川を渡った烏と首なき天使   作:しものふ指揮官

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大変長らくお待たせいたしました!!

きつかった・・・
この話を書くのに完成しては書き直してを5回ぐらいやってしまい、完全に心が折れてました。

一万字近い文字打っては、消してを繰り返すとどうなるって?
心が死ぬ。

お陰でニケにログインできない日が続いちゃったよ!何やってんの!?
インスピレーションもかねて好きな二次創作小説でも見ようと思って、ジャンルをウマ娘にしたが最後、スポ根描写に涙だらだらでヤバかったですわ・・・

いや、ホントに文字だけで風景や動作、BGMまでもが脳内再生余裕な書き方をされるあの作者様方はナニモノ??

これだしたら、コラボイベみよう・・・ペルソナ知らないけど・・・
でも絵柄好きだ!!



21話:四肢を断てども、眼は見えず

 あぁ、私は今とても気持ちの悪い顔をしてるんだろうなぁ。

 表情筋を制御することが出来ず、自然とにやけてしまう。

 

 でも、それでも……

 

「あぁ、素敵だぁ……」

 

《様子のおかしい人です》

 

『やめてよ。というかあの人と同じにされるのは心外すぎるよ?』

 

《言動がそのままの時点で同種かと》

 

『えぇ……』

 

 誠に遺憾である。

 欲しいものが手に入ってしまったのだから、仕方がないじゃん。

 

 目の前にあるのは、ずっと欲しかったものだった。

 

 そう! 逆関節!! 

 

 購入から一週間ぐらい? 

 思ったよりも早くて、凄く助かる! 

 

 人間の脚とは、まるで違う。

 膝は大きく前へ張り出し、そこから脚部全体が後方へ折れ曲がっている。つま先は鋭く三つに分かれ、床を掴むための爪まで備わっていた。

 

「ふふふ……ふふ」

 

 あ~……カッコいい!! 

 これよ! これ! 

 

 思わず台座へ駆け寄り、脚部をいろいろな角度から眺める。

 

 正面。

 横。

 少し屈んで、下から。

 

 うん。

 どこから見てもカッコいい。

 

 特に関節との間に伸びるこのシリンダー部分。

 よい。

 

 ちゃんと人間の脚から外れているのがいい。

 いや、人間の脚が悪いわけじゃない。

 あれはあれで歩きやすいし、服も着やすい。

 

 でも、それとこれとは話が別だ。

 

 機械の身体を自由に組み替えられるのに、わざわざ人間と同じ形を選ぶ必要がどこにある? 

 ない。

 断じて、ない。

 

 速く走るため。

 高く跳ぶため。

 着地の衝撃を受け止め、次の動作へ繋げるため。

 必要な機能を突き詰めた結果、人の形から遠ざかっていく。

 

 だが、それがいい! 

 

《はぁ……》

 

 エアから最大級の溜息が聞こえて来た。

 え? わかんないの? このカッコよさ! 

 

《私から言わせていただくのなら、少々細すぎる気がします》

 

『そうかな? 一応カテゴリー的には中量級のやつだよ?』

 

《私の好みではないですね。もっとがっしりした機体がいいです》

 

 エアの駆る機体……エフェメラじゃないヤツの事言ってる? 

 あれってもはやACって言っていいの? 

 

《ですがカッコいいです》

 

『そりゃ……確かにカッコいいけど……』

 

 乗れないもんなぁ……あれ……

 でも重量二脚は気になるので、似たような奴をどこかの企業が作ってさえくれれば、勿論買う! 

 

 それはそうと……

「アセンしますか」

 

 逆関節が来るまでの間、エイブがくれたアセンブル装置を色々触りまくった影響で、操作方法は理解していた。

 というか、この装置がまあすごい。

 

 背中を預けることでドッキングされ、網膜上のHUDから操作ができる。

 つまり手を動かさなくてもアセンできるという事。

 まあ、アセンする部品を指定のレールにセットするのは手作業だけどね? 

 でもセットしてしまえばあとはらくちんなのだ!! 

 

 後はプリセットとか実装してくれたら、100点満点です! 

 

『ほんと、エイブ様様だね』

 

《私はてっきり断られると思っていました》

 

『そういわれれば、確かに乗り気じゃなかったもんね』

 

 思い返せば不思議である。

 チャットの履歴を見れば分かるが、終始「できない」「やらない」と言っていたのに、【私自身、どうありたいか】の回答をした瞬間、まさかのOKである。

 謎だ。

 

『まあ、エイブなりに思う所があったんじゃない? 科学者であり研究者だし?』

 

《純粋に放っておけないと感じただけでは?》

 

『……私って毎回、その手の解釈にされがちじゃない?』

 

《事実ですし》

 

『えぇ……』

 

 

 ──数分後──

 

 

「完璧じゃない?」

 

 鏡に映る自分の姿を見て、思わず声が出る。

 顔以外のほとんどがむき出しの機械の身体。

 しかし、人間的なフォルムを保っているのは、腰から上だけ。

 腰から下は、完全に人の形から外れた逆関節。

 

 人間らしい上半身と、異形の下半身。

 このアンバランス感がまたいい。

 

 いや、割と真面目に逆関節の足裏を猛禽類のような形状にしたテトラのデザイナーさんは、さすがだと思う。

 うんうん、鳥っぽさ出てていい感じ。

 

 ただ──

 見慣れた初期ボディに逆関節を取って付けた感がまだある。

 

 悪くはない。

 悪くはないんだけど……なんというか、惜しい。

 

 腰から上と下で、デザイナーが違う感じ。

 いや、実際に違うんだけどさ。

 ここは、他企業からコアや腕部が出揃ってからだね。

 

 さて、付けることは付けたし、早速テストだ! 

