川を渡った烏と首なき天使   作:しものふ指揮官

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安定の2週間投稿ができる!!
って思ってたら、何と投稿日から1週間で次のお話が出来てしまった・・・

まあ、余裕と発想力がある時はいいよね~
問題は、それがない時だけど・・・

基本は2週間投稿を目指して、たまーに1週間ぐらいで投稿していこうと思いますぞ!!

皆さまは、ニケとのコラボカフェ行きました?
リバレほしさに行きましたぞ!

勿論リバレアクスタも確保済み!

アニメも始まって、普段かかれない描写によるはかどりがはかどります。
まあ、前哨基地の描写は多分もっと先でしょうな。


17話:渡る世間に鬼はない

 

「それで、指揮官。報告には、どれぐらいかかりますか?」

 

 軍本部中央棟へ続く連絡通路を歩きながら、リリスが静かに訊いた。

 ガラス張りの通路の外では、輸送機と整備ドローンが絶えず行き交い、遠くの警告灯が赤く瞬いている。

 

「正直、読めないな」

 私は手元の端末を軽く持ち上げる。

「通常の作戦報告だけなら一時間もいらない。だが、今回はレイヴンの件がある」

 

「……ゴッデス部隊に加入して最初の一か月ですからね」

 

「そうだ。戦果だけを切り出せば優秀で済む。だが、背景を説明し始めると急に面倒になる」

 

 リリスは小さく息を吐く。

「指揮官の胃に悪そう」

 

「他人事みたいに言うな。お前も当事者だろう」

 

「私は事実をそのまま言うだけですから」

 

 それは確かにそうだ。

 そして、それが一番強い。

 立場が違えば、私もそうするだろう。

 

 通路の先、分岐点が見えてくる。

 左は作戦統括棟。右は技術管理棟。

 ここで別れる予定だ。

 

「私は技術棟へ行きます。新しく迎える子の起動前最終チェック、早めに目を通しておきたいので」

 リリスは足を止め、こちらへ向き直った。

 

「分かった。頼む」

 

 リリスは一拍置き、少しだけ目を細める。

「それと、指揮官。レイヴンの件、数字だけで説明しないで」

 

「……どういう意味だ?」

 

「戦果と損耗率だけ見れば、彼女は“理想の兵器”に見える」

 リリスの声は穏やかだった。

「でも、彼女の危うさはそこには出ない。見落とせば、たぶん取り返しがつかないでしょう」

 

 言い終えると、リリスは敬礼もせず、いつもの調子で右の通路へ歩き出した。

 途中で振り返りもしない。

 だが、言うべきことは全部置いていった顔だった。

 

 取り残された私は、短く息を吐く。

 まったく、あの二人はどうしてこうも、的確に胃を痛くする言葉を選べるのか。

 

「数字だけで説明するな、か……」

 

 端末を開く。

 報告テンプレートの項目は、いつも通り無機質だ。

 

 作戦名。

 投入戦力。

 敵戦力。

 戦果。

 損耗。

 

 そこに追加された特記事項欄へ、私は指を止めた。

 

 レイヴン、企業依頼経由で自らが考案する装備更新を確認。

 テトラ・ラインより四肢試作パーツ群の提示。

 本人の換装適性は極めて高い。

 ただし汎用展開は思考転換リスクにより現時点で非推奨。

 

 書きながら、自分で苦笑する。

 文面だけ見れば、要するにこうだ。

 使えれば強い。だが扱いを誤れば崩れる。

 兵器としても、制度としても。

 

 作戦統括棟の扉が開き、受付の士官がこちらを認識して姿勢を正した。

 

「ゴッデス部隊指揮官殿。報告室Bにて軍本部副長官、本部監査官、作戦参謀、技術連絡官がお待ちです」

 

「……全員揃ってるのか」

 

「はい。先ほどV.T.C側の統括調整官も到着したとのことです」

 

 その一言で、背中がわずかに重くなる。

 副長官が出るなら、今日は報告ではなく決裁だ。

 胸の奥で、嫌な予感がひとつ形になる。

 

 私は頷いて受付を抜け、報告室Bの前で立ち止まった。

 防音扉の向こうからは、低く抑えた声がいくつか漏れてくる。

 扉脇の表示には、会議種別がこう出ていた。

 

「前線運用評価 兼 技術連携調整会議」

 

 最悪な予想と言うのは、なぜこうも当たるのか……

 

 評価だけならいい。

 調整が付いている時点で、お察しと言ったところだろう。

 

 扉の認証パネルに手をかざす直前、リリスの言葉が頭をよぎる。

 

 数字だけで説明しないで。

 

 私は端末を閉じ、表情を整えた。

 そして、報告室の扉を押し開ける。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 防音扉の向こうは、想像していた以上に静かだった。

 この静けさは胃に悪い。

 誰もが思惑を心に秘め、笑顔の真下で銃口を向け合っているような空気だ。

 

 長机の奥、中央に軍本部副長官。その手前に本部監査官。右に作戦参謀と技術連絡官。左にV.T.C側の統括調整官が一名。

 さらに壁際には、三社合同の企業窓口を映したホログラムが立ち上がっている。

 ミシリス、エリシオン、テトラ。

 視線の熱量だけは、誰も隠していなかった。

 

