どこもかしこも、エーテリアスばかりだ……(涙目) 作:bbbーb・bーbb
今回ギャグ要素かなり少なめです。次回も前半の戦闘中はずっとシリアスにするつもりです。ご容赦を。
「ここは……?」
呟くアキラ。裂け目をくぐった先に待っていたのは廃都であった。夜故に暗く、そして彼ら自身を除いて人気の一つすらなかった。
自身ら以外に人間の生体反応が確認出来ないとFairyが言った。狩人を除いて。暇なのだろうか、一心不乱に華麗な前転で樽や壺を割って回っている。アキラたちを見ると歓喜に瞳を輝かせた。
「ああ、良かった。この場所には何もない。漁れるものが小銭程度しか無いのだよ」
不気味がる狩人。死体を漁って回ろうとする方が不気味ではとアキラは言おうとも思ったが、すぐにやめた。
Fairyによればこの場所は航空宇宙科学ステーションであり、最後に人の活動が記録されたのは実に十年以上前のことであるという。
十年以上。つまりは旧都陥落の頃からということである。サラはここに居るはずなのだがとアキラが首を捻る。
「ここ……落ち着くわ」
イドリーが呟いた。人の少ないこの場所は幻影も殆ど無く、ホロウの中だというのに皆の区別ができるという。
「えっ!? じゃあ私も!?」
大声を上げるリュシア。腕を元気よく振り回してアピールをしている。
何のモノマネをしているのか、狩人には分かった。狩人というものは形より動きを、反復される動作を記憶するものなのだ。
あまりに動きの根っこが似ているものなので、狩人は少し笑ってしまった。回答はイドリーが先だったが。気付いたのはほぼ二人同時にである。
「え〜っとぉ……デュラハンに化けた、『夜魔の語り部』ちゃん!」
「正解! さっすが『いちごパフェ』〜!」
嬉しそうに一層動きを激しくするリュシア。「夜魔の語り部」とはネット上でリュシアが使っているペンネームである。何の脈絡も無く繰り出されたデュラハンチョップが狩人たちを襲う。
あまりに殺気めいた手刀を全員が躱すと、直後に「ミ゙ッ゙」と短い悲鳴が聞こえた。リュシアの小さな手の甲は、鉄筋製の街灯の前にあまりに柔らかかったのだ。
「おいやめろよ、ニセデュラハン……」
呆れる真斗。ため息をつきながらもハンカチを取り出している。大丈夫、わたしがやるわと言われるがまますぐにイドリーへ手渡したが。
「それより、ここ何か変じゃないスか?」
「うう、今リュシア、お゙手々がい゙だい゙っ゙でごどじがわがん゙な゙い゙……」
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔面をイドリーに拭かれながら、リュシアは答えた。イドリーは心配そうな顔を浮かべていた。
「真斗くんの言う通りだな。ここは屋外のはずだ。やけに暗いけれど、もう夜だったか?」
アキラが答える。はっと皆が空を見上げたが、そうするまでも無かった。「裂け目」をくぐってから現在までの数分間、まだ一度も自然の光を見ていない。
「夜じゃないよ。ここはずっとこんな感じだから」
直後に、聞き覚えのある声が全員の鼓膜を撫でた。咄嗟に振り返った先にあったのは、小さな身体に見合った小さなフード。
子どもリュシアじゃないか! アキラは声を上げて驚いた。他の皆も目を丸くしている。当の子どもリュシアは首を傾げたまま、じっと今のリュシアを見つめていた。
「ねえ、なんでここに居るの?」
「飴は要るか」
「モスは負けたの?」
「ああ。飴は要るか」
数秒の沈黙の後、ようやく子どもリュシアが狩人から飴を受け取った。真横でしゃがみ込み目線の高さを合わせていた狩人がそうっと立ち上がる。
この男は、狩人は、「少女」という存在にやたら執着を見せる。泣いている女児を見つけるとすぐにお菓子を渡そうとするのだ。お陰様で朱鳶とはもうすっかり顔見知りである。
