ココロワに転生したレズが光源氏よろしくサクナを理想の恋人として教育していく話   作:高丸

9 / 9
最終話 共依存機構、完成

目が覚める。

 

瞼を開けた瞬間、天井の木目がぼんやりと滲んでいた。

光はやわらかく、部屋の空気はぬるく静まり返っている。

――けれど、どこかがおかしい。身体が重い。感覚が鈍い。息が浅い。

 

「起きたか、ココロワ」

 

その声に反応して、ココロワはゆっくりと顔を横に向けた。

そこには、昨日と変わらぬ装いのまま、寝台の傍らに正座するサクナの姿があった。

髪も乱れておらず、手も膝の上にきちんと置かれている。

けれど、ただ一点――その眼差しだけが、冷えていた。

 

「……サクナ、さん?」

 

舌がわずかに回らない。喉が渇いている。

着物ははだけ、頭の奥に薄い靄がかかり、股の間には鈍い熱が残っていた。

足には痺れのような感覚があり、上体を起こすと、背骨がぎしりと鳴った。

 

――これは、

 

(……私は遂に、彼女の“もの”になったのね)

 

そう思った。

確信と陶酔が、喉の奥からじわりと滲み出す。

けれど顔には出さない。

目を細め、少しだけ困ったように微笑んで、あくまで“いつも通り”を演じる。

 

「随分……ご迷惑をおかけしたようで」

 

微笑は仮面。

口元に浮かべた“穏やかさ”を、慎重に丁寧に、乱さぬよう貼り直す。

 

「……どういうことじゃ?」

 

その問いに含まれた空気が、場を凍らせた。

サクナの声に、温度がなかった。

柔らかくもなく、怒りもなく――ただ感情が“抜けている”。

まるで何かを落としてしまったまま、拾うことをやめてしまったような声。

 

「わたくしの体を……布で拭ってくれたのでしょう?」

 

そう言って手を動かそうとした瞬間、手首にぴり、とした感触が走る。

 

――縄だ。

 

視線を下げれば、枕元の下から伸びた細い縄が、手首にしっかりと結ばれていた。

痛みはない。皮膚を傷つける気配もない。

けれどその“逃がす気がない”という意志だけが、皮膚を通して重たく伝わってくる。

 

足首も同じだ。

優しい手つきで巻かれたようなその縄は、まるで「甘やかな鎖」。

逃げようと思えば思うほど、“ここが檻だ”と気づかされる。

 

そして、サクナの顔。

 

無表情。

にこりともしない。泣いてもいない。怒りもない。

ただ、「そうするしかなかった」という、壊れた人形のような“納得”だけが、顔に浮かんでいた。

 

(嬉しい、嬉しい、嬉しい……!)

 

けれど、顔には出さない。

微笑も、恍惚も、わずかな狂気すら。

この瞬間すらも、“相手に言わせることで完成させたい”。

私の欲しい“愛の言葉”を、あなたの口から聞きたい。

 

「……どうして、縛るんですか?」

 

演じる。怯えを。困惑を。

わざとほんの少し声を震わせ、息を詰まらせる。

 

「タマさんはどこに…?」

 

その瞬間、サクナの顔がぴくりと引き攣った。

眉が微かに動き、口元に硬い線が走る。

 

“タマさん”――

たったそれだけの言葉が、サクナの内側に鋭く突き刺さる。

例え親代わりの存在であっても、

今この空間で、“サクナ以外の名”を言ってほしくなかった。

 

わしだけを見て、

わしだけを呼び、

わしだけを世界と信じていてほしかった。

 

それが崩れかけたたった一瞬に、サクナの中の“なにか”がはっきりと壊れた。

 

「ずっと、お主のことが欲しかった」

 

その言葉は、ただの告白ではなかった。

焼き尽くすような熱と、呪詛のような執着が込められていた。

 

「誰にも触れさせたくない。

誰にも見せたくない。

誰にも、名前すら呼ばせたくない」

 

迷いも、理性も、常識もすべて剥がれ落ちて――

それは、人が人を欲する原初のかたち。

腐り落ちるほどに甘く、

光すら差さぬほどに真っ直ぐで、醜くて、美しい。

 

「共に暮らそう。ここで。永遠に」

 

サクナの目の奥に宿っていたのは、

ココロワが焦がれて止まぬ――爛れきった、純然たる独占欲だった。

 

そして、ついに。

 

「嬉しいわっ……“サクナ”っ……!」

 