 そして……副長官がいる。

 その事実だけで、会議の種類が一段変わる。

 権限の話をするなら、監査官だけでは足りない。

 

 まったく、何が評価と調整だ。

 ここは、あらかじめ決裁の階段まで上がってきた場だ。

 

「着席を」

 軍本部副長官が短く言う。

 

 私は素早く敬礼し指定席に腰を下ろす。

 そして、備え付けられた機械に端末を接続した。

 

「ゴッデス部隊指揮官、アンダーソンです。これより前線運用報告を開始します」

 

 中央ホロに、作戦ログが展開される。

 投入戦力、敵戦力、戦果、損耗。

 定型報告を流し終えた後、私は一拍置いた。

 

 言葉を選ぶ。数字だけを並べれば楽だ。

 だが、楽な報告ほど、後で面倒が増える。

 

 ……リリスの言葉が頭をよぎる。

 ──数字だけで説明しないで。──

 

 分かってはいる。だが、この場でそれをやるには、少し前提が違いすぎた。

 副長官と三社と、V.T.Cの統括調整官が雁首揃えているこの場で、「現場の話」を持ち込むのは、さすがに無理がある。

 ゴッデス部隊の指揮官とはいえ、一介の指揮官が個人的な所見を差し挟める空気では、最初からない。

 

 しかし、これだけはと思い、咽喉に引っかかっていた言葉を、私は一つだけ外に出した。

「……しかしながら、1点だけ補足を。

 レイヴンは、たしかに戦果の数字だけ見れば理想的です。

 ですが実態は、既存運用の延長線にないものとなります。

 判断の癖、任務中の選択、危険への反応。

 どれも“規格品”として扱うには、無理がある……

 その前提だけは、先に共有しておくべきかと」

 

 一拍の沈黙のあと、ミシリス側ホログラムが低く鼻を鳴らした。

 

『指揮官殿、それは“印象”ですか? 

 こちらが求めているのは再現可能な仕様です。心理評価は会議の議題ではありません』

 

 言葉の端に、露骨な苛立ちが混じる。

 私は表情を崩さないまま、端末の表示を一段戻した。

 来ると思っていた反応だ。だからこそ、先に言っておきたかった。

 

「印象ではありません。現場観測に基づく運用警告です。

 数値化項目は後続提出しますが、先に共有すべきリスクだと判断しました」

 

『感想は結構。仕様の話をしてください』

 

 空気が一段、冷える。

 副長官に目をやると、彼は静止するような視線を送っている。

 これ以上は、ここでの話ではないと。

 

「……承知しました。

 先述した通り、レイヴンは企業依頼の現場で、従来とは異なる装備運用思想を示しています。各社が恐らく注目しているのは、その点です」

 

 作戦参謀が眉を寄せる。

「“組み換え”の件か」

 

「概念としては、そうです」

 私は頷いた。

「ただし軍が把握しているのは、V.T.C所属のレイヴン専属技師であるエイブ研究員経由の定期メンテナンス報告と戦闘ログの断片のみ。

 具体的な接続方式、構造仕様、同期アルゴリズムは未開示です」

 そう言いながら、この場にいるV.T.C連絡員の方を見た。

 

 ここは強く言う場面ではない。

 だが、曖昧にすると後で全部軍の責任になる。

 

 本来であれば、ここで現場で感じたレイヴンへの印象など言いたいことが別にあった。

 しかし、ここに居る誰もかれもが、レイヴン自身かそれに付随する技術の話をしたがっている。

 技術の所在がどこにあるのか、技術の中身がどこまで見えているのか。

 レイヴンの持つ内面なんて眼中にない。

 危険視と言う点で言えば……一番話が通じるのは副長官だろうが、他の外野がいる以上、そこまで踏み込むのは難しい。

 

 作戦参謀が資料を切り替える。

「要するに、成果の兆候は見えるが、中身は見えていない」

 

「その通りです」

 

 ミシリス側ホログラムがすぐに口を開く。

『だからこそ情報が必要なのです。断片ログだけでは再現性が取れません。試作はできても実用化できなければ、意味がない』

 

 エリシオンも続く。

『前線に出せる規格まで落とし込むには、最低限の接続層仕様が要る』

 

 テトラ側も同調する意思を示す。

『こちらも完全開示を求めているわけではありません。しかし、現状はブラックボックスが多すぎる状況です』

 

 各陣営の主張が出揃ったところで、V.T.C側の統括調整官に視線が集まる。

 その視線に臆さずV.T.C側の統括調整官が淡々と返した。

「ブラックボックス化は意図的です。無制限の展開は想定していません」

 

 作戦参謀が机を軽く叩いた。

「予め言っておくが軍としても、特殊個体の手綱を他所に渡す気はない。管轄は軍だ」

 

 言い切ったところで、軍本部副長官が片手で静止を促し低く補足する。

「作戦参謀の言葉の通りだが、それだけでは足りん。特殊個体レイヴンの所属管轄および最終出撃命令権は軍保持。ここは不変だ」

 

 三社側の空気が重くなる。

 ミシリス側が苛立ちを隠さず返した。

『それでは技術進展が止まるでしょう。投入だけ求められて、回収できる知見がないのは問題です』

 

