何もかもが良かった・・・
そしてママが増えた・・・
まだ見てない方は見てね・・・
とまあ!
そんなことはさて置き!
今回はこの小説初で2部構成デス!
何でかって!?
一話にまとめようとしたら4万字超えそうだったからです!!ww
連投する予定ですので、皆さまお楽しみを~
そして今回はフェリーたち高機動部隊のお話でございます!
第08観測基地。
部隊長室:フェリーの部屋にて。
「フェリー? 午後の訓練なんだけどさ……」
「はいはい。シミュレーションルームなら、順番通りですよ~」
「そこを何とか! あと一回で記録抜けそうなの!」
「……昨日も聞きましたよ、それ」
端末から顔を上げると、机の向こうで両手が合わされた。
その後ろには、同じような顔をした子が二人。
……増えてる。
「お願い! 次こそいけるから!」
「だったら次の予約で頑張ってくださいね~」
「隊長ぉ……」
「そういう時だけ隊長って呼ばないでください」
まったく、この子たちは……。
大尉がゴッデスへ行ってから、早2か月。
中間管理職が板についてきた気がします。
全く、嬉しくないですけど……。
まあ、訓練熱心なのは、大変結構。
自分たちで記録を見返して、改善点を探して、次はこうしようと相談する。
大尉がここにいた頃から続いている、うちの部隊では見慣れた光景だった。
ただ、それを全員がやるとどうなるかというと……
訓練施設が足りない。
整備の順番が詰まる。
休息時間を削ろうとする子が出る。
そして、なぜか全部私のところに来る。
……大尉。
後任って、こういう仕事も込みだったんですね……
「そもそも、さっき帰ってきたばかりでしょう? 先に点検・整備を受けてください」
「動くよ?」
「動くかどうかを聞いてるんじゃありません」
「撃てるし」
「そういう話でもありません」
言い訳する彼女の隣から、ひょいっと別の顔が出てくる。
「大丈夫だって。帰り道も元気だったし」
「その子、さっき右脚を庇ってましたよね?」
「……」
揃って目を逸らした。
うん。
そういうところは、まだまだですね。
「整備、行ってきてください」
「……はい」
「結果が出るまで、訓練の追加はなしですよ~」
肩を落とした三人を見送り、端末へ視線を戻す。
帰投した分隊の報告は、もう届いていた。
任務達成。全員帰還。
装備の損耗についての欄には、今しがた本人が口にしなかった不具合まで、きちんと並んでいる。
報告できるのに、休もうとはしないんですよね……。
全く、誰に似たんだか……。
次の出撃までに整備が終わるかを確認し、待機中の別分隊と照らし合わせる。
ゴッデス部隊へ待機命令が下ってからというもの、こちらへ回ってくる仕事も増えた。
どこかの防衛線が押されれば、そちらへ。
撤退する部隊がいれば、援護へ。
道が塞がれば、今度はそこへ。
頼ってもらえるのは、嬉しい。
嬉しいんだけど……
高機動部隊という名前は、どこにでもすぐ駆けつけられるという意味ではないんですよ?
「……こっちの移動時間も考えてほしいなぁ」
次の任務の予定時刻を見ながら、ぼそりと零す。
そこへ、開いたままの扉が軽く叩かれた。
書類から顔を上げると、先ほど任務から帰ってきたC分隊の分隊長が、端末を片手に立っていた。
「フェリー。さっきの戦闘ログ、もう見た?」
「報告書だけ。何かありました?」
「ちょっと、見てほしいところがあってね」
差し出された端末には、交戦中の映像が止められていた。
映っているのは、道路脇に展開したラプチャー。
再生すると、一人が側面へ回り込み、それに合わせて敵の砲身が動いた。
ただし、狙っているのは回り込もうとする子自身ではない。
その先。
彼女が抜けようとしていた場所へ、先に弾が叩き込まれた。
「……こちらの動きを読まれてた?」
「うん。
前までは、正面に対する攻撃にほぼすべてのラプチャーが反応して釣れてた」
分隊長は画面を少し戻し、敵の一体を指した。
「でも、こいつ。正面から攻撃を仕掛ける私たちには目もくれず、ずっと横を見てた」
たまたま、では済ませたくない動きだった。
こちらが回り込むことを、最初から考えていたような。
「よく抜けられましたね……」
「いつものラプチャーとは違うって思ってね。
即座に無線で教えてたからよかったものの、気づかなかったら危なかった」
軽く笑っているけれど、映像を止めた指は微かに震えている。
私も、もう一度だけ見返す。
敵の砲身が、回り込もうとする子の動きに合わせて動く。
それに気づいた分隊長が、無線で連絡し、援護していた。
無線が入った直後、回り込もうとした子が横へ弾かれるように動き、そのすぐ脇を、砲弾が抜けていった。
確かに、大尉に教えてもらったクイックブーストを駆使すれば、あの距離でも抜けられる。
ただ、大尉が使うクイックブーストと私たちが行うクイックブーストは、同じ名前でも中身が違う。
もどきと言ってもいいぐらい。
もし誰も気づかなかったら、一歩間違えれば、抜けられなかった可能性がある。
「これ、ほかの分隊にも回します。同じ抜け方はしないように」
「頼むわ。私も次はもう少し上手くやるよ」
「帰ってきてから、そう言えるようにしてくださいね?」
「分かってるって」
端末を受け取り、映像に注意事項を添える。
勝てた。
今日も全員、帰ってこられた。
それは間違いない。
でも、同じやり方で明日も帰れるとは限らない。
「はぁ……」
……もう少し、物覚えが悪くてもいいのに。
ラプチャー相手に言っても、仕方ないけど。
◇◇◇◇◇◇
