聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜   作:斉宮 柴野

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――蛇か、女神か!?
翔子の魂を巡り、虚偽の玉座に潜む偽りの声が囁く!
名を喪いし少女は誰の器か、それとも誰でもない存在か!?
迫りくる蛇の顎、揺らぐ自我!
そして――玉座に降り立つは白き流星‼

次回、聖闘士星矢異伝
「蛇か、女神か!?翔子の魂を巡る虚偽の玉座‼」
虚無に呑まれるな、翔子――お前は誰だ!?


蛇か、女神か!?翔子の魂を巡る虚偽の玉座‼

(翔子視点)

 

私は歩いていた。いや、歩かされているのかもしれない。自分の足がどこに向かっているのか分からないのに、迷いはなかった。前を見れば、ただ長い回廊が続いていて、その先に光がある。その光が私を呼んでいる。だから足は勝手に進んでいく。

 

……私は誰だ?その問いが、頭の中で何度も何度も反響する。翔子?それは知っている名だ。だが、その名が今の私に当てはまる気がしない。エリス?確かにあの声はずっと私の中にあった。でも、今の私はエリスと名乗るほどの確信も持てない。私は翔子でもあり、エリスでもある。だが、そのどちらでもない。

 

歩くたびに回廊の壁に映る自分の影が揺れる。その影には、確かに私の姿が映っているはずなのに、顔が見えない。まるで光がそこだけを拒んでいるようだった。自分の輪郭が曖昧で、どこからどこまでが私なのか分からなくなる。

 

それでも足は進む。なぜなら「そこ」に行かなければならないからだ。誰が決めたわけでもない。私がそうしたいわけでもない。ただ、胸の奥の深い場所から「行け」という声が響いている。

 

不気味なほど静かだ。風もなく、音もなく、私の足音だけが響く。だが、その足音すらも他人のもののように感じられる。私は歩いているのか?それとも、誰かが私を操って歩かせているのか?自分で選んでいるはずなのに、自分の意思を感じられない。

 

やがて回廊の先に重厚な扉が見えた。そこから放たれる小宇宙は、恐ろしく冷たく、そして甘美だった。恐怖と安堵が入り混じる矛盾した感覚に、思わず立ち止まる。扉を開けてはいけないと心のどこかが叫んでいる。けれど、同時に扉の向こうこそが私の居場所だとも思える。矛盾が私を裂き、心を揺さぶる。

 

手が勝手に扉へ伸びる。冷たい表面に触れた瞬間、指先から全身へ痺れのような感覚が広がった。痛みではない。だが、抗えない。扉が音もなく開き、私は吸い込まれるように中へ足を踏み入れた。

 

広大な空間の中央に、ただ一つ、黄金の林檎が置かれた玉座がある。それ以外には何もない。誰の姿もなく、ただ玉座だけが存在していた。にもかかわらず、その場には「気配」がある。誰かがここにいて、私を待っている。

 

玉座へと近づく。息が浅くなり、心臓が早鐘を打つ。怖い。けれど、それ以上に強く惹かれていく。まるで目の前の玉座が私を愛してくれると信じ込んでいるように。私の中の空白を埋めてくれると信じてしまっている。

 

「私は……誰?」再び問いが浮かぶ。翔子?違う。エリス?それも違う。なら、私は何者なのか。誰の意思でここにいるのか。自分の声が自分のものに聞こえない。名を失い、存在を失い、ただ玉座に引き寄せられていく。

 

玉座の前に立った瞬間、全身から力が抜けた。膝が震え、気づけば座り込むように玉座へ身を預けていた。黄金の林檎が目の前にある。それを手に取れば、何かが変わる。いや、何かを思い出せるかもしれない。だが同時に、それは取り返しのつかない行為だとも直感している。

 

手が伸びる。止められない。林檎に触れる寸前、心の奥底で声がした。男の声だったのか、女の声だったのか、それすら判別できない。だが、その声は確かに私を呼んでいた。

 

「来い」

 

一言。その言葉が胸に突き刺さり、私は意識を手放しかけた。

 

……私は誰だ?翔子?エリス?それとも、まったく別の存在?分からない。ただ一つだけ確かに分かるのは、私は今、この玉座に縛られているということ。待つ誰かのために、ここで「何か」に変わろうとしているということ。

 

自我は霧散し、思考は途切れ途切れになっていく。玉座に沈む感覚だけが残り、私はただ虚ろに微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

手を伸ばしていた。目の前の黄金の林檎、その光に引き寄せられるように。だが、その瞬間だった。林檎が眩しいほどの禍々しい光を放ち、空気が裂けるような音が響いた。次の瞬間、中から現れたのは、羽を生やした巨大な蛇だった。黒と紫が混じった鱗、空気を震わせるほどの威圧感。