『軍の管理下のままでは、情報流量が細すぎる』

『このままでは、誰も得をしないでしょう。戦線も市場も停滞するのは確実です』

 

 テトラ及びエリシオンも同調する意思を示す。

 

「だから提案をするために此処に来たのです。我々が提案するのは個体命令権ではなく、導線の一元化です」

 V.T.C側の統括調整官が初めて語気を強めた。

 

 それを聞いた軍本部副長官が目を細める。

「……T.A.C.Tか」

 

 空気が、目に見えて固まる。

 軍が忍ばせた依頼プラットフォーム。

 監視と任務導線を兼ねる、軍側の実質的な手綱だ。

 

「軍の首輪を外す気か?」

 作戦参謀が即座に反発し、統括調整官を睨みつける。

 

 V.T.C側の統括調整官は首を振る。

「なんのことでしょう? 首輪は軍側が持てばよろしい。

 こちらが求めるのは、鎖に当たる回線と基盤運用権です。

 そうすれば、軍は最終命令権と監査閲覧権を維持できる」

 

 その発言を聞き、企業側は連鎖的に賛同した。

 軍側の異議は、本来なら正当だ。レイヴンが軍所属である限り、技術情報の完全統制は当然の権利。

 ただし──全員が反対に回った瞬間、その「当然の権利」も「意地」へと転じてしまう。

 正しいはずの主張が、多数派の前では根拠なき抵抗に過ぎなくなる。

 

 作戦参謀が苦虫を噛み潰した顔をする。

 

 正直、同情はできない。

 だが、あの顔は分かる。

 軍が責任だけ抱え、技術の中身を持てない形に持ち込まれた時の顔だ。

 

 要するにこれは、軍が一番まずい薬を飲まされる形だ。

 軍はレイヴンの最終命令権を保持するが、技術的な手綱は完全にV.T.Cに渡すことになる。

 監査ログの閲覧権を持つが、詳細はすべてブラックボックスのまま。

 使うことはできるが、技術的な知見は得られない。

 未知の爆弾を抱えながら、それを知ることもできない状態は続いたままになる。

 

 してやられたな、というのが正直な感想だった。

 この状況は、軍にとっては最悪だ。

 

 副長官も、おそらく同じ結論にたどり着いている。

 それでも敢えて口を閉ざすのは、放った言葉がすべて、もっと悪い形で切り取られると分かっているからだろう。

 

 しかし、飲むしかない。

 いや、飲まざるを得ない。

 軍が拒否すれば、暴走しかねないのは企業だ。

 模倣して運よく成功すればいいが、失敗すれば大惨事になり、その尻ぬぐいは軍がすることになる。

 そして、もし、万が一でも企業がレイヴンに手を出そうものなら、その災厄が該当企業にとどまる保証はない。

 

 机の上に乗っているのは、権限ではなく責任だ。

 そして責任は、たいてい一番面倒な形で軍に戻ってくる。

 

 軍本部副長官が最終案を読み上げる。

 

「暫定合意案。

 一、レイヴンの所属管轄および最終出撃命令権は軍保持。

 二、T.A.C.Tの所有権および基盤運用権をV.T.Cへ譲渡。

 三、企業提供データはV.T.C審査下で限定開示。

 四、軍は全監査ログの常時閲覧権を保持。

 五、緊急停止権限は軍・V.T.C二重承認方式。

 ……以上だ」

 

「異議は?」

 軍本部副長官の問いに、短い沈黙。

 

 私はその沈黙を見ながら、指先の汗を意識していた。

 ここで誰か一人でも強く出れば、会議は崩れる。

 だが、誰も退かない沈黙ほど、胃に悪いものもない。

 

 先に頷いたのはテトラ、次にエリシオン、最後にミシリス。

 V.T.C側の統括調整官が承認を返し、軍本部副長官が最後に署名端末へ指を置いた。

 

 合意ランプが緑に変わる。

 これにより、首輪は軍が持ち、鎖はV.T.Cが持つことになった。

 鎖がどこに繋がっているのかは、軍には見えない。

 気づいた時には、その鎖が切れ、別の鎖に繋がっている可能性も孕んでいる。

 そしてそれに気づくこともできない。

 

 私は合意ランプの緑を見ながら、考えを巡らせた。

 守ったのは管轄か、それとも責任の所在か。

 おそらくその両方だが、両方守った気になれるほど、この話は甘くない。

 

 会議終了の空気が室内に広がる。

 私はまだ席を立たず、端末の表示を閉じながら合意ランプの残光を見ていた。

 

 椅子が引かれる音がひとつ。

 先に立ったのは、V.T.C側の統括調整官だった。

 

 彼は私の後ろを横切る瞬間だけ歩調を緩め、視線も寄越さないまま小声で言い放った。

「指揮官殿。誤解しないでいただきたい。これは奪取ではありません。保全です」

 

「奪取と保全は、見る側で名前が変わる」

 私は振り返らず、端末を握ったまま、低く返した。

 返答はない。

 統括調整官の足音だけが、そのまま扉の向こうへ消えていった。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 統括調整官の足音が扉の向こうへ消える。