「お疲れ様です~」
食堂へ入ると、いくつもの声が返ってきた。
食事をしている子。
椅子の背にもたれ、目を閉じている子。
向かい合って手を動かしながら、さっきの戦闘を振り返っている子。
その中に、先ほど私の部屋へ押しかけてきた三人もいた。
「点検は?」
「受けた。右脚、しばらく休ませろって」
「ほらぁ……」
「でも、まだ動くし……」
「その台詞、カイル技師にも言ったんですか?」
「言った」
「何て?」
「『動けなくなってから持ってくるな』って」
でしょうね。
空いていた席へ腰を下ろすと、隣の子がそっと自分のトレーを遠ざけた。
露骨な態度に、思わず目を細める。
「……何?」
「いや。隊長、昼食べてないでしょ」
「食べてないけど、人のご飯は取りませんよ?」
「前、大尉に持っていかれたから」
なんでそこで、大尉と私を同列にするんですか……。
あんな天才と天災を掛け合わせたような人と、同列は流石に失礼です。
「大尉と一緒にしないでください」
ジト目でそう返すと、向いの子が、口元を押さえて笑いを堪えながらこちらを見た。
「あれ、食べかけだったのにね」
「『いらないの?』って聞きながら、もう持ってたよな」
「返事する意味あった?」
あちこちで笑い声が上がる。
……目に浮かぶなぁ。
食事中まで、良くも悪くも大尉の話になる。
ひどい目に遭わされた訓練の話も、無茶なことを言われた話も、最後には大体、笑い話になるのだから不思議だ。
まあ、その当時は全く笑えないんですけどね。
「大尉、今頃何してるかな」
「待機中なんだろ? 絶対、暇してるって」
「向こうのシミュレーションルーム、無事かな」
「先に心配するもの、それ?」
口を挟むと、正面の子が真面目な顔で頷いた。
「だって、問題児として部隊に相応しくないって言う理由で帰ってくるかもしれないじゃん」
一瞬、静かになった。
何人かが、食堂の入口を見る。
……来ませんよ?
たぶんですけど……
「また一対一、やりたいなぁ」
「私は嫌。最後のやつ、覚えてる?」
「覚えてるからだよ。今なら、もう少し粘れる気がする」
「それ言ったら、喜んで本気出すぞ」
「……やっぱ、もうちょっと強くなってからにする」
私も、あの日の三分間は覚えている。
武器を使っていないから手加減。
そういう理屈を、満面の笑みで言われたことも。
忘れられるわけないでしょ、あんなの。
それでも、もう一度やったらどうなるかと考えてしまうのだから、私も人のことは言えない。
前よりは動ける。
見えるものも増えた。
今日だって、誰も置いてこなかった。
それをあの人が見たら、何と言ってくれるだろう。
「……まずは脚を直してから、ですね」
「フェリーもやる?」
「……私は、やるとは言ってませんよ?」
「今、ちょっと考えたでしょ」
「食べないなら片付けますよ~」
「横暴だ!」
トレーを抱え込む彼女から目を逸らし、壁のモニターを見上げる。
いつもの戦況放送が終わり、画面が切り替わったところだった。
見慣れた企業のロゴ。
これはエリシオンかな?
続いて映し出されたのは、瓦礫の残る市街地を駆けるニケの姿だった。
いつものニケ志願者募集の広告であれば、特段気にするものではないが、その映像は見覚えしかないものだった。
背中から噴射光が伸び、道路を滑り、崩れた車両の手前で跳躍。
そのまま空中で姿勢を変えたかと思うと、空中をホバリングしたまま建物の向こうへ消えた。
「おっ?」
隣の子が、スプーンを持ったまま顔を上げる。
「……今の、見た?」
「見た」
先ほどまで話していた子たちもモニターへ顔を向ける。
私も、少しだけ目を細めた。
今の切り返し。
あの速度から、直角に近い角度で方向を変えられるのは……大尉くらいだ。
映像は止まることなく、装備の紹介へ移っていった。
小型の銃から、長い銃身を持つものへ。
背部に取り付ける兵装も並び、任務に合わせた選択ができるらしい。
最後に、銃を下ろした少女がこちらへ微笑む。
【次世代高機動型ニケ開発計画──志願者募集】
その下へ、適性検査と説明会の案内が表示された。
「もう一回。今の、もう一回見たい」
「企業のページにあるんじゃない?」
「ちょっと待って……あった」
机に置かれた端末へ、顔が集まる。
私も、横から覗き込んだ。
先ほどの映像が再生される。
車両を飛び越え、空中で向きを変えるところで、一人が画面を止めた。
「ここ。跳んでからのブーストの焚き方がエグい」
「大尉みたい……」
「そう、それ!」
指が動き、今度は着地の直後まで映像が進む。
「こっちも。着地して、すぐ横に抜けてるでしょ?」
「うん。これができたら、私たちがやりたい動きもできる」
「今の私たちのじゃ、ちょっと厳しいもんなぁ……」
外付けのブースターでも、できることは増えた。
ただ走るより速く動けるし、回避にも使える。
ほんの一瞬であれば、空中での射撃もやろうと思えばできる。
でも、どこへ向かっても、同じように動けるわけではない。
勢いがつけば、その分だけ次の動きへ移るのに苦労する。
そこで無理をすると、姿勢が崩れる。
大尉は、その辺りを当たり前のようにやってしまうんだけど……。
「いいな、これ」
誰かが零した。
その一言に、何人かが頷く。
「私たちにも付けられないかな」
「ブースターだけ売ってくれない?」
「それで動けるなら、欲しいよね」
……あぁ、これはまずい。
非常にまずい。
さっきまでモニターを見ていた顔が、期待の眼差しでこちらを向く。
その顔のまま、私を見るのはやめてね?