 しかし、いそいそと使用する武装を選択しようとする私にエアが待ったをかける。

 

《テストをするのはいいですが、今日の予定をすっぽかさないでくださいね》

 

『ん? 予定……あぁー……』

 

《……》

 

『いやいやいや。忘れてないよ? 勿論』

 

《……》

 

『……ちょっとだけ忘れてたかも』

 

《はぁ……》

 

 そう。

 本日はなんと、新たな仲間が増える日なのである。

 名前は……

 

《ラプンツェル……ですね》

 

 そうソレ! 

 

 詳細はよく知らないけど、どうやら後方支援を主軸とした子らしい。

 現状のゴッデスメンバーを鑑みると妥当だと思う。

 

 近接のリリス。

 中距離のドロシー。

 遊撃の私。

 

 ここに足りないのは、後方支援。

 いわば、遠距離のバックアップ。

 

 元々、私がメンバー入りすることは無かったわけだから、実質、近/中/遠の3人が揃ったことになる。

 

 しかし──

『これで全員そろった訳じゃないらしいんだよね……』

 

 そう、ラプンツェルの他にも、まだメンバーが増えるらしい。

 つまりそれは、待機命令が解かれないということ。

 所謂、【大人の事情】らしい。

 

 あぁ、全くもってじれったい。

 

 しかし、私は軍所属のニケ。

 皆にも迷惑かけれないし、ここは我慢するしかない。

 

 しかし、そうか……新しい仲間を迎えるのか。

 

 なら……

 

 普通の兵装じゃなくて、この逆関節でお出迎えした方がいいのでは!? 

 

《ふむ……。インパクトとしての第一印象と考えるなら、いいのではないでしょうか》

 

『でしょ!?』

 

 さすがエア。

 初対面なら、相手へ自分の特徴を覚えてもらうことが大切だし、なによりカッコいい!! 

 

 ほかに変える場所もないし、ひとまずはこれでいいかな? 

 んじゃ、新人の子がくるまで、格納庫先の甲板でテストでもしますか~

 

 

 

 

 

 

 

 と思っていた時期が私にもありました。

 

「だめだ」

 

「なんでよ!!」

 

 甲板まであと少しという所で、指揮官とばったり会ったまでは良かった。

 私の姿を見て、驚きと困惑の入り混じった表情を浮かべる指揮官。

 ここまでは、まだいい。

 

 初手のアセンブルで、他の中量二脚ではなく大幅に操作感が変わる逆関節を選んだのだから、驚くのは当然だろう。

 しかし、私が「このアセンでお出迎えしようと思うけど、かっこよくない??」って聞いたが最後……

 

 まさかまさかの拒絶である。

 

「そもそもだな。お前は、その性格と性質だけでも新人へ少なからず影響を与えるんだぞ。

 それなのに、そんな格好で出迎えたらどうなるか……分かるだろう?」

 

「そりゃもちろん。カッコよくて惹かれる。第一印象は良好間違いなし!」

 

「はぁ……字が違う。引かれるんだ。なんなら、ドン引きだ」

 

「は?」

 

 カチン

 

 ほう? 

 

 ほうほうほうほう? 

 ドン引きとな? 

 

 このカッコいいアセンがドン引きとな? 

 

「なに? つまり指揮官はこのアセンブルがカッコよくなくて、ドン引きされる……と?」

 

「え? ……い、いや。そういう意味で言ったわけじゃ──」

 

「それどころか、見た相手がドン引きするほど酷いと?」

 

「待て。話を聞け」

 

「私の感性は間違えていると? こんなカッコいい逆関節を否定すると?」

 

 自分で言いながら、目つきが鋭くなっていくのがわかる。

 かみ砕きながら口に出す度に、怒りのボルテージは上がっていく。

 

 前回、指揮官とは趣味が合うとか思ったけど、前言撤回。

 人のアセンにとやかく言うのはご法度である。

 つまり! 

 ギルティ!! 

 

「違う! 逆関節が悪いんじゃない!」

 

「じゃあ私が悪いってこと?」

 

「そうでもない!」

 

「“でも”?」

 

「言葉の綾だ!」

 

「つまり、私と逆関節の組み合わせが悪いと?」

 

「頼むから話を聞いてくれ!」

 

 な~にが話を聞いてくれだ。

 人のアセンを散々否定しておいて? 

 話を聞けって、どの口が言うんだろうね? 

 

「……」

 

「お前の今の姿に対して私は特に引いてるわけじゃない! ……いや、多少はあるが……」

 

「あるんじゃん!!」

 

「と、とにかくだ! 第一印象と言うのは、相手がどう思うかだろ? そこにレイヴン、お前の感情は関係ないんだ」

 

「??? ……勿論、カッコいいアセンですね、で終わるんじゃない?」

 

 先ほどと同じ回答を再度指揮官にぶつける。

 すると指揮官は、眉間に手を当てながら「う──ん」と唸りだした。

 

 何をそんなに悩む必要があるの? 