虹色のペロペロキャンディーを舐める笑顔の子どもリュシアに、リュシアが申し訳無さそうな顔で口を開いた。自身の右腕を左手で握っている。
「うん。夢縋りたちはみんな帰っちゃったの。『エーテルの海』にね」
「エーテルの海」。狩人は道中にて、ちらりとリュシアが話していたことを辛うじて覚えていた。曰く、エーテリアスは、なんと不死の存在なのだという。
一度死したエーテリアスは夢を通じて「エーテルの海」なるものへと還り、そして失った大切な者を再び見ることとなる。生ける人が見る故人の夢は、つまり実際の再会なのだと。
どこか聞いたことのある、それでいてずっと救いに満ちた話だと狩人はこの考えを気に入っていたのだ。
「あたし、夢縋りって呼び方きらい。リュシアは『おとう』と遊びたいだけなのに」
子どもリュシアの言葉に、アキラが瞼をぴくりと上げた。顎に手を当て、疑問からほんの僅かに眉間にしわを寄せている。
「『おとう』……ワンダリングハンターと遊んでいるということかい?」
「うん。あたし今、『おとう』とかくれんぼしてるの」
初めてアキラたちと出会った時も、子どもリュシアは遊んでいたつもりだそうだ。
遊んでいたようには見えなかったけれど。苦笑するアキラの声は子どもリュシアには聞こえなかったか、あるいは無視されたようである。
「『町』で遊びつかれたら、鈴を鳴らせば『おとう』が迎えに来てくれるんだ。たまにヘンなのも来ちゃうけど」
絶対あいつだ……「ヘンなの」の正体を知っている狩人、そしてついこの前生目で目撃したアキラは全身けもかわ瀉血マンの記憶に顔を覆った。
「あとイドリーもね、たまにヘンなところで寝ててあぶないから、『おとう』が『町』へ帰してあげてるんだよ」
イドリーが軽く目を見開いた。「町」の外で気を失った彼女を毎度毎度「講堂」に連れ帰っていたのは、他でもないワンダリングハンターだったのだ。
「……ねえ」
暫くの沈黙のあと、リュシアが口を開いた。俯き気味なその表情は後ろからは隠れて見えず、子どもリュシアにだけそれが見えていた。
「どうして、ワンダリングハンターのことを『おとう』って呼んでるの?」
その声色は、出した本人にすら分からぬ程に小さく、しかし確かに震えていた。それが恐怖のためか悲しみのためなのか、リュシア自身にも分からなかった。
「知りたい? じゃあ、リュシアとかくれんぼしよ! あたしを見つけられたら教えてあげる」
「へ? あっ、ちょ、待って……」
縋るように手を伸ばした大リュシアが言い切る前に、子どもリュシアの輪郭は夢に帰る狩人のそれが如く霧散した。
どこからともなく聞こえてくるかぞえ歌。どうやら本当にかくれんぼを行うつもりのようである。狩人は危うくため息をつくところであった。追いかけっこなら得意なのだが。
探しましょうと話すイドリーの声と表情は、その陰りを隠せていなかった。
苔や草の緑色がコンクリートの灰色とほぼ互角に縄張り争いをしている無人街の中を歩いていく内、イドリーはやはり幻影を、その土地の過去を見た。
閉鎖されたゲートの前で、顔が虹色のノイズに隠れた、数人の兵士が立っていた。喋る内容からしてサラと関係を持っている可能性は低い。ごく一般的な職業軍人のようである。
彼らに導かれる形でゲートを遠回り、かぞえ歌の音源へと近付いていく。兵士たちの幻影の数は一つ、また一つと減っていき、その度に幻影たちの声は小さくなり、絶望の色を帯びていった。
ふと、イドリーが額を押さえた。熱にでも浮かされたような呻り声を一瞬だけあげた。どうにも「町」から抜け出したことでミアズマの影響が消え去ったがためか、幻影を再現する力が弱まっているという。