「フェリー」
「まだ何も分かってませんよ」
「まだ何も言ってないじゃん!」
「言いたいことは、大体分かります」
端末が、私の方へ押し出された。
画面の中では、ニケが空中で向きを変えたまま止まっている。
……確かに。
これができたら、と思うところはある。
憧れ、目指すべき背中、その一端でも同じ動きができるなら、やってみたい。
でも……。
「これ、本当にこの通りに動けるんでしょうか?」
「広告だし、多少は盛ってるかもしれないけどさ」
「多少で済めばいいんですけどね」
大尉の動きは、何度も見ている。
何度も見て、何度も真似しようとして、そのたびに無理だと思い知らされた。
やり方が分かれば、その通りに身体が動く。
そんな簡単な話だったら、苦労していない。
技量の違いもある。
でも、それだけではないことくらい、近くで見ていれば分かる。
「それに、新しく作るニケの募集でしょう? ブースターだけ替えれば、同じように動けるとは限りませんよ?」
「じゃあ、身体の方も何か変えるのかな」
「そこを確認しないと、分からないってことです」
「なるほど……」
頷いた彼女が、募集案内を開く。
「どこに聞けばいいんだろ」
……止まりませんねぇ。
分からないなら、やめておこう。
そういう方向に向かないのは私たちらしいと言えば、そうかもしれない。
「カイル技師なら分かるんじゃない?」
「そうだ。大尉の整備もしてたらしいし!」
「ねえ、聞いてみようよ。できるかどうかだけでもさ」
今度は、あちこちから声が上がった。
「今のブースターだって、使い方を覚えたら全然違ったじゃん」
「そうそう。もっと動けるなら、その分やれることも増えるし」
「大尉にだって、もう少し食らいつけるかもしれない」
「そこまでいく?」
「少しくらいは!」
笑い声が重なる。
けれど、言い出した子は笑いながらも、画面から目を離さなかった。
「……だって、いつまでも追いかけてばっかりっていうのもね?」
「追いついたら、あの人もっと速くなるぞ?」
「なりそう」
「絶対、喜ぶよね」
うん。
それは、私もそう思う。
少しでも動きがよくなれば、すぐに気づく人だった。
褒めてくれる。
そして、次にはもっと難しいことを言い出す。
もう少し喜ばせてくれてもいいのに、と思ったことは、一度や二度ではない。
「でも、今なら分かるじゃん。教わってなかったら、帰ってこられなかったなって時」
隣の子が、ぽつりと言った。
その言葉に、端末を操作していた手が止まる。
「次に一緒に出る時は、こっちが助けてやりたいよな」
「大尉を?」
「……まあ、そこは……ね? 気持ちの話」
「でも、恩返しって訳じゃないけどさ……一か所くらい任せてもらえるようにはなりたいよね」
何人かが、頷いた。
追いつけると思っているわけではない。
あの人がどれだけおかしいかなんて、ここにいる全員が知っている。
それでも、少しくらい。
教えてもらった分を、返せるようになりたい。
あの人に、大尉に「私たちもここまで成長したよ」と認められたいし、褒められたい。
……そういう言い方をされると、止めづらい。
「気持ちは、分かります」
一呼吸置いて、端末へ目を落とす。
「私も、もっと動けるようにはなりたいです。
ただ、何をすればそうなれるのかも分からないまま、話を進めるのは違うでしょう?」
「じゃあ、調べるだけ」
「……カイル技師には、相談してみます」
「ほんと?」
「はい。こういう技術を私たちにも使えるのか、まずはそこからです」
「ありがとう、フェリー!」
「やった!」
「さっすが、我らが隊長サマ!」
調子のいい奴らめ……。
まだ何も決まってないんだけど。
「確認してもらうだけですからね?」
「分かってるって!」
……本当に?
端末の中で再び動き始めたニケを見ながら、私は小さく息を吐いた。
◇◇◇◇◇◇
「……というわけでして」
広告を見終えたカイル技師が、端末を机へ置く。
「これを見て、部隊全体が乗り気になったと……」
「はい。ブースターを替えればできないかって。まだ、どんなものかも分からないのに……」
「……止めた?」
「まずは確認してから、と言ってます」
そこは、ちゃんと言いました。
映像を見て、欲しいと思うのは分かる。
私だって、あの切り返しができれば可能性がもっと広がると思う。
でも、それだけで話を進めていいわけじゃない。
「大尉がやってると、自分たちにもできる気になっちゃうんですよね……」
「実際に、いくつか覚えてしまったからな」
「覚えるまでが大変だったんですけどね?」
止まり切れずに壁へぶつかったり。
避けたはいいけど、銃を向ける前に転んだり。
大尉は簡単そうにやるけど、こっちはそうもいかない。
そこは、みんなもよく分かっているはずなんだけどなぁ。
カイル技師は端末を取り、空中で方向を変える場面まで映像を戻した。
「君たちが欲しいのは、こういう動きか?」
「はい。跳んだ後でも向きを変えられたり、加速したまま横へ抜けられたり……」
「なら、単純に推力を上げるだけでは無理だろう」
「ですよねぇ……」
カイル技師は、一度考え込んだ後、かみ砕くように言った。
「そうだな……例えばだ。フェリー、君が走行中に銃を向けようとして、身体が流れたらどうする?」
「姿勢を戻します。間に合わなければ、一度射撃をやめて抜けますね」
「その時、ブースターが勝手に姿勢を戻してくれるか?」
「いえ。私がやらないと、そのままです」
そのまま、というのは。
まあ、転ぶとか。
ぶつかるとか。
あまり思い出したくない方の話になる。
「それが、あいつとの違いの一つだ」
カイル技師が、画面の中のニケから私へ視線を移す。
「レイヴンの身体は、推進装置を取り付けただけのものじゃない。
動きを検知して、姿勢や推力を調整する制御系まで組み込まれている」
「身体の方で、立て直してくれるんですか?」
「本人がどう動こうとするかに合わせて、補助する。
右へ動きたいとして、どこをどれだけ噴かせば姿勢を崩さずに済むか。
君たちが身体で覚えている部分を、機構の側でも受け持っているわけだ」
……そこ、手伝ってくれるんだ。
ずるいと思ってしまった。