 答えは、もう出てるのに……

 

「とにかく、だめだ」

 

「その駄目を却下」

 

「指揮官権限で駄目だ!」

 

「正当な理由がないからヤダ!」

 

「理由はある! お前のアセンブルは、相手に与える印象が強すぎる!」

 

「強すぎるって、カッコいいってことじゃん!」

 

 一瞬、互いに言葉を失う。

 私と指揮官は睨み合い、同時に息を吸い込んだ。

 

「「何でわかんないかな!?」」

 

 声まで綺麗に重なった。

 にもかかわらず、どちらも一歩たりとも譲らない。

 

 あぁ!! もうっ!!! 

 こんなんじゃ、テストする暇が無くなるじゃん! 

 このヘタレ指揮官め!! 

 いや、頑固、堅物とか言った方が正しいかも。

 

「もう……何の騒ぎ?」

 

「新人が来ることで胸が躍るのは結構ですが、それではまるで動物園の猿ですね。

 ゴッデスの一員として、もう少々自覚を持ってください」

 

 指揮官と私が睨み合い既に意味を為さない言い争いをしていると、そこへリリスとドロシーがやってきた。

 二人とも、騒ぎを聞きつけて様子を見に来たらしい。

 

 ──ちょうどいい! 

 

「二人とも、聞いてよ!」

 

 指揮官から視線を外し、そのまま二人へ駆け寄る。

 まさかの援軍である。

 

 これで勝った! 

 

「指揮官が、このアセンで新人を迎えるのは駄目だって言うんだよ!」

 

 私がそう言うと、リリスとドロシーが改めて私の足を見る。

 元より遠巻きから見物していたのだろうか、2人とも指揮官ほどの驚きはないようだった。

 

「あぁ……そういうこと」

 

「なるほど。騒ぎの原因は、やはり、その脚ですか」

 

 納得したように頷くリリスと、頭を押さえるドロシー。

 

 その間にも、私は事の経緯を余すことなく説明した。

 今日から加わる新人へ、少しでも良い第一印象を与えたいこと。

 そのためには、自分の特徴を一目で覚えてもらう必要があること。

 

 そして、この逆関節はカッコいいこと。

 

「それで、指揮官は『相手が引く』なんて言うんだよ? 失礼だと思わない?」

 

「いや、私はアセン自体を否定しているわけでは──」

 

「今は指揮官に聞いてない」

 

「お前な……」

 

 指揮官の言葉を手で制し、改めて二人へ向き直る。

 

 リリスなら分かるはず。

 近接戦闘を主体とする彼女なら、この脚部が持つ瞬発力と跳躍性能を見逃すはずがない。

 

 ドロシーだってそう。

 装飾や服装に気を遣っている彼女なら、この人間らしさと異形さが共存した美しさを理解してくれるだろう。

 

 つまり、二対一。

 いや、私を含めれば三対一。

 エアも入れれば四対一だけど、エアの存在は3人には知られていないので、今は数えないことにする。

 

 どちらにせよ、勝った。

 

「それで、2人もこの姿のまま迎えてもいいと思うでしょ?」

 

 二人へ同意を求める。

 リリスとドロシーは顔を見合わせた。

 

 僅かな沈黙。

 その後、二人は同時に私へ向き直り──

 

「駄目」

「却下です」

 

 

 

 

「ふぇ?」

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「……」

 

 ゴッデス部隊駐屯地、勝利の翼号。

 甲板にて。

 

 

「……レイヴン。顔」

 

「……なにが?」

 

「その顔で新人を迎える気?」

 

 リリスへ顔を向けることもなく、私は地平線を見つめ続ける。

 

 別に? 

 いつも通りの顔ですけど? 

 

 私の考えを全否定された挙句。

 元の足に強制交換された上に。

 何故か私が悪いみたいな雰囲気にされていることに不平不満なんざございませんが? 

 

 エアに至ってはあれからずーっと無言だし。

 どーせ、高みの見物決め込んでるんでしょ? 

 私には分かるんだよ、この薄情者め。

 

《別に高みの見物をしているわけではないですよ?》

 

『事実、そうじゃん』

 

《私がいたところで、状況は変わらないかと》

 

『私の精神的支えとして、状況が変わる可能性があった』

 

《では、今からでも遅くはないのではないでしょうか?》

 

 遅いよ!! 

 ばーか!! 

 

「……今度は何を怒ってるの?」

 

「別に」

 

「そう」

 

 リリスはそれ以上追及せず、私と同じように甲板の先へ視線を戻した。

 その反応も何だか腹が立つ。

 

 あぁ、もう。

 全部あの逆関節で迎えることを許可してくれれば、丸く収まっていた話なのに。

 

 見慣れた二本の脚へ視線を落とす。

 

「はぁ……」

 

 本当だったら、コレが最新の逆関節だったんだよ。

 初期二脚に不満はない。

 でも、今じゃない……! 