良いことじゃないかと微笑むアキラに、でも悔しいのとイドリーは答えた。今までアキラたちを苦しめてきたこの力が、ようやく役に立てる時が来るなりこれなのか、と。
「そんなことないって。イドちゃんはもう、たっくさんの人を助けてきたんだから!」
「ありがとうリュシアちゃん。でもわたし、もう少しだけ頑張ってみたいの」
この物語だけは、ちゃんと最初から最後まで、君に見せてあげたいから。そう続けたイドリーの顔はくわりと険しく、その声は決意と覚悟を以て歪むことなくリュシアを見据えた。
「ねえ、なんでリュシアを探してくれないの? 途中でやめちゃうなんてズルだよ。あたし、ズルするひときらい!」
幼い声に皆が驚きと共に振り返ってみれば、子どもリュシアがそこに居た。「待って」。かくれんぼを自ら放棄した彼女にあっけにとられる一同の中、大きい方のリュシアだけが間髪入れずにそう返事をした。聞きたいことがあるの、と、縋るように。
「あのさ、あたしたち……お友達になろうよ」
今度は子どもリュシアの方が口をあんぐりと開けた。大きい方は「もちろん、『ワンダリングハンター』も一緒に……」と続けている。夏にしては少し冷えたごく弱い風が、相変わらず留まったように流れ続けていた。
「……どうしてエーテリアスとお友達になりたいの?」
その言葉に、なんて言えばいいかわかんないけど、と大きい方のリュシアは数秒ほど考え込む様子を見せた後、すぐに考えを伝える決意を固め、その薄く桃色がかった小さな唇を開いた。
「『戦う』だけじゃない気がしてるんだ、あたしたちの関わり方って」
「そうやって人とちがうことばっかしてると、どんどんさみしくなっちゃうよ」
さみしく、か。二人の会話を無言で聞きながら、狩人はふとヤーナムのことを思っていた。
狩人は、自身の選択を後悔することがなかった。少なくとも、ほとんどの場合において。
あの土地において何が最善で何が最悪かなどと考えたところで死ぬ回数を増やすだけであり、また獣を前にそれほど悠長なことを考える余裕も無かった。
ヤーナムに来ていなければ獣狩りに巻き込まれることも、親や友人、もしかすると居たやもしれぬ恋人か妻の顔を忘れてしまうこともなかっただろうが、同時に病は癒えず、何より人形ちゃんと出会うこともなかった。
死闘の果て、上位者へと成り果て、恐らくは未来永劫に人には戻れぬ異形となったことに一瞬でも「これで本当に良かったのだろうか」と思う日が今までに一度もなかったと言えば嘘になる。
だが発見と挑戦、何より数え切れぬほどの親愛なる友人たちの居るこの街に辿り着けたことは、自身にとって確かに幸福であるとも狩人には思えていたのだ。
狩人が考え込む中、とっくのとうに大きなリュシアは言葉を見つけていた。優しく、しかし確信に満ちた目を小さな自身へ向ける。
「平気だよ。そんなことで見限ったりしない友達が、もうあたしにはいるから。たくさんいるわけじゃないけど、あたしは十分満足してる」
「なら、リュシアたちもいらないじゃん」
えっ。先ほどの姿からは想像もできないほど、その上ずった短い声は、力なく震えていた。
「あんまり欲しい欲しいしてると、ほんとのお友達もいなくなっちゃうよ」
「ど、どういう──」
「かくれんぼの続きね!」
狼狽する大きなリュシアの言葉を遮り、子どもリュシアはつむじ風のような速度で走って消えてしまった。
「ッ……! 待って!」
同等、あるいはそれ以上の速度で追う大きなリュシア。どういうわけか、その顔には焦燥の色があった。それ一色にすら見える程に。他の皆があっと手を伸ばした時、すでに二人はホロウの影に消えていた。
足速いなあ、どっちも。イアス越しに呟くリン。かぞえ歌もまた流れ始めた。追いかける以外に選択肢などある筈がなかった。一本道、迷うこともない。