右へ行きたい。
だから噴かす。
それだけで右へ行けるなら、どれだけ楽だろう。
実際には身体の向きも、残っている勢いもあるし、踏ん張り方を間違えると──。
うん。
その辺りは、よく分かる。
「射撃も同じ。動きながら敵を追い、照準を合わせる。あいつには、それを助けるFCSがある」
「FCS……射撃軌道や補助とかをしてくれる機能ですよね……?」
「……よく知ってるな」
「はい、大尉との模擬戦でよく『FCSを騙すような射撃や動きをして!』って言われてます。
こっちからしたら知ったこっちゃない話ですけどね……」
今でも思うあの理不尽すぎる要求。
えげつないスピードで動く大尉を追って、射撃するだけでも大変なのに、そんな余裕なんてない。
「……苦労してるな。
ま、まあ、ともかく、姿勢が変われば、銃口の向きも変わる。
そちらの制御との連携も必要になる。もっとも、付いていれば全部当たるというものではない」
カイル技師が、広告を閉じた。
「あいつは、そうした仕組みと自分の技量を合わせて戦っている。
君たちは量産型の身体に外付けのブースターだ。推力は得られるが、その後を面倒見てくれるものはない」
「……もしかしなくても、私たち、結構頑張ってます?」
「今さら気づいたのか?」
「いえ。大変だとは思ってましたよ?」
大尉から教わって。
できなくて、やり直して。
少しできるようになったら、次の課題が出てくる。
そういうものだったから。
身体の方からも手伝ってもらえるとは、あまり考えたことがなかった。
「君たちが使っている装備を、そのまま別の部隊へ渡しても、同じようには動くことはできない。
そこまで仕上げた訓練には、それだけの価値がある」
「……それは、みんなにも伝えておきます」
「訓練時間を増やしていいという意味じゃないぞ?」
「分かってますよ」
そこまで言ってもらわないと、あの子たちは喜んで増やしそうだ。
……伝える時は、気をつけよう。
「でも、それなら、その補助する仕組みを私たちにも付ければ──」
「付ける場所があれば済む話でもない」
途中で止められた。
カイル技師が、私の背中を示す。
「身体の動きを拾い、推進装置や関節の動きへ反映させる。今の身体は、そこまで連動させる前提で作られていない」
「制御する部分も、替える必要があるんですか?」
「そう。加えて、強い推力に耐える骨格や取り付け部も要る。
着地や切り返しで受ける負荷が増えれば、脚の方も見直す必要が出てくる」
自分の脚へ目を落とす。
「……かなり大掛かりですね」
「レイヴンのように、というならな。どこまで既存のものを残せるかも含めて、検討することになる」
脚も変わるのか……。
だったら、着地した時にもう少し踏ん張れるものがいい。
今の脚だと、勢いを逃がすために余計に動かなきゃいけないし、その間は銃を向けづらい。
そこを補助してもらえるなら、敵を見る余裕も──。
「フェリー?」
「あ、はい。聞いてます」
「部隊全体には、装備の交換だけでは済まないと伝えてくれ」
「はい。ちゃんと考えてもらわないといけませんね」
カイル技師が頷く。
「それから、身体が変わること自体の危険もだ。
今までと違う形や感覚を、自分の身体として受け入れられるとは限らない。思考転換の可能性もある」
「事前に調べられるんですか?」
「ある程度は、だが、検査を通れば確実に問題ないとは言えない」
「……それは、困りますね」
動けるようになったから、大丈夫。
そういう話ではないらしい。
帰ってきた子が、前と同じように笑えなくなっていたら。
そんなことになってからでは、遅い。
「みんなには、その辺りも説明します。今は、できることばかり見ているので」
「ああ。頼む」
カイル技師が、机に置いた端末へ手を伸ばす。
私はもう一度、自分の脚を見下ろした。
足先を、少し動かす。
「……替えた後って、元の脚には戻せるんですか?」
伸びかけていた手が止まった。
「改修の内容による。なぜだ?」
「いきなり全部慣れようとするより、少しずつ使う時間を増やせた方がいいのかなって。
義足だって、最初から普通に歩けるとは限らないでしょう?」
返事がない。
……違うのかな。
大尉がよく言っていたから、考え方は同じだと思ったんだけど。
「身体が機械でも、私が私であることは変わりませんし。
動かし方が違うなら、そこは覚え直す必要がありますけど……」
「その話も、レイヴンか?」
「はい。何度も言ってましたよ?」
カイル技師が、ゆっくりと息を吐いた。
「……それをあいつに言ったのは、俺だ」
「あ、そうだったんですか」
なるほど。
それなら、話は早い。
「俺は、身体が機械だからといって、自分自身を使い捨ての兵器として扱うなと言ったんだ。
壊れたら別の個体を用意すれば済む、という話じゃない」
「はい。私たち自身は、取り替えられませんからね」
「……ああ」
「だから、身体の方を強くできれば、その方がいいんじゃないかと」
カイル技師が額へ手を当てた。
……何だろう。
同じ話をしているつもりなんだけど。
「……彼女らを止めに来たんじゃなかったのか?」
「分からないまま進めないように、相談に来たんですよ?」
広告を見ただけで、欲しいと言っていいものではない。
ちゃんと使えるのか。
危なくないのか。
今より、どれくらい動けるようになるのか。
そこまで分かってから、考えるべきだと思う。
私は、そういう話をしに来たのだけど。
カイル技師はしばらくこちらを見て、それから端末を手に取った。
「……軍へ照会する。
セルゲイ司令官を通して企業側の開発状況と、既存個体への改修を検討しているか。まずは、そこからだ」
「ありがとうございます」
「できると決まったわけじゃないぞ?」
「はい。みんなにも、そう伝えます」
頷くと、なぜかもう一度、念を押すように見られた。
……分かってますって。
私まで、あの子たちと一緒にしないでください。
◇◇◇◇◇◇
カイル技師から司令官を通して、軍へ照会を出してもらって一週間ほど。
回答は来た。
来たことには来た。
しかし、内容は想像通りと言うべきか、残念と言うべきか……