 

 私が履きたかったのは、こっちじゃない。

 格納庫では今頃、せっかく届いた逆関節が台座の上で一人寂しく──

 

「来たようですね」

 

 ドロシーの声に顔を上げる。

 

 甲板の彼方。

 薄い雲を割るように、一機の輸送機がこちらへ近づいてきていた。

 機体の両脇に備わったローターが唸りを上げ、甲板上へ激しい風を叩きつける。

 

「…………」

 

「レイヴン」

 

「今度は何?」

 

「もうそろそろ機嫌を直してくれ」

 

「誰のせいでしょうかね?」

 

 今度は指揮官からも同じ様な事を言われる。

 

 貴方方が私の逆関節を拒否しなければ、勿論私は超ご機嫌でしたとも。

 指揮官がおもむろに頭を抱えるが、頭を抱えたいのはこっちの方だ。

 

 そんなやり取りをしているうちに、輸送機が甲板へ降り立った。

 耳を塞ぎたくなるような駆動音が徐々に弱まり、後部ハッチがゆっくりと開いていく。

 

 最初に見えたのは、白。

 次に、陽光を反射する長い金髪。

 白と黒を基調とした衣装。

 

 ……なんなんだ、アレ。

 

 ドロシーの時にも思った、戦闘向きではない衣装と装備。

 確かに神秘的には見える。

 ただ、あの姿を戦場で見かけることを想像すると、どうしても違和感が拭えない。

 

 遠目でも分かるほど穏やかな顔立ち。

 後方支援型と聞いていたから、もっと武骨な装備を想像していたけど……。

 

 ナニを模してるんだろう。

 というか、何食ったら、あんな格好で戦場に出そうとか思うんだろうか……。

 

《恐らく、教会の聖職者を模しているのではないでしょうか?》

 

『教会……とな?』

 

 知識としては……一応知ってはいる。

 実際に見るのは初めて。

 

『……あれが?』

 

《正確には、聖職者を意識した衣装ですね》

 

『なる……ほど?』

 

 知った上で改めて言うけど……なんでそこのチョイスなの? 

 

《……。

 今しがた確認しましたが、どうやら彼女はV.T.Cの出身の様です。

 V.T.C.そのものが宗教団体の様で、教会の聖職者を模した衣装を着用するのはその影響かと》

 

 ……???? 

 宗教団体で……技術者集団……? 

 ルビコン技研に宗教が合わさった……? 

 

 かみ砕くように分解していくが、謎が謎を呼び、結局のところ、私の頭の中は混乱状態。

 

 そんな私の思考をよそに、ラプンツェルは輸送機から降りると、私たちの前まで歩み寄り、両手を身体の前で重ねた。

 

「初めまして。本日付でゴッデス部隊へ配属となりました、ラプンツェルと申します」

 

 柔らかな声とともに、深く頭を下げる。

 

「遠路ご苦労だった。私がこの部隊の指揮を執る指揮官だ。話は事前に聞いている。今日からよろしく頼む」

 

「はい。精いっぱい務めさせていただきます」

 

 指揮官が挨拶し、それに続くようにリリスとドロシーも挨拶をする。

 もうそろそろで私の番な訳だが、思考が既に別の方へ飛んでいてそれどころじゃない。

 

 え? 

 なに? 

 変態技術者集団に宗教要素が混ざった? 

 

 何それ怖い。

 

 と言うか待ってほしい。

 私、そんなヤバい連中に体を好き放題触らせてたの? 

 

 い、いや。

 エイブはそんな感じはなかったから、きっと大丈夫……だよね? 

 

「……ヴン」

 

 あ、でも言われてみれば、あの変態(ムラクモ)の感じを見ると片鱗はあったのかも……。

 というか、あんな自称無神論者が宗教団体に居るのって、どうなの? 

 

 そもそも、アレは無神論者と言っていいの? 

 技術そのものを神として崇めてるの? 

 

 なんだよそのバチクソにヤバい団体。

 

 となると、このラプンツェルも……

 

「レイヴン!」

 

「──っ!?」

 

 突然、指揮官から名前を呼ばれ、意識が一気に現実へ引き戻された。

 気がつけば、全員がこちらを見ていた。

 

 指揮官。

 リリス。

 ドロシー。

 

 そして、僅かに首を傾げながら、困ったような笑みを浮かべるラプンツェル。

 

「次はお前の番だ」

 

「……私?」

 

「自己紹介だ。さっきから何をぼんやりしている」

 

「あぁ……」

 

 そうだった。

 今はV.T.C.の組織構造について考えている場合ではない。

 まずは、目の前にいる新人へ挨拶しないと──

 

 いやいやいや。

 考えてる場合だよ! 

 

 改めてラプンツェルを見る。

 聖職者を模した衣装。

 

 V.T.C.所属。

 宗教団体。

 変態技術者集団。

 

「変態じゃ……ないよね?」

 

「…………え?」

 

 ラプンツェルの笑みが固まった。

 同時に、甲板から音が消える。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 あ。

 間違えた。

 

 あ゛あ゛ぁ!! 

 変な事言っちゃった!! 

 

 なんで毎回! 

 第一印象でやらかすんだよ! 私!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最悪だ……。

 本当にさいあくだ……。

 

 最厄日だ……。

 

 

 私は現在、ラプンツェルの案内をみんなと一緒にしております。

 私は最後尾デス。

 

 今はみんなの視界に入らないように、後ろの方で小さくなっております。

 指揮官が時折ちらちらと私の方を見ているのが分かる。

 

 見ないでくれ。

 ……穴が在ったら、そこに入りたい。

 

《レイヴン》

 

『何も言わないで』

 

《さすがの私も、今のレイヴンを茶化そうなんて考えは起こしませんよ》

 

『起こしてたら、縁切る』

 

《……》

 

『なんか言ってよ』

 

《……可哀そうでかわいいです》

 

『うっさい』

 

 あぁ、エアのドS部分が出てきた。

 

 結局あの後、私はラプンツェルへ謝罪し、改めて自己紹介を済ませた。

 

