川を渡った烏と首なき天使   作:しものふ指揮官

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連投しようと思ったら、あれこれ気になる点が出てきて気づけば一日経ってた・・・

これ、連投って言わないですね・・・
許してくだされ・・・

過去週一投稿していた時と同じぐらいのスピードで仕上げられたのがびっくりですよ・・・!

まあ、あれを続けた結果、燃え尽き症候群になって狭間の地に行ってしまったので、あまり実施しないんですけどね・・・w




24話:見ざる、聞かざる、知らざる

 

 第8観測基地・ブリーフィングルーム

 

 

「軍から、回答がありました」

 

 集まったみんなの前で、端末を開く。

 先ほどまで隣同士で話していた子たちも、こちらへ顔を向けた。

 

「各企業へ資料を照会し、私たちへの改修が可能か、調査を開始するそうです」

 

「……今度は、ちゃんと調べてくれるってこと?」

 

「はい。適用できる条件や、試験がどこまで進んでいるかも含めて、確認すると」

 

「最初から、それをしてくれればよかったのに」

 

「ねぇ?」

 

 あちこちで頷く姿が見えた。

 そこについては、私も同意見ですけどね。

 

「じゃあ、できるかもしれないんだ?」

 

「調べてもらえる、という段階です。改修が決まったわけではありませんよ?」

 

「分かってるって。でも、前よりはいいじゃん」

 

 隣の子と顔を見合わせ、小さく笑う。

 

 まあ、そうですね。

 できない、と書かれた文章を眺めているよりは、ずっといい。

 

「結果が出るまでは、今まで通りです。

 企業へ勝手に連絡したり、申し込んだりしないこと」

 

「「「はーい」」」

 

 返事は、前より素直だった。

 

 ちゃんと調べてもらえるなら、待つ。

 ……聞いてもらえないと分かった途端、とんでもない方向へ走ろうとするだけですけど。

 

「それと、もう一つ……」

 

 端末へ視線を落とす。

 

 こちらは、軍からの回答には書かれていない。

 私も、つい先ほど知ったばかりのお話。

 

「……今回の技術について、大尉から説明がありました」

 

「大尉?」

 

「連絡来たの?」

 

「はい。それで、皆さんにも伝えてほしいと……」

 

 言いかけて、少し口を閉じる。

 

 あの子たちが欲しがっているもの。

 私も、欲しいと思っていたもの。

 その中身は、思っていたよりも随分と──。

 

「フェリー?」

 

「……いえ。どこから話そうかと思いまして」

 

 私だって、聞き返しましたからね。

 それも、一度では済まなかった。

 

 

 

 

 一時間前……。

 

 

 〈ああ、フェリー? 久しぶり。元気にしてる? 〉

 

「ふぇっ!? た、大尉!? え、お、お久しぶりです!」

 

 書類整理中に着信が来て見て見れば、画面の向こうに大尉の顔があった。

 何を言っているのか分かりませんよね。

 私も分かりません。

 

 久しぶりに見る大尉の顔。

 直に会っている訳ではないはずなのに、思わず背筋を伸ばしてしまう。

 

 相変わらずだった。

 こちらが挨拶を返している間にも、ひらひらと手を振っている。

 

 〈聞いたよ~。みんな、新しいのが欲しいんだって? 〉

 

「……もう、そちらまで話が行ったんですか?」

 

 〈うん。参謀総長から〉

 

「さ、参謀総長……?」

 

 ちょっとよく分からない。

 参謀総長って、あれですよね? 実質的な軍のトップの人ですよね? 

 

 ……そこまで行っちゃったんだ。

 

 軍へ照会を出した。

 でもまさか参謀総長が出てくるのは聞いてないし、大尉へ連絡が行くのも想像していなかった。

 

「すみません。お手数をおかけして……」

 

 〈別に? 欲しいものがあるなら、言わないとね〉

 

 あっさりとした返事が返ってきた。

 というか、なんですか、そのドヤ顔。

 

 私が言うのもなんですけど、そんなあっさりと聞き流すようなものじゃ無くないです? 

 

 ……そうでした。

 この人、そういう人でした。

 

「う゛ーん゛……」

 

 〈フェリー? 大丈夫? 〉

 

「あー、いえ、だいじょばないですけど大丈夫です」

 

 久々の大尉節が脳天に直撃してるだけです。

 しかも、今回は私たちが発端なので、余計に。

 

 〈??? 。そっか、まあいいや、先に言っといた方がいいかなってことがあって〉

 

「先に? 何でしょうか?」

 

 〈アレ、ただ速く動けるようになるだけじゃないよ〉

 

「はい。カイル技師からも聞きました。制御系や骨格から見直す必要があるって」

 

 もしかしたら、ほぼすべてを交換しなきゃいけないってことも。

 私の返答に大尉は、何か考え事をしているのか、少し間を置いてから、口を開いた。

 

 〈……うん。それもあるんだけど、替えたら終わりじゃないの〉

 

「……終わりじゃない?」

 

 〈そ。四肢を自由に組み替えることができることがメインで、速く動けるのはその副産物〉

 

「……? ちょ、ちょっと待ってください。四肢を自由に組み替える……のが、メイン、ですか?」

 

 大尉の顔を見る。

 何か、聞き違えたのかと思った。

 

「……装備を、ですよね?」

 

 〈身体を〉

 

「身体を?」

 

 〈うん〉

 

 頷かれた。

 唖然とするっていうのは、こういうことを言うんですね……。

 

 ……身体を。

 

 今の身体を、もっと動けるものへ改修する。

 特にあの広告では、高機動で自由自在に動くことができる、というのが売りだと思ってた。

 

 でも、もし大尉が言っていることが本当なら、あの映像では誤解を生みかねないのでは? 