──企業各社が公表している開発計画は、新規製造個体を対象としたもの。
──既存個体への適用については、安全性と有効性を確認できる資料がない。
──そのため、現時点で高機動部隊へ導入可能な改修はない。
分かりやすい、定型文のような回答。
要するに、改修の見込みはゼロ。
理由付けもしっかりとあり、普通の部隊なら、これで納得します。
問題は……高機動部隊は、普通の部隊じゃないってこと。
「はぁ?」
「なにそれ?」
「納得しない」
「できるわけもない!」
「ですよねぇ……」
結果はお察しの通り、大批判。
軍側からしたら、当然の内容をお役所的な文章で返しただけなんだけど。
文章の書き方が悪い。
検査もしてなければ、適合性も確認していない。
それなのに、できないと断言するような書き方。
遠回しに「お前たちニケ如きが、改修なんかを望むな」と言われているようなもの。
このお役所的な文章が、火種になった。
文章に対する不満から始まり、軍自体の対応の悪さを指摘する声まで出て、部隊内は大騒ぎ。
もとより、軍に対する信用度が低い子達なわけで……。
挙句の果てに、軍に直談判しに行こうとか言い出す始末だったので、さすがに止めに入った。
しかも、それに同調する子たちが大半を占めるもんだから、止めるのも一苦労。
ひとまず再度、軍へ照会を出し、今度はこちらの要望をしっかりと伝えると言うことで、何とか落ち着いた。
最後まで、軍へ直談判しに行くと言い張った子もいたけど、「そんなことしたら、できる可能性すらなくなりますよ」と言ったら、ようやく諦めてくれた。
本当に勘弁してください……。
要望書と一緒に部隊全員の署名を添えて、再度カイル技師に会いに行ったら、すべてを察した顔をしてました。
ごめんなさい、私だけではどうも止められそうにないです……。
ただ、今回は待ってもらえたというだけ。
次も同じ回答だったら、あの子たちは本当に行く。
そのことだけは、カイル技師にも伝えておいた。
……伝えたら、さらに疲れた顔をされました。
え?
署名の中に私の名前があるのはどういうことだ、ですか?
……勿論、私も改修自体には賛成ですので。
◇◇◇◇◇◇
軍本部、会議室。
卓上に映し出されているのは、第08観測基地から届いた再照会だった。
既存個体への改修について、技術検証の実施を求める要望書。
末尾には、高機動部隊八十名の署名が並ぶ。
添付された基地司令官の報告へ目を通し、保安担当の参謀が口を開いた。
「回答に不満があるため、直接陳情に及ぶ可能性がある……か。随分と丁寧に書いたものだ」
「少尉が抑えた。そのうえで、正式な手続きを踏んで上げ直してきただけだ。
それを問題にするなら、こちらへ何も言ってこなくなるぞ」
作戦担当の参謀が応じる。
「部隊全員の連署だ。手順さえ守れば、集団で圧力をかけても構わんと?」
「装備の改善要求を、圧力の一言で片付けるな」
二人の視線がぶつかる。
上座では、参謀総長が資料を読んでいた。
細い指が画面を送り、署名欄で止まる。
フェリー少尉。
その下へ続く、七十九名。
最後まで目を通してから、装備担当の参謀へ視線を向けた。
「技術面で、前回から変わったことはあるかね?」
「ありません。各社の計画は新規製造個体が対象です。
既存個体への適用について、判断に足る試験資料は提出されていません」
「提出されていない。……では、求めてはいるのか?」
「具体的な照会は、まだです」
「そうか……」
参謀総長は、前回の回答文を開いた。
資料がない。
したがって、導入可能な改修はない。
調査の予定も、再検討の条件も記されていなかった。
「各戦線からは来いと言われ、装備の相談には無理だと言われる。
……諸君らは連中に、随分と聞き分けのよさを期待していたようだな」
「安全性を確認できない以上、実施を約束するわけにはいきません」
「約束しろとは言っておらんよ。何を調べるかも示さず、話を終わらせた理由を聞いている」
装備参謀が、口を閉じる。
返答を待つ間に、作戦参謀が戦況図を開いた。
「検討を求める根拠であれば、ございます」
各戦区を結ぶ出動経路が、画面を横切る。
防衛線の各所に赤い印が灯り、その間を、高機動部隊の出動経路が幾重にも結んでいた。
「突破口の封鎖、孤立部隊の救援、撤退時の後衛。
ゴッデスの待機以降、機動予備として確保していた班まで投入しています」
「任務は達成している」
保安参謀の言葉に、作戦参謀が顔を向けた。
「達成させているんだ。整備と補給を挟んで、次の戦区へ送り込んでな」
戦況図が、交戦記録へ切り替わる。
正面から射撃を受けるラプチャー。
その後方で、一体だけが側面へ砲身を向けていた。
回り込むニケへ無線の警告が飛ぶ。
噴射光が瞬き、直前まで彼女が進んでいた先へ砲弾が叩き込まれた。
「敵が、こちらの陽動に対処し始めている」
「回避には成功しているな」
「ああ。相互援護と、本人の技量でな。だから今のままでいいと?」
映像が止まる。
「連中も戦術を修正している。だが、敵も学ぶ。今ある装備で対応できているうちに、次を用意する必要がある」
「その装備を扱う部隊に問題があると言っている」
保安参謀が、編成表を呼び出した。
「八十名。全員が奴の直接指導を受けている。本人が離れた後も、その方針を維持し、独自に訓練と戦術研究を続けている」
「奴とは大尉の事か? そうだな、大尉の訓練もあって成果が出ている」
「軍の統制より、師の教えを優先した結果だ」
声が、わずかに硬くなった。
「連中は命令を受けるたび、自分たちが納得できるかを考える。今回もそうだ。回答が気に入らなければ、全員で覆しに来る」
「命令違反があったのか?」
「起きるまで待つつもりか?」
保安参謀は、止まった戦闘映像を指した。
「量産型の身体に外付けの推進装置で、これだ。既に通常部隊では代替できない。
だから処分も配置転換も容易にはできん。さらに背後には大尉までいる」
「その大尉にも、NYMPHはある」
作戦参謀が、編成表へ視線を向けた。
「高機動部隊も同様だ。人間への加害を抑制する機構がある以上、戦闘能力がそのまま我々へ向けられるわけではない。反乱を前提に扱うのは飛躍だろう」
