聖闘士星矢異伝 〜聖域なき聖域改革、時代遅れの場所には住みたくない〜 作:斉宮 柴野
(アッシュ視点)
教皇の間での緊張感から解放され、ようやく外の空気を吸った。
身体からじわっと力が抜けていく。さっきまで小宇宙バリア全開でホコリを避けていた反動か、息をつくたびに肺の奥まで聖域の「清々しい」空気――いや、ホコリっぽい空気が流れ込んでくる。思わず鼻がムズムズした。
僕はそっと案内人のおじさんに近づき、なるべく悪意なく、
「今日って……教皇の間、ちょっとホコリっぽくなかったですか?」
とそれとなく聞いてみた。
するとおじさん、まるで大仕事をやり遂げた人みたいに胸を張って言う。
「今日はお前さんのために、みんなで何時間もかけてピカピカにほうき掛けしたんだぞ!いつもよりずっと念入りだったんだからな!」
え……これで“ピカピカ”?
うそでしょ。これが“全力掃除”なら、普段はどうなってるんだ聖域――。
僕は思わず天を仰いだ。
潔癖症? いや、違う。僕はごく普通の現代人のはずだ。
ハウスダスト対策もされていない、空気清浄機の一台もないこの聖域こそが時代錯誤なだけだ。
“神話時代の伝統”とか“結界”とか聞こえはいいけど、その裏側で誰も掃除の方法を進化させていないのは危機的状況だと思う。
正直、教皇シオン様に「水洗トイレの設置とホコリ問題は至急対策を!」と訴えようと思っていたのに、
結局、あの神聖な空気にのまれて言うのをすっかり忘れてしまった。
帰り際、案内人のおじさんが僕の肩をぽんと叩く。
「まあ、若い聖闘士が緊張するのは仕方ないさ」
いや、僕はただホコリに耐えていただけだけど――。
石段を降りながら、僕はこれからのことを考える。
(とりあえず、イタリアに帰ったら最新の空気清浄機を何台か注文して師匠に送ってやろう。あとまた聖域に来た時ように仮設のトイレとシャワールームの設計図も調べてみるか……)
僕がイタリアの家に帰ると、師匠はまた例の高級車とスーツ姿で出迎えてくれるだろう。
「どうだった、教皇様とのご対面は?」と微笑む顔が目に浮かぶ。
「いやー、ホコリとトイレのことは結局言えなかったよ」と正直に答えたい。
でも、まあ、少しずつだ。最初から完璧にできるわけじゃない。
僕はすでに、聖闘士として認定されている。
これからはローマを拠点に“杯座の白銀聖闘士”として活動する日々が始まる。
原作の時代がやってきたとき、つまり星矢たちが主役になるその日――僕はきっとアラサー。
頼れる先輩ポジションとして、青銅たちをバッチリサポートできるはずだ。
自問してみる。いや、そう願いたい。
でも、実際には――
「まあ、なんとかなるっしょ!」
いつもの癖で、楽観的に口笛を吹く。
足元の聖衣ボックスも、今日だけは静かに従順だ。
さっき補給したメロンソーダのおかげでご機嫌なのか、あるいはこの“ホコリまみれの世界”に呆れて黙っているだけなのか。
今度は掃除機機能でも追加してもらうべきか、真剣に検討する自分がいる。
ふと、教皇の間の厳かな雰囲気を思い出す。
あの場所で、もし本音を全部ぶちまけていたら――
聖域史上初の「掃除革命」勃発だったかもしれない。
でも、それもきっと面白い未来だ。
「まずは一歩ずつ、だな」
夜風に吹かれながら、僕は静かにロドリオ村への道を歩きはじめた。
イタリアの家に戻ったら、たぶん最初にやるのは――
お風呂にゆっくり浸かることと、ピザをテイクアウトすることだろう。
文明って、やっぱり最高だ。
「次に来る時は、空気清浄機を土産にしよう」
そう心に誓いながら、僕は歩き続けた。
(サガ視点)
教皇の間に呼び出された、と聞いた時、正直いい予感はしなかった。
こういうときはたいてい、「聖域の伝統が」とか「お前たちは黄金聖闘士の矜持を持て」とか、説教のネタが飛んでくるものだ。
アイオロスと並んで大理石の床を歩く。こいつは本当にまっすぐなやつだ。何かあればすぐ「はい!」って返事する癖があるし、最近では小宇宙の制御にかこつけて毎朝ランニングまでしている。
「サガ、急がないとシオン様をお待たせしてしまうぞ」
「お前は教皇の秘書か」
ぶつぶつ言いながらも、結局アイオロスに引っ張られる形で、重厚な扉の前に到着。
教皇の間は今日も妙にピカピカしている――たぶん新入り聖闘士の歓迎のためだろう。
シオン様は玉座に腰掛け、例の“すべてを見透かす”ような目つきでこちらを見ていた。
「よく来たな、サガ、アイオロス。話したいことがある」
ああ、これは長くなりそうだな……と予感しながら立ち尽くす。
「本日、正式に白銀聖闘士として認定された者がいる」
「杯座のアッシュという少年だ。年はお前たちの一歳上だが、たいそう礼儀正しくて好感が持てた」
シオン様はなんだか機嫌が良さそうだ。たぶん新しいおもちゃ……いや、逸材を見つけて上機嫌なのだろう。
「せっかくだから、年が近いお前たちと交流を深めてほしい」
――え、それだけ?