 三社のホログラムも消え、会議室は再度静寂に包まれた。

 正直、この空気の中で長居したくない。

 

 そう思い、私は端末を回収して立ち上がる。

 しかし出口へ向かう途中、軍本部副長官が私を呼び止めた。

 

「アンダーソン指揮官」

 低い声に、動きを止める。

 軍本部副長官は書類を閉じたまま、こちらを見ていた。

 

「少し待て」

 短い一言だった。

 無言のまま再度自身がいた席へ戻る。

 

 副長官は視線だけで、作戦参謀と本部監査官を促した。

「二人は先に出てくれ。ここからは私が引き継ぐ」

「……承知いたしました」

 短いやり取りのあと、2人が退出し扉が閉まる。

 室内には副長官と私だけが残った。

 

 私は一拍置いて口を開く。

「それで、どのような話でしょうか?」

 

「ちょっとした小話だ」

 副長官は肩を揺らすでもなく、淡々と返す。

 

「まずは、報告ご苦労だった。

 だが……少し踏み込み過ぎだ。良く踏みとどまったと言ってもいいだろうが、この場ではあの発言ですら余計だ」

 

 副長官はそこで言葉を切り、私の目をまっすぐ見た。

 低い声が、会議室の残響みたいに落ちる。

 

「……言わんとしていることは、貴官の顔を見れば分かる」

 

 副長官はそう言って、書類からゆっくり視線を上げた。

 責めるでもなく、試すでもない。

 

 私は反射的に背筋を伸ばす。

 そうしないと、今の自分の考えがそのまま顔に出そうな気がした。

 

「大方、奴を雛形とした技術展開と戦術のリスクを言いたいのだろう」

 

 その一言で、胸の奥が少しだけ軽くなる。

 代弁された、というより、最初から見抜かれていた。

 悔しいが、否定しようがない。

 

 副長官は指先で机を一度だけ叩いた。

 

「額面上の数字だけで見れば、理想的な兵器だ。

 目標値以上の戦果と実績、そして、損耗率は限りなくゼロに近い。

 だが、従来運用の延長で扱えば、数字が出る前に歪みが出る。

 しかもその歪みは、報告書には載らない」

 

 私は小さく息を止めた。

 まさに言いたかったことだった。

 だが、ここでは自分の口で言うより、この人の口から出たほうがずっと重い。

 

 副長官は私の反応を見て、わずかに目を細める。

 

「違うか?」

 

「……いえ、その通りです」

 

 喉の奥の引っかかりがようやく落ちる。

 それでも胸のあたりには、まだ薄い石みたいな重さが残っていた。

 

「分かっていると思うが、今回の決定は必然だ。

 欲望と言うのは、甘い蜜を好む。

 我々が今一番に危険視するべきは、兵器本体だ」

 

 その言葉に、私は一瞬だけ指先を強く握った。

 分かっている。

 理屈も、立場も、危険度も。

 だが、レイヴンを知る前ならまだしも、今の私には、その言い方だけはどうしても引っかかる。

 

 戦果を出す道具としてではなく、目の前でふてくされたり、目を輝かせたり、笑ったりする“レイヴン”として見てしまっているからだ。

 直に触れた。

 話した。

 機嫌も見た。

 あの距離を知ってしまうと、数字の向こう側に押し戻す言い方に、どうしても顔が曇る。

 

 だが、ここでそれを口にするわけにはいかない。

 副長官の言う通りだ。

 私は現場指揮官でしかないし、この場で情を見せれば、それは意見ではなく弱さになる。

 まして軍は、感情で行動することをご法度とする組織だ。

 

 沈黙した私を見て、副長官は小さく息を吐いた。

 責めるというより、最初から分かっていた顔だった。

 

「まあ、指揮官である貴官からすれば無理な話だろう」

 

 その言い方に、胸の奥が少しだけ痛む。

 分かっている。

 この人は、私が何を飲み込んだかを見抜いている。

 

「だが、今の顔は隠せ。

 もう少し感情を殺す訓練をしろ。今のままでは、どんな馬鹿でも気づく」

 

 私は反射で視線を落とした。

 レイヴンを兵器と呼ばれるたびに、どうしても目が揺れる。

 あの子を知っているからだ。

 ただの性能値ではなく、目の前で動く一人として見てしまっているからだ。

 

「……承知しました」

 

 返事は短く、硬かった。

 副長官はそれ以上追及しない。

 代わりに、机上の資料へ指先を置いたまま言う。

 

「肩入れするな、とは言わん。

 だが、見せるな。

 貴官が情を見せれば、私含め我々と他の連中は必ずそこを突く。

 守りたいものまで一緒に削られたくなければ、感情を表に出すな」

 

「今回に限り、私は見なかったことにする」

 

 その一言で、ようやく腹に落ちた。

 叱責ではない。

 釘だ。

 しかも、借りを作られた上で確かに必要な位置に打たれた釘だった。

 

 副長官が副長官たらしめるのは、こういうところだろう。

「……ありがとうございます」

 そう返した声は、自分でも驚くほど乾いていた。

 

 副長官はもうこちらを見ない。

「下がれ」の一言だけが、会議室の空気を切った。

 

