聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
老獪なる総大主教ドルバルの一手により、ついに戦場は敵の本拠へと移る。
先陣を切るは、射手座の黄金聖闘士アイオロス!
後に続くは、聖域の勇士たち、そして異国の仲間たち――。
だが、邪精霊どもは彼らを迎え撃つべく、闇の楽園で待ち構えていた!
友情か、愛か、陰謀か――分断される仲間たちの運命!
迫りくる黄金の林檎の呪縛!
翔子とエリス、その魂は果たしてひとつに響けるのか!?
次回――
「扉は開いた――今、侵攻の刻!アテナ軍、日本より出撃‼」
聖闘士よ、闇を駆け抜け、光を示せ‼
(フレア視点)
「…では、教主がこの害虫駆除を?」
私は半ば皮肉を込めてそう言った。
ドルバル様は、口の端を僅かに上げ、余裕たっぷりに頷かれる。
「うむ。聖域に来てからというもの、身体がなまって仕方なかったのだ。一匹くらい、構わんだろう?秘書官どの?」
あの狸親父め――心の中で舌打ちする。私が命を賭して戦おうとした相手を、まるで道端に転がる蟲けらでも相手にするような態度。けれど、私自身、先ほどの戦いで鬱憤が溜まっていたのも事実だった。ならば、ここは譲ってやるのも一興だ。
「…ご勝手に、ドルバル様」
私は小宇宙を収め、腕を組んで見物に回った。
案の定、フォノスの表情は屈辱に染まった。
「誰が害虫だと…!貴様ら、神闘士も神官も、まとめて引き裂いてくれる!」
怒りに任せた小宇宙が、蜘蛛の糸となって奔り出す。周囲の木々を切り裂き、空間そのものを縫い付けるかのような猛攻。それは、先ほど私を捕らえようとした「パラライズ・シルク」をさらに強化したものだった。
だが――ドルバル様は動かない。
否、動く必要がないのだ。
「ふむ。これが殺戮を司る邪精霊の力か。だが、残念ながら…軽いな」
伸びてきた無数の糸を、彼は片手で払っただけで霧散させた。小宇宙の厚みに差がありすぎる。まるで、幼子が紐を投げつけて大人に絡みつこうとするのを、片腕で軽くほどくようなもの。
フォノスはなおも必死に攻撃を続ける。大地から突き出す棘、天から降り注ぐ糸の雨、そして鋭い蹴撃。だが、その全てをドルバル様は片手で受け流し、軽く足を動かすだけで避けてしまう。
「くっ…馬鹿な…!この俺が、赤子のように弄ばれるなど…!」
「弄んでなどおらん。私はただ、遊んでいるだけだ」
その声音には、冷笑でも怒りでもなく、ただの退屈そうな調子が混じっていた。戯れ――そう、まさしく彼にとってこの戦いは遊戯でしかないのだ。
私は腕を組んだまま、複雑な心境でそれを眺めていた。
アスガルドで「最強」と呼ばれた男の力を、改めて目の当たりにする。私が本気で挑んでも、決して届かない絶壁のような存在。けれど、彼はその絶壁を「無駄に高すぎる塀」とでも言いたげに、飄々と超えていく。
(…悔しいですわね)
アッシュ様に仕える首席秘書官としての矜持。神闘士としての誇り。どちらも、目の前の男の前では揺らぎかねない。だが、私は決して忘れない。彼は老獪な狸。全てを計算の上で動く腹黒さを持つ。あの余裕も、その一部だ。
「終わりにしようか」
ドルバル様が軽く呟く。
次の瞬間、フォノスの全身が硬直した。何が起きたのか、一瞬私にも分からなかった。だが、よく目を凝らせば、彼の小宇宙が完全に押さえ込まれている。圧倒的な重圧が、フォノスの力を封じていたのだ。
「がっ…動け…ない……っ!」
「神の代行者を名乗った年月は、伊達ではないぞ。小僧」
ドルバル様が片手を掲げると、周囲の空気が震え、フォノスの身体が地面に叩きつけられた。血を吐き、もがく彼を見下ろしながら、ドルバル様は飄々と肩を竦める。
「これにて害虫駆除完了、というわけだ」
私はため息をついた。
「…本当に、ご戯れですのね」
