確立されれば、企業がこぞって採用する可能性もある。
まあ、そうなればいいなぁ。
「なぜそんなに残念そうな顔をする……」
「いや、私の計画としてアセンブルの良さを企業にアピールすれば、自主的にやってくれるだろうって思ってたけど……やっぱり、世の中甘くないよね……」
その言葉を聞いて、今度はエイブの顔に驚きが浮かび、今日一番のため息が出る。
「お前は……厄災を呼びたいのか……?」
「え?」
「なるほどな。最近企業の動きが活発になってきた理由はそれか……」
「どういうこと?」
私が首を傾げると、エイブは数秒言葉を止めた。
端末画面に視線を落とし、何かを飲み込むように唇を引き結ぶ。
「……いや、何でもない」
「え、気になるんだけど」
「気にするな。お前が今ここで考えるべき話じゃない。ただ……敢えて小言を言うなら──―お前自身の持つ影響力を見誤るな……だ」
エイブはそれ以上触れず、画面を切り替え、強制的に話を終わらせる。
「四肢の取り換えを行う上で、どのような経緯で腕や足が分断できるかを確認する」
診察台から立ち上がるよう促され、私はその場で待機した。
エイブが端末を操作すると、診察台の周囲にアームが展開される。
「思考転換の兆候が少しでもあれば、中止だ。お前が良ければ、外してみろ」
エイブに促され、意識を腕へと集中させる。
ACの腕を交換する感じをイメージして、ゆっくりと力を入れる。
ツ、と。
肩から下が分離した。
落ちないよう、反対の手で受け止める。
「……思考転換の兆候なし。恐ろしいほどの精神力だな……感心を通り越してもはや畏怖すら覚える」
エイブの小言を聞きながら、今度は外した腕を再度付け直してみる。
支持信号を消し、腕をあてがえば、磁力と自動的なロック機構がカチッと音を立てて機械的に噛み合った。
神経信号が一瞬迷ったが、コア認識層が補正し、すぐに通常通り握力が戻る。
はええ……すごいね。
足も同様にエイブの指示で脚を外し、再度装着。
異常なし。
「こちらも問題なし……
次のステップに移行しよう。戦闘テストだ。訓練施設に移動する」
頭ごなしに言われて、私たちは別室に移動した。
訓練施設の機械相手に、今までと同じ動きをする。
銃撃、白兵、高G機動。
取り外した直後も、再装着直後も──―何の問題もなかった。
「残念なことに、問題点になる場所が全くなかった」
エイブは皮肉っぽく言って、端末のログを私に見せた。
温度、応力、接続遅延。どれも許容値の内側。嫌になるくらい綺麗な数字だった。
「まあ、不幸中の幸いだよね……これでアセンブルできないってなってたら、落ち込むどころじゃなかったよ」
「……」
私の言葉を聞きながら、エイブは私を見続ける。
企業にアセンブルの重要性を流布した話をしてから、ずっとこの調子だ。
ーお前自身の持つ影響力を見誤るなー
影響力……ねぇ。
まあ、確かに企業にとって私という存在は技術革新の元になる可能性があるわけだし、気を付けろって言う意味なんだろうけど……。
そんなの私が一番わかってるよ。
もしくは、私が流布したアセンブルとかのビジネスモデルが結果的に成功した場合の危険性を指してるのか。
それとも、その過程で発生する数多の犠牲者のことを指してるのか。
……でも高々その程度。
そう考えてしまうのは、悪なのかな?
アセンブルをニケに適用させるために、感情を消そうが、機能以外を削ろうが、行きつく先は一緒だからね。
『そう考えると……化け物なのかもね、私って』
《それでも私はレイヴンの意志を尊重します。それとエイブには言わない方がいいでしょう》
言うわけないじゃん。
あんな淡々としていて……それでも、こんな私を気に掛けるような人に、そんなこと言えるわけないじゃん。
「エイブ」
「……なんだ?」
「忠告ありがとうね。でも、大丈夫。戦争なんて狂人になったもの勝ちだからさ」
「……はぁ。分かった上でなら、尚のこと質が悪いな」
エイブは目を閉じ、何度目かも分からない深いため息をついた。
【おまけ:パーツが追加されました】
TP-A12 “IDOL SEED”
分類:軽量腕部/射撃補正特化
製造:テトラライン試作部門
用途:演技・精密動作補助腕部
芸能型ニケ規格の基礎実験として開発された軽量腕部。
手振り、指先の表情、視線誘導を補助するため、応答性と滑らかさを重視している。
戦闘用としては非力だが、照準時の微細なブレを抑える性能が高い。
特に連射武器との相性が良好とされた。
観客の視線を集める手は、
標的の中心を指し示すことにも長けていた。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
TP-L12 “IDOL SEED”
分類:軽量脚部/軽量特化
製造:テトラライン試作部門
用途:舞踊・演技補助脚部
舞踊用ニケのために開発された軽量脚部。
高い可動域と細かな重心制御を持ち、軌道の読みにくい動作を可能にする。
装甲と耐久性は犠牲になっているが、回避性能は高い。
戦闘部門はこの脚部を、想定外の用途で評価した。
踊りは、次の一歩を悟らせない。