 というか、詐欺もいいところだ。

 

 募集に応じた子が居たとして、そんな詐欺じみた内容だと分かったら──

 

 ……あぁ。

 そうか。

 気づいた時には既に施術を完了させる訳ですね。

 

 なんだか、嫌な想像をしてしまったけど、やっぱり止めに入っていてよかった。

 

「情報ありがとうございます。あの映像だけでは、誤解してしまうところでした」

 

 〈まあ、速く動くところだけ見ても、分からないよね〉

 

「はい。分かりませんでした……」

 

 武器を選ぶように、身体も選ぶ。

 そんなところまで含めた話だったとは……。

 

 なんでしょう。

 大尉の座学で出て来た【企業を信用するな】の根幹的な部分が見えた気がします。

 

 〈だから、みんなにも伝えておいて。欲しかったものと違った、って後から言っても困るでしょ〉

 

「それは……そうですね」

 

 速くなりたい。

 もっと自由に動きたい。

 そのために、どこまで身体を変えるのか。

 

 そこは、改めて考えてもらわなければいけませんね。

 ……でも。

 

 必要に合わせて替えられるなら、全部を一度に詰め込まなくてもいいのかな? 

 

 重い武器を持つ時と、救援へ急ぐ時。

 同じ身体で、どちらもどうにかしようとするから──。

 

 〈フェリー? 〉

 

「あ、はい。皆さんにも、きちんと説明します」

 

 今は、そこを考える時間ではないですね。

 まずは話を聞かないと。

 しかし──

 

「でも、大尉は随分と詳しいんですね。もう企業から説明を受けたんですか?」

 

 〈ん? ああ、違う違う〉

 

 画面の向こうで、大尉が軽く首を振る。

 

 〈元々、私が言い出したことだから〉

 

「……はい?」

 

 〈こういうふうにパーツを作って、好きに組み替えられたらいいなって〉

 

「……」

 

 ……大尉が。

 あの広告の。

 次世代技術の、大本。

 

 無意識に顔を手で覆う。

 

 今の言葉で、私の頭の中の色々なことが繋がった。

 そしてこのプロジェクトの大本が大尉であることを、他のみんなが知れば……。

 

 うわぁ、考えたくない。

 

 〈いやぁ、思ったより早く色々出てきてさ。嬉しいんだけど、ちょっと困ってる〉

 

「困ってる、というのは……?」

 

 〈……まあ、私の話はいいの〉

 

 よくない気がします。

 でも、それより先に聞かなければならないことがあった。

 

「それ、いつから考えていたんですか?」

 

 〈ここを離れて、ゴッデスへ行く時。ヘリの中で〉

 

「……そういうことは、もう少し早く教えてくださいよ、大尉」

 

 〈今、教えてるじゃん? 〉

 

 そうですけど。

 そうなんですけどね……? 

 

 

 

 

 

 

 

 説明を終え、みんなの顔を見渡す。

 

 機動力を上げるだけの話ではないこと。

 腕や脚を、その時に必要なものへ交換できるようにすること。

 そして、それを私たちが問題なく使えるかどうかは、まだ分からないこと。

 

 大尉から聞いた内容は、一通り伝えた。

 

 ……一つを除いて。

 

 誰が言い出したのかまでは、今は必要ないです……ね。

 そこを話すと、ほかの説明が全部吹き飛びそうですし。

 

「……じゃあ、脚だけじゃなくて、腕も替えられるんだ?」

 

「技術としては、そういうものだそうです」

 

 そう回答すると、部隊全体が妙に静かになった。

 

 まあ、そうですよね。

 ただでさえ、使い捨ての兵器扱いをされている現状で、もっと兵器化されるよっていう話ですから。

 

 拒否反応を示す子が居てもおかしくは──

 

「……いいな。それ」

 

「え?」

 

「え?」

 

 思わず、聞き返してしまった。

 発言した本人も、私の戸惑った声に、少し驚いた様子。

 

「……だって、メリットしかないじゃん。

 敵を倒しやすくなる。生存確率も飛躍的に上がる。自分の長所を徹底的に伸ばせるし、任務によって使い分けられるじゃん」

 

 そ、そりゃ、そうですけど。

 え? 

 怖いとか、生理的に無理とか、そういうのは無いんです? 

 

 回りを見渡すが、発言した子以外も妙に納得した様な顔をしている。

 

「だったら、こっちの肩も何とかなるか? 反動制御のせいで長期戦では辛いんだよね」

 

 そ、そうですね……? 

 

「私は脚かな。踏ん張るタイプと、走るタイプで替えられるなら、その方がよくない?」

 

 両方持っていけば済む、という話ではないですからね? 

 

「軽量を突き詰めれば、下手すると大尉よりも高速で動けるかも……え、何そのロマン」

 

 確かにロマンですけど、実戦ではやらせませんからね? せめてシミュレーションでお願いします。

 

「え、まって。てことは、大尉みたいに二丁持ちできるってこと? ヤバくない?」

 

「何なら、肩にも別の武装を格納できるってことでしょ!? 両肩にデカい武装積んだら、ヤバい、エグイかも……」

 

 ……あれ? 

