聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
笑いと狂気が交わり、少女は神でも人でもない“何か”へと堕ちゆく――!
「アイオロス君……はじめまして」
その言葉が恋人を絶望に染める時、
闇のエデンは哄笑し、雑草は粉砕される!
次回――
『名を喪いし薄紫の拳!翔子、神でも人でもない何かへ‼』
希望か、終焉か!?
彼女を待つのは愛の再生か、虚無の進軍か――!
(翔子視点)
次元の穴を抜けた瞬間、私の身体は綺麗に着地するどころか、勢い余って盛大に前からずっこけた。
「いっったぁ……!鼻が折れるかと思った!」
地面は石畳じゃなくて、禍々しい黒い大理石っぽい素材で、やたら硬い。しかも血みたいな赤い模様が走ってて不吉極まりないのに、そこで私が四つん這いになってるとか、完全にギャグの絵面である。
案の定、頭の中で高笑いが響いた。
「(このドジ娘め!神の器としての着地の美学というものが分かっておらん!)」
「美学とかどうでもいいから!こっちは鼻すりむいたんですけど!」
文句を言いながら立ち上がると、目の前には都合よく巨大な神殿がドーン。石柱が何十本も並んでて、屋根にはやたら派手な彫刻。おまけに周囲の空には黄金色の林檎が不気味に浮いてる。ここが「闇のエデン」ってやつか。
「ラッキー!目的地にワープ直通とか親切設計じゃん!」
軽い気持ちで駆け出したら、案の定、神殿の入り口には一人の女が待ち構えていた。腰まで伸びた漆黒の髪、いやにセクシーな格好、そしていやらしい笑み。こいつ、邪精霊ルインのアテ。前に私を「お姉さま」とか呼びながら襲ってきた、あの根っこ女である。
「今度こそ、ぶっ飛ばしてやるんだから!」
私が拳を握って叫ぶと、アテは余裕綽々の顔で手を広げた。
「ふふ……器の方から来てくれるとは、手間が省けましたわ」
その瞬間、私の身体にゾワリと寒気が走った。あ、やばい。これは例の「主導権強制乗っ取り」フラグだ。案の定、エリスがしゃしゃり出てきた。
「だから、我はとっくに復活していると言うておろうが!」
「おい、勝手に出てくんな!」
けどアテは、鼻で笑った。
「あら、まだ田舎女神が自分をエリス様だと思い込んでいるの?せいぜい、この国の付喪神といったところでしょう?」
「付喪神」って。日本の民俗オカルトにされてんの!?
プライドをぶち壊されたエリスは当然キレ散らかした。
「この雑草娘がァァァッ!!!」
アテの小宇宙が爆発した。前とは比べものにならない。大地から無数の根っこが飛び出し、蛇みたいにうねりながら私に襲いかかる。
「うわ、マジで雑草大暴走!」
けど、私は焦らなかった。体が勝手に反応して、ひらり、ひらり。根が掠めるたびに、ほんの少しの紙一重でかわしていく。
(え、なにこれ、私ってこんなに動けたっけ?)
自分でも驚くくらいスピードが乗ってる。無駄のない動き、正確な回避、まるでプロゲーマーがキャラ操作してるかのように。
「(……ほう。どうやら我とこの娘の同調は、以前よりもはるかに進んでおるな。器の反射神経を、我が小宇宙が補っておるのだ)」
「補うって……つまり私が鈍いってこと!?」
「事実であろう!」
「ムカつく!」
怒鳴りながら根をかわす私。アテはさらに笑みを深めた。
「やりますわね……でも、避けてばかりでいつまで持ちますこと?」
「それはこっちの台詞だよ!」
拳を握り、全力で突撃する。無数の根が行く手を塞ぐけど、それを片っ端からぶん殴って粉砕していく。拳が燃えてるみたいに熱い。いや、これエリスの小宇宙が混ざってんだろうな。
アテは一瞬だけ目を見開いた。けどすぐにまた余裕顔に戻る。
「なるほど……その身体、本当に面白いわ。あなた一人で戦っているようで、実際には二人。付喪神の力を借りている……」
「借りてねーし!勝手に居座ってるだけだから!」
「(何を言うか!我はお前が頼み込んだから共存してやっているのだぞ!)」
「誰も頼んでない!」
「はいはい、痴話喧嘩は後にしてくださいませ、お姉さま」
アテがバッサリ切り捨てる。うっわ、こいつ完全に煽り性能高いタイプの敵だわ。
戦闘は続く。アテの根が無限に伸びる。私は回避と反撃を繰り返す。だんだん息が上がってくるけど、妙な感覚がある。
(あれ……疲れてるのに、体が軽い。なんか、頭の中で声が重なってるような……)
「(ショーコ、打ち込め。我とお前が一つになれば、この程度の雑草、灰に帰すのみだ!)」
「……わかったよ、駄女神。今回は協力してやる」
二人の小宇宙が重なる。青と紫の光が渦巻き、拳に集束していく。
「エクレウス流星拳ッ!!」
「エリュシオン・フレアァァァッ!!」
声が二重に響く。数えきれない光の拳が、炎を纏ってアテに襲いかかった。
ドゴォォォォォン!!!