 私は敬礼して踵を返す。

 扉に手をかけたところで、背中に残ったのは叱責より重い忠告だった。

 情を持つな、ではない。

 見せるな、だ。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 扉が閉まる音を背中で聞きながら、私はようやく息を吐いた。

 肺に溜まっていたものが抜ける感覚はあるのに、胸の重さだけが残る。

 会議で一番重かったのは誰の声か。副長官か、企業の三社か、V.T.Cの統括調整官か。

 違う。たぶん、沈黙だ。誰も引かないときにだけ生まれる、あの硬い沈黙。

 

 はぁ……っと軽く息を再度吐きながら、私は扉を出てすぐの壁に寄りかかった。

「やはり、あの空気感には慣れんな」

 

 そんなことをボヤいていると端末に通知が入っていた。

 

 ── 起動準備、最終段階。

 ── レイヴンとも合流済み。

 ── 二十分以内に技術管理棟へ。

 リリーバイス

 

 私は歩き出しながら、思わず苦笑した。

 胃痛の会議が終わったと思ったら、次は女神様の目覚ましだ。

 今日は本当に、数字で済む日じゃない。

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 技術管理棟の深部は、いつ来ても温度が一定だ。

 人間にとって快適な温度なのか、機械にとって快適な温度なのか、いまだによく分からない。

 長いガラス廊下の先、起動区画の気密扉前でリリスが待っていた。

 

「遅い」

 いつもの平坦な声だ。だが、右手の端末を指で叩く速度がいつもより速い。

 

「無茶を言うな。副長官付きの会議で“早く終わる”と思う方がどうかしてる」

「言い訳としては筋が通ってますね。採点は赤点ぎりぎり」

「手厳しいな」

「今回は特別に甘くしてあげる」

 

 軽口の応酬で、張り詰めた神経がほんの少し緩む。

 こういう時、リリスはわざとやっている。

 本人は絶対に認めないだろうが。

 

「お転婆な渡り烏は?」

 一番目を離してはいけないレイヴンがこの場に居ないのが気になる。

 

「先に中に入ってる。あと、その言い方、本人に言わないでね」

 リリスにそう返され、私は苦笑した。

 勿論言うはずもない。

 会議室の沈黙より、レイヴンの機嫌のほうがよほど読みづらい。

 

 気密扉が開く。

 起動室の空気は冷えていて、機材の駆動音だけが低く響いていた。

 中に入ると、レイヴンが本当にとことこと歩き回っている。

 床のライン、壁際の補助パネル、天井レール、非常停止ボックス。

 まるで散歩でもしているような足取りで、あちこちを見回っている。

 

 以前の起動事故の痕跡は、設備そのものに刻まれていた。

 中央の起動用ベッドにはドロシーが静かに横たわり、その周囲を対爆仕様の半透明シールドが筒状に覆っている。

 多層の保護膜が薄く青白く揺れて、眠る彼女の輪郭をぼかしていた。

 棺のようでもあり、揺りかごのようでもある。

 どちらに見えるかは、見る側の気分次第だ。

 

「……えらく厳重だな」

 私が漏らすと、技術班の主任が硬い声で答えた。

「前回の起動爆散を踏まえ、保護筒は対爆三層。起動時の圧力波と破片を吸収します。

 ……本日、企業側は資金提供のみ。起動立ち会いは軍単独、観測は外野回線からです」

 

 それが一番いい。

 誰の手柄かを決める場じゃない。

 今日はただ、目の前の一人を無事に目覚めさせる日だ。

 

「起動シーケンスに入ります」

 

 カウントが始まる。

 

 5

 4

 3

 2

 1

 

 保護筒の内側に光が満ち、静寂が一拍落ちる。

 次の瞬間、ドロシーの瞼がゆっくり開いた。

 

 青紫の瞳が、半透明の膜越しにこちらを捉える。

 起動確認の灯が順に緑へ変わり、保護筒が上方へスライドした。

 

「聞こえるか。私はゴッデス部隊指揮官だ」

 私は声を整える。

「現在位置は軍本部技術管理棟。起動確認を行う」

 

 ドロシーは身じろぎひとつで上体を起こし、静かに答えた。

「はい、聞こえています。

 ……違和感もありません」

 

 その第一声を聞いて、私は胸を撫で下ろした。

 

 ベッドから足を下ろした彼女の姿に、室内の空気がわずかに変わる。

 白と薄紫を基調にしたドレス。幾重ものフリル。

 長いピンクの髪が光を受けて流れ、立ち姿そのものに気品がある。

 兵装の威圧ではなく、華やかさで場を制する類いの存在だ。

 

 その時、起動室の隅で、さっきから妙に静かだったレイヴンが一歩前に出た。

 ドロシーを頭からつま先まで見て、露骨に怪訝な顔をする。

 

「……その服で戦うの?」

 間を置かず、さらに追撃。

「フリル多すぎない? どこかに引っかけたら終わるよね」

 

 私は反射で額を押さえた。

 初対面でそれを言うかね。だが、レイヴンなら言う。間違いなく言う。

 

 ドロシーは一瞬きょとんとして、それから口元だけで笑った。

「ご心配ありがとうございます。引っかける前に片付けますから、大丈夫です」

「いや、そういう問題かな」

「そういう問題です」

 