 もう、使い方の話になっている……。

 

 最後の方は、なんか語彙力壊滅してますけど、そこは置いといて。

 

「ちょっと待ってください。自分の身体を、違うものへ替えるんですよ?」

 

「うん? そう聞いたけど」

 

「怖くはないんですか?」

 

 こちらを見る顔に、戸惑いはなかった。

 

「そりゃ、ちゃんと動くかは気になるよ?」

 

「変なところで止まったら困るしね」

 

「あと、今より劣化するのだけは嫌だし」

 

 そういう意味では──

 いや、それも大事なんですけど。

 

「形も感覚も変わります。

 今までと同じように動かせるとは限りませんし、思考転換の危険もあると、カイル技師から聞いています」

 

 改めて、改修における危険性を言うが、そこ自体は皆も理解しているようで……。

 

「だからこそ、今それを調べてるんでしょ? それに思考転換って言ったって……ねぇ?」

 

「うん。義手や義足を入れ替えて一々発狂する人間なんていないじゃん?」

 

「ま、まあ、それはそうなんですけどね……?」

 

 なんだろう……。

 すごく、凄く。

 

 思ってたのと違う!!! 

 

「それに、ラプチャーが今の戦術に対応してきてるわけだし、このままって訳にもいかないじゃん? 私、死にたくないし」

 

「そう言ってる本人は、ショットガンで、敵の群れに突っ込んでいくんだけどね……」

 

「矛盾というか、なんというか……」

 

「うっさい! あんた達なんか、後方でちまちま遠距離攻撃してるだけでしょうが!」

 

「お前今、遠距離のありがたみを臆病者みたいに言いやがったな!?」

 

 ワーワーっと、いつものように口喧嘩が始まったが、私はと言うと。

 本日二回目となる茫然……

 

 私自身も、四肢を変えることができることに対して嫌悪感や恐怖感は全くと言っていいほど無い。

 問題は…… 

 

 昔はこんな感じでもなかったのに……どうして、こうなっちゃったんだろう。

 

【生存確率も格段にあがるし】【私、死にたくないし】

 

 ああ。

 そうか……。

 そういうことなんですね。

 

 強い武器が欲しい。

 壊れにくい装備が欲しい。

 もう少し速く動ける脚が欲しい。

 

 これもあれも全部、生き残るため。

 私含めみんなの中では、そこが繋がっている。

 

 私がカイル技師に話した時と、同じように。

 

「フェリーは、どこ替えたい?」

 

「……まだ、替えるとは決まってませんよ?」

 

「決まったらの話」

 

 何人かが、こちらを見た。

 だから、気が早いんだってば。

 

「まずは、検査と説明を受けてからです。使い方を考えるのもいいですけど、勝手に話を進めないでくださいね」

 

「はーい」

 

「フェリーもね」

 

「私はちゃんと──」

 

 言いかけて、口を閉じる。

 

 ……何ですか、その顔。

 

 相談しただけですよ。

 元の脚へ戻せるか、聞いただけです。

 それと、着地した時にもう少し踏ん張れたらとは、思いましたけど。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「……また、随分と買ったな」

 

「ふふん。いいでしょ?」

 

「褒めていない」

 

 エイブが端末を見ながら、ため息を吐いた。

 私は現在、定期メンテナンスを受けている。

 

 お仕事がないからと言って、定期メンテナンスもなくなる訳もなく……

 まあ、最近は色々と付け替えているからね。

 接続部分に問題がないかとか、動かした時に変な負荷がかかっていないかとか。

 

 そういうところは、ちゃんと見てもらわなければ、ね? 

 新しいパーツを買ったのに、壊れて使えなくなったら悲しいし。

 

 買い直すお金もないし……。

 

《最後の理由が切実ですね》

 

『言わないで』

 

「こっちの腕は、使ったのか?」

 

「うん。昨日、シミュレーションで」

 

「違和感は?」

 

「特にないね。重量は若干重くなるけど、銃を構えた時は安定してたし」

 

 エイブが表示を切り替え、私の腕へ目を向ける。

 

「接続部にも異常はない。出力の変動も、許容範囲内だ」

 

「でしょう?」

 

「お前が作ったわけじゃないだろう」

 

 相変わらず、手厳しい。

 

 一応、選んだのは私だよ? 

 そこに私個人の多少の評価があってもいいのでは? 

 

「次からは、使用した構成と時間をまとめて送れ。これだけ頻繁に替えられると、確認する側が面倒だ」

 

「え、ログ残ってない?」

 

「残ってる。それを全部こちらで拾わせるなと言ってるんだ」

 

 あぁ~……

 ごもっとも。

 

 エア、お願いできる? 

 

《はい。後ほどまとめておきます》

 

「分かった。次から送るね」

 

「そうしてくれ」

 

 エイブが私の脚へ手を伸ばす。

 接続部分を確かめ、端末へ何かを書き込んでいく。

 その姿を私はぼんやりと眺めていた。

 

 こういう情報を各企業に売ってるのかな……? 

 まあ、私個人としては、願ったりかなったりって感じだけどね? 

