どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目)   作:bbbーb・bーbb

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悪夢の街。

 あれから数日後。夢の中では数ヶ月が経過した頃。死んだ魚人の目をした狩人が適当観をうろついていた。

 

 スタマイどころか形状変化すら一つも出なかった。全くここ最近は碌なことがないと狩人は毒づいた。

 

 狩人仲間になれそうだったイゾルデは死に、いつの間にか名前の読みを「イェー・シーエン」から「よう・しゃくえん」に変えていた葉釈淵はもうずっと失踪している。もう散々なのである。

 

 せっかくあの時イゾルデと交信して手に入れたカレル文字擬きも大したものではなかった。「主」を表すらしいそれを脳に刻んでも何も起きなかったのだ。

 

「こんなのは、あんまりにも、あんまりじゃあないか……」

 

 呪詛りながら広場に出ると、狩人はアキラが儀玄に跪いている様を見つけた。狩人を見るなりその死んだ魚人のような面構えを心配しながらも「ちょうど良かった」と儀玄と福福が声をかける。

 

 なんでも儀玄はこれから出張を行う身であり暫く帰っては来れないが故、今の内にアキラ兄妹を雲嶽山の正式な弟子にすることにしたのだという。

 

「ついでだし、お前さんも弟子になっておかないか?」

 

 勧誘する儀玄だったが、狩人の答えは既に決まっていた。突如として顔つきが覚悟に満ちる狩人。

 

「有り難いお誘いだが、断らせてもらおう。私はあくまで、アンナリーゼ女王陛下に仕える身であるが故──」

 

「新しい道着と誓印があるぞ」

 

 その場で深々と拝謁を決め込む狩人。新しい装束を貰えるのか。なんだ誓印って。カレル文字みたいですごくわくわくする。理由はたったそれだけのことである。

 

 狩人にも忠誠心はある。だがそれはそれとしてカレル文字や狩人証がもらえるなら平気で敵対する連中にすら頭を下げるのがこの男なのだ。讃頌会は別である。多分。

 

「さあ、啜るが良い。淹れたての茶だ。故にお前さんに熱かろう」

 

 儀玄の言葉と共に福福から何故か手のひらに直接注がれる熱湯。凄まじい苦悶の表情を浮かべながらも狩人が飲み干すと、これで完了だと告げさっさと儀玄は出発してしまった。アキラ兄妹は普通に茶碗で飲ませてもらったらしい。何故。

 

 すぐさま福福から道着と誓印をもらった。両方すぐに懐へしまっておいた。誓印と聞いてカレル文字や狩人の徴のようなものを想像していたが、その勾玉の首飾りはどちらかといえば狩人証に似た代物であった。

 

 後で水盆の使者たちに見せてみようと考えていると、狩人は福福から、遠出した雲嶽山の弟子が近日帰ってくることを聞いた。

 

 ふわふわで大きな尻尾に栗色のロングヘア、 さらに可愛らしい赤い飾り紐をつけた女の子を見かけたら「姉弟子」と呼ぶように言われた。

 

「やっほー! 何話してるの?」

 

 ほぼ時を同じくして、どこからともなく現れた柚葉が話に割り込んできた。ちょっとしたことだと答える一行。なぜここへと聞いてみる。

 

 柚葉と真斗は「奇々解々」と店名の書かれた看板をぶら下げた装飾品店を商っている──狩人はここの準常連である──わけだが、ここ最近売れ行きが良すぎるがあまり素材が足りなくなったので仕入れにきたのだという。

 

「上手くいっているようで良かった。あの稼業の分も合わせれば、稼ぎはかなりものなのだろう?」

 

「あー……それがね……」

 

 気まずそうな顔で目を逸らす柚葉。何かあったのかと狩人が聞く。

 

 あの稼業、というのは副業兼趣味として柚葉が始めたオンライン上の動画配信活動のことである。金など最悪貴族であるアリスに任せればなんとかなるのだが、柚葉は親友に金をせびる類の人間ではなかった。そもそも、特にそこまで困窮しているわけでもないのだ。

 

 結果は順調で、みるみる内に登録者が四桁五桁と増えていった。ダミーヘッドマイクの耳元でニヤつきながら「ざぁこざぁこ」と囁くだけで金を貰えるのだから全く良い商売であると苦笑いを浮かべたのを狩人はよく覚えていた。

 

 が、今狩人の目の前に居る彼女はあの稼業から抜けたと溜め息を付いている。その吐息はなぜか安堵の色を帯びていた。

 

「順調そのものだったではないか。なぜだ」

 

「ストーカーがね……」

 