 謝罪を受けたラプンツェルは、私の失言を気にした様子もなく、むしろ笑顔で「大丈夫です」と言ってくれた。

 あれは確かに、教会の聖職者だった。

 

 リリスは、笑いを堪えるので精いっぱいだったらしい。

 ドロシーは……ドン引きしていた。

 指揮官に至っては、とうとう限界を迎えたのか、頭を抱えていた。

 

 なんか、ごめん。

 

 でもV.T.C.のヤバさを脳で理解して、警戒心に行かなかった私を褒めてほしい。

 

《その結果がこれですか》

 

 

 ……ノーコメントで。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜。

 消灯時刻を過ぎた勝利の翼号は、昼間とは別の場所のように静まり返っていた。

 廊下を照らすのは、一定間隔で並ぶ足元の誘導灯だけ。

 

 格納庫へ向かう私の足音が、無機質な壁へ反響しては消えていく。

 向かう場所は……格納庫。そして、その先の甲板。

 

 え? 

 なに? 

 走破性の高い逆関節を履いて、甲板で思いっきり動き回るために行くのかって? 

 

 何を言っておられるのやら……

 今、夜よ? 

 こんな時間に、甲板で思いっきり動き回るなんて、そんなことをするわけないじゃないですか~

 

《以前それをして、リリスからアイアンクローを受けたことがありましたね》

 

 うん。

 だから、しない。

 あの時のリリスは完全に怒ってた。

 

 怖かった……です。

 

 実は最近お気に入りの場所が出来たのだ。

 甲板の端っこ。

 丁度座れるぐらいの段差があって、そこに座ると、甲板の先に広がる夜空を眺めることが出来る。

 

 ここね~結構好き。

 

 昼間とかは整備員や輸送機が行き交っていて、落ち着いて座っていられるような場所じゃないけどね。

 でも、消灯時刻を過ぎれば別。

 

 聞こえるのは、勝利の翼号が空気を切り裂く低い駆動音と、甲板を撫でる風の音くらい。

 誰も来ない。

 誰にも話しかけられない。

 

 ……今日みたいな最厄日を忘れるには、ちょうどいい。

 

《私はいますが》

 

『エアは別』

 

《それは光栄です》

 

 そうして歩いていると、思い返す……いや、思い返したくないかな……。

 今日という一日は、最悪だった。

 

 朝は良かった。

 問題はそのあと。

 

 待ち望んでいた逆関節が届いた。

 換装も問題なく終わった。

 それなのに、新人を迎えるには刺激が強いという理由で元へ戻された挙句、その新人へ最悪の第一声をぶつける始末。

 

 今思い出しても、顔が熱くなる。

 

『あぁぁ……』

 

《また思い出したのですか?》

 

『思い出させないで』

 

《私は何も言っていませんよ》

 

 ふぅ……。

 とにかく、昼間のことは忘れよう。

 ラプンツェルも気にしていないと言ってくれたし、私も謝った。

 

 終了。解散。

 

 ……なんだけど、精神的なダメージは、まだ癒えていないので、お気に入りの場所に向かう。

 そう! 

 これはドロシーがてぃーたいむ? をする際に言ってた精神安定というやつなのだ! 

 

《言い方はともかく、概ね合っているかと》

 

『でしょ?』

 

 私だって、精神状態を自分で整えるくらいはできるのだ。

 そう考えながら廊下の角を曲がり──

 

「……ん?」

 

 僅かに開いた扉から、柔らかな光が漏れていることに気づいた。

 

 昼間、ラプンツェルへ艦内を案内した際、私も初めて存在を知った部屋。

 

 戦没者慰霊室。

 

 元々は使用されていなかった空き区画らしい。

 ラプンツェルの配属に合わせ、V.T.C.から礼拝に使える場所を用意してほしいと要請があり、作ったそうな。

 

 私自身、この空母のすべての部屋は把握してないし、行く場所も結構限定的。

 そういえば、ドロシーがティータイムなんかをする場所も、当時の私が知らない場所だった。

 

 恐る恐る近づき、扉の隙間から中を覗く。

 

 正面には、簡素な祭壇。

 その奥の壁には、すべての戦没者を悼む、一つの慰霊碑。

 その下には、データとなった戦死者、ニケ達の名前が表示されている。

 

 名前のない認識票もあった。

 まだ部屋が完成したばかりだからか、余計な装飾はほとんどない。

 ただ、祭壇に置かれた小さな灯火だけが、薄暗い室内を静かに照らしていた。

 

 その前に、誰かが跪いている。

 長い金色の髪。

 白と黒を基調とした、聖職者を模した衣装。

 

 ラプンツェルだった。

 

 後ろ姿しか見えないけど、おそらく祈っている? のだろう。

 知識として知っているだけだった、教会の聖職者が行う祈り。

 

《気になるのですか?》

 

『ならないって言ったらウソになるかな……』

 

 この世界に来て新鮮な体験をすることが多い。

 

 同じ戦場、同じ戦闘、同じ匂い、同じ音。

 でも、同じじゃない。

 

 矛盾してるようだけど、同じなようでも、同じじゃない。

 特に、このゴッデス部隊に来てからは、多い。

 

 ドロシーのティータイム然り。

 指揮官という存在も然り。

 リリスの存在も然り。

 そして、今見てるラプンツェルの祈りも然り。

 

 死体もない、ただのプレートがあるだけ。

 遺品もない、ただのデータがあるだけ。

 