 

 ありがたいことです。

 ……あ、そうだ。

 

「ねえ、エイブ」

 

「何だ」

 

「私の姿勢制御って、ほかのニケにも付けられる?」

 

 端末へ向いていた顔が、こちらを向いた。

 

「……またその話か?」

 

「あれ? したっけ?」

 

 エイブは呆れた顔をしながら手を止め、近くに置いてあったコーヒーを手に取り口に運ぶ。

 

「似たような話は以前にした。そして明確に答えた」

 

「あぁ……行ける?」

 

「逆だ、馬鹿。あれはお前だからこそできるものだ。一般ニケにポン付けできるような代物じゃない」

 

 ですよねぇ~……

 やっぱりそこは、そう簡単にはいかないんだね。

 

 じゃあ、そっか~……一から作り直しになるのか……。

 

「なぜ聞く?」

 

「高機動部隊の子たちにも、ああいうのがあったらいいなって」

 

 エイブが、私の脚から手を離した。

 

「あぁ……話題に尽きない部隊だな……」

 

「そうそう。……ん?」

 

 話題に尽きない……とな? 

 

「何の話題?」

 

「知らないのか? 

 ゴッデスに匹敵する、人類の希望。ゴッデスの待機中、肩代わりをしているのがあの部隊だ」

 

 え? そうなの? 

 フェリーからは何も聞いてないけど……。

 

《……事実確認完了。レイヴン、エイブの言う通りゴッデスの待機命令後、高機動部隊の活動範囲が拡大しています》

 

 あー……だからか。

 だから、こんな戦局でも、私たち全員を待機させることができるんだ。

 

 ……なんだろう、仕事を奪われている気がする。

 

《間違っても、フェリーに文句を言いつけるなんて言わないでくださいね》

 

『まだ何も言ってない』

 

《……》

 

『手を抜いてほしいって言うのは言いたいけどね……』

 

《はぁ……》

 

 というか、そんな状況の子たちの要望を軍は最初突っぱねたの? 

 馬鹿なの? 

 

 そりゃ、直談判するぞって言う意味を込めた署名付きの再申請を出すわけだ……。

 というか、それで済ませてるあの子たちは優しすぎる。

 

 私だったら、書面の前に直談判しに行くけどなぁ……。

 

「なるほどねぇ……」

 

「先に言うが、ブースターの交換では済まないぞ」

 

「知ってる。制御系から変えないと駄目なんでしょ?」

 

 エイブが、少し目を細めた。

 

「お前の制御は、身体と推進装置の配置を含めて成立している。

 機能だけ抜き出して、別の身体へ入れれば同じように動くものじゃない」

 

「じゃあ、身体も合わせれば?」

 

「その身体を設計し直す必要があると言ってるんだ」

 

「うん。だから、それってできる?」

 

 エイブが黙った。

 

 ……できない? 

 できないなら、そう言ってくれていいんだけど。

 

「検証しなければ分からん。

 ただ、最初から換装を前提に作るのと、既存の個体を改修するのとでは、話が違う」

 

 そうして、エイブは端末へ簡単な図を出した。

 

 身体の動きを拾うところ。

 そこから、関節と推進装置へ指示を返すところ。

 今あるものを残せる部分もあれば、残す方が面倒になる部分もあるらしい。

 さらに、強い推力を使うなら、その力を受け止める側も見直さなければならない。

 

 ……ここまで聞くと、最初から一からボディを作り直した方がいい気がしてきた。

 もしかしてそう言う話? 

 

「接続後の感覚も変わる。動作確認だけでは済まん。本人が、その身体を自分のものとして扱えるかも確認する必要がある」

 

「そこは、ちゃんと調べてほしいね」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単じゃないから、エイブに聞いてるんだけど?」

 

 また、黙った。

 ……何か変なこと言った? 

 

《相談を受けることと、引き受けることは別かと》

 

『まだ聞いてるだけじゃん』

 

《ええ。今のところは》

 

 前科持ち見たいな言い方するじゃん……

 

「ちなみにだが、誰を改修したいんだ?」

 

「高機動部隊」

 

「だから、その中の誰だ」

 

「全員」

 

 エイブの指が止まった。

 

「……全員?」

 

「うん。フェリーも含めて、80人」

 

「帰れ」

 

「早くない?」

 

 まだメンテナンス終わってないよ? 

 

「お前な……。80人だぞ? 

 試しに何か付けてみるという話じゃない。設計、検証、設備、人員。どれだけ必要になると思ってる」

 

「そこは分からないから、聞いてるんだけど」

 

「私だけでどうにかなるようなものでもない。軍からの依頼か?」

 

「違うよ。私の相談」

 

「なら余計に悪い」

 

 エイブがおもむろに眉間にしわを寄せる。

 

 えぇ……。

 

「一応、軍は各企業に調べてもらうって。あの子たちにも、勝手に申し込まないようには言ってある」

 

「なら、その結果を待て」

 

「でも、私の身体を一番よく知ってるの、エイブでしょ?」

 

「それとこれとは別だ」

 

「別だけど、できる事なら一番信用できる所に頼みたいじゃん」

 

 企業たちが、何をどこまでできるのか。

 それは、私にも分からない。

 パーツは色々と出してくれているけど、既にいるニケへ使えるかは、また別のお話らしいし。

 

 だったら、まずは知っている相手に聞く。

 私の身体を調べて、アセンブル装置まで作ってくれた相手なら、なおさら。

 そして、私と言うデータを一番持ってるのもエイブ、もといV.T.Cだし。

 

「別に、明日までにやってって言ってるわけじゃないよ。できそうなら、どうすればできるか考えてほしいの」

 

「そのための仕事を、勝手に増やすなと言ってる」

 

 おっと……それ言われると、何も言えない……

 

 確かに、八十人分となればね。

 私一人でも、こうして色々と見てもらっているわけだし。

 

 ならば……! 