爆発で地面が揺れ、神殿の入口が半壊。アテは無数の根で防いだものの、髪が乱れ、衣が焼け焦げていた。
「……ふふ。やっぱり素敵ですわ。その身体、必ず我が母のものにして差し上げます」
◆
身体の奥から、熱いような冷たいような、でも言葉にできないすごい感覚が溢れ出していた。最初は青と紫の二重螺旋で渦を巻いていたはずなのに、気づけばそれが一色に混ざり合って、淡い薄紫の光になっていた。
「(なにこれ……すごい……!この前も一瞬あった感じだ!自分が自分でないみたいなのに、でも、確かに自分!力が、止まらないくらい溢れてくる!)」
心臓の鼓動が早いのに苦しくない。むしろ楽しい。楽しくて楽しくて、笑いが込み上げてくる。頭の中でエリスの声も重なって響いた。
「(確かにこれは素晴らしい力だ!いいぞショーコ!我が小宇宙を最大にして、お前に貸してやろう!お前と我が一つになれば、全ての敵など雑草に等しい!)」
目の前でアテが根っこを無数に繰り出してくる。速い。光速に迫る攻撃。けど私たちの身体には、それがまるでスローモーションに見えた。まるでハエが止まっているみたいに。ひらり、ひらりと舞うようにかわして、時々わざと当たりそうになってみせては嘲笑う。
「ハハハ!ハエが止まるよ、そんなんじゃ!」
言葉が自然に口をついて出る。いや、これ……私の声?それともエリスの?もう分からない。でも楽しい。全身が震えるほどの興奮。息が荒くなるのに、それが心地よくて仕方がない。
「フフッ……ハァ、ハァ……すごく、気持ちいい……!ああ、興奮しちゃう……!」
口元が勝手に吊り上がって、恍惚の笑みが浮かぶ。自分の顔なのに鏡で見たら知らない人みたいに見える気がする。頭の中ではエリスが絶叫していた。
エリス(たち)「ハハハ!雑草娘め!目にもの見せてやる!ああ、この昂揚感……イッてしまいそうだ!ハハハ!」
おいおい、その表現やめろや駄女神!……ってツッコむはずの私の理性が、今は笑いに飲み込まれて全然働かない。意識の境界があいまいになって、二人で笑っているのか、一人で笑っているのか、もうどうでもよくなってきていた。
アテの根の猛攻は激しさを増す。けど、弱い。遅い。まるで子供の遊び。足元にまとわりつく根を踏み砕き、天から降る無数の枝を拳で弾き飛ばすたびに、快楽のようなものが走る。気持ちいい。楽しい。もっともっと強い相手を求めたくなる。
(あれ……?でも……誰と戦ってるんだっけ?)
急に記憶が曖昧になる。アテ?邪精霊?根っこ女?どうでもいい。敵は敵だ。ぶっ壊せばそれでいい。……でも、胸の奥に別の名前が浮かんだ。
(そうだ。あの人を……アイオロス君を……)
頭に浮かんだ顔は、あの太陽みたいな笑顔。私のことをいつだって心配してくれる声。その優しさを思い出した瞬間、胸がドクンと高鳴った。
(アイオロス君を……助けないと。そうだ、私は、そのために……)
でも次の瞬間、頭の中に別の囁きが重なった。
「(我が夫……我が愛する者……!)」
「……夫?」
思わず呟いた声に自分でゾッとした。いやいやいや、待て待て!なんで「夫」!?私とエリスの意識が混ざった結果なのか?でも口から出ちゃったんだからどうしようもない。
体の奥が熱くて、ゾクゾクして、まるで自分じゃないみたいに昂ぶっていく。笑いが止まらない。
「フフフ……あははは!ああ……もっと……もっと……!」
敵が弱く感じるのは、私が強くなってるから?それとも、感覚が狂ってるから?分からない。でも、どっちでもいい気がしてきてしまう。目の前の敵を壊す快楽と、身体に満ちる力の甘美さに、頭が溶けそうになる。
でも――心のどこかで、確かに叫んでいた。
(これ……やばいよ。止めなきゃ……!)