「NYMPHがあれば、統制に問題はないと?」
「少なくとも、武装蜂起と装備の改善要求は区別しろと言っている」
保安参謀が、卓上の要望書を指した。
「では、これはどう説明する。NYMPHがあっても、不満は持つ。結束もする。軍の回答を受け入れず、覆そうともする」
「異議を申し立てた。それだけだ」
「今はな」
短く返し、保安参謀は身を乗り出した。
「我々に銃を向けなくても、軍を動かすことはできる。現に、連中を失えんという理由で、こうして対応を協議しているだろう」
作戦参謀が、口を閉じる。
「大尉も同じだ。命令を出せば、まず条件を持ち出す。こちらが引けない事情を承知でな。
NYMPHは、その交渉まで止めてくれるのか?」
参謀総長は、指を組んだまま聞いていた。
現状、レイヴンの危険度は、成果を上げれば上げるほど膨れ上がっていた。
出生が出生なだけにNYMPHがあっても機能しない可能性があり、その結果が、高機動部隊である。
その高機動部隊もレイヴンに習い、独自の戦術を編み出し戦果を上げる。
問題なのは、その思想と扱いづらさまでもが、そっくりそのまま受け継いでしまっていることだった。
「これ以上の機動性能を与えれば、大尉が出てくるまでもなく、連中だけでこちらを拒めるようになる。人間を撃てるかどうかの話ではない」
「だから、敵に対処され始めても更新を止めるのか?」
「手を打つなら、先に指揮系統を立て直せと言っているんだ」
参謀総長が、机の上で指を組んだ。
「そのために、部隊を一度下げる余裕が現状あるかどうかだが……」
「少なくとも、人員の再配置と指揮官の選定には時間が必要です」
「その間、担当している戦区は?」
保安参謀が口を閉じる。
作戦参謀が、代わりに答えた。
「現状、同じ即応性を持つ代替戦力はありません。ゴッデスが復帰すれば、負担の軽減は可能です」
「復帰の見通しは」
「スノーホワイトが本日合流予定です。ただ、最後の一枠は、適合する素体の確保に至っていません」
「……まだ日程を切れんか」
「はい」
参謀総長の声に、乾いた響きが混じった。
装備参謀が資料へ視線を落とす。
「いずれにしても、改修には戦列から外す期間が必要です。検証を進めるとしても、まずゴッデスの復帰を待つべきでしょう」
「なら、復帰後の実施を前提に、今から調査を進めればいい」
作戦参謀が応じ、保安参謀へ向き直る。
「それなら反対する理由はないな?」
「戦力に余裕ができることと、あの部隊へ新たな力を与えることは別だ」
「つまり、代替戦力があっても反対か」
「統制の問題が解消されない限りはな」
「その代替戦力が来るまで、連中には戦わせるわけだ」
「必要な任務には就かせる。当然だろう」
「当然、か」
作戦参謀が椅子へ背を預けた。
「戦果は要求する。装備の改善には応じない。理由を求められれば、扱いづらいからだと。連中がこちらを信用しない理由を、増やしてどうする」
「要求を通せば、騒げば軍が折れると覚える」
「……その辺りにしたまえ」
低い声が、言い争いの間へ落ちた。
二人が上座を見る。
参謀総長は、停止した映像を眺めていた。
「敵はこちらの戦い方を。部隊はこちらへの交渉の仕方を。結構なことだ。我々だけが同じ回答を繰り返すわけにもいくまい」
口元がわずかに動いた。
笑ったのかは、分からなかった。
「強化を求める理由はある。警戒する理由もある。だが、今ここで部隊を失ってよい理由は、一つも出ていない」
組んでいた指をほどく。
「各社へ資料を照会したまえ。既存個体への適用条件、試験の進捗、必要な期間。広告ではなく、判断に使えるものを出させろ」
「では、改修の検討を進めると?」
「調査を認めると言った。承認とは違う」
装備参謀が頷く。
「第08観測基地へは、調査に着手した旨を返す。ただし、試験参加も改修も約束はしない。
現地指揮官を通さず、企業と個別に話を進めることは認めん」
「それで、待つでしょうか」
保安参謀の問いに、参謀総長は署名欄へ目を戻した。
「少尉だけに任せるのは、酷だろうな」
一拍置く。
「レイヴン大尉に、部隊への働きかけを依頼する。連絡は私がしよう」
資料を閉じかけていた手が止まる。
「……総長自ら、ですか?」
「何か不都合でもあるかね?」
「いえ。ただ、ニケ一個体への伝達でしたら、担当の者に──」
「伝達で済むなら、そうしているよ」
静かな返答だった。
問いを発した参謀が、口を閉じる。
ほかの出席者も、総長の手元へ視線を向けていた。
「初対面の相手から、教え子を説得しろと言われ大尉が素直に頷くとは私は思わん」
「ですが、僭越ながら総長がお話しになっても、従うとは限りません」
「ああ。どうやら、大尉は私のことも嫌いだそうだ」
あまりに淡々と言われ、返す言葉がなかった。
参謀総長の口元が、わずかに動く。
「それでも、一度は話がついた。何を気にして、どこで譲らなくなるかは、多少分かっているつもりだ。それに──
大尉は軍の都合では動かん。だが、自分の部下がどう扱われるかには、随分と熱心だ」
あの面談でも、そうだった。
自身の処遇には悪態で済ませた女が、部下の話になった途端、条件を求めてきた。
「軍への協力を説く必要はない。未実証の技術に、教え子を預けてよいのか。それを考えてもらえばいい」
「本人が、強化を後押しする可能性もあります」
「あるだろうな」
即答だった。
「だから、強くなることを諦めろとは言わん。
広告だけを頼りに話を進めるなと伝えてもらう。そこまでなら、大尉にも理由は分かるだろう」
「軍への不満を抑えるように、とも伝えますか」
参謀総長は、問いを発した保安参謀を見た。
「それを先に言えば、こちらの不手際について説明を求められるだろうな」
誰も笑わなかった。
「止めろと命じて止まる相手なら、この会議は要らんよ」
資料を閉じる。
卓上に残った戦況図には、次の救援要請が追加されていた。
「……利用するなら、相手の望みくらいは理解したまえ」
◇◇◇◇◇◇
あああ……あああ……ああ……
お゛か゛ね゛が……な゛い゛……
自室。
ベッドの上。
私は……溶けていた……
どうして……
どうしてこうなった……!!