 

「私の身体、もっと詳しく調べてもいいよ」

 

 エイブが、顔を上げた。

 

「……何?」

 

「必要なデータがあるなら、協力する。

 どのパーツでどう動くかとか、制御がどうなってるかとか。今まで、メンテナンスの時しか見てないところもあるでしょ?」

 

 私の身体で、できていること。

 それを、あの子たちの身体でもできるようにする。

 

 全部が同じにはならないだろうけど、参考にはなるはず。

 

 たしかにV.T.Cも信用できないけど、企業よりはましだと思う。

 あとは、知り合いのほとんどがV.T.Cにいるから、何かあった時に頼れるのも大きい。

 アイツ(ムラクモ)は知らん。

 

「私が動いて、その時のデータを取ってもいい。足りないところがあるなら、言ってくれればいいし」

 

「……お前、自分が何を出そうとしているのか、分かってるのか?」

 

「私の身体の情報?」

 

「それが、どれだけの価値を持つかという話だ」

 

 勿論、分かってますとも。

 だから、交渉のカードとして使ってるわけだしね。

 

 無言でうなずく私を見たエイブの視線が、私から端末へ落ちた。

 

 すぐには返事がなかった。

 まあ、考えてくれるなら、それでいい。

 

 ……ただし。

 

「コーラルは駄目だからね」

 

 その顔が、こちらへ戻る。

 

「……分かっている。仲間のために自分自身の体を差し出す奴が頑なに拒む時点でな」

 

「うん。そこは、間違えないで」

 

 エイブの目を見る。

 

 この人なら、分かってくれると思う。

 でも、この人の上も、周りも、同じとは限らない。

 

「もし、そっちに手を出すなら、協力は終わり。

 採ったものも、調べたものも、全部潰すよ。誰が許可したとか、どこの施設だとかは関係ないから」

 

 とはいっても……極秘裏に調べられたらこっちには分からないし、どうしようもないんだけどね。

 でも、事前に言っておけば、後から文句を言われることもない。

 

 エアに頼む方法もあるけど、さすがのエアでもそこら辺までは監視できないだろうし……。

 ……無理だよね? それ出来たら楽だけど。

 

《不可能ですね。レイヴン自身がV.T.Cの中枢に行っていただければ、可能かもしれませんが》

 

『なんか、戦闘以外の潜入ミッションは出来ないみたいな前提でいらっしゃるようですが、エアさんよ? 

 一応、潜入っぽい依頼はやったことあるからね?』

 

《……スウィンバーン排除の監視装備MTをすべて排除していた気がしますが……》

 

『見つかっても警告前に殺れば、それは見つかってないってことだよ』

 

《やっぱり駄目ですね……》

 

 エイブは私の返答後しばらく黙っていた。

 それから、長く息を吐いた。

 

「発言が物騒過ぎだ。……その条件も含めて、上へ話す」

 

「お?」

 

「引き受けると言ったわけじゃない。お前の協力があっても、できると決まるわけではないからな」

 

「うんうん。分かってる」

 

「本当に分かってるか?」

 

「分かってるってば」

 

 まずは、話してもらえる。

 それだけでも、聞いてみた甲斐はあったね。

 

「それと、先に断っておくが、出来たとしても私は参加しない。

 ただでさえお前という存在で手一杯なのに、80人なんてやってられん」

 

「大丈夫だよ! 私もそこまで無理な事は言わないから!」

 

 エアが言う様に過労死されたら困るしね。

 ……でもニケって過労死するのかな? 

 

《精神的な面では可能性があるとだけ伝えておきます》

 

「無理な事を頼んでいる事は理解しているんだな……まったく」

 

「ありがとう、エイブ!」

 

「礼を言うのは早い」

 

 エイブが端末を置き、私の脚へ向き直った。

 

「それと、動くな。こっちはまだ終わってない」

 

「あ、はい」

 

 危ない危ない。

 嬉しくて、降りるところだった。

 

 

 

 

 

 

 レイヴンからの要望を受け、エイブはV.T.Cの中枢へ話を持ちかけることとなったが、V.T.Cとしてもレイヴンからの要望は、願ってもない話だった。

 エイブからの報告と要望を受け、V.T.Cは即座に該当の要望を受理。

 軍への調整を行う意向を示した。

 

 ここで寝耳に水の話となったのが、軍側である。

 

 それもそのはずで、軍に対する忠誠心の低い部隊の改修をむやみやらたらにやってもいいのか、という懸念があったからだ。

 しかもその部隊が、現時点の戦線に直結する部隊であることも、懸念を強める要因となった。

 

 しかし、そんな懸念で話を長引かせるほど、戦局も余裕があるわけではない。

 賛成派と反対派の意見がぶつかり合う中で折衷案として出された調査案だったが、気づけば外堀を埋められ、有無も言われぬ状況になっていた。

 