理性が小さな声で警鐘を鳴らす。でも、紫の光はどんどん濃くなって、心の中の境界線を全部溶かしていく。私の声とエリスの声が混ざって、もうどっちがどっちか分からない。
「我は……いや、私は……いや……どっちでも……いいか……」
視界の端で、アテが何か叫んでいた。怒り?恐怖?それすらも遠くに聞こえる。ただ、笑いと力の渦の中で、私は確かに「何か大切なもの」を見失いかけていた。
(……アイオロス君……待ってて……私が……私たちが……)
その思考すら、次の瞬間には光と笑いに飲まれて消えていった。
◆
足音が響いている。自分の足音。けれど、聞き覚えのない音だ。重くもなく、軽くもなく、まるで世界そのものが私の歩調に合わせて震えているみたい。
アテが叫びながら、無数の根を放ってきた。光速の雨。大地を割り、空を裂き、ありとあらゆるものを呑み込むはずの猛攻。……でも、私にとってはただの風景だった。
遅い。遅すぎる。全部が止まって見える。私は散歩をするみたいに、ゆっくりと歩くだけでいい。根は勝手に避けていく。あるいは、私の小宇宙に触れた瞬間、勝手に燃え尽きているのかもしれない。
「……邪魔」
ただ一言。気づけば私はアテの正面に立っていた。彼女の顔に恐怖の色が浮かんでいる。どうしてそんな顔をするのか、理解できなかった。
私は、そっと拳を彼女の胸に置いた。叩きつけるのではなく、触れるだけ。
「……エクレウス彗星拳」
呟いた瞬間、世界が爆ぜた。アテの身体を包んでいた漆黒と赤の邪霊衣が粉々に砕け散り、彼女は空の彼方へと吹き飛んでいった。音もなく、影もなく、ただ消えていく。
「……弱い。もろい。……つまんない」
胸に残るのは虚無だけだった。快感も達成感もない。ただ、空虚な穴が広がる。何かをしたはずなのに、何もしていないような感覚。私はゆっくりと辺りを見回す。
ここはどこだ。闇のエデン?神殿?それとも、夢?……わからない。景色が形を持たない。黒と紫が溶け合った霧が、どこまでも広がっている。
「早く片付けよう。そして……あの人のところへ帰ろう」
あの人。誰だ?名前が出てこない。光のように眩しい笑顔。優しい声。いつも私を気にかけてくれる。……誰だった?
胸がざわつく。
「……私は……」
名前が出てこない。翔子?エリス?どちらでもない。どちらでもある。でも、そのどちらも違う気がする。私は誰だ?どうしてここにいる?何のために戦っている?
脳の奥が白く焼け付く。考えるほどに、思考が剥がれ落ちていく。名前。記憶。顔。全部ぼやける。
「……ええと、私は…………誰だっけ?」
声に出してみても、答えは返ってこない。返ってくるはずのエリスの声も、翔子の声も、どこにもない。ただ薄紫の小宇宙が、私自身を満たしているだけ。
静かだ。静かすぎる。心臓の音も、息遣いも、何も感じない。世界と私の境界が消えていく。私が世界か、世界が私か、区別がつかない。
……音がする。
崩れた神殿の瓦礫の向こう。ズタボロになったアテが、必死に這い戻ってくる音だ。血まみれで、衣は砕け、顔は泥にまみれている。それでも這ってくる。その執念は確かに敵のものだった。
けれど、彼女の瞳に映った私の姿――それは、もう「少女」ではなかった。
そこに立っていたのは、感情の一切を失った、ただの「何か」。薄紫の瞳には光も影もなく、ただ空虚な映像のように揺らめくだけ。人間の形をしているけれど、人ではない。女神の力を纏っているけれど、神でもない。
「…………」
声を出そうとしたが、声にならなかった。音が消えていた。言葉がいらなかった。私はただ立ち尽くし、アテを見下ろしていた。
アテの顔に浮かんだのは恐怖だった。彼女は必死に笑おうとしたが、その声は震えていた。
「お姉さま……貴女、本当に……何者……?」
答えられなかった。いや、答える必要がなかった。ただ、心の奥で、一つの感情が生まれていた。
「邪魔なら、消す」
それだけ。
私は誰かを思い出さなければならないはずだった。誰かのもとへ帰らなければならなかった。でも、その「誰か」が誰なのか分からない。名前が出てこない。顔もぼやける。ただ一つ、胸の奥で「帰らなきゃ」という衝動だけが残っている。
……もしかしたら、もう二度と名前を思い出せないのかもしれない。私はもう翔子ではなく、エリスでもなく、ただの「何か」になってしまったのかもしれない。