途中で見た兵士の影は、すでに一人になっていた。風格と装備の違いから察するに隊長のようで、左の腕をだらりと垂らしている。辛うじて剣を持っているが、握るので精一杯のようであった。
あの状態で、まだ進むのか。アキラは戦慄に似た感情と、これ以上知ることへの得体のしれない恐怖を感じ始めていた。狩人も同じである。
上位者の智慧に近づき、触れようとするときに味わう畏怖ではない。それはまるで聖歌隊の真実、あるいは、あの家族の結末を知るような──。
少し進んだ、行き止まりのように見える大きな円形の広場にリュシアは居た。ぽつんと一人立ち尽くしている。
小さな方はまだ見つかっていないようだが、どうやらここでかぞえ歌が途切れたようで、実際広場に入ると電源が切れたかのように歌声は止まった。
それは突然のことであった。イドリーが自身の頭を両手で挟み、俯いたまま呻り始めたのだ。前髪の間で月光に照らされて銀色に輝くのは脂汗である。
目を閉じ、歯を食いしばったその顔は明らかに苦痛によって歪んでいる。どうやらここでも幻が見えるそうだ。
「大丈夫? 無理しないで!」
「大丈夫。ふぅ……はあっ……一緒に探すって、約束、したもの……」
リュシアの言葉に、イドリーはそう返した。もはや気丈に取り繕う余裕は無い。頭を常に内側からトンカチで殴られ続けるような激痛。
それでも、やらねばならぬ。イドリーが無理やり上体を起こし、前を向く。瞳に恐怖は映っていない。それは、友だちとの約束なのだから。
もう一回。絞り出すような声と共に、イドリーが、もしかすると最後の力を振り絞る。それと同時に現れた影は、やはり例の隊長の幻、そして──あまりに見慣れた輪郭の、黒い影であった。
「おとう、エーテリアスになっちゃうの?」
一瞬、全員が息の仕方を忘れた。片膝をつき、もはや立つこともままならない、まさに瀕死という様子の幻に、この影は今、何と。
隊長の幻は虹色に濁った顔を上げると、途端にその呼吸に困惑と驚愕の色を浮かべた。狩人の心臓は、今にも身体を突き破りそうであった。やめろ。知りたくない。言うな。その言葉を、言わないでくれ。
「……リュシア……?」
狩人は、全てを理解してしまった。発狂はしなかった。出来なかった。できていればどれほど幸運だったろうか。その言葉、四文字の意味は、けして人の理解し得ぬ畏れるべき宇宙の神秘でも、聖歌隊を始めとする陰湿なる邪知暴虐な人類の記録などではない。
それはこの街のどこにでもある、ただのありふれた悲劇。その一つに過ぎなかった。
瞳の震えを止める術を失った狩人を置いて、影の声は既に安らぎに満ちたものに変わっていた。
「幻覚を見る程重症ってことだな……まあいい、最期にまた、リュシアの顔が見れるなら……」
からん、と冷たい地面に跳ねたのはリュシアの杖である。言葉を発するものは居なかった。アキラの頭の中で、昨日リュシアとした会話が絶え間なく繰り返される。
リュシアがまだごく幼い頃、兵士として戦いに赴くこととなった彼は、かくれんぼと称して姿を消した。愛する我が子が、戯れの中で失えるように。
「ああ、まったく。幻の君も、本当にかわいいんだな……」
すまない、リュシア。その一言を最後に、幻の声は止まった。影が煙のように消える中、リュシアは下ろした両手を固く握りしめていた。目を伏せたまま、声を震わせている。
「そういう、ことだったんだ。あの子は、あたしの夢縋りなんかじゃなくて」
一瞬、リュシアの掠れた言葉が詰まる。話す者は居ない。俯いたまま、しばらくしてようやくまた口を開いた。
「おとうの……おとうはずっと……!」
「……ごめんなさい。再現すべきではなかったのかもしれないわ」