 皮肉なことに軍の形骸化を防ぐために始めたV.T.Cとの協力関係は、企業とは別の依存先を作るだけのものとなり果てた。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 軍本部、参謀総長執務室。

 室内には、資料を送る指の音だけが響いていた。

 

 V.T.Cから届いた技術協力の申し出。

 研究人員、使用設備、検証項目。そして、軍へ求める協力事項。

 

 参謀総長は最後まで目を通し、冒頭へ戻った。

 レイヴン大尉本人による、検証への協力。

 

「……広告だけで判断するなとは言ったがね」

 

 危険性を理解させれば、部隊も待つだろう。

 そのために、本人を頼った。

 

 大尉は、理解していた。

 そのうえで、自分が信用する技師へ相談し、自身の身体まで差し出した。

 

 こちらの要請を無視したわけではない。

 むしろ、随分と熱心に取り組んでくれたらしい。

 

 参謀総長は、細く息を吐いた。

 

 検証はV.T.C主導。

 必要な研究人員と設備は、同組織が用意する。

 軍に求められているのは、高機動部隊の運用記録の提供と、検査日程の調整だった。

 

 ゴッデス部隊の復帰後、戦線への影響を抑えながら順次実施する。

 こちらが会議で挙げた懸念には、丁寧に手が打たれていた。

 

 少なくとも、技術面と戦力運用の面では。

 

「……抜け目がないな」

 

 感心すべきなのだろう。

 こちらが難色を示した理由を、一つずつ取り除いてきたのだから。

 

 だが、参謀総長の表情は晴れなかった。

 資料を閉じ、続けて作戦参謀から上がってきた回答案を開く。

 

 検証への協力を認めること。

 必要な運用記録を提供すること。

 軍側から担当者を派遣し、検証結果の共有と運用評価を行うこと。

 そして、改修後の補給と整備については、別途協議とすること。

 

 最後の一文に、指が止まった。

 

「……別途、か」

 

 改修後の運用。

 言葉にすれば、それだけのことだ。

 

 だが、身体を改修した後も、軍はその装備を使い続けなければならない。

 交換部品も、制御の更新も、故障時の対応も。

 今回だけ協力してもらえば済む話ではなかった。

 

 参謀総長は椅子へ深く背を預け、机の端に置かれた煙草へ手を伸ばした。

 

 一本取り出し、火をつける。

 小さな炎が揺れ、やがて紫煙がゆっくりと立ち上った。

 

 煙を吐き出しながら、再び回答案へ目を落とす。

 改修が成功すれば、高機動部隊の戦力はさらに向上するだろう。

 現状の戦局を考えれば、それは歓迎すべきことだった。

 

 しかし、その装備を維持するために、軍がどこまで他組織へ依存することになるのか。

 肝心の部分が、まだ定まっていない。

 

「……技術を持たずして、運用だけを担う、か」

 

 軍の戦力でありながら、軍だけでは維持できない。

 企業への依存を減らすために始めた協力関係が、今度はV.T.Cへの依存を生み出そうとしている。

 

 皮肉な話だった。

 

 参謀総長は煙草を灰皿へ近づけ、灰を落とした。

 

 そもそも、軍に選択の余地がどれほど残されているというのか。

 高機動部隊は既に戦線を支える重要な戦力となっている。

 

 今後、敵が戦術を変えてくれば、現在の装備で対応し続けられる保証もない。

 改修を拒めば、戦力の向上は望めない。

 受け入れれば、軍の手から技術が遠ざかる。

 

 そして、その部隊を率いるのは、軍の都合だけでは動かない大尉だった。

 

「……まったく」

 

 煙を吐き出し、苦笑する。

 

 かつて、あの個体を廃棄するか否かで議論が紛糾した際も、軍は利用価値を優先した。

 危険性を承知のうえで、使えるものは使うと決めたのだ。

 

 その判断が間違っていたとは思わない。

 現に、大尉は戦果を挙げ、今では失うことのできない戦力となっている。

 

 だが、戦力としての価値が高まるほど、軍の側も譲歩を迫られるようになった。

 

 参謀総長は煙草を口元へ運び、短く吸い込んだ。

 しばらくして、細い煙が静かに流れる。

 

「……使えるものは、使わねばならんか」

 

 その原則は、今も変わらない。

 ならば、問題は何を使うかではなく、どう使い続けるかだ。

 

 参謀総長は煙草を灰皿へ押し当て、火を消した。

 

 端末を操作し、作戦参謀へ回線を繋ぐ。

 数度の呼び出し音の後、通信が成立した。

 

「あぁ、私だ。V.T.Cへの回答案を確認した」

 

 相手の返答を待つ。

 

「検証への協力については異存ない。ただし、改修後の運用条件については、もう少し詰めておきたい」

 

 参謀総長は回答案を開き直した。

 

「整備技術の共有範囲、交換部品の供給条件、それから軍側技術者の参加だ。この三点について、先方との協議事項に加えてくれんか」

 

 返答を聞きながら、机の上で指を組む。

 

「あぁ、容易に応じるとは思っておらん。だが、改修が終わってからでは、こちらも交渉しづらくなる」

 

 しばらく沈黙が続いた。

 

「そうだな。検証そのものを止めるつもりはない。戦局を考えれば、そんな余裕はないだろう」

 

 参謀総長は椅子へ座り直した。

 