でも、それでいいのかもしれない。
敵を壊す。帰る。名前はいらない。感情もいらない。力があれば、それでいい。
アテが震える声で呟いた。
「……おそろしい……」
その声を聞いても、私は何も感じなかった。
◆
翔子、と呼ばれた気がした。けれど、その音は、私の名前ではなかった。いや、名前なんてものが、私にあったのかすら、もう分からない。
振り返ると、一人の男がいた。光を纏っている。黄金の鎧。凛とした瞳。私を見て、何かを叫んでいる。でも、聞こえない。聞こえているのに、意味が分からない。
「……?」
口が勝手に動く。声が出る。けれど、私が何を言ったのか分からない。ただ、彼の顔がさらに歪んだのは分かった。恐怖か、悲しみか。私にはどちらでもよかった。
彼の名前は……なんだったっけ。口に出してみる。
「アイオロス君」
確かにそう呼んだ。合っているはず。けれど、呼んでみても何の実感も湧かない。初めて会った人に挨拶するみたいに、ただ空虚な言葉が口から零れる。
「はじめまして」
そう続けていた。どうしてだろう。胸の奥が冷たい。温度がない。彼の顔に浮かぶ絶望の色を見ても、心は何も反応しない。私はただ、言葉を紡ぐ機械のように、次の音を組み立てていくだけだった。
「私は、神殿に向かいます。誰かが、そうして欲しいと願っていた気がします」
誰か?誰だ?分からない。女神?人間?私自身?その全部かもしれないし、どれでもないかもしれない。考えるだけ無駄だった。目的は一つ。神殿に行くこと。それだけが、脳に深く刻まれている。
彼がまた何かを叫ぶ。苦しそうな声。必死に呼びかけている。でも、耳には届かない。私は静かに首を傾げ、問い返した。
「ところで、あなたは誰でしたっけ?アイオロス君」
目の前の男の顔が、音を立てて崩れるように絶望に染まっていく。その表情に、かつてなら心臓を鷲掴みにされたかもしれない。けれど今の私は、何も感じない。ただ、観察しているだけ。
視線を横に向ける。瓦礫の中で、まだ息をしている女がいた。さっき吹き飛ばした雑草。名前は……何だったか。思い出す必要もない。
「……ああ、それと」
口が勝手に動く。
「そこの雑草を駆除していただけると、嬉しいです」
ただの依頼。感情はない。笑顔も涙もない。彼がどう思うかなんて、どうでもよかった。
私は歩き出す。神殿の方へ。足が勝手に進む。背後で、彼がまだ私を呼んでいる気配がする。声は聞こえない。いや、聞こえているのに、意味を結ばない。
私は振り返らない。振り返る必要がない。
……名前。私は誰だった?翔子?エリス?それとも別の何か?
どれでもいい。どうでもいい。
私はただ、前に進む。求められた通りに。言われた通りに。そうすることだけが、今の私を形作っている。
そして、背後で崩れ落ちるように立ち尽くす彼の姿を、私はもう二度と振り返ることはなかった。
……名前は、思い出せない。
けれど、胸の奥にひとつだけ、消えない衝動が残っている。
行かなくちゃ。
呼ばれている。
あの神殿へ――あの光のない場所へ。
誰のため? 何のため?
答えはもう、霞んで見えない。
でも足は、止まらない。
……行かなくちゃ。
それだけが、今の私を形作る。
そして私は、歩き出す。
振り返らず、迷わず。
行かなくちゃ――。
この物語の着地点は‥‥。
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十二宮編までで十分
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ハーデス編で終わらせて
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ΩやNDまで続けて欲しい
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エピソードGの世界線も欲しい
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黄金魂とか海皇再起も手を出そう
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もうつまらない。今すぐ完結