 レイヴンがわずかに目を細める。

 噛み合ってないようで、妙に噛み合っている。

 あぁ、全く胃が痛い。

 

 リリスが小さく咳払いした。

「二人とも。特にレイヴン。相手は起動直後よ」

 

「わかってる」

「分かっています」

 

 声が重なった。

 私はため息を飲み込む。

 初対面一分でこの温度。先が思いやられるし、少し安心もする。

 

 ドロシーはレイヴンに向き直り、丁寧に頭を下げた。

「私はドロシーです。よろしくお願いします」

「レイヴン。よろしく」

 短い返答のあと、レイヴンは再度ドロシーの全身を見回す。

「……ドロシーは……なんのために戦うの?」

 ドロシーは一瞬だけ言葉に詰まった。

 そしてしばらくして、ゆっくりと答えた。

「私は、守るために戦います」

 

「……何を?」

 

「平和だった頃に戻し、人々を守るために」

 

 その答えを聞き、レイヴンは私の予想とは裏腹に、少しだけ目を見開いた。

 そして、何かを察したような表情をして、静かに言った。

「……立派だと思う」

 

「ありがとうございます」

 ドロシーが柔らかく笑む。

 

 案外、この二人は相性がいいのかもしれない。

 そう思いながら、私は二人のやりとりを見守っていた。

 

 ──が

 

 その空気を裂くように、私の端末が震えた。

 まったく、この空気感が続けばいいのに、と思いながら端末を開く。

 副長官室からの優先通知。内容を見る前に胃が重くなる。

 

 起動成功に伴う簡易式典を実施。

 関係者は中央ホール集合。十五分後。

 出席必須。

 

 ……マジか。

 私はため息をつき、リリスに目で合図した。

 画面を見たまま、言葉を探す。

 レイヴンが式典を嫌うことは、断片的に報告で受けている。

 私も会見を中継で見ていたが、あの時のレイヴンは明らかに不機嫌だった。

 いや、不機嫌と言うか、死んだ魚の目をしていた。

 

 だがしょうがない。

「レイヴン」

「なに」

「このあと、短い……顔合わせがある」

「顔合わせ?」

「あぁ、起動確認の流れで、形式的なやつだ。すぐ終わる」

 

 そこまで聞いたレイヴンの顔が、みるみる曇った。

 散歩だと思って尻尾を振っていた犬が、到着先が病院だと理解した時の、あの絶望顔。

 次の瞬間、じろりと私を睨む。

 

「騙したな……」

「いや、私も今知ったばかりだ。悪意は全くないと言いたいが……」

「……指揮官嫌い」

 

 ズキっと胸に響く。

 なぜだろう。私は一切悪くないのに、なぜかすごく悪い気分になる。

「……すまん」

 

 私の謝罪と反応をまじまじと観察するレイヴン。

 いや、これは観察ではなく警戒だな……

 

 そこにリリスが、レイヴンの肩にすっと手を置く。

 優しい仕草だが、逃走抑止の角度だ。

 

「逃げようとか考えないでね?」

 

 その行動に諦めがついたのか、レイヴンは大きくため息をつく。

 

「……分かった。行く。行けばいいんでしょ」

 

 私は胸の奥でひとまず安堵した。

 だが、その安堵は一瞬で裏切られる。

 

 私から見れば、一瞬の出来事だった。

 リリスが手を肩から離した瞬間、レイヴンは床を蹴って横へ滑り、扉の隙間を抜けて一気に加速した。

 リリスの目が一拍だけ丸くなる。

 だがすぐに状況を掴み、追跡態勢へ切り替わった。

 

「待ちなさい! レイヴン!」

「待たない!」

 

 残された私とドロシーは、同時に呆気にとられる。

 ドロシーが小さく瞬いた。

「……あの、これも訓練なのでしょうか?」

「あぁー……違うな。平常運転だ」

「へいじょう?」

 

 思考停止した脳が一気に回転し始める。

 私は慌てて走り出し、振り返ってドロシーに告げる。

「式典は問題なく開始されるだろうから、所定の場所で待っていてくれ!」

「わ、分かりました。お気をつけて……」

 

 追いながら、私はレイヴンの思考をなぞる。

 人混みは避ける。主通路は避ける。

 静かで、隠れて、退路が多い場所。

 

 くそ……! 

 そんなところなんて、レイヴンにかかればどこも一緒だ! 

 唯一あるとすれば、旧訓練区画の庭園だろうが……ええい、行くしかない! 

 

 己の持てる全ての体力と知力を振り絞って、レイヴンの後を追う。

 予想通り、庭園に着くとリリスがレイヴンの首根っこを掴んでいた。

 不貞腐れたレイヴンは……言い方が悪いかもしれないが、悪さをした猫が捕まったような顔をしている。

 

「……なんで向かう先がわかるのさ」

 ふくれっ面のレイヴンがリリスに目を合わせないまま呟く。

 

「毎日のように訓練してくれてたお陰? あとは、あの場所から近場で外に出られる場所はここだけよ」

 

「……そういうことか」

 なぜ2回しか来たことのないレイヴンが、そんなことを知っているのか気になるが、今はそんなことを考える余裕もない。

 気づけば、ドロシーも庭園に入ってきていた。

 

 まさか気づいてないの私だけだったか……? 