 

蛇は玉座を背にして立ち上がり、私を見下ろした。

 

「我が器よ。よくぞここまで来た。我が名は争いの女神エリス。永き眠りから目覚め、今こそお前という新たな肉体を得るのだ!」

 

その声は重く響き、頭の奥に直接突き刺さるようだった。確かに力強い。確かに支配するような響きを持っていた。だが、私の胸の奥に、小さな違和感が芽生えた。私は感情を失った瞳で蛇を見つめ、ただ一言つぶやいた。

 

「……違う」

 

蛇の瞳が見開かれる。「何が違うと申すか!」と声を荒げる。だが、私の内側で確信が広がっていった。違う。これは、今も私を読んでいるあの声ではない。

あの魂ではない。私の中にいた女神――不遜で、騒がしくて、くだらない冗談を平然と口にする、あのエリスとは似ても似つかない。

 

「あなたは……………エリスではない」

 

そう言った瞬間、蛇の顔が怒りで歪んだ。

 

「我こそはエリス!この闇のエデンこそ我が理想郷!さあ、おとなしく我が身を受け入れるのだ!」

 

その宣言には、偽りの匂いがした。私の魂にこびりついている、本物のエリスの気配を、こいつは持っていない。私は眉をひそめ、言葉を吐き出した。

 

「神の、名を騙るなんて……許されない………気がする」

 

言いながら、自分でも不思議だった。私は今、自分が誰かも分からない。翔子なのか、エリスなのか、それとも別の何か。けれど、この一点だけは揺らがなかった。この蛇は本物ではない。本物を知っているからこそ、私は断言できた。

 

蛇は激昂し、巨大な身体をくねらせた。羽を大きく広げ、空気を震わせる。「ええい、話にならぬわ!ならば力ずくでその身体、頂くまで!」その口が大きく開かれる。鋭い牙の間からは毒のような霧が漏れ出し、地面の石を黒く溶かしていった。

 

私は逃げなかった。ただ立ち尽くしたまま、その巨大な影を見上げた。恐怖はあった。だが、それ以上に冷たい何かが私を支配していた。恐怖に飲まれるよりも先に、心が無表情に呟く。

 

「偽物のくせに……」

 

蛇の顎が迫る。魂ごと喰らおうとする気配が全身を覆う。頭の奥が揺さぶられるような圧力。息が苦しくなる。だが、その瞬間、胸の奥から何かが逆流するように湧き上がった。冷たい光、薄紫の炎。それは翔子のものなのか、それともエリスの残滓なのか分からなかった。

 

気づけば、私の身体は自動的に手を突き出していた。蛇の牙が目前に迫る。だが、触れるよりも早く、紫の光が爆ぜて蛇の顎を押し返した。轟音と共に衝突する二つの力。私は震えながらも口を開いた。

 

「お前に、私は喰えない」

 

言葉が勝手に溢れた。私自身の声かどうかも怪しい。だが、それは真実だった。蛇の圧力は強大だった。だが、私の中に宿るものもまた、負けてはいなかった。

 

蛇は怒り狂い、全身の鱗を逆立てて小宇宙を放った。「黙れ!我こそ真なるエリス!我が力の前に人の魂など塵に等しい!」雷鳴のような咆哮。闇のエデン全体が震え、壁が崩れ落ちる。

 

私はその中で立ち尽くし、心の中で問い続けていた。私は誰だ?翔子?エリス?どちらでもない。ならば、私は何者だ?答えは出なかった。ただ一つ分かるのは、この蛇が「私の存在」を否定しようとしているということ。そして、私はそれを許せなかった。

 

拳を握る。身体が勝手に動く。紫の光が再び走る。蛇が襲いかかる。私は迎え撃つ。衝突の中で、自分の意識が揺らぐ。境界が曖昧になる。自分が誰で、何をしているのか、分からなくなっていく。だが、それでも言葉は零れた。

 

「私は……偽物じゃない」

 

蛇の巨体が一瞬だけ怯んだ。その隙に、私は渾身の力で拳を叩き込む。光が爆ぜ、蛇の鱗が弾け飛ぶ。だが、蛇はまだ倒れない。むしろその目にさらなる狂気を宿し、叫び声をあげる。

 

「その魂、必ず我がものとする!」

 

