聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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燃えよ誇り!制せ怒り!導かれるは炎の真価‼

(フレア視点)

 

 私は両腕も脚も絡め取られていた。フォノスと名乗った邪精霊の糸は、確かに強靭で、わずかに動かしただけでも肌を切り裂き、小宇宙を吸い上げていくのが分かる。蜘蛛の巣に囚われた蝶のように、力を奪われながらじわじわと死へ追い込まれていく――そういう仕組みなのだろう。

 

 だが、ため息が漏れた。

 

(……やれやれ。これで絶望しろと?乙女を縛り付けるなら、もう少し気の利いた演出をしてほしいものですわね)

 

 私の表情を見たフォノスは、勝利を確信したように残忍な笑みを浮かべた。

 

「ククク……どうだ、神闘士の女よ。我が『パラライズ・シルク』は、よく締まるだろう?小宇宙を吸い上げ、やがてその美しい身体を、内側からバラバラにしてくれるぞ!」

 

 私は顔を伏せ、深いため息をもう一度吐いた。

 

「……」

 

 その沈黙を、彼は絶望と勘違いしたらしい。

 

「どうした?自らの運命に絶望し、諦めたか?」

 

 私は首を上げ、真っ直ぐに彼の目を見据えた。

 

「いえ。それなりに見目麗しい方ですので、礼儀としてお相手をしてみたのですが……」

 

 一拍置いて、冷ややかに言い放つ。

 

「――あまりに生ぬるい攻撃をなさるので、心底がっかりしたのですわ」

 

 フォノスの笑みが凍りつく。彼の顔が見る見るうちに歪み、怒りの色で染まっていった。

 

 

 糸の束縛がさらに強まる。全身に痛みが走る。だが、胸の奥から溢れる灼熱の小宇宙を、惜しげもなく全身に解き放つ。

 

 炎が奔り、纏わりつく糸を一瞬で焼き尽くす。焦げた臭いが辺りに広がり、自由を取り戻した私の身体に、再び神闘衣が煌めいた。

 

「なっ……!?」

 

 フォノスの驚愕が響く。

 

 私はゆっくりと前に歩み出る。心底不機嫌な声で、彼に語りかけた。

 

「……アッシュ様が、以前、こうおっしゃっていましたの。『強大な敵が現れた際、まず仲間の一人が倒され、それを乗り越えて仲間たちが覚醒する……それこそが物語の様式美である』と」

 

「何の話だ!?」

 

 彼の困惑を無視し、言葉を続ける。

 

「ですから私、少しだけ期待していたのですわ。貴方がたのような邪魔虫が現れたのですから、私もその美しい形式に乗ることができるのだと。私が倒され、仲間が怒りに燃えて覚醒する……それも悪くはないと」

 

 私は目を細め、拳を握りしめた。

 

「……なのに」

 

 小宇宙が一気に膨張する。熱が渦巻き、大地が震える。

 

「これでは、私はそのお約束に乗ることができません」

 

 フォノスがわずかに後退するのが見えた。彼は本能で理解したのだろう。いま目の前にあるのは、獲物ではなく、自分を焼き尽くす炎そのものだと。

 

 私は吐き捨てるように言った。

 

「――よくも、私とアッシュ様の、ささやかな楽しみを邪魔してくださいましたわねッ!!」

 

 拳から炎が奔る。理不尽極まりない怒り。だが、それは私にとって紛れもない真実だった。

 

 この世界で最も大切な人と過ごす、ほんの些細な時間。それを奪う者がいるのなら、私は容赦しない。

 

 フォノスが構え直す。その瞳には怒りよりも困惑が滲んでいた。

 

 私は笑みを浮かべる。

 

「さあ――ストレス発散のお時間ですわ」

 

 灼熱の炎と、殺戮の糸。二つの小宇宙が、激突の瞬間を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 私は拳を握りしめ、全身を駆け巡る小宇宙を臨界点まで高めていた。怒りの炎が天へと昇り、背後に現れるのは、世界の終末に顕れると伝わる炎の巨人スルト。その幻影が顕現した瞬間、私の心はただ一つの衝動に支配されていた。