 Oh……。ゆっくりと頷きながら色々察する狩人。夜道で数人に襲いかかられたのだ。ステゴロで勝てたは良いものの、こんなことをいつまでも続けてられはしないと確信させられたのだと柚葉は語る。

 

 まあこんな話はここまでにして、と柚葉が話題の方向を修正する。真斗も来ているのだが門前で揉め事になっているのだと聞く一行。

 

 柚葉と別れを告げ門の前に出ると、見慣れたムチムチの巨体と坊主頭の労働者がスーツの男と口論になっていた。というよりは、今ちょうど終わったところらしい。人混みの中に去っていくスーツの男。

 

啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊(あああああああああああ)!!!!!! 殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺!!!!!!!!」

 

「おいパウル! 落ち着けって! マジで!」

 

 あまりのブチギレ具合にビビる真斗。衛非地区の方言で叫びながら顔を赤くしているこの坊主頭はパウルというそうだ。

 

「そんなに騒いでどうした」

 

「ああ、狩人さんじゃないスか! アキラくんまで!」

 

 アキラを見るなり尻尾をぶんぶんと振り回し始める真斗。近場のホロウで新しく資源地を見つけたところをTOPS企業に横取りされたのだという。今やホロウの中は彼らに雇われたプロキシや無法者どもでひしめき合っている。

 

「俺たちでも雇えれば良いんすけど、そう都合よく手伝ってくれるプロキシなんて……」

 

 ……ん? ふと、全員の視線がアキラに向いた。弟子になってからの初修行といこうか。快諾であった。途端に機嫌を良くするパウル。先に向かうそうだ。

 

 狩人たちは一旦解散したが、すぐに奇々解々に集合することとなった。

 

 路地に入るなり、奇々解々のショーケースに張り付いて動かないフードの女性を目にした。今回ついてくると真斗から聞かれた、柚葉たちの、そして彼の「ネッ友」ことリュシアである。

 

 アキラと真斗は既に居た。狩人を見て手を振るのを前に、リュシアも振り向いた。ヤギのような瞳をしており、薄青の髪からは二本の曲線を帯びた角が生えていた。声をかける狩人。

 

「ああ、君が新しい狩人かね……!」

 

 すこぶる芝居がかった様子で語るリュシア。二つ名を「マヨの語り部」とする彼女に、早々狩人はたじろいた。いかにもめんどくさそうである。悪人ではなさそうだが。

 

「マヨじゃない、夜魔!」

 

 違うのか。狩人が聞くと、全然違うよと返ってくる。早く質問してとせがまれた狩人が話を聞いてみようとしたその時、真斗がそれを制止した。こいつの話をまともに聞いてたら夜になるぞ、と。

 

 すっかり肩を落としてしまった彼女に狩人は一抹の同情を見せたが、真斗があそこまで言うのなら本当に碌でもない話なのだろうと見切りをつけた。

 

 だが、それもリュシアがエーテリアスについて語り始めるまでのことだった。「ジェムゴーレム」という単語を聞くなり狩人が好奇心に目を細める。

 

 一方リュシアも己の話を食い入るように聞いてくれる珍しい人間に心が湧き上がり、これから出会うと考えられるエーテリアスについて早口でまくし立てた。彼女自身も実際に会ったことはないそうだが。

 

「石ころサイズのエーテリアスなんだけど、拾った人の身体を瞬時に乗っ取っちゃうんだって!」

 

 なにそれ! 気持ち悪そう! 殺したい! 突如として目がキマる狩人に怯えるリュシア。狩人は興奮のあまりノコ鉈をガシャガシャしていた。アキラに宥められようやく落ち着きを見せた。

 

 どうやらリュシアは辺境に住む「夜守り人」と呼ばれる一族の一員だそうで、エーテリアスに襲われづらい体質なのだという。

 

 それもあってか自身は大のエーテリアス好きであり、単身ホロウに乗り込んではエーテリアスを調査しているのだとリュシアは語った。

 

 守り人。狩人はその言葉に反応した。目の前に立つ女はどうにも彼の知っている「守り人」とは違い過ぎたが為である。

 

 まずデブでない。それが一番の驚きであった。狩人たちの間で彼らが「三デブ」、単体なら時にはシンプルに「デブ」などと呼ばれているように、守り人が極端に肥え太った身体をしていることは狩人たちの常識なのだ。

 

 それがどうだろう、目の前に立つ彼女は肥満とは無縁の体型をしており、むしろ栄養失調なのではと心配になるほどである。

 

 ……殺したら血晶落としたりするのかな。最悪な好奇心を抱く狩人だったが、まさかまだ正気の友人を殺すわけにもいかないと首を横に振った。あんまり正気じゃない気がするのはご愛嬌である。