「お主の出番を奪ったことは謝ろう。しかし、私は久方ぶりに体を動かしたくなっただけだ」
そう言って笑う彼に、怒りを向けることはできなかった。あまりに圧倒的で、あまりに隙のない勝利。それが悔しくて、胸の奥に熱いものが残る。
――アッシュ様。私はまだ、至らない女ですわ。
だが、この悔しさも糧にして、必ずや貴方の隣にふさわしい強さを得てみせます。
そう心の中で誓いながら、私は敗者と勝者を見下ろすしかなかった。
◆
ドルバル様の小宇宙が、再び膨れ上がった。先ほどまで「遊戯」と言わんばかりに力を弄んでいたその姿勢とは一変し、まるで大地そのものを支配するかのような威容。私ですら、思わず背筋を伸ばしてしまった。
「とりあえず、貴様を封印してから、その力の根源をゆっくりと解析するとしよう」
彼の声が響くと同時に、空気が震えた。大地の奥から光の柱が立ち昇り、それが幾重にも重なり合い、檻のようにフォノスを囲んでいく。
「オーディーン・シールド!」
まばゆい光の檻が閉じていく。私は息を呑み、フォノスの断末魔を待った。
しかし――奴は最後の最後まで往生際が悪かった。
「クソッタレがああああ!」
フォノスが残された小宇宙を振り絞ると、足元に黒い穴が開いた。空間そのものが裂け、どす黒い風が吹き荒れる。その先に広がる光景を、私ははっきりと見てしまった。
それは、どこまでも広がる暗黒の大地に、奇怪な樹木が生い茂る異界。禍々しい光の花が咲き乱れ、空には太陽ではなく、ねじれた金色の果実が浮かんでいた。
(…あれが、闇のエデン…!?)
私は心の底から震えた。エモニが口にし、フォノスが守ろうとしていた拠点。まさか、次元の裂け目越しに直接目にすることになるとは。
「もらった!」
ドルバル様の声が響いた。その瞬間、私ははっとした。彼の瞳に映っていたのは、フォノスではなく――
「オーディーン・シールド!!!」
光の檻が放たれた。だがそれは、逃げ惑うフォノスを捉えるためのものではなかった。狙いは、彼が開いた次元の穴そのもの。
「ドルバル様!」
思わず声を上げた私の前で、光の檻は裂け目を縫い付けるように固定した。フォノスは辛うじて穴の向こうへ逃げ込んだが、その先のゲートは閉じることなく、目の前に残された。
闇のエデンへの入口が、ここに固定されてしまったのだ。
私は言葉を失った。まさか、ドルバル様がフォノスを逃がすことを承知で動いていたなど。
「まさか…これが、狙い…」
「うむ」
彼は飄々と頷いた。まるで最初から全て計算の内であったかのように。
「奴を捕らえることなど些末だ。だが、このゲートを得ること――それこそが真の収穫よ。敵の巣を押さえれば、いかようにも料理できる」
その声音には、誇張も虚飾もない。ただ淡々と事実を述べるだけ。だが、私には分かる。この老獪な神官の頭の中では、既に次の十手先まで描かれているのだ。
私は胸の内で苦笑した。
(…やはり、狸親父ですわね)
先ほどまで、自らの身体を動かしたいと「害虫退治」に名乗りを上げたのも、全ては布石だったのだろう。フォノスを追い詰め、奴に最後の手段を使わせ、そして敵の拠点へ繋がる穴を開かせる。その全てを導いたのがドルバル様だった。
私がムスペルの炎で焼き尽くそうとしたときに制したのも、この瞬間を待つため。全てが繋がっていく。
「恐ろしいお方ですわね」
私が呟くと、ドルバル様は肩をすくめた。
「恐ろしい?違うな。私はただ、合理を選んでいるだけだ。アッシュに倣ってな」
だが、その合理の裏には、必ず彼自身の野望が潜んでいる。私はそれを知っている。聖域の書類地獄から逃げるためだけに「外出任務」を引き受けた人間が、世界の根源に触れるかもしれないゲートを手にして、何も企まないはずがない。
(アッシュ様は、それすらも承知で送り出した…?)