私は息を荒げながらも立っていた。震えていた。恐怖もあった。だが、決して退けない。退いてはいけない。自分が誰かは分からない。私は「存在を否定するもの」に屈することだけは許せないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇と睨み合っていた。玉座の間全体が不気味な圧力に包まれ、空気が重い。蛇は巨大な顎を開き、私の魂ごと呑み込もうと迫ってくる。退くな。消えろ。そうだ・・・・消し飛べ。

 

その瞬間だ。

 

天井が轟音と共に崩れ落ち、まばゆい閃光が空から降り注いだ。何が起きたのか、一瞬理解できなかった。ただ、白い流星のような輝きが一直線に降下し、私と蛇の間に突き刺さったのだ。

 

衝撃は凄まじく、玉座の間全体が揺れた。光の奔流に押され、あの蛇でさえも耐えきれず、玉座の後ろの壁まで吹き飛ばされる。鱗が床に散り、苦悶の叫びが木霊する。

 

私は目を細めて、その光の源を凝視した。土煙が舞い上がり、しばらくは何も見えなかった。けれど、そのただならぬ小宇宙の気配だけは、強烈に私の心を揺さぶった。神々しい、という言葉が自然に浮かぶ。蛇の気配を凌駕し、私の中の薄紫の光さえかき消しかねないほどの純粋な力。

 

「……誰?」

 

思わず呟いた。私の声は震えていた。恐怖か、期待か、判断がつかない。

 

外から響く声が聞こえたような気がした。遠くで、誰かが驚きの声を上げていた。

 

「速い…!俺を追い越していくこの光は…」

「この気配は…!」

「む…?あの白い流星は…」

 

誰の声かは分からなかった。ただ、確かに複数の人間がこの光を認識していた。私と蛇だけではない。外の世界ともつながっている、何か決定的なものがここに降りてきたのだ。

 

やがて、土煙がゆっくりと晴れていった。

 

そこに立っていたのは、一人の人影。いや、私には見覚えがあるような、ないような。

 

セーラー服。奇妙なほど場違いな衣装。玉座の間の荘厳さとも、蛇の禍々しさともまるで釣り合わないその姿は、かえって異様だった。

 

「……女?」

 

私の口から漏れた声。確かに女性だった。真っ直ぐに立ち、こちらに背を向ける形で玉座の前に仁王立ちしている。その背中は凛として、揺るがない。

 

煙の残滓が揺らめき、その輪郭がはっきりしていくにつれて、胸の奥がざわついた。何かが引っかかる。思い出せない何か。けれど、確かに知っている気がする。

 

「誰…?」

 

私はもう一度呟いた。だが、返事はなかった。ただ、その人影は動かず、まるでそこに降り立つこと自体が答えだと言わんばかりだった。

 

蛇が呻き声を上げて立ち上がる。鱗は剥がれ、羽も傷ついている。それでも憎悪の眼差しでその新たな存在を睨みつけた。

 

「何者だ……!?」

 

蛇の問いに、私も心の中で同じ言葉を反芻した。何者?なぜここに?なぜこんなにも神々しい力を放っている?そして――なぜ、見覚えがあるように思える?

 

その答えを、私は知らない。いや、知っているはずなのに、思い出せないのかもしれない。頭の奥で何かが軋むように痛む。私の記憶は、もう正常ではない。

 

ただ一つ確かなのは、その存在が「流星」としてここに降り立ったという事実。そして、その背中から放たれる気配が、私の魂を揺さぶってやまないということだ。

 

私は無意識に、彼女の名を呼ぼうとした。けれど、声にはならなかった。名前が出てこない。

 

誰なのか。何者なのか。なぜここに。

 

ただ、その姿が「私の敵ではない」という確信だけを、なぜか強く感じていた。

 

答えはまだ分からない。けれど、光は確かにここに降臨した。

 

私は立ち尽くし、呟くしかなかった。

 

「……あなたは、誰?」

 

そして物語は、そこで途切れた。




ドルバル「……見たか、ヤン。あの“白い流星”を。」

ヤン「ええ、ドルバル殿。あれは……間違いなく神。小宇宙の次元が違いました。」

ドルバル「我が神闘衣ですら震えた。いや、“恐れ”を覚えたとすら言おう。あれは人の域ではない。」

ヤン「翔子様とエリス様の闘いに介入する存在……味方なのか、それとも……」

ドルバル「わからん。だが一つだけはっきりしている。あの光は、神のそれだ。」

二人は言葉を失い、ただその白き流星の残光を見つめていた。

この物語の着地点は‥‥。

  • 十二宮編までで十分
  • ハーデス編で終わらせて
  • ΩやNDまで続けて欲しい
  • エピソードGの世界線も欲しい
  • 黄金魂とか海皇再起も手を出そう
  • もうつまらない。今すぐ完結
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