《……純粋な散財では?》
やめて、エア。
現実逃避してる人間に、そんなこと言わないで……
うつ伏せから顔だけを横に向け端末で残高を確認する。
【残高:36クレジット】
…………。
《あれほど、ご利用は計画的にと言ったはずですよ》
もう一度、口座残高を開きなおす。
【残高:36クレジット】
……ない。
何度見ても、ない。
《表示は正常です》
……何かの間違いで桁が二つくらい消えてたりしない?
しないか。
そうかぁ……。
「うがぁぁぁぁぁ……」
のたうち回ろうにも、気力が無さ過ぎてソレすらできない……。
何故だ……何故、こうなったのか。
私はただ、テトラの依頼以降にバカバカと各企業から出た新商品を買い漁っただけなのに……。
《完全にそれでは……》
そもそも!
新製品の開発速度が尋常じゃ無さ過ぎる!
いやまあ?
嬉しいよ?
元々私が望んでた方向に行ってるしさ?
でもね、限度がある……!
脚や腕だけじゃなくてコアまで出てくるとは思わないじゃん!
ヘッドパーツに至っては、ニケの唯一の臓器がある訳だし、さすがにないよね~って思ってた2日前の私を殴りたい。
まさか、ヘッドギアとして出てくるとは思わなかった……。
というか、更新頻度高すぎじゃないですか?
何があったのさ……。
《順当に考えれば、持ち得るデータが出揃ってきたというのが正しいでしょう》
『データ?』
《レイヴンのメンテナンスはエイブが担当している。そしてアセンブル装置もエイブ。所属を考えればある程度は納得が行くのでは?》
……。
あー……V.T.C……
つまり、V.T.Cも私のアセンブル構想には乗り気で、集めたデータを各企業に売ってる……とか?
それで各企業がパーツを作って、私が買う。
私が使えば、またデータが取れる。
……最高じゃない?
ここまでうまくいくものなのか……。
《……それがこれですか?》
『……』
やめてよもう……
せっかく忘れかけてたのに……
「うぁああああ……」
《レイヴン。枕に声を吸わせても、残高は増えません》
『うるさい……分かってるよぉ……』
お仕事。
お仕事が欲しい。
こう、程よく敵がいて、程よく報酬が出て、ついでに新しい武器の試験もできるような──。
無理だよね……。
全力で拒否を言い渡されるのがイメージできる。
まだ相談すらしていないのに。
せめて、非戦闘の依頼でも探そうか。
テトラの時みたいなものなら、指揮官も話くらいは聞いてくれるはず。
枕から顔を上げ、端末へ手を伸ばす。
《レイヴン。その前に、第08観測基地の件ですが》
指が止まった。
『……何か進展でもあった?』
《今のところ、大きな動きはありません。フェリーが間に入り、軍へ再度要望を出したようです》
『他の子たちは?』
《不満は残っているようですが、基地を出て直接抗議する動きは見られません》
『そっか……』
少し前から、あの子たちが新しい技術に興味を持っているという話はエアを通して把握していた。
そして、どうも話が進まないらしいということも。
でも、現状はフェリーが上手い事まとめてくれているらしい。
そういうことなら、今すぐ私が出ていくような話ではなさそう。
フェリーが話をまとめているところへ横から口を出しても、ややこしくなるだけだし。
『じゃあ、引き続きお願い。何かされそうだったら、すぐ教えて』
《分かりました》
強くなりたい。
そのために、必要なものを要求する。
【便利屋にはならず、使えるけど使いにくさを出す】
ふふっ……
ちゃんと私の教えを守ってるね。
傭兵は、舐められたら終わり。
こと、この世界においては猶更。
ただ、フェリーを困らせすぎないようにね?