イドリーの言葉であった。戦槌を握る力を強める両の手とは裏腹に、その顔は背けられている。むしろ感謝しているとリュシアは言ってみせたが。
「やっと『マインドリーダー』を見つけられて、スッキリしたあ」
背伸びでもしそうな爽やかな声に混じる、喉奥の詰まり。それを無理くりに飲み込んで、彼女は杖を拾い直したのだ。「会いに来たよ、おとう」と呟いて。
少し経ち、再び響き始めた歌声に従って皆が無機質な両開きの鉄扉を開けたとき、ふと気付いたアキラが狩人に声をかける。
狩人は起きるように肩を跳ねさせたあと、すぐに心なしか落ち着かない様子でアキラたちに着いていった。呆然としたのはずいぶんと久しぶりのことであった。
鉄扉の奥は廊下であった。非常用なのか随分と無機質で、辛うじて明かりが点いていたものの暗いことに変わりは無かった。
声が交わされることはほとんどなく、コンクリートを踏むヒールやブーツやスニーカーの音がばらばらに響くの身であった。
真っ白な扉があると一瞬錯覚したが、奥の明るい部屋の光が差し込んでいるというだけだった。入ってみると、これまた巨大な円形広場があった。マリアの居た時計塔より少し広い程度である。
狩人の啓蒙が囁き始める。死闘が近い。敵は見えないが、確証などどこにもありはしないが、そうだと分かる。
「すっご~い! リュシアたち、もう隠れるとこなくなっちゃった!」
いつの間に視界に入り込んできていたこどもリュシア。「たち」と聞いて皆が構えた。
大人のリュシアは──当然だが──喜んではおらず、自らの小さな姿を訝しませている。
ねえ、と、ふと大きなリュシアが口を開いた。その声は背後、真斗たちに向けられたものであった。
「戦わないってのは、だめかな。あたしたちはたまたまバッタリ会っただけ、って感じで」
皆が目を丸くしたあと、互いに目をやる。全員が肩の力を抜くのがリュシアにも分かった。安堵の息を漏らす者まで居た。
「うん。リュシアちゃんがそうしたいなら、わたしは良いわよ」
イドリーが最初に頷いた。追って真斗も。但しこちらは「昔日の丘の連中にワンダリングハンターが手を出さないなら」という条件付きである。苦い顔はしていなかったが。
「僕がここに居る理由はサラだからね。他のことはみんなに委ねるよ」
アキラも頷き、そうすると残りは狩人のみとなった。アキラたちの肩が再び緊張で凝り固まる。
「
狩人が困ったように肩を竦めてみせたとき、リュシアは思わず安堵のあまりに膝を曲げるところであった。
なにも、今殺す必要はない。狩人はそう踏んだのだ。何も、娘の前で父を殺す必要は無いだろう。たとえその父が、もはや怪物に過ぎないとしても。
大人のリュシアは目に見えて顔を明るくし、説得するように小さなリュシアを見つめた。君もずっとここで過ごしていれば良いのではと。
「うーん。リュシアも『おとう』も、つかれちゃった。あと一回だけ遊んだら、帰っておねんねする」
「そっ、か。帰っちゃうんだ」
静かに目を伏せる、大きなリュシア。小さな方は不思議そうに顔を傾けている。エーテリアスは死なないのだから、また夢で会えるのだから、いったい何を悲しむことがあるのかと。
「ほら、最後のかくれんぼしよ! 途中でやめたらきらいだから!」
こどもリュシアは真っ白に並んだ乳歯を見せると、いつの間にか広場の中央に濃く湧いていた赤い霧の中に軽い足取りで向かっていった。
「……うん。そうだよね」
リュシアが呟く。ふ、と上げた口角はどこか悲しげで、懐かしむように柔らかな弧を描いていた。濃霧に向けて皆が構える。
「あたしだって、途中で投げ出す人なんか大っ嫌いだもん!」
リュシアが笑って涙を拭うのと、濃霧から白い巨体、
次回でこの章は終わりです。