 そこに、祈る意味があるのか。

 祈ったところで、何が変わるのか。

 神なんて、そもそも存在するのか。

 

『エアはどう思う? 神様っていると思う?』

 

《ふむ……考えたこともなかった……という答えは回答になりますか?》

 

『大丈夫。私も同じこと思ってたから』

 

 ……甲板へ行こう。

 別に、私には関係ないし、私には場違いの場所だし。

 

 踵を返し、歩き出すが何故か足が止まった。

 もう一度、室内へ視線を戻す。

 

 ラプンツェルは私に気づいていない……っぽい。

 声を掛けたい気持ちもあるけど、祈りを邪魔するのは、たぶん失礼にあたる……はず。

 

 なら、そのまま立ち去ればいい。

 なのに──

 

「……何を祈ってるの?」

 

 気づけば、口に出していた。

 驚いた様子でこちらを振り返ったが、私の姿を認めると、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

 

「レイヴン」

 

「邪魔した?」

 

「いいえ。ちょうど、祈りを終えたところです」

 

「そう」

 

 ならよかった。

 

 私は扉を開き、慰霊室へ入る。

 ラプンツェルの隣までは行かず、少し離れた場所で立ち止まった。

 

 改めて周囲を見渡す。

 最奥にある巨大なプレート。

 その下にあるホログラムで表示されたデータ。

 

 勿論、刻まれた名前の大半は知らない。

 

 所属。

 識別番号。

 戦死した日付。

 

 名前が判明している者は、その名が表示されている。

 名前すら分からなかった者は、無記名の認識票として記録されていた。

 

 本当に、ただのプレートとデータがあるだけ。

 

「この人たちに祈ってたの?」

 

「はい」

 

「知り合い?」

 

「いいえ。今日初めて、お名前を拝見した方々です」

 

「……名前も知らなかったのに?」

 

「はい」

 

 迷いのない返事。

 やれと命令されたわけでもない。

 自分の意志で、知らない人たちのために祈る。

 

 分からない。

 

「知らない人に祈って、何か意味があるの?」

 

 あえて、相手を怒らせかねない質問をぶつけてみる。

 ずっと引っ掛かっていた疑問を、そのまま口にしてみた。

 

 その質問にラプンツェルは怒らなかった。

 困った顔もしない。

 

 祭壇へ向き直ると、そこに置かれた名もなき認識票へ視線を落とした。

 

「分かりません」

 

「分からないの?」

 

「私の祈りが、亡くなられた方々へ届いているのか。私には確かめる術がありませんから」

 

 これは意外。

 てっきり、祈りには意味があると言い切るものだと思っていた。

 先ほどの質問にも怒らないし聖職者なのだから、そう信じているものだと思ってた。

 

 この質問で怒らないのなら、せっかくだしもっと踏み込んだ質問をしてみよう。

 

「じゃあ、何のために祈るの?」

 

「忘れないためです」

 

「……忘れないため?」

 

「はい」

 

 ラプンツェルが立ち上がる。

 長い衣装の裾を整え、慰霊碑の下へ並ぶ名前を指先でなぞっていく。

 

「この方々が、確かに生きていたこと」

 

 次の名前へ視線を移す。

 

「誰かを守ろうとしたこと」

 

 また次へ。

 

「恐怖の中でも戦い、そして、ここへ帰ることができなかったこと」

 

 最後に、名前のない認識票へ目を向けた。

 

「何も残せなかった方々も含めて、忘れないために祈るのです」

 

「忘れなかったら、何か変わる?」

 

「亡くなられた事実は変わりません」

 

「なら──」

 

「ですが、その方が生きていたことまで、無かったことにはなりません」

 

「……」

 

 なかったことにならない……ねぇ。

 忘れる忘れないという事で言うなら、それこそ目の前にあるデータに記せばいい。

 

 データは永久的に残る。

 誰かが、介入しなければ、消えることはない。

 

 そう、誰かが【介入しなければ】消えることはない。

 

 歴史とは……勝者が作るもの。

 負けた者の歴史は、勝者の都合で消され、改ざんされる。

 こと戦争においては、それが顕著に現れる。

 

 そう考えれば、ラプンツェルの言う「忘れない」という行為は、単なる記録ではなく、戦争で死んだ者たちの存在を証明する行為なのかもしれない。

 

 祈ったところで、生き返るわけではない。

 祈ったところで、声が聞こえるわけもない。

 

 語り掛けてこない、触れも出来ない。

 会話もできない。

 

 死んだ者を死んだと認識したことで、初めてできるのが祈りなのかもしれない。

 ただ、それが出来ない人もいる。

 

「レイヴンにも、祈りたい方がいらっしゃるのですか?」

 

「いない」

 

 即座に答える。

 

 顔に出てしまってたのかな……。

 こういうときばかりは、強化人間だった頃のように、感情が表へ出なければよかったのにと思う。

 

 ラプンツェルは何も言わなかった。

 否定もしないし、嘘だと指摘することもしない。

 

 ただ、静かに私を見つめている。

 その視線が、少し居心地悪い。

 

「仮にいたとしても、祈る資格なんてない」

 

「何故ですか?」

 

「……」

 

 あー、だめだ。

 今日は、何故か口が軽い。

 この世界じゃない話は、あまり口にしないようにしているのに。

 混乱を避けるために、あまり自分のことを話さないようにしているのに。

 