 いや、そんなことはどうでもいい。

 今はすべきことは……

 

 私は息を整え、レイヴンと目線を合わせた。

「レイヴン、聞け。

 今回はドロシーがメインだ。お前に矛先が向かう式典じゃない。

 お前は隣に立ってくれるだけでいい。前面対応は私が受ける」

 

 レイヴンは唇を尖らせ、しばらく黙る

 そして、ようやく小さな声で答えた。

「……式典のあの空気感……あれは最悪以外の何物でもない」

 小言を挟み暫くだんまりを決め込む。

 そして今度こそ断念したのか、おそらく出会った中で一番不機嫌な顔で、私を見て来た。

「大丈夫だ。お前に余計な挨拶は振らせない」

 リリスも短く添える。

「私も隣にいる。長引かせるつもりもないからね」

 

 沈黙のあと、レイヴンは肩を落とした。

「……じゃあ行く。

 でも長引いたら、次は本気で逃げるから」

 

「大丈夫だ。次があるなら、今度は私が先に逃げる」

 正直、もう胃がいくつあっても足りない。

 次なんてあったら、それはもう、間接的に私への死刑宣告だ。

 

「それはだめでしょ」

 リリスがすかさずツッコミを入れる。

 その光景を見てレイヴンがふっと笑う。

 

 その姿を見てドロシーも、表情を緩める。

「にぎやかな部隊ですね」

 ドロシーの言葉に、私は苦笑した。

「否定はしない。だが、悪くないだろ?」

 

「はい。悪くないです」

 

 四人で庭園を出る。

 式典まで残り七分。

 胃はまだ痛む。

 それでも足取りは、会議室を出た時より確かに軽かった。

 

 そして、ドロシー起動成功を祝う式典が始まる。

 その式典にレイヴンは、終始死んだ魚の様な目で立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

【おまけ:苦手は潰すに限る】

 

 

 式典が終わったあと、中央ホールの喧騒を抜けて、私たちは軍本部の連絡通路を歩いていた。

 

 やっと終わった、という安堵はある。

 だが、その安堵の横で、レイヴンは終始むすっとしたままだった。

 あの表情は式典の最中だけかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

 

 隣を歩くリリスが、ちらりとレイヴンを見る。

「ずいぶん不機嫌ね」

 

「最初から最後まで気持ち悪かった」

 

 即答だった。

 

 ドロシーが少しだけ目を丸くする。

「気持ち悪い、ですか?」

 

「そ、気持ち悪い」

 

 レイヴンは歩きながら、いかにも嫌そうに眉を寄せた。

 

「褒められるのは、別に嫌いじゃない」

 ぶっきらぼうな声で、まずそう前置きする。

「ちゃんとやったことに対して、そう言われるのは分かる。そこはいい」

 

 だったら何が駄目なんだ、と聞く前に、彼女は続けた。

 

「でも、ああいう場の空気は無理。なんか、気持ち悪い」

 

 私は横目でレイヴンを見る。

 感覚で言っているようで、本人の中ではかなりはっきり線引きされている顔だ。

 

「空気っていうのは?」

 私が促すと、レイヴンは少し考えてから口を開いた。

 

「みんな笑ってるのに、別に嬉しそうじゃない」

「……」

 

「褒めてるように見えて、見てるのはそこじゃない。

 なんて言えばいいのかな。

 人を見てるんじゃなくて、使えるものを見てるみたいな」

 

 通路に、短い沈黙が落ちる。

 

 リリスは表情を変えなかった。

 ドロシーも何も言わない。

 だが、誰も否定しない時点で、たぶん全員どこかしら思い当たるものがある。

 

 レイヴンは一度口を尖らせ、それから吐き捨てるみたいに続けた。

 

「あとは、戦局が悪いとか、余裕がないとか、そういう話はいつもしてるのに、ああいう式典をやる余裕はあるんだって思うと、なんか嫌」

 

「……ああ」

 思わず、私は小さく息を漏らした。

 

 分かる、とは軽々しく言えない。

 だが、言いたいことは分かる。

 

 前線では一分一秒、物資も人手も足りないと言われる。

 その一方で、壇上と照明と進行役と参列者を揃えて、祝辞を並べる余裕はある。

 組織として必要だと分かっていても、現場の感覚と噛み合わない時はある。

 

 レイヴンは私の反応を見て、少しだけ目を細めた。

 

「でしょ?」

 

「いや、まあ……否定はしにくいな」

 

「あと、そもそも向いてない」

 

「何がだ」

 

「マスコット」

 

 あまりにも真顔で言うので、私は危うく吹き出しかけた。

 

 リリスが先に口元を押さえる。

「それはそうかもね」

 

「かもしれない、じゃない」

 レイヴンはむっとして言い返す。

「絶対向いてない。突っ立て、笑って、愛想よくしてれば──とか、人形じゃあるまいし」

 

「愛想よく、ね……」

 私はつい横を見る。

 本人にその適性がないことだけは、誰の目にも明らかだった。

 

「お前は、ああいう場だと黙ってても機嫌悪そうに見えるからな」

 