「技術連絡官とも調整し、修正案をまとめてくれ。先方へ正式に回答する前に、もう一度私のところへ回してもらいたい」

 

 一拍置く。

 

「それと、V.T.Cとの協議の場も設けておいてくれ。できるだけ早い方がいい」

 

 相手の返答を最後まで聞き、短く頷いた。

 

「あぁ。頼んだ」

 

 通信を切る。

 執務室に静けさが戻った。

 

 参謀総長は机上の資料を眺め、吸い殻の残る灰皿へ視線を落とした。

 

 軍の統制を維持すること。

 必要な戦力を確保すること。

 その両方を満たす答えがあるのかは、まだ分からない。

 

 だが、どちらか一方を簡単に捨てられるほど、今の軍に余裕はなかった。

 

「……難儀な話だ」

 

 そう呟き、参謀総長は次の資料を開いた。

 

 画面には、別の戦線から届いた報告が表示されていた。

 そこにもまた、早急な対応を求める文字が並んでいる。

 

 参謀総長は小さく息を吐き、資料を読み進めた。

 

 

 

 

 

 

 

【おまけ:静かな母艦】

 

 

「というわけで、一週間くらい。新しい子が来るまで、エイブのところにお泊まりしてきます!」

 

 食堂に顔を出したレイヴンは、開口一番、そう告げた。

 

 その表情は明るい。

 研究施設へ検査を受けに行くというより、旅行へ出かける子供の顔だった。

 

「泊まり込みで調べるそうだ。次の合流までには戻す」

 

 疲れきった様な顔をした指揮官が補足すると、ドロシーは手にしていたカップを置いた。

 

「……随分と楽しそうですね」

 

「そりゃね。色々試せるし、設備も使えるし!」

 

「検査に行くのですよね?」

 

「うん!」

 

 返事だけは、実に素直だった。

 

 何を期待しているのかは、あえて聞かなかった。

 聞けば、長くなる。

 

「スノー、武器の方は帰ってからね」

 

「あ、はい。案をまとめておきます!」

 

「よろしく! じゃ、行ってきまーす!」

 

 ひらひらと手を振り、レイヴンが食堂を出ていく。

 

 廊下から、何かを思い出したような声がした。

 指揮官が後を追い、今度こそ静かになる。

 

 ドロシーはカップを持ち直した。

 

「……少しは、落ち着いて過ごせそうですね」

 

「そうね」

 

 向かいで、リリスが笑っていた。

 

 

 

 初日は、快適だった。

 

 廊下を歩いていても、突然呼び止められない。

 訓練を終えても、もう一回と誘われない。

 食事中に、用途の分からない部品を見せられることもない。

 

 予定通りに物事が進む。

 

 ドロシーは、その静けさを好ましく思った。

 

 

 

 三日目。

 

 訓練を終えたドロシーは、シミュレーションルームの記録を確認していた。

 

 自身の数字は、前回よりもよい。

 命中率も、所要時間も。

 

 その上に並ぶ名前は、変わらなかった。

 

 レイヴン。

 

 あの人が見れば、何か言うだろう。

 褒めるか、次の課題を出すか。あるいは、これなら一緒にやれるねと、勝手に次の訓練を始めるか。

 

 そこまで考え、ドロシーは画面を閉じた。

 

 今日は、予定していた分を終えた。

 もう一回付き合う理由はない。

 

 ……誘われてもいないのだけれど。

 

 

 四日目。

 

 食堂の隅で、スノーホワイトが端末を覗き込んでいた。

 

 傍らには、手を付けていない食事。

 画面を拡大しては何かを書き込み、また別の図へ戻る。

 

「スノーホワイト。食事が冷めてしまいますよ」

 

「あっ……す、すみません!」

 

 顔を上げた彼女は、慌てて端末を脇へ寄せた。

 

「謝ることではありませんが、何を見ていたのですか?」

 

「武器の設計です。レイヴンから、作ってほしいものがあると言われていて」

 

 ドロシーは、向かいの席へ腰を下ろした。

 

 ちょうどよい。

 こちらでも何か言われているなら、聞いておいた方がいいだろう。

 

「……無茶なことを頼まれていませんか?」

 

「無茶、ですか?」

 

「作れもしないものを欲しがったり、完成を急かしたり。……そういうところがありますから」

 

「いえ。時間はいくらかかってもいいって。ただ……」

 

「ただ?」

 

「大きな杭を、思いっきり叩き込めるものが欲しいそうです」

 

 ドロシーの手が止まった。

 

「……杭?」

 

「はい!」

 

 スノーホワイトは端末を持ち直し、画面をこちらへ向けた。

 

 腕に沿うような構造。

 その先に収められた、太い杭。

 

「近づいた時の勢いを使いたいそうなんです。それに、ただ押し込むだけではなくて、打ち出す仕組みにすれば──」

 

「少し待ってください。それを、腕に付けるのですか?」

 

「はい。その方が扱いやすいと」

 

「……撃ち込む時、自分の腕は大丈夫なのでしょうね?」

 

「そこは私も気になって、負荷を計算しているところです」

 

 スノーホワイトが別の図を開く。

 

「固定する場所と、力を受ける部分を分けられればと思っていて。レイヴンにも確認しないといけませんが……」

 

「そうですね。本人が大丈夫と言っても、ちゃんと調べてください」

 