その声は、演技ではなかった。

今まで幾度となく、心の中では呼び捨てていた名前。

けれど、面と向かって声に出したのは――これが、初めてだった。

 

「“私”も、ずっと……“サクナ”のそばにいたかった…!」

 

その音を、サクナは確かに聞いた。

目を、見開く。

その眼差しには、驚きと、歓喜と、混じりきらぬ戸惑いが入り交じっていた。

けれど次の瞬間、すべてを押し流すように、

 

「……貴方の愛を、受け取ります」

 

ココロワが告げたその言葉は、

自ら檻に入る者の“自発的な誓い”だった。

 

サクナの指が、かすかに震えた。

声は出ない。言葉が、うまく口から落ちてこない。

ただ、胸の奥がじん、と焼けつくように熱く――

その熱が涙となって、頬を伝った。

 

欲し、求め、奪い、与え、壊し、喰らった――

そのすべての果てに残ったのは、

ひとつの静かな結末。

 

この夜、ふたりは――

互いの狂気を抱きしめ合い、完全な恋の機構を閉じた。

 

まるで絡繰り人形が最後の歯車を噛み合わすように、

すべては収まるべき場所に収まり、もう二度と戻れない。

 

永遠が始まる音すらないまま、

夜は静かに、更けていった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

327人殺した転生美少女の俺は、誰も殺していない ~首を刎ねると、現代日本で目を覚ます~(作者:里奈使徒)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

327人殺した——というのは、濡れ衣だ。▼首を刎ねると、相手は現代日本で目を覚ます。そして俺も、一分だけ日本に戻れる。▼見た目は金髪碧眼の美少女。中身は過労死した32歳の元社畜。▼米が食いたい。漫画が読みたい。アニメが見たい。▼だから俺は、貧民街の絶望した者たちを選んで送っている。▼感謝してほしい。▼現場に残された血文字「RJ」——憲兵はこれを「Red Jo…


総合評価:1204/評価:7/連載:23話/更新日時:2026年05月02日(土) 15:27 小説情報

夭折した天才漫画家だけど、転生したらTS美少女だったから勝手に続き描く(作者:匿名TS美少女)(オリジナル現代/日常)

夭折した天才漫画家が転生して続きを書く話。


総合評価:2710/評価:7.34/未完:17話/更新日時:2026年03月03日(火) 12:04 小説情報

転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜(作者:だいたい大丈夫)(原作:るろうに剣心)

かつて京都を震撼させた「人斬り抜刀斎」と並び称された、新選組一番隊組長・沖田総司。▼労咳の運命を越え、彼女が手にしたのは平穏な明治の世と、亡き夫が残した一人息子・弥彦だった。▼しかし、その剣はまだ、錆びついてはいない。▼「たまには人を斬っておかないと、腕が鈍るでしょう?」▼昼は息子の教育に頭を悩ませる士族の未亡人。夜は月夜に紛れ、暗殺者として死体の山を築く。…


総合評価:3004/評価:7.01/連載:77話/更新日時:2026年05月17日(日) 13:33 小説情報

七崩賢『強欲の魔女』エキドナ(偽物)(作者:魔女の茶会のお茶汲み係)(原作:葬送のフリーレン)

 フリーレン世界にエキドナ憑依系TS転生者をぶち込んで、ただただエキドナロールプレイさせるだけの愉快なお話。▼「ボクはただ、君の全てを知りたいだけさ」▼ なおスペックは、種族が魔族になった以外まんまエキドナと同程度の力を扱えるが、頭が少しばかり残念になってます。▼「お前はその好奇心を満たすためにどれだけの人間を殺したんだ」▼ ちなこの転生者は人殺したことはあ…


総合評価:4723/評価:8.37/連載:2話/更新日時:2026年04月05日(日) 22:18 小説情報

現代ダンジョンで魔法少女になったら男に戻れなくなった(作者:TSスキー)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

会社が倒産してダラダラとした生活を送っていたところ、気まぐれで受けたダンジョン講習をあっさり通ってしまい、冒険者としての道を歩み始めた主人公。▼初のレベルアップで手に入れた固有スキルはなぜか『魔法少女』で「一度変身すると二度と男に戻れない」という致命的な欠陥つき。▼戸籍問題、社会生活、主人公の貞操を狙うヒロイン、現代ダンジョンで無事に生き抜くことはできるか。


総合評価:14911/評価:8.92/連載:11話/更新日時:2026年05月16日(土) 19:01 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>