アイオロスがすぐさま真面目な顔で「はい、承知しました!」
こいつ、絶対何も考えてないだろう。
聖闘士は力こそすべて、みたいな顔をしてるくせに、実際には優等生で通ってる。
僕は内心ため息をつきつつ、
(まあ、白銀聖闘士なんて……)
と心の中でツッコミを入れる。黄金と白銀、天地の差。とはいえ、聖域には今、僕とアイオロス以外の黄金聖闘士はいないし、他はほとんど引退寸前のおじさんばかり。
――子分のひとりくらい増やしてもいいかもしれないな。
なんて、そんな不純な動機がちらりと頭をかすめる。
「サガ、お前はどうだ?」
シオン様に聞かれ、
「まあ……機会があれば」と、無難な返事でやり過ごす。
アイオロスは「僕はぜひお会いしてみたいです」と超積極的だ。お前は人類全員と仲良くなる気か。
それにしても、アッシュ……。年上ってことは12歳。
この年齢で白銀聖闘士って、どれだけ頑張ったんだ。
まあ、礼儀正しいというだけで面白みはなさそうだし、筋トレしすぎて脳筋になってたら面倒くさいし、あんまり期待しすぎないでおこう。
「アッシュは今日はロドリオ村に泊まっている」
シオン様がさりげなく付け加える。
「せっかくだから、二人で行ってみてはどうだ?」
この「せっかくだから」は「行け」という意味だ。聖域では、上の人間の言葉は99%が命令形になる仕組みだ。
アイオロスがまたも「はい!」
「……まあ、暇だしな」と渋々付き合うことにする。
だが、アイオロスのテンションは急上昇だ。
「サガ、僕たちで歓迎のプレゼントを持っていこう!」
「えっ、何を持っていくんだよ」
「新鮮な山菜と、村の名物チーズ、それと手紙を書こう」
お前はおばあちゃんか。
村に行く途中で、アイオロスが突然「ねえサガ、白銀聖闘士ってどう思う?」と聞いてきた。
「別に……たいしたことないだろ。黄金とは違うし」
「でも、きっと努力してるんだよ。僕たちも、もっと見習わなくちゃ」
このポジティブ思考、少しは分けてほしい。
しかも道中、アイオロスがずっとアッシュの“人柄”について熱弁してくる。
「サガ、年上だから敬語で話さなきゃ」
「え、絶対やだ」
「でもシオン様が……」
「俺は俺のやり方でいく」
村に近づくほど、なんとなく胸がザワザワしてきた。
――このまま会って、もし地味なやつだったら速攻で帰ろう。
でも、面白いやつなら、少し遊んでやってもいい。
それにしても、教皇様はアッシュのどこがそんなに気に入ったんだろうな。礼儀だけじゃなく、意外にぶっ飛んだところがあるのかもしれない。
まあ、なんだかんだ言いながらも、ちょっとだけ楽しみになっている自分がいる。
僕の子分候補……いや、聖域の仲間として、どんなやつなのか。
とりあえずアイオロスと二人でロドリオ村へ出発だ。
明日にはアッシュと顔を合わせる。
その時どんな出会いが待っているのか――
……まあ、もしも気に入らなかったら全力でからかってやるつもりだ。
~その頃のアッシュ in ロドリオ村~
「無理!!もう無理!!なんでこんなに不便なの!?なんでトイレが穴なの!!!」
ロドリオ村の静寂をぶち破る怒声が、夜空に響く。
案内人のおじさんは耳を塞ぎながら呟いた。
「……これだから最近の若い聖闘士は。小宇宙は鍛えても、文明耐性はゼロだな……」
「文明とかそういう問題じゃないんですよ!?人権問題ですよ!!人間としてッッ!!」
聖衣ボックスも点滅しながらぷるぷる震えていた。どうやらメロンソーダ不足が深刻らしい。
「風呂も水だけ!?虫多い!!ベッドじゃない!布団!?いや布団以前にこれ藁ァ!!!」
アッシュ、限界突破。
いずれ教皇様に本気で交渉しようと心に決めた。
「まずは水洗トイレと空気清浄機!ついでにWi-Fi!!!」
その叫びが聖域改革の第一歩になることを、まだ誰も知らない――
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