 

「塵も残さず、消し炭にして差し上げますわ!」

 

 叫びと共に、必殺の技名を口にする。

 

「ムスペルス・エルズル――『ムスペルの炎』!!」

 

 その炎は、氷に閉ざされたアスガルドすら一瞬にして焦土に変えるだろう。邪精霊フォノスの薄ら笑いごと、世界の理すら焼き尽くす終末の火。私の怒りが昇華した究極の破壊の光。それが放たれようとした、その刹那だった。

 

「待て、フレア。その技を、ここで使うでない」

 

 穏やかで、それでいて有無を言わせぬ声が、炎の奔流を押しとどめた。私は思わず振り返る。そこには、いつの間にか神闘衣を纏ったドルバルの姿があった。

 

 炎の巨人の幻影が揺らぐ。私は眉をひそめた。

 

「……ドルバル様?なぜここに」

 

「せっかくエリス殿が再建してくださった、美しい神殿に傷がつくであろう」

 

 あの狸じみた神官が、真剣な目で私を見据えていた。普段の飄々とした笑みはなく、そこにあるのは冷徹な神職者の眼差しだった。

 

 私は怒りの熱を胸の奥で必死に押さえ込みながら、彼を見据えた。

 

「ですが、ここであの邪精霊を滅さねば、被害は拡大するばかりですわ!小手先の攻撃では通じません。ならば、終末の炎で焼き尽くすしか!」

 

「それは違う」

 

 ドルバルの声は静かだった。けれど、炎よりも強く私の心を貫いた。

 

「神を僭称する者が持つ『絶対の力』を、人の身にある我らが乱発すれば、それはやがて我ら自身を滅ぼす。お主の炎は強大だ。だが同時に、扱いを誤れば世界そのものを敵に回す」

 

 彼はそこで一歩進み出て、私の前に立った。

 

「お主の炎が美しいことは、私も認めよう。だが、美しさとは破壊にあるのではない。制御の中にこそ輝くのだ」

 

 その言葉は、私にとって屈辱であり、同時に正論でもあった。怒りに任せて放とうとした技。それを放てば、確かにフォノスは滅びるかもしれない。だが、神殿も、仲間も、そして……アッシュ様の信頼すらも、同時に灰にしてしまう。

 

 私は歯噛みし、拳を震わせた。

 

「……っ、分かっておりますわ!ですが、あの男は……」

 

「その男は、私が片づけよう」

 

 ドルバルの声は決然としていた。狸じみた打算家の顔はどこにもない。かつてオーディーンの代行者と呼ばれた神官の誇りが、そこに立っていた。

 

 フォノスが苛立ち混じりに笑う。

 

「ふん、神闘士が二人がかりで俺一人に立ち向かうか。随分と余裕のないことだな」

 

 ドルバルは答えない。ただ静かに神闘衣の小宇宙を高めていく。私はその背を見ながら、怒りを鎮めることに集中した。

 

(……アッシュ様がこの場におられたら、きっと私を叱るでしょうね。『冷静になれ、フレア』と。ならば、ここは……)

 

 私は拳を下ろし、炎の巨人の幻影を解き放った。燃え盛るスルトの影は霧散し、胸の奥に小さな火種だけを残す。

 

「……承知しました、ドルバル殿。ですが、もしもの時は、この炎、容赦なく放ちます。その覚悟は、持っていてくださいまし」

 

「無論だ」

 

 彼の答えは短く、そして重かった。

 

 

この物語の着地点は‥‥。

  • 十二宮編までで十分
  • ハーデス編で終わらせて
  • ΩやNDまで続けて欲しい
  • エピソードGの世界線も欲しい
  • 黄金魂とか海皇再起も手を出そう
  • もうつまらない。今すぐ完結
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