「はい!」

 

 よい返事だった。

 少なくとも、頼まれたからといって、無条件に作ろうとしているわけではないらしい。

 

 ドロシーは、少し肩の力を抜いた。

 

「それなら、いいのです。何か困ったことを言われたら、遠慮なく相談してください」

 

「ありがとうございます。でも、楽しかったですよ」

 

「……楽しかった?」

 

「はい。どういう時に使いたいのか、どこが好きなのか、色々教えてもらって」

 

 スノーホワイトの顔が、自然とほころぶ。

 

「試しに図を描いたら、すごく喜んでくれました」

 

 その様子は、容易に想像できた。

 

 身を乗り出して、ここをこうしたいと指を差し、頼んでもいない説明まで始める。

 相手が興味を示せば、なおさら止まらない。

 

「……話、長かったでしょう?」

 

「はい!」

 

 即答だった。

 

 ドロシーは思わず笑い、スノーホワイトもつられて笑った。

 

「でも、私も色々聞いてしまったので」

 

「そうですか」

 

 あの人ばかりが騒いでいたわけでも、ないらしい。

 

 ドロシーは画面へ目を戻した。

 設計図の端には、まだ採用されていないらしい案が、いくつも並んでいる。

 

「帰ってきたら、見せるのですか?」

 

「はい。どれがいいか、一緒に考えようと思っています」

 

「……そうですか」

 

 帰ってきた途端、また騒がしくなるのだろう。

 

 ドロシーは端末をそっと押し戻した。

 

「その前に、食事を済ませてくださいね」

 

「あっ、はい!」

 

 スノーホワイトがスプーンを取る。

 

 その向かいで、ドロシーはもう一度だけ、設計図へ視線を落とした。

 

「それと、試す時はシミュレーションルームで。甲板では使わせないでください」

 

「……甲板?」

 

「そこは、念のためです」

 

 

 

 五日目。

 

 食堂で、リリスがふと顔を上げた。

 

「静かね」

 

「そうですね」

 

「レイヴン、ちゃんと検査を受けているかしら」

 

「専任技師が付いているのですから、大丈夫でしょう」

 

 ドロシーは答え、紅茶へ口を付けた。

 

 それから、カップを下ろす。

 

「……何か、連絡はありましたか?」

 

「昨日、写真が届いたわ」

 

「写真?」

 

「新しい設備を見せてもらったんですって」

 

 差し出された端末には、見慣れない装置と、その前で満面の笑みを浮かべるレイヴンが映っていた。

 

 ドロシーは、少し眉を寄せた。

 

「楽しそうですね」

 

「ええ。とっても」

 

「……検査に行ったはずなのですが」

 

「ちゃんと受けているそうよ。連絡があったわ」

 

「それなら、よいのですけれど」

 

 端末を返す。

 リリスは受け取ってからも、こちらを見ていた。

 

「何ですか?」

 

「いいえ。レイヴンがいなくて、少し寂しいのかなって」

 

「……どうして、そうなるのです」

 

「帰ってくる日、気にしていたでしょう?」

 

「次の合流に間に合うのか、確認しただけです」

 

「そう?」

 

「そうです」

 

 きっぱりと答え、ドロシーは紅茶を飲む。

 

 リリスは、それ以上何も言わなかった。

 ただ、楽しそうに微笑んでいる。

 

 その顔が、少々気に入らない。

 

 静かなのは、よいことだ。

 余計な心配も、予定外の訓練もない。

 こうして、ゆっくり紅茶を楽しめる。

 

 ドロシーがカップを置いた、その時。

 

 廊下から足音が聞こえた。

 

 顔が、扉へ向く。

 

「……まだ帰ってこないわよ?」

 

 向かいから、声がした。

 

 ドロシーはゆっくりと視線を戻した。

 

「誰も、そのようなことは言っていません」

 

「ええ」

 

 リリスは、とうとう小さく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【次世代型高機動ニケ開発計画】

 

 各企業試験進捗報告書

 

 ──エリシオン──

 

 応募者数:320名

 試験実施数:246名

 

 技術的成功:7機

 成功率:2.85%

 

 思考転換:42機

 機能不適合:163機

 死亡・廃棄処理:41機

 

 

 

 ──ミシリス・インダストリ──

 

 応募者数:480名

 試験実施数:391名

 

 技術的成功:20機

 成功率:5.12%

 

 思考転換:137機

 機能不適合:151機

 死亡・廃棄処理:103機

 

 

 

 ──テトラ・ライン──

 

 応募者数:120名

 試験実施数:64名

 

 技術的成功:1機

 成功率:1.56%

 

 思考転換:12機

 機能不適合:45機

 死亡・廃棄処理:7機

 

 

 

 **【総計】**

 

 応募者数:920名

 試験実施数:701名

 

 技術的成功:28機

 成功率:3.99%

 

 思考転換:191機

 機能不適合:359機

 死亡・廃棄処理:151機

 

 ──-

 

 開発状況:継続




お?
企業も成功してんじゃん!

成功したニケ達!
おめでとう!
サランラップじゃないし、ワイルドキャットくんぐらいの片言さぐらいだったら、話せるし良かったね!!

原作改変の度合いについて

  • 過度な介入は避けて通るべし
  • レイヴンの行動によるものであればよし
  • 私はハッピーエンドを好む
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