戦場では、それだけで生き残る理由になる。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
TP-A21 “APPLAUSE”
分類:中量腕部/射撃補正特化
製造:テトラライン試作部門
用途:対人接触・汎用火器運用腕部
避難民への配給、簡易医療支援を想定した中量腕部。
人間を傷つけないため、握力制御と動作制限に重点が置かれている。
その精密な力加減は、戦闘転用時に高い射撃安定性として現れた。
反動制御にも優れ、標準火器全般を扱いやすい。
人を壊さないための技術は、
人を正確に壊すためにも必要だった。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
TP-L21 “APPLAUSE”
分類:中量脚部/軽量特化寄り
製造:テトラライン試作部門
用途:長時間稼働・姿勢保持脚部
慰問活動中の長時間起立を目的として設計された脚部。
疲労を表情に出さないため、関節部の負荷分散に優れる。
戦闘用としては平凡だが、安定した移動射撃に適性を示した。
長時間の任務でも姿勢が崩れにくい。
拍手が続く限り、舞台を降りることは許されない。
砲声が続く限り、戦場を離れることもまた。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
TP-A32 “LAST CALL”
分類:重量腕部/近接特化
製造:テトラライン試作部門
用途:高出力短時間運用腕部
大型舞台装置の搬送および演出補助を目的として開発された重量腕部。
瞬間出力に優れるが、関節部への負荷が大きく、長時間運用には向かない。
戦闘転用試験では、近接打撃において高い破壊力を示した。
ただし、試験後の腕部損耗率は許容値を超えていた。
最後の一曲に、予備の腕はいらない。
そう記した技師の名は、後の資料から削除されている。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
TP-L32 “LAST CALL”
分類:重量脚部/近接特化
製造:テトラライン試作部門
用途:高出力短時間機動脚部
短時間の高速演目を目的として開発された重量脚部。
急加速、急停止、跳躍に優れるが、関節部の発熱と損耗が激しい。
戦闘部門はこの脚部を、強襲および近接突入用として評価した。
限界稼働後、脚部関節の融着が確認された記録が残る。
立てなくなるまで踊れば、観客はそれを熱狂と呼ぶ。
戻れなくなるまで進めば、軍はそれを勇敢と呼ぶ。
※試作品のため、納期に時間がかかる可能性があります。
「……テトラ、思ったより面白いの出してきたね」
私はパーツ一覧を眺めながら、口元を少しだけ上げた。
軽量、射撃補正、近接用。
どれも純粋な戦闘用というより、元々は別の用途で作られたものばかり。
でも、それがいい。
最初から戦闘用として作られたものより、妙な癖がある。
癖があるなら、使い道がある。
使い道があるなら、組み合わせられる。
《予想外の速さではありますね。納期に時間がかかるとのことですが……》
『まあ、エイブが言った通り、初の試みだしね』
《……すべて買うつもりですか?》
『?? ……うん』
《はぁ……散財しすぎです。取捨選択をしっかりしてください》
エアが溜息交じりに言う。
まあ、私もそう思うけど、せっかくだしね。
でもエア殿?
買わずしての後悔と買ってからの後悔、どっちが嫌かって言われたら、私は前者の方が嫌だなぁ。
《ダメ人間の思考と言い訳ですね……ちなみにですが、全部なんて許しませんからね?》
『……はい』
『それにしても……これを作った人たち、戦闘用に転用されるって分かってたのかな』
《分かっていた者も、分かっていなかった者もいたでしょう》
『そっか』
私は一覧をスクロールする。
APPLAUSE。
IDOL SEED。
LAST CALL。
綺麗な名前ばかりだ。
なのに、どれも少しだけ血の匂いがする。
『まあ、使えるなら使うけどね』
《レイヴン》
『なに?』
《……ご利用は計画的に、です》
エアがそこで言葉を切る。
私は少しだけ首を傾げたけど、すぐに性能欄へ視線を戻した。
その行動にエアはさらにため息をつくが、私は気にせず続きを見る。
まずは軽量脚。
次に射撃補正腕。
近接特化は、リリス相手に試す。
うん。
楽しくなってきた。
その感情が、少しだけ危ういものだと分かっていても。
それでも、私は次のアセンを考える手を止められなかった。
今回のお話を書いてて思った。
ニケとフロム系は絶対コラボさせちゃいけないww
ただでさえニケの世界観お労しいのに、フロムがそこに加入したら地獄ですよ地獄!!
まあ、それが好きなんですけどね!!
ちなみに今回で一番楽しくかけたのは、テトラの装備のフレーバーテキスト考える時でしたw
お気に入り登録!
ありがとうございます!!
感想もどしどし送ってくだされ!!モチベ維持以上に皆さまの反応が見れてにやにやしたいだけですけどね!
装備のフレーバーテキストを追加されたら入れていってもいい?
-
どんどん入れてくれ!私にはそれが必要だ!
-
あってもいいけど、別に必要でもない
-
なくてよい!