「それはそう。でも私が人形みたいにニコニコしてる方が怖くない?」

 

「そうだな。想像するだけでゾッとする」

 

 短いやり取りに、ドロシーがふっと小さく笑った。

 

 その笑いに気づいたのか、レイヴンがちらりとドロシーを見る。

「ドロシーはアレ、平気なの?」

 

 問われたドロシーは、少しだけ視線を前に流した。

 

「平気、というより……そういうものだと思っています」

 声は静かで、柔らかい。

「結果を出したのなら、その分の称賛を受けるのは自然なことですから」

 

 レイヴンは露骨に顔をしかめた。

「自然ねぇ……」

 

「少なくとも、私はそう考えます」

 ドロシーは穏やかに返す。

「もちろん、あの場にいろんな思惑が混じっていることくらいは分かります。

 でも、それでもなお、目に見える形で労われることには意味があります」

 

 レイヴンは答えない。

 納得していない顔だ。

 だが、真っ向から否定する気もないらしい。

 

 私は二人の間に入るように言葉を挟んだ。

 

「受け取り方の違いだろうな」

「ドロシーは、称賛を結果に対する正当な反応として受け取れる。

 レイヴンは、その周りにくっついてくる空気とか思惑の方が気になる。そういう話じゃないか」

 

 レイヴンは少し黙ってから、ぶっきらぼうに頷いた。

 

「……無くなってくれないかな……アレ系のやつ」

 

 やめてくれ、お前がそれを言うと物理的に式典を破壊しそうな気がして胃が痛むんだ。

 そう思っていると、リリスがそこで淡々と補足する。

 

「レイヴンは、言葉そのものより、言い方とか場の温度の方を先に拾うものね」

 

「拾いたくて拾ってるわけじゃない」

 

「知ってる」

 

 またそれで会話が切れる。

 だが、今度の沈黙は重くなかった。

 

 私は歩きながら、ふと思ったことをそのまま口にする。

 

「だが、褒められること自体は嫌いじゃないんだな」

 

「嫌いではない」

 

「そこは即答するのか」

 

「やったことに対して何も返ってこない方が変でしょ」

 

 それはそれで筋が通っていた。

 私は苦笑し、肩をすくめる。

 

「なるほどな。要するに、お前は称賛が嫌なんじゃない。

 称賛の場に漂う、あの独特な“何か”が嫌なんだな」

 

 レイヴンは嫌そうな顔のまま、しかし少しだけすっきりしたように言った。

 

「そう。あれ。あの、なんかべたべたした感じ」

 

「べたべた」

 

「上手く言えないけど」

 

「いや、分かりやすい」

 

 前を歩いていたドロシーが、小さく振り返る。

 その表情は穏やかだった。

 

「でも、少し羨ましくもあります」

 

「え?」

 レイヴンがきょとんとする。

 

「嫌だと思えるくらい、自分の感覚で受け取っているということでしょう?」

 ドロシーはまっすぐに言う。

「私はおそらく、ああいうものを“そういうもの”として受け入れることに慣れています。

 だから、あなたみたいにそこへ違和感を持てるのは、少しだけ新鮮です」

 

 レイヴンは返事に困ったように目を泳がせた。

 褒められたのか、分析されたのか、たぶん本人にも分かっていない。

 

 リリスが小さく息を吐く。

 

「相変わらず、極端な子たちね」

 

「今さらだな」

 

 そう返したところで、レイヴンが不意にこちらを見た。

 

「ねえ、指揮官」

 

「なんだ」

 

「ああいうの、次は断れる?」

 

 私は一拍置いてから答える。

 

「無理だな」

 

「役立たず」

 

「そこまで言うか」

 

「言う」

 

 即答である。

 

 ドロシーがまた小さく笑う。

 リリスも、今度は隠さなかった。

 

 式典の空気は嫌いだ。

 ああいう場には向いていない。

 たぶん、それは本当なのだろう。

 

 けれど、こうして不満を隠さず口にして、隣で誰かが呆れ、誰かが笑う分には、レイヴンもそこまで悪い顔をしない。

 

 だったらきっと、嫌いなのは称賛ではない。

 称賛をまともに受け取れなくする、あの場の空気そのものなのだろう。

 

 通路の先で、夜間照明が白く灯っている。

 私はその光を見ながら、小さく息を吐いた。

 

 次に式典がある時は、せめて逃走経路くらい先に潰しておくべきかもしれない。

 もっとも、それをやったところで別の抜け道を見つけるのが、あの渡り烏なのだが。




皆さまは、3大企業がアセン構想で作る武装ってどんなのだと思います?

ミシリスは言わずもがな、ミラージュ、クレスト、インテリオル系の曲線・曲面的なパーツ出しそう。
あと、絶対ビーム兵装しかやらない。

エリシオンは・・・まあ、どう考えても重工系でしょうな。
タクオバも実弾こそ正義みたいなこと言ってたし
となると・・・タクオバがAC機体に乗って戦うのか・・・強そう(強そう)

テトラは・・・テトラはなんだ??w
とりあえず、ジャンルは多方面??

V.T.Cはキサラギ、ムラクモです。異論は・・・認めん!!

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