今度、何か差し入れでも送ろうかな。
……お金が入ったら、だけど。
そう考えたところで、視界のHUDに、新着メッセージの通知が入った。
「んあ?」
端末に切り替え、誰からのメッセージかを確認すると……
【参謀総長】
うわぁ……。
思わず、メッセージ一覧を閉じた。
《レイヴン》
『見たよ』
《返事は?》
『今、考えてる』
何だろうね。
名前を見ただけで、ちょっと疲れる。
一度きりの面談で、あの手の人が苦手なのがわかってしまった。
貼り付けたかのような笑顔と、何を考えているのか分からない目。
相手方の思考を読み取れないのに、こちら側の思考は筒抜けな気がする。
まあ、見ない選択なんてないけどね。
もしかしたら、新しい依頼かもしれないし。
端末を戻し、届いた文章を読む。
【今、少し話せるかね】
……新しい依頼……じゃないっぽそう……
いやです。全力で拒否します。
と返せたら、楽なんだけどなぁ……。
あの子たちの話だった場合、それはそれで困る。
話せるとだけ返すと、程なくして通話が入った。
「……なに?」
<なにとは、相変わらずの様だな。大尉。
職務上ではあるが、一応私は貴官の上官の立場だ。形式的な挨拶くらいはしてほ──>
「要件。前置きなし」
<……ふむ。これ以上話しては切られそうだな。では、要件を述べるとしよう。
第08観測基地の高機動部隊についてだ>
「……あの子たちが、どうかした?」
膝の上に肘を置き、続きを待つ。
こちらが知っていることを、わざわざ教える必要はない。
この人が何を言いに来たのか。
まずは、そこから。
<彼女らから、既存の身体へ新しい機動技術を適用できないかという要望が上がっている>
「へぇ」
<一度回答したが、納得は得られなかった。今度は、部隊全員の署名付きで再照会が来ている。
現地ではフェリー少尉が収めているが、中には直接陳情に来ようという者もいるらしい>
「そっか」
いいね。
全員の署名付きで「ちゃんとやらないと知らないぞ?」ってやってるのは、えらい。
良い交渉をするようになったね……
《交渉と言うより、脅しでは? ……と言いたいですが、現状のニケ達の扱いを見るとこれぐらい強固の方がいいですね》
そういうこと。
そもそも、生身の人間よりも強いニケの方が、本来なら立場が上なはずなのに、それを押さえつけてるわけだからね。
歪さを修正するのは、いい事!
「それで、私に何をしてほしいの?」
<貴官からも、一度話してもらいたい>
「強くなりたいんでしょ? 別によくない?」
<それ自体を否定しているわけではないよ>
私の質問に、即座に返答があった。
ほう?
<各社が公表している計画は、新規製造個体が対象だ。既存個体への適用については、安全性を判断できる資料がない>
「じゃあ、できるか分からないってこと?」
<そうだ。少なくとも、彼女らを預けてよいと判断できる段階ではない>
なるほど……
そういうことね。
確かに、あの子たちの身体は私とは違う。
推進装置を増やせば、私と同じように動けるわけではないし、推力を上げれば、身体へかかる負荷も増える。
動かすだけならできました。
でも、使っていたら壊れました。
……そんな欠陥みたいなものを渡されても困る。
ましてや、身体そのものを替えるなら尚更なわけだ。
あとは……思考転換だっけ? あの可能性もあるわけですしね。
「で、調べてはいるの?」
<勿論、各社へ照会するよう指示を出した。基地にも、その旨を伝える>
「……最初からそう言ってあげればよかったのに」
<そこは耳が痛いところだな。最初の回答では、そこまで示せていなかった>
あっさりと認めた。
……やっぱり、やりづらいなぁ、この人。
変な言い訳でもしてくれれば、こっちも言いたいことを言えるのに。
<調査には時間がかかる。その間に、広告だけを頼りに企業へ話を持ち込まれては困る>
「勝手に試験を受けるなって?」
<そういうことだ。貴官も、未実証の技術へ教え子を預けたいわけではあるまい?>
まあ、そうだね。
そこについては、ごもっとも。
あの子たちが強くなるのは嬉しい。
でも、強くなれるかもしれないってだけで、よく知らない相手に身体を預けるのは違う。
誰に任せるか。
何をされるか。
そのぐらいは、ちゃんと確かめなきゃね。
「分かった。確認もせずに飛びつかないようには言っておく」
<すまんね。まったく、大尉には苦労をかけるな>
「そういうの、いいから。ちなみにだけど、強化そのものを諦めろとは言わないからね?」
<あぁ、そこまでは私も頼まんよ>
「……なら、いいけど」
ベッドから降り、机へ向かう。
「そっちも、分かったことはちゃんと教えてあげてね。ただ待てって言われても、待つ方は何も分からないんだから」
<無論、経過は現地へ伝えるようにしよう>
「……じゃ、また」
通話を即座に切る。
ああ、疲れた。
ホントに苦手だ……
意図が読めないし、変にプライドが高いわけでもないから、高圧にならない。
んで、気づいた時には、相手方のペースにすり替わる。
椅子へ腰を下ろし、端末を机に置く。
《フェリーへ連絡しますか?》
『うん。話は聞いておきたいしね』
……あれ?
でも私、フェリーの連絡先知らないよ?
え、またあの人に通信しなきゃいけないの?
……嫌すぎるんだけど。
ピロリッ…
《……フェリーの通信欄の追加を確認。用意周到ですね……》
『まあ、通信しないだけマシだよ。いけ好かないけど……』
でもなぁ。
ただ、待ってろと言うだけなのもなぁ……。
あの子たちの欲しいものは、分かる。
私の動きを見て、真似して、何度も失敗して。それでも、できるところまで持ってきた子たちだ。
今の身体でできることは、これからも増えるだろうけど、現状だと限界が近い気もする。
そこまで全部、練習で何とかしろっていうのは、さすがにね。
……ん?
身体を変える。
高機動型の大本は、私。
私の情報を一番もってるのは……。
……さっき、誰が面倒を見てるって話をしたっけ?
『ねえ、エア』
《はい》
『エイブに聞いてみたら、何か分かるかな?』
《……レイヴンが何を考えているか察しがついた上で言わせてください。エイブを過労死させる気ですか?》
……そんなことないよ?
ただ聞くだけだし。
中間管理職フェリーの憂鬱・・・
なんだかんだで、フェリーたち高機動部隊のお話を考えるのが楽しいw
でも、各ニケ達の名前は出しません!名前で渋滞しそうだしね
無名なネームド独立傭兵が80名いるみたいな感じでお察しくだされ・・・
その内この子たちが「クソ傭兵がぶっ殺してやる!!」とか言い出しかねないのも個人的には面白そう・・・
見ろ621・・・コーラルに毒され幻覚に魘される中毒者の妥当な末路だ・・・
原作改変の度合いについて
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過度な介入は避けて通るべし
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レイヴンの行動によるものであればよし
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私はハッピーエンドを好む