私の背筋を、別の意味で寒気が走った。狸と狸の読み合い。私はその狭間で翻弄される一人の女でしかないのかもしれない。
だが、それでもいい。私はアッシュ様のために動く。ドルバル様の老獪さを利用し、その隙を見逃さない。それが、首席秘書官としての私の役割。
「さて」
ドルバル様がゲートに視線を向ける。
「この先に何が待つか…楽しみだと思わぬか?」
私は頷き、拳を握った。
「ええ。敵の心臓部に手をかけられるのですもの。後は、潰すだけですわ」
私たちの目の前に広がる闇のエデン。その入口は、不気味に脈打ちながら、私たちを招き入れようとしていた。
◆
ドルバル様の声が神殿の玉座の間に響き渡った。
「これで、敵はもう逃げられん!行け!アテナの聖闘士たちよ!」
その言葉に、空気が変わった。張り詰めていた緊張が、一気に決意へと変わっていく。アイオロスが真っ先に立ち上がり、その黄金の小宇宙を輝かせてゲートへと飛び込む。続いてオルフェウスが竪琴を携え、音の刃を鳴らしながら光となって突入していった。
翔子さんが振り返り、私に叫んだ。「フレアさん、あとはお願いします!」
その顔は決して恐怖に歪んでいなかった。若さゆえの無鉄砲さか、あるいは彼女の中に宿るエリスという女神の気質か。どちらにせよ、彼女の背中には確かな覚悟があった。私は小さく頷き返し、その姿を見送った。
だが次の瞬間、ドルバル様の声が私を呼び止めた。
「フレアよ、お前も行って、彼らを助けてやれ!このゲートは私が維持せねばならん。ここから動くわけにはいかぬ」
私は振り返った。ゲートを固定するために小宇宙を注ぎ続けるドルバル様。その額に汗はない。だが、その集中の深さは伝わってきた。彼こそは狸のごとき老獪な男。あの方が「動けぬ」と言うのであれば、本当にそれほど重要な作業なのだ。
私は一礼した。
「承知しました。…アッシュ様に、良いお土産話ができましたわ」
そう言い残し、私もまた光に身を投じた。
ゲートを抜けた瞬間、私の感覚は揺さぶられた。上下も左右も分からない暗黒の回廊を突き抜け、引き裂かれるような衝撃に耐える。だが、すぐに光景が一変した。
目の前に広がるのは、常識を裏切る異界。闇の大地に、ねじ曲がった樹木が林立し、空には金色の林檎を模した不気味な太陽が浮かんでいる。空気そのものが血の匂いを含み、足元からは呻き声のような地鳴りが響いてきた。
「ここが…闇のエデン…」
私は息を整えたが、すぐに異変に気づいた。仲間の姿がない。アイオロスも翔子さんも、オルフェウスも。誰一人、周囲にはいなかった。
「なるほど。侵入者を分断する仕組み…厄介ですわね」
私は微かに笑った。むしろ好都合とも言える。敵は一人ずつ各個撃破できると考えているのだろうが、私にとっては単独行動ほど気楽なものはない。何より、アッシュ様から賜った秘書官の任務は「情報収集」だ。この空間を一人で調べる機会など、願ってもない。
歩みを進めると、大地が不意に震えた。足元から無数の蔓が噴き出し、私の身体を絡め取ろうと伸びてくる。瞬時に炎を纏い、それを焼き払う。焦げた匂いと共に、蔓は灰となって崩れ落ちた。
「やはり歓迎されていないようですわね」
だが私は歩を止めない。闇の森を抜けるたびに、無数の幻影が現れた。かつて倒した闘士たちの姿。だが、目の前に立つのは虚像に過ぎない。炎の一閃で消し飛ばしながら、私は確信を深めていった。
「これは…私の心を揺さぶろうとしている」