 既に私の手は血塗られてる。

 金だけで動く独立傭兵が、どの面下げて祈る資格があるのか。

 

 どの面下げて、友人を殺し飼い主を殺した駄犬のくせに、祈る資格があるのか。

 図々しく、自分だけ生きていけるのか。

 

《レイヴン……》

 

 口に出した後で、後悔した。

 精神安定のために部屋を出たはずなのに、余計に精神が不安定になった。

 

 しかし、ラプンツェルの表情は変わらなかった。

 

「祈りは、許しを得るためだけのものではありません」

 

「……」

 

「祈ることを、亡くなられた方が望んでいるかどうか。それも私たちには分かりません」

 

「じゃあ、勝手に祈るの?」

 

「そうですね」

 

「……」

 

 聖職者らしくない。

 

 いや。

 聖職者というものを知らない私が、勝手にそれらしさを決めていただけなのかな。

 

 死人に口なしとは……よく言ったものだよ。

 

「祈る者が、自分のために行うものでもあるのです」

 

「自分のため?」

 

「忘れないと誓うために。失った悲しみから目を背けないために。そして、その方々の生きた証を抱えながら、それでも前へ進むために」

 

「……それって、死者のためじゃないじゃん」

 

「はい。残された者のための祈りでもあります」

 

 あっさりと認めた。

 それが何だか可笑しくて、僅かに息が漏れる。

 

「随分と自分勝手なんだね」

 

「ええ。祈りとは、案外そのようなものなのかもしれません」

 

 聖職者がそれを言っていいの? 

 そう思ったが、口にはしなかった。

 

 代わりに、もう一度壁の名前を見る。

 知らない名前。

 知っている名前は、一つもない。

 それでも、ここに刻まれた者たちが戦い、死んだという事実は残っている。

 

「レイヴンも、祈っていかれますか?」

 

「私はいい」

 

「そうですか」

 

 ラプンツェルは引き留めなかった。

 祈り方を教えようともしない。

 ただ、私の選択をそのまま受け入れる。

 

「それでは、おやすみなさい。レイヴン」

 

「……おやすみ」

 

 ラプンツェルが私の横を通り過ぎ、慰霊室を出ていく。

 扉が静かに閉じた。

 

 後に残ったのは、私とエアだけ。

 

《行かないのですか?》

 

『行くよ』

 

 今度こそ格納庫へ向かうため、慰霊室を出て、廊下を歩く。

 

 忘れないため。

 生きていたことを、無かったことにしないため。

 残された者が、前へ進むため。

 

 ラプンツェルの言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

 

 格納庫を抜け、甲板へ出る。

 夜風に吹かれながら、お気に入りの場所へ向かう。

 

 段差に腰を下ろし、夜空を見上げる。

 雲の上を飛ぶためか、混じりっ気のない満天の星空が広がっていた。

 

「……まだ、忘れてないよ」

 

 誰へ向けたのかも分からない言葉が、静かな夜空へ落ちる。

 返事はない。

 もう、返してくれる人はいない。

 でも──

 

『これでいい』

 

《そうですね》

 

 全て焼いても孤独。

 救っても孤独。

 だったら、全部同じにしちゃえばいい。

 

 その結果が、今の私なんだから。

 

 

 

 

【おまけ:禁忌】

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 V.T.C.技術開発区画。

 

「ブラボーッ! ブラボォォォォ!!」

 

 研究室の中央で、ムラクモは狂ったように手を打ち鳴らしていた。

 

 目の前には、軍の管理番号が刻まれた輸送ケース。

 近接戦闘部隊の開発資料という名目で、V.T.C.を通して無理やり軍から借り受けた代物である。

 

 その中に収められているのは、一挺のショットガン。

 軍が用意した規格品──だったもの。

 

「あぁ、素晴らしい! 加工痕も、部品を交換した形跡もない! それなのに構造そのものが、全く別の兵器へ変貌している!」

 

 ムラクモはケースの周囲を落ち着きなく歩き回り、様々な角度からショットガンを覗き込む。

 

「映像の誤認ではなかった! 正真正銘、この兵器はレイヴン大尉殿の手の中で生まれ変わったのです!!」

 

 レイヴンが握った直後、赤い光へ包まれ、瞬く間に形を変えた武器。

 単なる変形ではない。

 使用者の身体。

 戦闘経験。

 あるいは、その記憶までも読み取り、自らを最適な形へ作り替えたのだとすれば──

 

「奇跡! まさしく神の御業! もっとも、神など存在しませんがねぇ!!」

 

 今すぐ計測を始めなければ。

 材質。

 内部構造。

 微細粒子の反応。

 可能であれば、ほんの僅かでも分解を──

 

 コン、コン。

 

「…………」

 

 扉を叩く音に、ムラクモの動きが止まった。

 

 人生で二度と訪れないかもしれない、最高の瞬間。

 その始まりを邪魔された。

 

「一体、誰ですか……!」

 

 不機嫌さを隠そうともせず扉を開く。

 しかし、そこに立っていたのが見慣れた女性研究員だと分かると、僅かに表情を改めた。

 

「これはこれは。なぜ君のような優秀な研究員が、私の研究室へ何の用でしょう?」

 

「あら、ずいぶんとご機嫌ですね」

 

 女性はムラクモの背後へ視線を向け、柔らかく微笑んだ。

 

「お忙しいところ申し訳ありません。以前お話しされていた、近接戦闘部隊の進捗を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「今、最高に忙しいのですが……まあ、君ならよいでしょう。どうぞ」