 

 ホロウに入って早々、狩人はリュシアの力に慄いた。鐘の付いた杖とよく分からない魔導書らしきものでエーテリアスを味方として召喚するのだ。

 

 閉所で彼女がハティ二匹を喚び出したときなど「閉所」「山羊」「犬二匹」という条件反射で存在しないトラウマを掘り起こされて発狂した。突然全身から血を噴き出し倒れる狩人を見てリュシアは泣いた。

 

「おい! 囲まれてるぞ!」

 

 今助けに行くぞと走りだす真斗。リュシアは何故か神妙な面持ちでその場に座り込んでいた。死にたいのかと叫んだその時、狩人は自身の足元に使者たちがメッセージを掲げていることに気がついた。顔を近づけ読んでみる。

 

悪魔により、乱闘が始まる

 

 ??? 狩人が首を捻った刹那、リュシアの周囲に大量のエーテリアスが現れた。なるほどこれで数の優位に立つのかと感心する狩人。

 

 ……なんかもみくちゃになってるのは気の所為だろうか。エーテリアスだけでなくリュシアまで敵味方の区別無しに殴り合っている。

 

 狩人は激しく困惑した。なんなのだこの光景は。メッセージについてもである。彼女は別に悪魔ではない。それはそれとして狩人も混ざった。真斗もである。なんなら途中からアキラまで混ざってきた。

 

 ようやく乱闘を終えリュシア共々正気を取り戻したところで、一行は遂にパウルと出会えた。しかしどうにも様子がおかしい。

 

 自らを雲嶽山の弟子にして武術師範と名乗っている。道着も着ているが、雲嶽山は道着の貸し出しや販売はしていないはずである。

 

 どうにも生気のない顔面に思い切りジンジャー糖水をぶちまけるリュシア。狩人もなんとなくさっき貰っておいたのを投げつけた。効果は無かったが。

 

 真斗が力尽くで彼を病院へ連れていこうとしたその時、調査員の服を着た紫髪の男が現れた。「モス……!?」と真斗は驚愕に目を見開いていた。

 

 モスと真斗は知り合いなのだが、ここ二年間消息不明になっていたのだという。となれば真斗の反応にも納得がいく。

 

 しかし最も不気味に感じたのはモスに案内されて来た「町」であった。ホロウのただ中に人の住む町があるのだ。

 

 一見すると何の変哲もない町だが、よく見れば至るところにミアズマが根を張っていた。住民は特に気にする様子がないようである。

 

 住民は皆幸せそうな態度をとっているが、その瞳に生気は宿っていなかった。恐らくだが、人ではない。狩人がアキラにそれを伝えると考えすぎだろうと返されたが、不自然なことには同意してもらえた。

 

 いつの間にか、リュシアが居なくなった。探すついでに町を探索することにした。真斗はモスと話があるようなので、狩人とアキラで行くこととなった。

 

 やはり不気味だ。悪夢の中のような、嫌な雰囲気が立ち込めていた。現実から離れた場所に現れるそれである。

 

 ふと、女性二人が会話しているのを見た。近づいてみると、片や文学の巨匠、片や名女優だという。文学の巨匠が書いた話を女優が演じるという話をしていた。

 

 文学の巨匠の書く話というのは一体どんなものなのだろうか。好奇心に負け、狩人とアキラはこっそり彼女の持つ原稿を盗み見た。紙の最上部に大きくタイトルらしきものが書かれていた。

 

「モブセスリョナ合同……?」

 

「あっ! ちょっと! 見ないでください!」

 

 鬼の剣幕で追いかけ回される狩人たち。ようやく振り切り息を整え顔を上げると、リュシアがいた。出会う住民に片っ端からジンジャー糖水をぶちまけていたようだ。効果は無かったようだが。

 

 彼女の懸命な聞き込みの結果、「講堂」と呼ばれる場所が立ち入り禁止となっていることを暴けたそうだ。では押し入ろうと一瞬で意気投合する狩人。楽しい楽しい秘匿破りの時間である。

 

「悪いが、それはさせられないな」

 

 何だ邪魔をしおって殺すぞと狩人が振り向いた先に立っていたのはモスであった。手慣れた誘導でリュシアを別の場所へ走らせた。

 

 彼は実に多くのことを語った。彼らはみなかつてなりたかった姿で生きていること、そんな自分たちのことを「夢縋り」と呼んでいることを。

 

「奇遇だな。私も夢に縋る立場だ」

 

「狩人、余計なことを言わないでくれ」

 