邪精霊とは、心の闇に棲むもの。恐怖や後悔を餌にして襲いかかる。だが、残念ながら私にはそうした隙は少ない。私の心を占めるのは、アッシュ様への忠誠と愛。それ以外の感情は、とうの昔に焼き尽くした。
やがて視界が開け、巨大な広場に出た。そこには禍々しい花々が咲き乱れ、中心に一つの祭壇があった。祭壇の上には、黄金の林檎が浮かび、その前に一人の男が立っていた。
「…妹の仇を取るために来たのか」
声をかける前に、彼の目が私を射抜いた。フォノス――先ほど逃げ込んだはずの邪精霊。彼は既に傷を癒し、漆黒の小宇宙を纏っていた。
「やはり貴様か、メグレスのフレア」
「そうですわね。…もっとも、先ほどはドルバル様に邪魔されましたので、今度は私一人でお相手いたします」
フォノスは笑った。だが、その笑みには先ほどの余裕はない。むしろ狂気すら漂っていた。
「貴様の炎は恐ろしい。だが俺には、この地そのものが味方している」
彼が腕を振るうと、大地から無数の糸が溢れ出した。それは蜘蛛の巣のように空間全体を覆い、逃げ場をなくしていく。私は炎で焼き払いながら進むが、その度に新たな糸が再生する。
「なるほど、力押しでは埒が明かないようですわね」
私は深呼吸し、小宇宙をさらに高めた。炎の幻影が私の背後に浮かび上がる。ラグナロクをもたらす炎巨人スルトの影。
「ムスペルス・エルズル――ムスペルの炎!」
灼熱の光線が放たれ、蜘蛛の巣ごとフォノスを焼き尽くそうとする。しかし、奴は祭壇の林檎に触れ、その力を盾にして攻撃をしのいだ。
「黄金の林檎…!?」
やはり、あれが鍵だ。この地の力を増幅し、邪精霊を守っている。私一人では突破できないかもしれない。
「…やはり、仲間と合流せねば」
私は炎を収め、次なる一手を考えた。戦い続ければ林檎の力に飲み込まれる。ここは無理に勝負を決める場ではない。情報を持ち帰り、アイオロスたちと共に突破口を開く。それこそが私の役割。
フォノスが狂気の笑みを浮かべ、糸を再び操ろうとした瞬間、私は身を翻し、森の闇へと飛び込んだ。
分断された仲間たちの行方は分からない。だが、必ず再び集う。その時こそ、この「闇のエデン」を崩壊させる戦いが始まる。
私は炎を纏いながら走り抜ける。頭の中には、ただ一人の姿。アッシュ様。あの方に誇れる戦果を携えて帰るために、私は決して倒れない。
響子「翔子、大丈夫かしら……。あの子、いつも笑って強がってるけど、本当はすごく無理してるんじゃないの?」
???「あら、心配ないわよ。あの子は女神と魂を共にする女。並の邪精霊ごときに屈すしはしないでしょう」
響子「でも……あなた、あの子を利用してるんじゃないの?器だの宿主だの、難しいことばかり言って。翔子は、翔子なのよ」
???「……そんなことないわ。利用しているのではない。あの子は選んでいるの。己の意志で、神と共に歩むことをね。愛よ愛」
響子「……だったら、ちゃんと守ってあげないと。私の妹だから。世界を背負わせるなんて、可哀想で仕方ないわ」
???「……言われるまでもないわ。キョーコさんは私の半身、そして私の愛を世界に届ける器だもん。 ――誰にも奪わせないわ。あなたにも誓うわ」
響子「……誓いなんて信じない。けど……その言葉だけは、今は信じたい」
この物語の着地点は‥‥。
-
十二宮編までで十分
-
ハーデス編で終わらせて
-
ΩやNDまで続けて欲しい
-
エピソードGの世界線も欲しい
-
黄金魂とか海皇再起も手を出そう
-
もうつまらない。今すぐ完結