 

 女性を中へ通す。

 彼女は輸送ケースへ一瞬だけ目を向けたが、すぐにムラクモへ向き直った。

 

「開発は、順調でしょうか?」

 

「つい先ほどまでは、難航していました」

 

「先ほどまでは?」

 

「身体能力、反応速度、間合い、武器の重心。そして、敵の目前へ踏み込む精神性。必要な点は揃っていた。しかし、それらを繋ぐものがなかったのです」

 

 ムラクモの口元が、徐々に持ち上がる。

 

「ですが、今からは問題ありません」

 

「まあ! それはよかったです」

 

 女性研究員は、我がことのように嬉しそうに微笑む。

 

「何か、新しいきっかけでもあったのでしょうか?」

 

「きっかけ?」

 

 ムラクモは両腕を大きく広げ、輸送ケースを示した。

 

「いいえ! これは天命! 神より私へ授けられた、新たなる福音です!」

 

「神、ですか?」

 

「神など存在しませんがね!」

 

「まあ……」

 

「しかし、神の如き存在ならば実在する!」

 

 ケースへ駆け寄り、中のショットガンを指し示す。

 

「レイヴン大尉殿! この兵器を生まれ変わらせた、奇跡の個体です!」

 

 そこから先は、止まらなかった。

 レイヴンの規格外の機動。

 通常のニケとは異なる戦闘方法。

 そして、彼女が握った瞬間に形を変えたショットガン。

 

「兵器が使用者へ合わせ、自らを最適な形へ変えた! ニケを武器へ適応させる必要などなかったのです! 武器の側を、ニケへ合わせればいい!」

 

「使用者の情報を、兵器が読み取ったということでしょうか?」

 

「その通り! 身体情報だけではない! 戦闘経験、思考、記憶! それらすべてを兵装へ反映できれば、近接戦闘部隊は──」

 

 そこで、ムラクモの言葉が止まった。

 

「……おっと」

 

「どうかなさいましたか?」

 

 女性研究員は、変わらぬ笑みを浮かべている。

 

「少々、喋りすぎましたね……。どうやら君の聞き上手に、まんまと乗せられてしまったようです」

 

「あら。私は進捗を伺っただけですよ?」

 

「えぇ、そうでしたね」

 

 ムラクモは名残惜しそうにショットガンを眺め、輸送ケースの蓋を閉じた。

 

「近接戦闘部隊の開発は順調です。少なくとも、今後はそうなるでしょう。報告としては、それで十分では?」

 

「分かりました。そのように報告いたしますね」

 

 女性研究員は素直に引き下がり、一礼して扉へ向かう。

 だが、その背中へムラクモが声を掛けた。

 

「──あぁ、そういえば」

 

「何でしょう?」

 

「あなたもあなたで、なかなか隅に置けませんね……」

 

 女性研究員が、小さく首を傾げる。

 

「適性があるらしいではありませんか」

 

「……もうご存じだったのですね」

 

「全く……エイブといい、あなたといい……」

 

 ムラクモは心底嘆かわしいとでも言うように肩を落とした。

 

「自らの身体を機械へ変え、自身の手で研究成果を確かめられる可能性を持っている! それなのに、最もそれを望む私は、生まれながらに資格すら与えられていない!」

 

 天を仰ぎ、胸元へ手を当てる。

 

「何たる屈辱でしょうか……!」

 

「ふふ。まだ、適性があるというだけですよ?」

 

「それだけで十分に羨ましいのです!」

 

 吐き捨てるように答えたムラクモの視線が、女性の足元で止まった。

 白衣の裾から覗く、赤い靴。

 

「……そういえば、ご存じですか?」

 

「何をでしょう?」

 

「赤い靴を履いた娘が、己の意思では止まれなくなり、昼も夜も踊り続けるという童話を」

 

「ええ。最後には、足を失ってしまう少し怖いお話ですね」

 

「ですが、ニケなら話は別です!」

 

 ムラクモは愉快そうに両手を打ち鳴らした。

 

「脚を失っても、新しいものへ交換すればいい! 疲労もなく、壊れれば取り替え、また踊り始められる! 君ならば童話の娘よりも長く、それこそ永遠に踊り続けられるでしょう!」

 

「まあ。それは大変ですね」

 

「もちろん皮肉ですよ?」

 

「ふふ。分かっています」

 

 女性研究員は足元へ視線を落とす。

 赤い靴の爪先を、確かめるように僅かに持ち上げた。

 

「赤い靴……」

 

 その言葉を口の中で転がし、やがて小さく微笑む。

 

「レッドシューズ……ですか」

 

「何か?」

 

「いいえ。ただ──」

 

 女性研究員は閉ざされた輸送ケースへ、もう一度だけ目を向けた。

 

「可愛らしい名前だと思いまして」

 

 

 




みんな大好きレッシュー様ですぞー

ほら!
そこの人!
「うわぁ・・・」って言わない!

この作品でのレッシューさんは、もしかしたらいい人かもしんないじゃん!

・・・・ごめん。
ないわ。

てか、フロム式で強化されたレッシューさん何しでかすか、書いてる私ですら想像つかないんですよ・・・

レイヴンさん・・・その女サクッとやりません?

原作改変の度合いについて

  • 過度な介入は避けて通るべし
  • レイヴンの行動によるものであればよし
  • 私はハッピーエンドを好む
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