 ただでさえ話がややこしいのにと額を抑えるアキラ。仕方が無いと狩人が辺りに物色できそうなものは無いかと振り向くと──住民は皆消えていた。モスも含めて。

 

「これはっ……!?」

 

 辺りを見渡すアキラ。一面は赤い霧に包まれ、遠くの方が見えなくなっていた。狩人も敵が居ないか導きの光を探している。

 

 ちりん。小さな鐘の音が静寂を破り、狩人の全身を粟立たせる。こんな時に鐘の音など、まず間違いなく凶兆の類であろう。

 

 そして、狩人の予想が裏切られることは無かった。悍ましいエーテルの波動を感じ振り向いた二人が目にしたものは、一体の怪物であった。

 

 右腕は赤く肥大しており、身長は狩人より頭二つか三つ分程高かった。一目で分かる。圧倒的な強者だ。

 

 いかにも楽しそうな相手である。アキラを一瞥し、狩人が目の前の怪物に向き直る。ノコギリ鉈を展開し、いざ勝負というその時、しかしまたしても鐘が鳴った。

 

「秘密に近づく愚か者に、終わりなき死を……」

 

 うわあ! なんかでた! 地面より這い出でし獣の皮を被った男にアキラが叫ぶ。

 

「よし逃げるぞ」

 

 教会の刺客がセリフを言い終えぬ内に、狩人は韋駄天、アキラを抱えて逃走し始めた。あんな男、これ以上相手していられるものか。

 

「狩人、あの男はそんなに強いのかい? 知り合いのような顔をしていたけれど……」

 

「強いというより面倒くさい。ただのストーカーだ」

 

 あのなりで……!? 自身を姫様抱っこする狩人の首に腕を回したままアキラが目を見張る。獣の皮を被りメイスを握ったあの姿は、ストーカーというにはあまりに戦士じみていた。

 

 走りながら、狩人は思案していた。鐘の音だからといってそうどこにもかしこにもやってこられてはたまったものではない。そもそもあの男は悪夢の中で殺した筈なのだ。

 

 少し離れるだけで教会の刺客、ブラドーは消えた。この男は色んなところで現れる割には諦めが早すぎるのだ。最初に現れた怪物はまだ追いかけてきているが。

 

 全速力でやっとのこと霧を走り抜けると、アキラ達を探していた真斗と曲がり角で真正面からぶつかった。狩人の筋力と真斗のムチムチボディに勢い良く挟まれ重傷を負うアキラ。リュシアが抱える。

 

 真斗が前に飛び出し、怪物の攻撃を受け止めようと大剣を構えたその瞬間。更に前に飛び出した「何か」が代わりに攻撃を受け止めた。自らを守った者を前にリュシアが絶句する。目を覚ましたアキラも動揺である。

 

「真斗……!?」

 

 そう、真斗を攻撃から守ったのはもう一人の真斗だったのだ。わけの分からぬ光景に啓蒙を得る狩人。

 

 攻撃を受け止めた方の真斗は白装束に身を包んでおり、代わりに肌がコンクリートのように薄暗かった。ダーク真斗である。

 

 彼の肌について狩人が十九世紀の倫理観で何か碌でもないことを言い出す前に、アキラはさっさと立ち上がり、狩人におしゃべり厳禁と伝えた。渋々納得する狩人。

 

 ダーク真斗は夢から逃げるのかだのガキの頃がだのと1Pカラー真斗に話しているが、狩人には何も分からなかった。アキラたちも同様であった。

 

 幸い「今は」敵対しないそうで、このまま見逃してくれるらしい。皆が帰ろうとした時、しかし一人だけ前の進み出た者が居た。

 

「……なんだァ? てめェ……」

 

「私と決闘しないか」

 

 狩人であった。今は仲間に危害を加えないが、それもまた一時的なことだとこのダーク真斗は言っていた。ではとりあえず一回殺し合ってみようという発想である。

 

 単純にとても強そうだったこともある。卑怯な真似をせずに正々堂々と戦ってくれそうな良い相手である。今回は搦め手無しで戦おうと心に決める狩人。

 

「そういうことなら、相手してやんよ。ほら、かかってこい。最初の一発は喰らってやるよ」

 

「言ったな。ではいくぞ──」

 

「なに馬鹿なこと言ってんすか! ほら早く行くっすよ!」

 

 襟元を掴まれ引きずられていく狩人であった。




最近RDR2買いました。アメリカでも獣狩りはたのしいです。いつかAC6も買いたい。セール逃しちゃったのがなぁ……

ゼンゼロ新章の音声欠落バグはもう治ったんですかね。ダイアリンちゃんがあまりに愛おしすぎるので早く始めたいんですが。早く発狂させたい。
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